皆さんは布団から出たくないと考えたことはないだろうか?布団とは偉大なものだ。身体全体を優しく包んでくれて寒さから護ってくれる。しかも蹴飛ばしたりしても文句一つも言わないのだ。また、季節に沿って厚さや色合いを変え、共に寝る人を楽しませてくれる。もう一度言うが布団とは偉大なのだ。
…まぁ、私が寝ているのはベッドだが。そんなことはどうでもいい。私は休みの日は寝床から出たくはないのだが今日だけはそういう訳にもいかない。
何故なら…今日は私は346プロダクションに行かねばならないからだ。
あの日、ふんふんプロデューサーに学校帰りに電話したのだが時間も遅かったのでまた別の日に詳しい話をしようとなったので、その週の土曜に話をすることになった訳なのだが。
一つ言おう。…めっちゃ緊張する。スカウトされてわざわざ企業の方に向かうのなんて人生初めてのことである。前世でもこんなの経験しなかったことだ。緊張するな、という方が難しい。実際、捕って喰われるわけではないのでそれなりに心構えはしているのだが。
…もしかして今さらドッキリでしたなんて言わないだろうな。もしそうなったら私は怒りのあまり、切なさと悲しみのあまりエクスプロージョンするだろう。そんなどこかの爆発好きな眼帯っ子を連想しながら私は今日という朝を迎えるのだ…。
余談だが爆発といえばジョジョのスタンドであるキラー・クイーンがまっさきに出てくる。あれ、強いし格好いいよね。
祖父が作ってくれた朝食を食べ終え、一旦ゆったりする。因みに今日の朝食は米派の祖父には珍しくサンドイッチであった。新鮮なレタスやトマトにハムも挟んであってとても美味しかったです(小並感)。
さて、確か今日はゴミの日だったはずた。台所から大きなゴミ袋を一つ片手に持って玄関に向かう。せめて家事は出来なくてもこれくらいはしないと祖父に顔が立たないというものだ。そう思いながら祖父に一声掛けて外に出る。…うむ、今日も快晴である。洗濯日和というものだ。
家を出てゴミだしの場所まで歩いていく。まだ、7時くらいなので春だというのに肌寒いが、上着をちゃんと来ているので大丈夫だ。
実はこういった歩くというのはわりと好きな方である。ゆったりと歩いて景色を眺めたりしていると心が豊かに感じるものだ。こう歩いていると昔聴いた曲を思い出すが…曲名はなんだっただろうか?確か歩いて沢山の好きに囲まれるような曲だったはずだ。っと、もう少しでゴミだしの場所に着くはずだ。ん?ゴミだしの所に人が居る。あれは近所のマンションに住んでる…
「あ…おはよう、ございます葵さん」
「おはようございます美優さん」
このどこか未亡人を思わせるような独特の雰囲気でにこやかに挨拶してくれるこの人は三船さんだ。26歳 独身。仕事はまじめにそつなくこなすが今一つ情熱のない女…なんか未亡人っぽい気品ただよう顔と物腰をしているため、男性にはモテそうだと思うが会社からはOLとして働いているんだぜ。悪い人ではないのだが…これといって特徴のない…影のない女さ…。
この人には中学生の頃に知り合ったのだが、よくお世話になったものだ。特にブラジャーの付け方や下着の選び方には悩まされていたので話を聞きいたりするうちによく話すような仲になった。私の家庭事情を知っている数少ない人だ。バブミを感じる。
「こうして会うのも久しぶりですね。お元気そうでなによりです」
「最近は…お仕事で忙しくて…。私もこうして葵さんに会えて嬉しい…ですね。…今日はどこかにお出かけするのですか?」
「えぇ、今日はちょっとと出かける予定でして。美優さんは今日もお仕事ですか?」
「そう…ですね。今日もなんの代わり映えもしない1日です…。」
…この人、本当にいい人なんだがこうして暗い時が多々ある。
「そんなことはないですよ、少なくとも今日は私と出会った。それだけでも十分変化のある1日だと思いますよ?「そう…でしょうか?なら、今日はいい日になりそうですね…♪」
うむ、やはりこの人には笑顔が似合う。本来、笑顔の似合わない人なんて居ないのだ。この人だって笑えば素敵なひとである。
「それじゃあ、この後の予定があるのでこの辺りで失礼しますね。また、お時間があれば話しましょう」
「あ、はい…。また、会いましょうね。…気を付けて行ってらっしゃい」
「えぇ、それでは…」
バスの時間に余裕はあるが…あちらにも余裕な時間で着いておきたい。…少し走るか。歩けないのが心苦しいが、たまには朝のジョギングも良いだろう。こうして家に着く頃にはバテバテで着いて自信の体力の無さに後悔するのであった。
数少ない私服に着替えてから家を出てバスを乗り継いで約一時間くらいだろうか。目的のバス停に着いた後、歩いてやっと346プロダクションが目と鼻に見えてくる。
あまり外には出掛けない方なので、バスに乗るのに苦労したが…G◯◯gle先生に聞けば一発である。さすがは先生。尊敬してます。先生に聞けば何でも返ってくる。今度どうやったら友達が出来るか聞いてみよう。決して私がボッチというわけではない。そこは勘違いしないように。
そんなバカなことを考えながら改めて346プロダクションを眺める。…一言でいえばとても…大きいです。いや、アイドル企業としては広すぎではないだろうか?もっとちゃちいものを想像していたのだが…えっ、この中に私入るの?ヤバくない?私の場違い感パなくない?まじ卍。語学力の低下がおきるほど驚愕した。ところでまじ卍の意味はなんなのだろうか。対して調べる気にもなれないので知らないのだが、最近の若い人たちはこの言葉を使っているらしい。知らんけども。
巨大な正門を潜って恐る恐る本館に入っていくとまず思ったのが城みたいだと感じた。内装もシャンデリアなどが備えられており豪華なデザインで設計されている。…えっ、私ここに所属するの?私みたいな一般ピーポーが居てもいいの?まじ卍。二度目の驚愕である。確か本館でほにゃほにゃプロデューサーが待っているはずなのだが…辺りを見回すがどこにも見当たらない。あの男、嘘をつきやがったな。必ず懺悔させてやる。しかし、どうしたものか…。
「ねぇ!きみきみ!新人かな?」
さて、適当にぶらついてみるのも良いが…はたしてそれで着くのだろうか?初日からこうも面倒事になるとは思わなかった。
「おーい、無視は駄目だぞ〜?」
「み、未央ちゃん。もしかして聞こえてないんじゃ…」
「え〜?そうかな〜、こんなに大声で呼んでるのに〜?」
「こら、未央。あまり騒いじゃ駄目だよ。それに新人は私達もでしょ」
「しぶりん冷たい!」
…さっきから騒がしいな。なんなんだ、一体。言っておくが私は今とても不機嫌なんだ。チョークスリーパーも辞さないぞ。
「あ、やっとこっちを見てくれた!やっほ!君名前は?新人さん?」
…なんだこいつ?めっちゃぐいぐい来てるな。ようやく周りの状況に気付くと三人の女子が近くにいた。黒髪のロングと茶髪のロングとショートの三人が視界に写る。
「えっと…名前は榊原葵です。ここに来るように言われたのですが、迷っちゃいまして」
「うんうん、じゃああおいっちだね!」
あ、あおいっち?いきなり過ぎて話についていけない。てか、初対面ですげぇ馴れ馴れしいな。
「ほら、未央が急に話進めるから戸惑ってるじゃん。もうちょっと落ち着いて」
「大丈夫大丈夫!私の手にかかればすぐに仲良くなれるよ!」
…なんなんだ?私を置いていかないでほしいのだが。
「あ、あの!榊原さんは新人さん…なのですよね?私たちで良ければ案内しましょうか?」
今度は茶髪のロングの方が話しかけてきた。…なるほど、困っている私を見かねてこの三人組は話しかけて訳か。これはありがたい、渡に船だ。このままこの三人組に案内してもらうとしよう。
「じゃあ…お願いしてもいいかな?ちょうど困っていてね。えっと…」
「あ、自己紹介がまだでした。私の名前は島村卯月です!よろしくお願いしますね!ぶいっ!」
…なんとも笑顔溢れる子だな。眩しいくらいだ。一つくらいその笑顔を分けてほしいくらいだ。
「私は渋谷凛。今日からよろしくね」
…ほう、蒼いな。いや、別にどこかと聞かれると答えられないのだが。
「そして!この私が本田未央!未央ちゃんって呼んでね!」
先程から元気はつらつなのが少々鬱陶しいが…まぁ、悪いことではない。仲良くしてやろう。
「はい、よろしくお願いしますね。それで、えっと…ここのプロデューサーに会いたいのですが」
「プロデューサーに会いたいの?そっかそっか!ならそこのエレベーターに乗っていくんだよ!私達も一緒に行こっか!」
三人に着いていってエレベーターに一緒に乗る。ふむ、30階だな。覚えておこう。先程の聞いた名前は忘れてしまったが。まぁ、なんとかなるだろう。
「あおいっちもアイドルになりたくてここに来たんだよね?どうしてアイドルになりたいの?」
いや、まだ話すらしてないのでそう聞かれても困るのだが…
「そう、ですね…私、なりたいものが全然なくて。悩んでいるときにプロデューサーさんにスカウトされまして…なのでなりたいアイドル像なんて決まっていませんけど、取り敢えずチャレンジしてみようかなって考えてて」
「そっかー、なりたいものを探すためにアイドルになったんだね!私は元気に明るく、トップアイドルを目指すためにアイドルになったんだ!」
いや、聞いてないのだが。
「そうなのですか?それは凄いですね。目標が高いのは良いことだと思いますよ。他の二人も同じなのですか?」
「私は…榊原さんとだいたい一緒かな?進路に悩んでいるときにプロデューサーにスカウトされて、それでアイドルになったんだ。…まぁ、今では悪くないと思ってるよ」
へぇ、こいつ私とだいたい一緒だな。
「私は、その…昔からアイドルに憧れていて、なりたくて養成所に通ったりして…やっとアイドルになれたんですよ!頑張ったかいがありました!」
お、おう…めっちゃ真面目じゃん。自分の動機が凄く恥ずかしく思えてきた。
とはいえ、動機は違えどトップアイドルを目指しているのは皆同じなのだろう。…私は別にトップアイドルとまではいかなくてもいいのでちょっと有名なくらいで良いと考えているのだが…これは口に出せないな。
そう話していると目的の30階に着く。よし、この三人組のお陰でだいぶ緊張は解れた。感謝しておこう。
「ここがシンデレラプロジェクトルームだよ。ここのプロデューサーオフィスにプロデューサーが居ると思うけど…」
そう話しているとそのオフィスからあのひそひそプロデューサーが出てくる。てめぇ、今までそこに居やがったのか。
「すみません、少し書類作業で遅れて迎えにいくのが遅くなりました…。と、島村さん、渋谷さんに本田さん。彼女を案内して下さったのですね。有難うございます」
「別に私たちもここに行く予定だからついでだよ。それよりも、榊原さんに話をしなくていいの?」
「それもそうですね。では、榊原さんこちらへどうぞ」
「それじゃあ、私たちはここまで!まったね〜あおいっち!」
「えぇ、案内有難うございました。それではまた後程会いましょう」
こうして三人組と別れてこのふにふにプロデューサーの二人きりになる。…いい加減、このプロデューサーの名前が思い出せない。何故こうも名前というのは覚えづらいのだろうか?誰か教えてくれ。
「それでは、応接室で話をしますので。着いてきてください」
そう言われてこのプロデューサーに着いていく。周りを見渡せば壁に色んなアイドルのポスターが貼られたりしており。ふむ、眩しい笑顔なものもあればクールな出で立ちのポーズを取っているものもあり、様々なポスターが壁一覧に貼られている。アイドルなんてものに興味を示したことはなかった故、対してアイドルのことを軽んじている訳ではなかったが大体アイドルとは皆同じようなものだと考えていたが、ポスターの表情を見てアイドルといえども十人十色なのだろうと初めて知った。…その内で私はどういったアイドルになるのだろうか?想像してみたが全く思い付かなかった…。
案内された応接室に通されそこで必要な契約書類に記載していく。すでに祖父には許可を貰っているからちゃんと判子も押しておく。
…うん、これで全部だろうか。記載した書類を目の前に座っているプロデューサーに渡すと書類に目を通し始めたので静寂が訪れる。
…さて、アイドルに私は本当になれるのだろうか?アイドルを目指すも夢破れてしまった人の話はそこらじゅうに転がっている。これで失敗したら私はどうなるのだろうか?…始まろうとしているときに終わりを考えるだなんて縁起でもない。何事もチャレンジだ。ほら、努力は必ず報われる訳ではない。だが成功した者は皆すべからく努力している、とどこかのボクシング会の会長も言っていた。まずはやってみてからだな。そう思考していると、コトッ 机にコーヒーが置かれた。有難うございますと礼を言って上を横をみると蛍光グリーンの事務服を着ている女性が立っていた。
「コーヒーどうぞ♪…初めまして。プロデューサーのアシスタントをしています。千川ちひろです。貴方が榊原ちゃんですね?今日からよろしくお願いしますね♪」
お、おう…唐突過ぎて吃驚した。蛍光色が反射して目がいたい。この人がアシスタントさんか。覚えておこう。
「今日から所属することになった榊原葵です。アイドルとしては新人ですので何かご迷惑を掛けてしまうでしょうが、そこは頑張りますのでよろしくお願いします」
「はい♪346プロに新しく入った新しい仲間ですから共に頑張っていきましょう!」
中々に明るい人だ。笑顔溢れる素敵な方というのが第一印象だな。そこの笑わないプロデューサーとは大違いだ。
「…書類、全部拝見して特に記入漏れもありませんでした。これで契約に関する書類は以上です。お手数を取らせて申し訳ありません。」
お、どうやら終わったようだ。
「いえ、こちらこそ忙しい中時間を取らせてすみません。では、今日はこれで終わりなのでしょうか」
よし、これて終わった。また明日からレッスンやトレーニングが始まるんだろうなぁ…
「いえ、榊原さんにはこれからトレーナーの元に赴いてさっそくトレーニングを受けてもらいます」
…え、今日からいきなり?うせやろ?
早速ジャージに着替えさせられてトレーニングルームの方へと向かう。正直いうと怠い。まさか初日でレッスンを受けさせられるとは想わなかった。帰ったら今最新作の獣ハンターザ・ワールドをプレイするつもりだった。
けど、これからアイドルとして売れていくにはには限られた時間もある。早め早めにこなしていくのも大事なのだろうと自身を納得させて重い足取りを上げて歩く。少し歩いて言われていた場所に着く。
…ここがトレーニングルームか。ドアを開けると他のアイドルであろう人たちがトレーニングしている。その中で黒髪のいかにもスポーツトレーナーであろう人がこっちを向く。
「む、キミが私のレッスンを受ける新しいアイドルだな?プロデューサーから既に聞いている。私がこのトレーニングルームを管理しているトレーナーだ。お前の担当することになった。よろしく頼むぞ」
なんと、この人が今回のトレーナーさんか。なんというか…凄くスポーツマンといった感じだ。この榊原葵、スポーツマン系の人は苦手なのである。大体の人が熱血タイプで性に合わないからだ。
「初めまして、今日からお世話になる榊原葵です。今日からよろしくお願いしますトレーナーさん」
さぁ、早くから終わらして帰ろう。何、初日で飛ばしてくるようなことはないだろう。
「それじゃあ、今日のメニューを言うぞ。まず柔軟した後に腹筋・腕立て伏せを共に100回。その後にトレーニングマシーンを使ってランニングを軽く30分走ってもらう」
…え?うせやろ?(二回目)
「安心しろ、過酷なトレーニングなどさせない。ただし、キミにはデータを元に私が作った、このっスペシャルプランに忠実に動いてもらおうか!!」
ヒエッ こいつガチで言ってるのか…!
「さぁ!早速始めていくぞ!」
榊原の明日はどっちだ!
因みに余談ですが前回の不審者の話。あれ、私が実際に聞いた近所に出現した不審者の話です。