「……あっ……っ、う……」
目が離せない。
ミノタウロスらしき奴は通路奥の曲がり角から体半分だけ出てる。
長い通路だった事もあって曲がり角は大分先にある。
ミノタウロスも遠くに微かに見えるだけだ。
なら、今の内に逃げないと……
なるべく音を立てないようにゆっくりと這うように進む。
ミノタウロスの反対側の壁に通路が見える。
あそこに逃げ込めば安全な筈。
ゆっくり……ゆっくりと……慎重に……慎重に……
着実に進んでいってもう曲がり角は目の前にある。
あと少し………………あと少し………………
「っ……」
曲がり角に飛び込む。
急いで中から通路に顔を出して覗き込めばミノタウロスはこちらとは反対側の方向に歩いていった。
「はぁ〜……」
極度の緊張感から解放されたことで思わずため息が出る。
もう大丈夫だからという安心感で思わず壁に寄りかかってしまう。
ミノタウロスが本当にあんな姿だったのかは置いておいて一般的に言われているものと姿は酷似してる。
確か文献ではミノタウロスは迷宮の中に一人閉じ込められた存在だった。
今いる場所も迷宮と言っていい場所だと思うし文献通りの場所ならばミノタウロスはアイツだけ。
気をつけていれば逃げ続ける事は可能な筈……
「逃げ……続ける……?」
いつまで?
その事に思い至った瞬間に全身に寒気が走る。
目を見開き身体中が震えてくる。
歯がガチガチと鳴らし体に力が入らない。
ここがどこだか分からない。
寝る場所もあんな怪物が徘徊している所で安全になれる保証なんてないしそもそも一体とは限らない、他の怪物もいるかもしれない。
ご飯はどうする?
こんな場所に食べれられるものなんてあるのか?
そんなもの……ないと思った方が賢明に思える。
「これから……どうしたら……」
未来が見えない。
私はここで生き残っていけるのだろうか?
いつまでこんな生活を続けていけばいいのか分からない。
なら……
「このままじゃ……ダメだ……」
何も分からない。
なら、分からなきゃいけない。
この状況に納得はできないけどできなかったら死ぬだけだ。
震える足を抑えて立ち上がる。
けど、すぐに足が縺れて座り込んでしまう。
何だか眠気もしてきた。
倦怠感が全身を襲って瞼が閉じそうになる。
こんな状況で寝る事なんてしちゃいけない。
そう、しちゃいけないんだ……
どんなに……眠くても……
いま……ねたら……
し……ぬ……
「………………んん」
ここ……どこ……
わたし……は……なんで……こんな……
かたい……なん……で……
……からだ……だるい……
なんでこんな……つかれて?
ミノタウロス……迷宮……怪物?
「っ!!!」
目を見開く。
思い出した。
今ここは迷宮の中。
私はあの時……急にきた眠気に負けて寝てしまったんだ……
周りを見渡してもあの時と変わった感じはない。
運が良かった。
もしあの怪物に見つかっていたらそのまま……
「……」
……考えないようにしよう。
休んだお陰かふらつくけど立ち上がる事ができる。
ここで立ち止まっていても何も変わらない。
ミノタウロスに気を付けて探索してみよう。
壁に手をつけながら迷宮内を歩き回る。
あてのない道をさまよいながら一歩、また一歩と歩んでいった。
どのくらい時間が経った?
痛む身体を抑えて歩き続ける。
モンスターはミノタウロスだけじゃなかった。
そのミノタウロスも複数いた。
出来るだけ足音がした方向は避けてモンスターを遠くでも視認できたら避けるようにしてきた。
それでも多数の方向からしてきた場合はどうしても避ける事が出来なくて何度かモンスターに遭遇した。
そのモンスター達は小さいものも大きいものもいたけどみながみな、私よりもずっとずっと強かった。
弱いと思っていたうさぎのモンスターもすばしっこくてその鋭い歯で噛みつかれた。
それ以外のモンスターなら考えなくても分かる。
何とか逃げ切れたけど……もう、体は限界だった。
片方の足は焼け爛れていた。
犬みたいなデカいモンスターが口から火を吐き出してきた。
曲がり角を使って逃げ切る事は出来たけどその時に片足を持っていかれてしまった。
身体中には噛み傷が至る所にあり血が流れている。
ミミズみたいなモンスターにうさぎ型のモンスターから噛みつかれた。
今の私は何も防御出来るものなんて着ていない。
無防備の素肌は脆くダメージを直接受けてしまう。
流れる血はあとになって地面に残り、モンスターとの接触も増えてきた。
血の匂いを辿って見つけてきているのかもしれない。
だとしたらこれからはもっと数が増えていくはず。
「……」
視界が霞んでくる。
もう歩いているだけでも苦しい。
壁に寄りかかりながら片足を引き摺りながら歩いているせいか進みも遅い。
本当なら今頃モンスター共の餌になっていてもおかしくない筈なのにそれでも私はまだ生きている。
こんな救いのない世界の中で。
「もう……ダメ……」
視界が暗転する。
足同士が絡まり通路に倒れ込んでしまう。
このまま私を待っているのは死だろう。
何も分からないまま死を迎える。
あぁ、なんて悲しい人生だっただろう。
それとも人生なんて呼んでいい長さじゃないのかもしれないけど気づいたらここにいて逃げ回って傷ついて、そして死のうとしている。
もう、考える力もなくなってきた。
それでも、やっぱり、未練がない訳じゃない。
この短い命の中で、たったひとつだけ未練がある。
最後に一度でいいから、人に会ってみたかった。
「……にお……い……」
なんでだろう……においがする……あまいにおい……もうしんだとおもったのに……この……におい……
体を引き摺って匂いの元まで進む。
もう動かないと思っていた体が動く。
もしかしてこれが奇跡なのかもしれない。
痛む体にムチを打って進み続ける。
匂いはどんどんと強くなっていく。
あとちょっと……あと……少し……
頭に何かがぶつかった。
微かに目を開けて見上げてみる。
そこにあったのは……
透明な光り輝く木だった。
「綺麗……」
透き通るような光を放つその木はまるで私を救ってくれるようでその木から垂れてくる雫は甘い匂いがする。
「……」
私は仰向けになる。
もうそこまで顔を上げる気力もない。
でも、その雫は私の口に誘われるように落ちてくる。
雫は……とても甘い味がした。
「……おい……しい……」
雫は量を増やしていきまるでとても小さな滝のような量にまでなる。
私はそれを夢中で口で迎えて飲み込んだ。
「おいしいよ……」
何故か分からないけど目から液体が零れ落ちてくる。
その液体もどんどんと量を増やしていく。
もったいないな……どうして体から抜けていくんだろう……
その流れ落ちていく液体の分も合わせて甘くて透明なものをものを飲み込み続ける。
それは……この地獄の中で、私を救ってくれた、命の雫だった。
何で後書きなんて書く必要があるんですか