【完結】デジモンクロニクル――旧世界へ、シンセカイより。   作:行方不明

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第八話~レジスタンス~

 で。

 

「……あそこだ」

 

 ボコモンの説教の次の日、ボコモンのお許しも出たことで、コータたちはウォーグレイモンX抗体に連れられてレジスタンスのアジトへと来ていた。

 あの滝から数キロ離れた場所から始まる大森林地帯を抜け、やって来たのはあの滝のあった場所とはまた別のまた渓谷地帯。

 渓谷→森→渓谷と景色が代わり映えしないためにあまり感じないが、実に数十キロメートルはあろうかという大移動であった。

 まぁ、そんな距離をコータやトコモンが一日で駆け抜けられるわけはない。ほぼほぼドルガモンとウォーグレイモンX抗体が頑張ってくれたおかげである。

 

「あそこって言っても、全然見えないんだけど」

「ま、すぐにバレるような場所には作らないさ」コータの問いに、ウォーグレイモンが答えた。

 

 レジスタンスのアジトは、先の滝の裏の洞窟と同じように天然の迷宮を利用して作られたものなのだろう。荒野地帯の岩壁にわかりにくく見えた小さな穴、そこが入口らしい。

 

「あのバケモノは来てないな?」

 

 先行したウォーグレイモンX抗体が辺りを確認する。

 そして、コータたちを手招きした。コータたちは急いで彼の元へと走る、のだが。

 

「入口ってどこに?」

 

 どこにも入口らしいものは見当たらない。先ほどの目印であった小さな穴は本当にただの小さな穴で、何か仕掛けがあるようなこともない。

 コータたちが首を傾げている、と。

 

「ふっ」ウォーグレイモンX抗体が自慢げに笑う。彼はそのままその小さな穴に手を差し込んだ。

 

 そして、次の瞬間のことだった。

 コータたちの前には入口なのだろう、ぽっかりとした大きな穴が現れた――。

 

「どうだ?」

「いや、どうだって言われても」とコータがガッカリと肩を落としてウォーグレイモンX抗体を見る。

「なに? 何がダメだと言うんだ」

「思ったよりも大したことなかったなって」とコータ。

 そして、「思いっきり物理じゃねーか!」ドルガモンがウォーグレイモンX抗体をしばく。

 

 まぁ、彼らの反応も仕方のないことなのだろう。

 てっきり何かすごい仕掛けがあるかと思えば、まさかまさかでウォーグレイモンX抗体が岩壁にカモフラージュされた大岩を持ち上げるだけという。

 いや、見上げるほどの大岩を持ち上げるウォーグレイモンX抗体の腕力は確かにすごいが、そういう話ではない。

 

「というか、そろそろ入ってくれ。地味にきつい……」

 

 まだ完全には癒えていない傷が痛むのか、ウォーグレイモンX抗体が辛そうな声を上げる。

 コータたちは「へー」と冷めた声でゆっくりと歩いて入ったのだった。

 

 ********

 

「ウォーグレイモン、心配してたんだぜっ。よく帰ってくれた!」

「しかも、新しい仲間もゲットしてくれたなんて!」

「わーいわーい。ウォーグレイモン無事だったー!」

 

 アジトの中でコータたちを迎えたのは、ちょっとしたお祭り騒ぎだった。

 ウォーグレイモンX抗体は人気があるらしく、そんな彼の無事を祝う者たちでごった返したのだ。

 

「しかし、思ったよりいっぱいいるんだな」コータが呟いた。

 

 見れば、百に届くか届かないかという数のX抗体持ちのデジモンがいて、組織の規模がわかる。

 まぁ、やはり力のあるデジモンは少なく、そこに世知辛さを感じさせるのだが。

 

「ああ。それはいいけど……なぁ、コータ、あれはいいのか?」

「まぁ、いろいろとあったんだ。放っておけ」

「えぇ……ボコモンは――」

「おい、トコモン。あんまり失礼なことをするんじゃないぞ」

「アウー? アウッウウー?」

「わかりやすく無視すんなよっ」

 

 ドルガモンが叫ぶ。

 まぁ、コータもボコモンもトコモンも、あまり触れたくなかったのだ。

 

「にゃー。X抗体持ちのデジモンがいっぱいいるにゃー。ここじゃニーは襲われない……あれ? ここは天国だったのかにゃー?」

 

 まるで酔っ払いのようにどこかにトリップしているメイクーモンには。

 そんなメイクーモンはともかくとして、レジスタンスの面々の波から抜け出たウォーグレイモンX抗体がコータたちの元にやってくる。

 そんな彼の顔にはどこか疲れたような、それでいて嬉しそうな様子があった。

 

「大人気だな」コータがからかい混じりに言う。

「ありがたいことにな」ウォーグレイモンX抗体は肩を竦めて苦笑った。

「それで、オレたちは――」

「ああ、放っておいてすまない。見ての通り何にもないところだから、自由にしていてくれて構わない」

「暴れるのは?」

「それだけはやめてくれ。というか、ドルガモン。君、わかっていっているな?」

 

 それだけ言うと、ウォーグレイモンX抗体はコータたちに基本的なことを教えた。このアジトは天然の迷路で、出入口は複数ある。そして有事の際は戦える者が戦い、戦えない者はそこから逃がす。

 

「それでいいのか? 戦えない者を逃がして、それで――」コータが口を開く。

 

 だが、ウォーグレイモンX抗体が首を振ってコータの言葉を遮った。

 

()()()()者じゃない。()()()()者を逃がすんだ。ここにいるのはX抗体持ちだ。その意味、わかるだろう?」

「……ああ、ごめん。悪かった」

 

 自分が見当違いなことを言ってしまっていたことに気付いて、素直にコータは謝った。

 X抗体はデジモンを削除(ころす)Xプログラムに対する抗体。だが、それは誰でも得られるわけではない。訪れた死に身体を呑まれても、訪れた絶望に目を焼かれても、それでもなお生存を望んだ強き者が得られるモノだ。

 つまり、X抗体を持っている時点で逃げ出すような軟弱者などいるはずがないという話である。

 

「ウォーグレイモンー!」

 

 そうして話していると、誰かがウォーグレイモンX抗体を呼んだ。

 やはりここのリーダー格というだけあって、忙しいらしい。

 すまなさそうに、彼はコータたちを見た。

 

「ああ、いいよ。行ってこいって」

「すまない。また諸々の礼は君たちがここにいる間に必ずさせてもらう」

 

 そう言って、ウォーグレイモンX抗体はコータたちから離れていった。

 

「とりあえず疲れたな。あっちの人通りが少ないところで休もうか」

「そうだなー」

「アウ? アウー」

「そう言うもんじゃないぞ、トコモンよ」

 

 今日は一日がかりの移動だったのだ。

 疲れもあって、邪魔にならないようにコータたちはアジトの中の適当な角の場所に腰掛ける。

 

「にゃあーん」

 

 ほわほわとどこかに飛んでいっているメイクーモンだけが、そのまま不気味に立っていたのだった。

 

 ********

 

 コータたちがレジスタンスのアジトに来てはや数日経った。

 初めの頃は、それこそ通常デジモンの三匹がいるせいか、ウォーグレイモンX抗体くらいしか話しかけてくれなかったのだが、数日も経てばもはやだいぶ慣れたものである。

 

「にゃー! 今尻尾引っ張ったの誰にゃー!」

「うわ、メイクーモンが怒ったー!」

「にっげろー!」

 

 メイクーモンが精神性の幼いデジモンたちにおもちゃにされるくらいは、彼らもレジスタンスに馴染んでいた。まぁ、馴染んでいるというよりは馬鹿にされているだけなのだが。

 

「にゃーっ、くらえにゃー!」

「あははっ。くらえー」

「くらえー!」

 

 メイクーモンが走っている。

 白い犬(プロットモン)岩の力士(ゴツモン)トロピカルな花(パルモン)といった数々のデジモンたちがその後ろを追いかけていく。

 時々、追いかける側が逆転したり、技の数々が飛んだり、まるで鬼ごっこのようだった。

 

「うにゃーっ!」

「追えー!」

「いけーっ!」

「ちょ、見てないで助けてにゃー! コータぁ、ドルガモン! ボコモーン、トコモーン!」

 

 まぁ、基本的にメイクーモンが逃げているのだが。

 基本的にX抗体持ちはX抗体を持っていない同族よりも強い。それはX抗体によって潜在能力が引き出された結果だと言われているが、いかに成長期とは言えそんな連中に追われている普通なメイクーモンは堪ったものではない。

 

「わしらにまで助けを呼ぶとは、いい感じに追い込まれてるのう」

「アウアウ」

「まぁ、でも、子供がじゃれあっているようにしか見えないし大丈夫だろ」

「俺としてはX抗体の時点で子供って言えない気がするんだけど……大丈夫かな」

 

 毎日ボロボロになるまで追い掛け回されるメイクーモンを、コータたちは生暖かい目で見るのだった。

 ちなみに言えば、心配しているのはドルガモンだけだ。

 

「しっかし、来た時から思うけど、意外に明るいよなー」コータがそう言った。

 

 そう言った彼の目には楽しそうにメイクーモンを追い掛け回すデジモンたちが映っていた。

 彼らとて状況、時勢、あらゆるものが厳しい今に生き残っている者なのだから、少しくらいは自他共に厳しくなりそうなものなのに。

 それなのに、彼らの表情は明るいのだ。そこだけ切り取れば、平和な時代だと思えてしまうほどに。

 

「それはそうさ。意外でも何でもない」

 

 そんなコータの呟きに答えたのは、機械の狼だった。

 この数日で何度か見た顔だった。レジスタンスのリーダー格の一人で、ウォーグレイモンX抗体と並ぶ実力者らしく、いろいろなデジモンから頼られているのを見た。

 

「ああ、初めまして。挨拶が遅くなって悪かった。おれはメタルガルルモン。ウォーグレイモンが世話になった。改めて礼を言うよ。ありがとう」

 

 メタルガルルモンX抗体は、丁寧な挨拶と共に手を差し出した。

 その手を、コータは「コータだ。よろしく」と言って握手する。ドルガモンやボコモンたちもそれに続いた。

 

「それで、さっきのはどういう意味なんだ?」ドルガモンが聞く。

 

 メタルガルルモンX抗体は頷いて続きを話した。

 

「ここにいる誰もが、今あるこの瞬間が得難いものだと知っている。世界は一歩間違えれば死ぬ過酷な場所になったはずなのに、何の因果か、もう得られないはずの夢のような時間が再来した。だからそんな夢の時間に浸っている」

 

 誰だって厳しいことを望まない。

 いや、修行者などには厳しさを望む者もいるだろうが、そもそも今は災害のように唐突に訪れた厳しさで、そういった類いの厳しさではない。

 

「願わくば、この時間が……――いや」

 

 メタルガルルモンX抗体が首を振った。その顔に力はない。

 それは、やはりこの夢のような時間は所詮は夢でしかないと知っているからこその、夢から醒めた現実の厳しさを覚えているからこその、顔だった。

 

「……何事にも終わりが来る。おれたちはあの悪夢のようなバケモノから未来を勝ち取る。だが、そうしたら、また何かが次に来る。悪夢に終わりはない。ひどいよな、こんな優しい時間は終わりがあるのにさ」

「それでも、いつかオレたちは未来を掴み取るんだ」話に割って入ってきたのは、ウォーグレイモンX抗体だ。

「そうだな。例えおれたちが無理でも、次が――」

「そこは自分たちが成すと言えよ」

 

 メタルガルルモンX抗体の弱気な発言に、ウォーグレイモンX抗体が彼を小突いた。そして、どちらからともなく両者は微笑み合う。

 両者の絆がわかるやり取りだった。

 

「っと、話している途中にすまない。客人だ」

 

 本来の用を思い出したのだろう、ウォーグレイモンX抗体がメタルガルルモンX抗体にそう言った。

 

「客人?」

「ああ。やっぱりわかってくれる者たちはいたんだ」

 

 ウォーグレイモンX抗体の言葉に、メタルガルルモンX抗体も察した。

 つまり、ウォーグレイモンX抗体の言葉に賛同してくれる者がいたということである。

 

「それは良い報告だな。すまない、コータくん」

「ああ。話はまたの機会にってことで」

 

 自分から話しかけておいてコータたちを置いてきぼりにしてしまったこと、そして話を打ち切ってしまうことに謝罪して、メタルガルルモンX抗体はウォーグレイモンX抗体と共に入口の方に去っていったのだった。

 

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