キャラクターに対する決めつけ等が不快な方は、せめて次へ。
ただ自分には、最初から彼はこういうキャラクターにしか見えなかったので、つい、書いてしまいました。
ずっと一緒に生きてきた。
二人して、互いに支え合って、微笑み合って、かけがえのない存在として、信頼し合ってきた。
信頼は、愛情とごちゃ混ぜになったり、ならなかったり。
とにかく、もどかしいくらい、愛しくて。
だから、あんなに大事に、胸に抱き締めていたのに。
彼女は突然、消えてなくなってしまった。
今でも、わからない。
どうして、消えてしまったのか。
どうして、消えてしまったのが彼女だったのか。
答えは今も、見つからない…。
あの日のことは、あまりよく覚えていない。
いや、覚えていない、というより、思い出せない、の方が正しいか。
思い出そうとしても、身体が先に拒んでしまうみたいで、気分が悪くなり、吐き気で何も考えられなくなる。
奇妙なほど断片的に、幾つかのことは思い出せる。
階段の途中で倒れていた道寺を抱き上げ、間に合わなかったんだ、と知った。
そして、
「きゃあぁぁぁ、銀牙っ!」
怯えきった静香の悲鳴。
駆け付けた時、彼女はまだ生きていた。
なのにその直後、黒く光る大剣が、跪(ひざまず)く静香の胸を…。
彼女の身体から、美しい赤が噴き出し、…力なく、床に崩れ落ちた…。
それ以上のことは、思い出そうとしても、目の前が揺れてブレたり、ノイズが走っているみたいになって、明瞭な像を結ぶことができない。
とにかく俺は、力の入らない身体を引きずるようにして、彼女の元へ急いで駆け寄った。
多分、ずっと呼びかけてたと思う。
でも、覚えているのは、表情のない静香の綺麗な顔と、胸の辺りからゆっくりと流れ出る美しい赤。
とにかく、寒くて仕方なかった。
身体の中身をごっそり抜き取られたみたいに。
彼女の命が、すべてが、今、俺の目の前で失われていく。
なのに、俺になす術はひとつもない。
頭がおかしくなる。
おかしくなってしまう。
この現実は、俺を壊してしまう。
気づけば、俺の喉は裂けそうなほど声を上げていた…。
そこで、一度、俺の記憶は途切れる。
次の記憶では、俺はソファーの傍らに立ち、それに寝かせていた静香をただ見下ろしている。
動かない静香をじっと見つめ、ぼんやりと佇む。
眠るように、綺麗な顔。
胸元に組まれた、彼女の細い指。
微かに血に汚れていて、涙が止まらない。
しばらくそうした後、シルヴァと話をしたらしいが、覚えていない。
思い返してみて、ひどい喪失感と無力感に押し潰されていた気はする。
静香に告げることができたのは、一度だけ。
「愛してる、静香…。」
ベッドに座り、俺は彼女の背中を素肌で抱き締めていた。
真夏だというのに、窓から入り込む夜風に当たっているだけで、冷たく凍えてしまう彼女の身体を温めたくて、ひたりと寄り添う。
キャミソール姿の彼女は、俺の手をひとつ、両手ですくい取ると、唇に寄せて、悲しげに囁く。
「ごめんなさい、銀牙。…私、まだ、愛してる、って言えない…。」
予想通りの言葉に、小さく笑ってしまうが、すぐに、
「いいんだ。俺が言いたくなっただけ。」
すると、彼女は面差しを伏せ、前髪を下げると、
「好き、って感情なら分かるの。銀牙のことも、好き、だし、とても大事。
でも、愛してる、ってそれだけじゃない気がして…。」
難しく考えすぎ。
とも言えなくて、俺はからかうように、
「じゃ、俺のこと、愛してない?」
すると静香は鋭く振り向き、
「そんなことない!」
睨む彼女に、俺は笑って、
「でしょ?」
「…、と思う。」
彼女の頼りない付け足しに、俺はますます笑う。
「…からかわないで。いい加減な気持ちで言いたくないの。…すごく大事な言葉だから。」
真面目な顔で落ち込まれ、俺は彼女の肩に唇を降らせる。
「じゃあ、待つよ。静香が言いたくなるまで。」
「うん…。」
彼女は安心したように笑う。
…何かまた、お預けな気分。
だからちょっとだけ、我が儘。
「その代わり、俺にしか言っちゃ駄目。」
すると静香は楽しそうに笑って、
「ふふ、そうね。きっと、そうするわ。…ふふふ。」
ひとしきり笑って、彼女は細い首をひねるように振り返ると、俺の首筋に唇を当てた。
優しい感触に、心がとける。
微睡みたくなって、二人してベッドに潜り込み、向かい合う。
互いに瞳を覗いているうちに、俺が唇を寄せようとしたら、静香の人差し指に押し止められた。
怪訝そうに眉を寄せたら、彼女の唇が声もなく告げた。
…愛してる、銀牙…。
愛してる…。
残された俺は、立ち尽くす。
手の中には、絶狼の魔戒剣と、麗しき銀の貴婦人。
……どうして?
どうして、一番大切な彼女がいない?
俺のすべてだった、彼女。
俺の生涯の伴侶と誓ってくれた、彼女。
誰も彼女以上に、俺を許すことも、愛することもできやしないのに。
代わりなんていない。
存在しない。
そんなの、俺だけは絶対に認めない。
彼女と過ごした日々以上の日々も、彼女が俺を想ってこぼした涙以上の涙も、俺にはあり得ない。
ずっと、愛していたんだ。
今でも、愛してやまない。
ガキの頃から、ことあるごとに、俺達は確かめ合ってきた。
俺が守る、って。
ずっと一緒だ、って。
だが、約束を守れなかった。
君を守れなかった。
全て、俺が非力だったからだ。
ならば俺は、せめて胸の内に佇む君と、約束を果たそう。
尽きることのない痛みと共に。
俺はこれからも、拒み続ける。
痛みを和らげることも。
傷を癒すことも。
あの日から、どれだけ時間が過ぎようとも、俺はただ佇むだけだ…。
俺の心は、彼女と共に今なお、引き裂かれたまま。悲鳴を上げたまま。
これからもずっと、君だけを求め続けるよ。
……、静香。