【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。 作:行方不明
薬草を両手に抱えて洞窟に戻ってきたコータたち。
一時期は無駄な緊迫感を覚えさせられた彼らだが、今は何とも平和なものである。
「ほら、薬草貼り付けるから怪我見せろ」
「……すまない」
「いいっていいって。ほらっ」ドルガモンが叩きつけるように薬草を叩きつけた。
「っぐぅ!」
ウォーグレイモンX抗体の苦悶の時間はまだ終わらない。
ちなみに、トコモンはボコモンからお説教されている。
「いいかのう。下手したら件の聖騎士に見つかってたかもしれんのじゃぞ」
「アウアウ」
「ウォーグレイモンが子供のイタズラと耐えてくれたからまだしも……って、おい、聞いておるのか!」
「アウ? アウ!」
「なんじゃとー! それは言うてはならんじゃろがい!」
まぁ、その効果はなさそうだったが。
何はともあれ、数十分後。
ウォーグレイモンの傷に薬草を貼り終わり、ようやく話ができるようになる。
「そうか。まさか人間が召喚されてるとは」
「思わなかったって?」
「ああ。伝説でも人間が召喚されるのは、外敵や侵略などの事態解決が善なるデジモンだけでは困難な場合だけだ。今回のように規模は大きくとも内輪での話だからな、召喚する意味が……な、い?」
ウォーグレイモンはそこで黙り込んだ。
「どうかしたのか?」訝しげに、コータが尋ねる。
すると、ウォーグレイモンX抗体は険しい顔で口を開いた。
「オレは今の凄惨な世界は
「いやっ、そうかもしれんが、何から何までイグドラシルを悪者にせんでも良くないかっ。アンドロモンたちにも散々と言われたじゃろう!」
悲鳴のようにボコモンがウォーグレイモンX抗体に抗議した。
やはり、神がこの事態を引き起こしていると言われたら納得できないのだろう。
「確かにアンドロモンには否定された。けれど、この事態に静観する理由がない。イグドラシルなら、何とでもできるはずだ。
「うっ、それは……」
「だから、静観しているのはこの事態をむしろ望んでいるからと考えられる」
言い返すことができず、落ち込んだようにボコモンは押し黙った。
そんなボコモンの姿を前に、少し気まずそうにしたウォーグレイモンX抗体は「ここまで言って難だが――」と続きを話す。
「そう思っていたのは今の今までだ」
「というと?」
「ああ、今コータを見て思ったんだ。動かないんじゃなく動けないんじゃないかって。だって、イグドラシルは人間を召喚する側だ。イグドラシルが何を企んでいようと、今の時勢で人間を召喚するメリットはない」
いかに人間とデジモンの冒険譚が神話や伝説で語られようと、それでも人間にできることなどたかが知れている。
イグドラシルがデジモンにとって敵であり、さらに何かをしようとしているのならば、わざわざ不確定要素である人間を招き入れる必要はない。駒にするにしても、イグドラシルには人間以上に優秀な部下がいる。
それなのに人間が召喚されているということは、つまりイグドラシルが動けないということではないのか? そう、ウォーグレイモンX抗体は思ったのだ。
「……!」イグドラシル黒幕説の否定に、ボコモンの顔が思わず明るくなる。
「まぁ、オレは短慮なところがあるみたいだし、今のオレの論は乱暴だとは自分でも思う。それなら、コータが自分でこの世界にアクセスしたとか、別世界の管理者……ホメオスタシスやイリアスがコータを寄越したとか、そっちの方がずっと説得力がある」
「……」否定の否定に、ボコモンの顔が暗くなった。追い打ちとばかりに、コータとドルガモンも同意する。
「確かに。オレの記憶が混乱しているのも――」
「コータがアクセスをしくったからって考えれば辻褄が合うな。
推測に憶測を重ねる乱暴さだが、それでも一応の辻褄は合う。
答えがわかったわけではないが、ヒントは見えた気がして、コータとドルガモンの表情は明るく照らされた。
「へー。よかったのぅ」
「アウアウ」
その傍らで、自分の信奉するイグドラシルをボロクソに言われたボコモンは真っ暗になっていたのだが。
「まぁ、黒幕がどうとかは置いておくにしても、オレたちには倒さなければならない敵がいる」
「それは、あの?」
「そうか、君たちも見たのか。ああ、そうだ。あの白い聖騎士――あのバケモノは、オレたちX抗体持ちもそうでない者も関係なく削除して回っている。しかも、恐ろしく強い。悔しいが、オレだけではとても勝てない」
そう言ったウォーグレイモンX抗体は自分の身体を見た。傷だらけの身体だ。そんな身体を見れば、彼も思い出す。
ほとんど何もできずに負けた、あの戦いを。
「そして、おそらくはレジスタンスたちを含めても同じだと思う。実力という点ではオレともう一人がツートップだからな」
「レジスタンスにゃー?」
何かを察したのか、メイクーモンが声を上げた。そこにはほんの少しの期待が含まれている。
「ああ、X抗体持ちで作り上げた、あの白い聖騎士やイグドラシルに対抗するための組織だ」
「っ、そんにゃ天国みたいな組織があるにゃんて――! ぜひ連れて行って欲しいにゃ!」
メイクーモンがウォーグレイモンX抗体の手を取る。キラキラとした期待に溢れた目でメイクーモンは彼を見た。
一方でなぜそんな反応をするのかわからなくて、ウォーグレイモンX抗体は困ったようにコータたちを見てしまうのだが。
「ああ、メイクーモンはなぜかX抗体を持たないやつに襲われるらしいんだ」
「X抗体を持っていないのに?」
「不思議だろ? まぁ、X抗体持ちには襲われないらしいから、そうなってるんじゃないかな」
コータが説明すると、ウォーグレイモンX抗体はなるほどと頷いた。
「来てくれるのはありがたい。戦う力があるかどうかはともかくとしても、オレたちはバラけちゃダメだと思うからな」
もちろん、ひと所で固まるのは一網打尽のリスクを負う。
しかし、ウォーグレイモンX抗体は思うのだ。リスクを恐れて分散していれば、各個撃破されるだけだと。自分たちが滅ぶ時間を稼ぐことにしかならないと。
あのバケモノから逃げ切ることなど不可能なのだ。そうであるのなら、少しでもリスクを冒して生き残る可能性を増やす。
ウォーグレイモンX抗体は、いや、ここに生きる誰もが同じことを考えていた。だから、レジスタンスなんて組織ができたのだ。
「こんなご時世に組織ができるなんてなー」コータの呟きに、ドルガモンが答える。
「ああ、思いも寄らなかった。誰も彼もが自分が生き残ることで精一杯だからな」
「そうしなければ、生き残ることすらままならない。あれはそれだけの脅威なのさ」ウォーグレイモンX抗体はそう言うと、顔を顰めながら立ち上がった。
そして、「レジスタンスの場所まで案内する」と洞窟から出ようとする。
そうなると慌てるのはコータたちだ。
「おい、大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。まだ完全回復はしてないが、傷自体は塞がっている。移動くらいなら行ける」
「そ、そうか」
そんなにすぐ行く意味はあるのか、とコータたちは思うのだが、ウォーグレイモンX抗体は急ぎたいようだった。
新しく得られた仲間を嬉しく思い、だからこそ、早く連れて行きたいと思っているのだろう。もしかしたら、案外に、アンドロモンたちにボロクソに言われて断られたことを内心で気にしていたのかもしれない。
恋人に振られて傷心中の異性に優しくしたらコロッと行くアレと似たようなものである。
「ばっかもーんっ!」
とはいえ、そんな彼の阿呆を見てられない者も当然いるわけで。
怒りに震えたボコモンが、トコモンをぶん投げる。
「アウ――!?」
「なっ」
トコモンがウォーグレイモンX抗体の傷口にクリーンヒット。傷が開いた。
「う、ぐおおおおお……」痛みを堪えるウォーグレイモン、
「ア、ウゥウウウ……」とトコモン。
そんな彼らの前に、トコモンは仁王立ちした。
「お前さんは無茶のしどころさえ分からんのか!」
ボコモンが怒鳴る。
「いや、だが、しかし……――」
「口答えするなっ。正座せんかいっ」
「う」
ウォーグレイモンX抗体にも思うところがあるのだろう。素直に説教を聞く。
己の半分以下の背丈の成長期デジモンに正座させられる、情けない
「コータ、今のうちにまた薬草取りに行かね?」
「そうだな。話長引きそうだし……」
「今度はニーも行くにゃ」
まるで子供を叱るお母さんのような意外なボコモンの一面を見ながらも、巻き込まれては堪るかとコータたちは洞窟を抜け出す。
「どこに行くんじゃい」
いや、抜け出そうとした。
「お前さんたちも何そのまま放っておこうとしとるんじゃっ」
ボコモンのあんまり怖くない眼光がコータたちを貫く。
「え、いや。あのくらいなら大丈夫かなーって。な、ドルガモン?」
「おお。あのくらいの怪我でも動けなけりゃ洒落にならないし。な、メイクーモン?」
「ニーに言われても困るのにゃー!」
「うるさいわっ。お前さんらも無茶のしどころがわからんやつらじゃな! そういうやつらに限って大事な時に動けんくなるんじゃい!」
結局、コータたちも正座することになる。
ちなみに、いつの間にかトコモンはいなくなっていて、ボコモンに唯一説教されなかった。
「アウ!」
一人勝ちである。
レジスタンスはゼヴォリューションに登場したものですが、原作とは違ってX抗体のみの組織です。