二度目の人生はちょっと辛い   作:秋の夕暮れ

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予想以上に反響があって吃驚しました。こんな駄作でも楽しめるようなら何よりです。


シリアスとシリアルって似てないだろうか?

_皆さんは不審者に会ったことがあるだろうか?

 

因みに私は無い。だが居ることには居るようで案外近場の所でも不審者情報は耳に入ってくる。特に不審者は夏場が多いのだと統計で出ているようだが、不審者というものは春夏秋冬何時でもいるものである。

冬なのにコート一枚で彷徨いて、女の子を見かけると近くに寄ってきて全裸を見せつけてくるというまるで春を先取りしたかのような脳内お花畑の奴だって居る。私は前世でも不審者に会ったことは無かったが、聞くだけによると二人組で片方は下半身が裸でもう片方が上半身が裸というマイティーブラザーズも良いところな不審者の情報を聞いたことはある。不覚にもそれを聞いたときには笑ってしまったが、実際に会ってしまった人は恐怖を抱いたことだろう。その不審者二人組にはぜひ絶版にされてもらいたいものだ。

なのでこういった不審者に対策するための話というのは大体の皆さんは小学校の頃から耳にたこができるくらいに聞かされている筈だ。今では不審者を見かけたら駆け込むためのステッカーが貼ってある家も増え、小学生がいつも持っている…あれだ、名前がなんだったか…糸を引くと鳴るやつなのだが…ブザー…そうだ防犯ブザーだった。それを小学生はいつも持ち歩くようになり、なんなら自治体の人が登下校をしている小学生を見守るくらいだ。別段小学生だけではない。中学生や高校生にもこれは適用される。不審者というものは恐ろしいものなのである。

何故なら何をされるか分からないからだ。中には子供を拉致してそのまま自身の家に住ませる奴だっているし、刃物を振り回して襲いかかってくる奴だって居る。実際にそういったニュースは時たま流れるし、祖父にも何かあった時の用ために小学生の頃は防犯ブザーを持たされた時もあった。

何が言いたいかって?確かに今さらこれを聞かされた所でそれくらい知ってるとしか思わないだろう。済まなかった。結論を言おう。

 

私は今この瞬間を持ってそこら辺のRPGでも体験できないような目付きの悪い巨体な不審者にエンカウントしてしまったのである。

 

 

 

 

 

さて、これからどうしたものかと考える。学校が終わり奏に今日は一緒に帰らない?と誘われたが今日は帰りに寄る所があるからまた今度、と言って別れて歩いていた矢先にこれだ。170近くある私の身長より高い所から私を見下ろし重低音の声で話しかけてくるなりずっと黙って此方の方を睨んでくる。

さて、どうしたものか。残念なことに防犯ブザーだなんて持ち歩いてなんていない。今の高校生で防犯ブザーを持ち歩いている奴がどれくらいいるだろうか。私はほとんどいないと断言できる。

あいにく対人経験は私には無い。こうなるのなら武道の一つでもかじっておけば良かったと今さらながら後悔する。おそらく習いに行ったところで3日も続かないだろうが。どうしてこうも私の二度目の人生はないないづくしなのだろうか?神様が居るのならちょっとおまけしてくれても良いじゃないか。そして目の前に降りてこい。昨晩祖父が観ていたボクシングのガゼルパンチをお見舞いしてやる。

まぁ、そんな事はどうでもいい。今大事なのはこの場をどう切り抜けるか、だ。不審者には悪いがこちとら女子高生だ、ピチピチのJKである。最悪、このときのためにワザマシンで覚えておいた最終手段の叫ぶを使わせて貰う。これしか覚えてないのが難点だが。

「あの…警戒されずに私の話を聞いてほしいのですが」

おっと、意外にもこの不審者は紳士的だった。だが、まだ油断できない。冷静になれ私。体は熱く心は冷静にだ。冷静に返すんだッッ!

「さて…貴方とは面識は無いが、私になにか用だろうか?」

いかん、緊張のあまりドスのきいた声を出してしまった。ほら見たことか、不審者の方も手を首に回し始めたではないか。終わった、刺激してしまった。次に生意気な女め!という罵声と共に殴られるだろう。いや、暗殺者のごとく鋭い目付きをしているからナイフかもしれん。

…済まない祖父よ、こんな孫娘でごめん。貴方の料理はもっと食べておきたかった。奏、お前との学生生活は楽しかった。それなりに充実したよ。後出来ればたまにクソ映画を勧めてくるのは勘弁してほしい。観たあとにキラキラした目で感想を求められると物凄く困るのだ。 デビ○マン実写を持ってきたときなんてその場で燃やしてしまおうかと考えたくらいだ。…まぁ、今から死にゆく私にとっては今さらのことなのだが。だが、ただでは死なん。これ以上理不尽な目に遭ってたまるか。せめて噛みつくくらいはしてやるからな。 さぁ、こい!

「アイドルに…興味はありませんか?」

 

…は?

 

 

 

 

そう言って同時に渡された名刺に≪株式会社346プロダクション シンデレラプロジェクトプロデューサー≫と記載されていた。まぁ、立ち話もなんだということでそこら辺にある喫茶店に入って彼に話を聞いてみることにした。何でもシンデレラプロジェクトという新しい企画をたてたばかりで今はシンデレラガールズもといアイドルに向いている人材をスカウト中とのことであった。

…ふむ、なるほど。理屈は分かった。この男が不審者ではなく346プロダクションのプロデューサーとも分かり少しホッとした。済まなかったな散々不審者呼ばわりして。決して口には出さないが誠心誠意心のなかで謝らせてもらおう。

ただ一つ、問題なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こう言うのもなんだが私のルックスはイケテる方だとは自覚している。別にナルシズムを気取っている訳ではないが前世の頃に周りに居た女性達と比べると綺麗と思えるほうだろう。まぁ、この世界では皆皆が美男美女ばかりなので私みたいなある程度のルックスは溢れかえって飽和しているだろうが。ルックスだけを見るならモデルを薦めてくるだろう。だが、今回の主題はアイドルなのだ。それだけでもこの男に聞いてみなければならない。

「なるほど…話は分かりました。ですが、先程も申しましたが貴方とは今回が初対面…ですよね?貴方の前で歌ったこともなければ踊ったことも無いでしょう。勿論、私にもそういった運動経験はありません。貴方は私のどこにアイドルとしての要素を見出だしたのですか?」

さぁ、どう返すだろう。ふざけた返事が返ってくるようならすぐ帰ってやるつもりだ。

「それは、笑顔です」

…ん?この男はなんと言っただろうか。すまない、聞こえなかったようだ。もう一度言って貰えないか?

「えっと…もう一度言ってくれませんか?」

「はい、笑顔です」

はっ倒すぞお前。…いや、失礼。私らしくない発言だった。それにしても笑顔ときたか…これは私がまだ若いから嘗めているのか?悪いがこちとら前世も含めたら30いくんだぞ?ん?

「勿論、それだけではありません」

ほう、まだあったか。これ以上嘗めたことを言ってみろ。私の両足が黙ってないからな。すぐにでも警察署に逃げ込んでやる。…え?そこは拳とかじゃないのかって?馬鹿野郎、私がそんなこと出来るわけないじゃないか。こちとら運動経験なんぞ授業の体育くらいだぞ。

「私には…将来何をするか決まらなくて悩んで困っているように見えましたから」

…こいつ、()()()()()()()()()()()()()()()。そうだ、高二になった今でも私は将来のことについて一つも決めてない。

まだ方向性すら決まってない私は周りと出遅れいることは自覚していた。分からないのだ、この先この身一つで社会に出ていくことにとても不安を感じていた。さらに今の性別が女ときた。前世が男だったから余計にだ。そんな私は同じところを犬のようにぐるぐる回って悩んでいる。実に無様な格好だと言えるだろう。笑いたきゃ笑え。それをこいつは、この男は見抜いてきた。奏にさえ察することさえさせなかったのに、たかが一目見ただけで。流石プロデューサーと言えるだろう、スカウトはお手の物のようだ。…とても腹が立つ。

「…お言葉ですが、それは貴方の勘違いなのでは?」

「それは…そうかもしれません。ですが、私にはそのように見えました」

なんだこいつ。ここまで言ったなら自信持って言えよ。半端にずかずか言って来やがって。無性に腹が立つ。

「…お話は分かりました。ですが、今答えを出すのは難しいのでまた後日返事を返すことになってもよろしいですか?私の一存で決められることでもないので」

「こちらもそれで大丈夫です。良い返事をお待ちしています」

「では今日はこの辺りでお開きということで…。ここに私のコーヒー代置いておきますね」

「いえ、ここは私が払いますので…」

煩い、黙って受けとれ

「では、失礼します」

そう言って私は喫茶店を出ていくのであった。

 

 

 

帰りの電車に揺れながら先程のことを考える。私が…アイドルに…。

正直言って想像がつかない。別に踊ることも歌うことも好きではない。自分はアイドルには向いていないなど自分自身分かっている。だが…他にやりたいことが決まってないのも確かだ。…自分の今までの人生は不条理ばかりだ。ないもので溢れていて、流されてばかりだ。確か前世の頃も流されて生きていた気がする。人の機嫌を伺って、周りに合わして過ごしていた。自分が何をやりたいかなど二の次三の次だった。だから、俺はあいつらと出会って変わって…なんだ?今の記憶は。

…とにかく、今日は疲れた。家に帰ったら早めに風呂に入って寝ることにしよう。

 

…ふぅ、やはり風呂に入るとさっぱりして気持ちいいものだ。ある程度考えが纏まってきた。

さて、受け取った名刺を見ながら思考する。…私はアイドルをやりたいのだろうか?別にアイドルに限定する必要はないのだ。これから先就職する機会などいくらでもあるだろう。通っている学校にもある程度の求人表は来ているのだ。それを見て決めるのも一つの方法だ。むしろそちらのほうが無難だろう。

…だが、アイドルと聞いて心揺さぶれるものがないと言えば嘘になる。スカウトとなるとまたとない機会なのだ。それに相手も最初から芽がない者ををわざわざスカウトなんぞしないだろう。それは私にアイドルとしての多少の素質があるかもしれないということだ。

…まぁ、アイドルのことなんぞ一つも知らないのだが。基本、私はテレビはあまり観ない派である。精々、朝食を食べながらニュース少し観るくらいだ。そんな私がアイドルになんぞ成れるのだろうか?…分からない、難しい。そもそもやりたいのかやりたくないのかさえ分からない。…駄目だ、全然思い付かない。私は…俺は、この二度目の人生でどうしたいのだろうか?

…下から祖父の声がする。気がつけばもう7時、晩飯の時間だ。もやもやするが仕方ない。また、食べてから考えよう。

 

今日の晩飯のメニューは鯖の味噌煮に肉じゃがと豚汁だ。やはり祖父の料理は旨いと再認識する。特に今日はこの鯖の味噌煮の味の濃さ具合としょうがの塩梅が最高だ。食べながらふと思い付く、…祖父に相談するべきだろうか?言うなら今このタイミングしかないだろう。けど、聞いてくれるだろうか…とても不安になる。しかし、一人で悩んでいても答えが出ないのは明白だ。…聞くだけ聞こう。もし駄目だと言われたらそれまでだ。明日、断りの電話をいれよう。

「…あの、話があるのですが」

祖父の箸の動きが止まった。どうやら聞いてはくれるようだ。

「…なんだ」

「その…今日、プロデューサーと言う人に話しかけられまして」

「…それで?」

「その、アイドルをやってみないか?と聞かれて…その…ご意見を頂きたいのですが」

言ったぞ!私はついに言ったぞ!誰か私を誉めてほしい。

祖父はしばらく黙ったままだった。緊張のあまり体感ではとても長く感じる。実際は五分くらい経ったくらいだろうか。

「…お前はどうしたいんだ」

「…へ?」

「お前はどうしたいんだ?」

まさか、聞き返されるとは思ってもいなかった。そんなの私がどうしたかなんて…

今度は私が黙る番だった。やりたいかどうかなんて…でも、これ以上フラフラして迷惑を掛ける訳には…

「儂は、お前のやりたいようにすれば良いと考えている」

祖父の言葉に顔をあげる。

「お前は…いつも周りのことばかりを気にして自分のことは考えてこなかった。これは、生まれた環境のせいなのだろう。お前の父と母に代わって謝る。済まなかった」

やめろ、やめてくれ。謝られても困る。困るのだ。そんなことを今さら言われても…

「思えば儂はお前には何もしてやれなかった。小学生の頃から我が儘一つも言うこともなく育ってきて、お前の気遣いには気付いていたが…儂の性格ゆえか、どうすればよいか分からないまま、そのままにしてきてしまった」

…気付いて…いたのか、私の考えなどお見通しだったのか。

「だからこそ、これが良い機会なのだろう…儂はお前のことが大切だ。お前のやりたいようにやれば良い。それを儂は応援もするし、手伝いもしてやる。だから…その、お前ももっと自分を大切にしてくれ」

…視界がボヤける。駄目だ、堪えきれない。そうだ、俺は前世の頃と同じで二の舞を演じていたのだ。不安だから自分よりも周りを優先して逃げていたんだ。それを今さら気付くとは…情けない。何が前世云々だ、これじゃあ本当にぐるぐる回っている犬じゃないか。

「それで、お前はどうしたいんだ?」

…そんなの決まっている、今なら言える。

「アイドル…やってみだいでず。新しいごどにヂャレンジしてみだいでず」

泣きながらだから自分でも何を言っているか分からない。それでも…この思いは伝えたい。俺は、私はやってみたい。もう、自分の意思で進みたい。

「そうか…なら、そうすればいい。そのための手伝いもしてやる」

「ありがどう…ございまず…!」

私は…やっと、本音をいうことが難しいようで実は簡単なことだったのだと今さらながらこの世界で生まれて17歳になって初めて知ったのだった。

 

 

 

…気がつけば自分の部屋で寝ていた。きっと祖父が運んでくれたのだろう。昨晩は泣きつかれて寝てしまったのだ。

…今思うとあんなにガン泣きしていた自分が凄く恥ずかしく思える。穴があったら入りたいくらいだ。掘れるならきっと岩盤まで素手で堀抜いていくだろう。ピッケルなど甘えだ。ダイヤモンドに見向きもしないだろう。

…さて、おふざけはここまでにして時間を確認するとまだ朝の5時、いつもよりは一時間も早い時間だ。だが、今さら寝る気にもならない、取り敢えず顔を洗ってこよう。少し歩いて洗面台の鏡の前に立つ。何、いつもと変わらない死んだ眼をした灰色のセミロングの女性が映る。別にどことして変わってはいない。精々寝癖が付いているくらいだ。けど、どこか吹っ切れた顔はしていた…。

 

今日とて朝から奏と一緒に登校して、いつものように授業を受けて学校生活を過ごす。今日も帰りに奏に誘われたが今日は別件で一緒には帰れない、と伝える。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。また埋め合わせは今度するから。そう言って学校を出る。夕日が眩しい。ポケットからケータイを取り出して名刺に書いてあるとおりにダイヤルを打ち込む。…しばらくしてから繋がった。

「…はい、ただいまお電話変わりました」

「もしもし、プロデューサーさんですか?昨日、スカウトを受けた榊原です。昨日のスカウトの返事のためにお電話させて頂きました」

「…あぁ、榊原さんですね。お電話ありがとうございます。それで返事と言うのは…」

「…はい、私アイドルやってみようかと思います」

 

-こうして榊原葵のアイドルとしての物語が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、いうわけで今回は自分なりにシリアス回にしてみました。いつもどうりのギャグを期待していた方は申し訳ない。それでも次のステップには必要なので今回はこういった話にしてみました。改行も増やしましたので一話よりかは読みやすいかと思います。評価・感想・批評は何時でも受け入れています。
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