Digimon/Grand Order   作:LAST ALLIANCE

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今回は第9節から第13節、「第1特異点」の事実上の最終回です。
次回は出会った英霊達を召喚する話になります。

投稿し始めたのが去年の3月で、終わるのが今年の1月なので1年近く間を空けてしまって大変申し訳ありませんでした。
合間を使いながら少しずつ投稿していくので、今後も投稿ペースはかなり落ちると思います。それでも良い方はよろしくお願いします。


第9話 邪竜墜つ

 翌日の朝。野営地で作戦会議が始まった。オメガモン達の中で軍勢を率いた経験者はアルトリアとジークフリート。2騎のサーヴァントであり、セイバーのクラス。最高級の英霊。

 アルトリアはアーサー王だから当然だが、ジークフリートはかつて一軍を率いた経験持ち。彼らを中心に作戦会議が進む。

 

「我々の人数は少なく、相手の人数は多い。しかし、敵の殆どは我々より弱い。数で優る敵と、質で優る我々。こういう時は正面突破か、背後からの奇襲が望ましいです」

 

「だが、我々の居場所は既に知られている。つまりは正面突破しかない」

 

「ワイバーンの軍勢は私が消し去る。ファヴニールはジークフリート殿達にお願いしたい。他の皆は敵サーヴァントや敵の軍勢を蹴散らして欲しい」

 

 アルトリアとジークフリートの話に頷きながら、オメガモンは空中戦は自分に任せろと言わんばかりに、ワイバーンの軍勢を担当すると自ら言い出した。

 聖騎士のお願いするような言い方に誰もが頷いた。威風堂々とした高圧的な言い方をして来るかと思えば、意外にも腰が低い。異世界の人々と触れ合うのに気を遣っている所が分かる為、オメガモンへの評価は高い。

 

「俺がファヴニールを倒せるかどうかが戦いのキーポイントになるだろう」

 

「そうね……ところで悪いけど、私は敵サーヴァント担当にして欲しいわ。どうしても倒さないといけない相手がいるの」

 

 エリザベートが言った“倒さないといけない相手”。それはカーミラ。その名前は残忍で血を追い求めた彼女の生涯を表した変名であり、真の名はエリザベート・バートリー。

 味方のエリザベートは若い頃で、敵のカーミラは怪物になった存在。ややこしい話だが、厄介な敵サーヴァントを担当してくれるのは嬉しい話だ。

 

「私は“竜の魔女”を相手にする事になりますね……」

 

「良し、皆。準備は出来たね? 行くぞ!」

 

 それぞれが自分が担当する敵の確認を終えると、立香の号令と共に動き出す。その前に必勝の円陣を組み、写真撮影をしたのは秘密だ。

 巨大化したオメガモンに乗り、オルレアンに向かって進撃を始める立香達。第1特異点を修復する最終決戦が幕を開けた。

 

ーーーーーーーーー

 

 本来の大きさに巨大化し、立香達を乗せてオルレアンに向かって飛行しているオメガモン。彼が目にしたのは空を覆い尽くす程のワイバーンの軍勢だった。

 バーサーク・セイバーがオルレアンに向けて進軍しているオメガモンを見付け、ジャンヌ・オルタに知らせて来た。それを受け、フランスにいる竜を総動員して来たと言う事となる。これが最終決戦だ。

 

「皆、降りてくれ。ワイバーンの軍勢はこのオメガモンに任せてもらう!」

 

「頼んだよ、オメガモン!」

 

 オメガモンは徹底してサポート役に回っている。確かに冬木市の特異点では前線に立っていたが、今回はどちらかと言うと、活躍は控えめとなっている。

 味方の数が多いのと、彼らを信頼している為だ。仲間と共に居れて、共に戦える。こんなに嬉しい事はない。だからこそ皆を信じて戦える。

 立香達を地上に降ろし、そのまま飛び上がったオメガモン。目の前にいるのは無数のワイバーン。右手からガルルキャノンを展開し、左手からグレイソードを出現させ、飛竜の軍勢に向かって突撃を始める。

 

「さぁ、今まで暴れられなかった分満足させてもらうぞ!」

 

 この特異点に来てから満足いく戦いが出来なかったオメガモン。彼は獰猛な笑みを白兜の奥で浮かべながら、ガルルキャノンに大気中のエネルギーを集束させ、砲身の内部で砲弾の形に凝縮させる。

 そしてワイバーンの軍勢に向けて撃ち出す。青いエネルギー弾はワイバーンの軍勢の一部に直撃すると、破壊エネルギーを拡散させながら周囲にいる飛竜を呑み込んでいく。

 更にグレイソードを薙ぎ払い、青白い三日月型のエネルギー波を放つ。剣圧だけで飛竜を一気に殲滅していくオメガモン。その進撃は止まる事を知らないが、ふと何かに気付いた聖騎士は、地上に向かって声を張り上げる。

 

「サーヴァントの反応とこれは……デジモンの反応!? 真っ直ぐこちらに向かっている!」

 

『デジモン!?』

 

 オメガモンが探知したのはサーヴァントだけでなく、デジモンの反応。今まで姿を見せず、存在すら分からなかったデジモンの存在。

 何故この世界にいるのか。誰が何の為に呼んだのか。それは分からないが、自分達の敵である事はオメガモンには分かる。

 

「デジモンは私が抑える! 皆はサーヴァントを!」

 

「分かった!……って言ってる傍から来た!」

 

「殺してやる! 殺してやるぞ! 誰も彼も、この弓矢の前で死ぬがいい!」

 

 立香達の目の前に現れたのは1騎のサーヴァント。バーサーク・アーチャー。翠緑の衣装を纏った野性味と気品を併せ持つ少女。

 明らかに強制的に狂化されている。本来であれば、ジャンヌ・オルタの下に付くようなサーヴァントではない。狂わせて従わせる。サーヴァントだって生きている。自分の意志がある。それを無視したやり方に憤りを立香が覚える。

 

「私にお任せを。『力屠る祝福の剣(アスカロン)』!!!」

 

「素早く!」

 

 バーサーク・アーチャーが放つ無数の矢。それを防ぐのはゲオルギウスの宝具。アスカロン。あらゆる害意と悪意から持ち主を遠ざける無敵の剣。

 敵を倒すという意味の“無敵”ではなく、いかなる敵からも守るという“無敵”。守護の力を反転させることで、あらゆる鎧を貫き通す剣にもなるが、今回は本来の守護の力を持つ剣として力を発揮する。

 ゲオルギウスが無数の矢を防いでいる間に、謎のヒロインXがバーサーク・アーチャーに向けて駆け出す。エクスカリバーの二刀流を以て、バーサーク・アーチャーを瞬時に防戦一方に追いやる。

 

「おのれ!」

 

「星光の剣よ。赤とか白とか黒とか消し去るべし! ミンナニハナイショダヨ! 『無銘勝利剣《ひみつかりばー》!!!』」

 

 謎のヒロインXの宝具が発動した。黄金の聖剣と漆黒の聖剣から繰り出す怒涛の連続斬撃。ブオンブオンと小気味よい重低音が響かせる中、バーサーク・アーチャーを撃破した。

 厄介でどうしようもなく損な役回りだったと自嘲したバーサーク・アーチャー。邪竜を倒して欲しいと立香達に告げると、彼女は光の粒子に変わりながら消滅していった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 対峙する立香達一行とジャンヌ・オルタ達。ジャンヌ・オルタはジャンヌの事を自分の残り滓と言って嘲笑う一方、ジャンヌは自分の事を残骸ではないと言い切る。

 同時にジャンヌ・オルタの事を自分ではないと言った。その言葉の意味と隠された真意に誰もが訝し気な表情を浮かべる中、ジャンヌ・オルタは不敵な笑みを浮かべる。

 

「この竜を、竜の大群を見るが良い! 今や我らの故国は竜の巣となった! ありとあらゆる物を喰らい、このフランスを喰らって不毛の土地にする! それでこの世界は破綻し、この世界は完結する」

 

「そうはさせない! 俺達がこの竜の大群を消し去る! この世界を終わらせはしない!」

 

 やがてこの世界は竜同士が争い、お互いを捕食し始める地獄と成り果てる。それが真の百年戦争。邪竜百年戦争。その開幕を宣言したジャンヌ・オルタと、それを阻止しようとする立香達一行。

 しかし、突如としてファブニールに砲弾が直撃して大爆発が巻き起こった。一体誰の攻撃なのか。全員が砲撃が撃ち込まれた方向を見ると、そこには純白の鎧を身に纏う戦士がいた。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!ここがフランスを護れるかの瀬戸際だ!!」

 

「ジル……!」

 

「恐れる事も、嘆く事も、退く事もない! 人間であるならば戦え! 何故なら我らには聖女が、王妃が、聖騎士がいる!」

 

「どうやらフランスはまだ終わっていないみたいだな……決着を付けるぞ、ジャンヌ・オルタ!」

 

 ジャンヌ達の戦いは決して無駄ではなかった。彼女が選んで歩んだ人生。誰かを守る為に戦った。例え終わりが綺麗でなかったとしても、それで良かった。

 例え見捨てられても、裏切られても、売り飛ばされても。自分が守ったフランスが未来に繋がった。それで良かった。

 

「ファブニール! 聖女を、軍を、祖国を! 全て燃やし尽くしなさい!」

 

「済まない。奴の相手は彼らではない。この俺だ。三度貴様と相まみえるとはな……別の世界では違う形で繋がったかもしれないが、邪悪なる竜、ファヴニールよ! 俺は此処に居る! ジークフリートは此処に居る! 我が正義、我が信念に誓って、貴様を必ず黄昏に叩き込む!」

 

「我がサーヴァント達よ、前に出ろ!」

 

「やぁ君達! 元気そうで何よりだよ! シュヴァリエ・デオン。此度は悪に加担するが、我が剣に曇りはない!」

 

「堕落し、破滅した姿を晒すのは恥ではないが、敗北が何よりの恥だ。聖杯を求め、傀儡にこの身を貶めても、余は不死身の吸血鬼を謳おう。……それが虚構であろうと、余にはそれしか残されておらぬのだからな」

 

 ファヴニールが口から火炎を放とうとすると、それを阻止しようとジークフリートが立ち塞がる。背中に収めている鞘からバルムンクを引き抜き、両手で握り締めて構えを取りながら。

 バーサーク・セイバーの真名はシュヴァリエ・デオン。バーサーク・ランサーの真名はヴラド三世。デオンの相手は謎のヒロインXが、ヴラド三世の相手はアルトリアが務める。ワイバーンの軍勢はオメガモンとフランス軍が担当している。

 立香達一行とジャンヌ・オルタ達の真っ向勝負が始まったのと同じ頃、オメガモンは新手としてやってきたデジモンと相対していた。

 

「成る程。お前が相手か……インペリアルドラモン」

 

 オメガモン達の目の前に姿を現した1体のデジモン。その名はインペリアルドラモン。“皇帝竜”の異名を持つデジモン。背中に翼を生やした四足歩行の巨大な竜。

 ファヴニールを凌駕する大きさとパワー、そして威圧感。その威容を目の当たりにしても、オメガモンは全く動じる事なくインペリアルドラモンと対峙する。

 

「お前の相手はこの私だ。来い」

 

「グオォォォォォォォォーーーーーーー!!!!」

 

 先に攻撃を仕掛けたのはインペリアルドラモン。背中に装備している巨大な砲塔からオメガモンに向けてエネルギー弾を連射するが、オメガモンは素早く横に移動しながらエネルギー弾の連射を回避していく。

 それと同時にガルルキャノンの照準をインペリアルドラモンに合わせ、一瞬の溜めを作った後、インペリアルドラモンに向けて青色のエネルギー弾を発射した。

 青いエネルギー弾は途中で爆裂して無数の小型エネルギー弾となり、あらゆる方向からインペリアルドラモンに襲い掛かる。

 

「グアアアアアアァァァァァァッ!!!!!」

 

「ハァッ!!」

 

 オメガモンが撃ち出した爆裂エネルギー弾を喰らったインペリアルドラモンが苦痛に満ちた叫び声を上げる中、オメガモンはグレイソードの剣先をインペリアルドラモンに向けると、突撃を開始する。

 一瞬で間合いを詰め、グレイソードから連続斬撃を繰り出して確実にダメージを蓄積させていく。

 途中でインペリアルドラモンがオメガモンを追い払おうと右手の爪を振るうが、オメガモンは左手で受け止めてから斬り下ろし、間合いを取ってガルルキャノンを構える。

 

「『ガルルキャノン』!!!」

 

 ガルルキャノンから発射されたのは青い光の奔流。それに呑み込まれたインペリアルドラモンは青い光の粒子に分解され、そのまま消滅していった。

 戦いを終えたオメガモンは敵を倒した事に安堵しつつも、ある一つの違和感を覚えた。それはインペリアルドラモンの強さ。自分より格下だが、こうも簡単に倒せる相手ではない事は分かっている。

 一体何がどうなっているのか。この人理焼却にデジモンが関係している事は分かった。自分はそれを阻止する為に呼ばれた。では黒幕は一体誰なのか。新しい謎と疑問が出来た事を感じつつも、オメガモンは地上に降りて行った。

 

ーーーーーーーーーー

 

「そんな馬鹿な……」

 

 オメガモンが地上に降り立つと、ジャンヌ・オルタは呆然となっていた。ファブニールはジークフリートによって、カーミラはエリザベートに、デオンは謎のヒロインXに、サンソンはアマデウスに、そしてヴラド三世はアルトリアによって倒された。

 頼みにしていたファブニールとインペリアルドラモンを失い、サーヴァント達の大半も消滅し、ワイバーンの軍勢も壊滅状態。これで実質ジャンヌ・オルタは追い詰められた状態となった。

 

「お戻りあれ、ジャンヌ! 先ずは退却して態勢を立て直しましょう」

 

「ジル!」

 

「ジル……!」

 

「まさか……!」

 

 ジャンヌ・オルタの隣に1人の男性が現れた。彼は幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包み、眼を広く剝いた異相をした長身の男性。彼はジル・ド・レェ。

 その男性を知っているジャンヌは驚き、アルトリアは警戒するように睨む中、ジャンヌ・オルタとジル・ド・レェはワイバーンの軍勢と共に退却していった。

 

「立香殿。ジル・ド・レェが聖杯を持っているのならば、また別のサーヴァントを召喚するに違いない。ここは追撃に出よう」

 

「そうだね……今がチャンスだ。全員、ジャンヌ・オルタがいるお城に攻め込むぞ!」

 

『了解!』

 

 オメガモンの進言を聞いた立香は追撃に出る事を決めた。そして巨大化したオメガモンに全員が乗り、ジャンヌ・オルタ達の後を追いかけていく。

 ファブニールとインペリアルドラモンは倒され、ワイバーンの軍勢も壊滅状態。このチャンスを逃す理由はない。そう判断した立香達が城に突入すると、海魔の軍勢が出迎えた。

 

「この程度の雑兵で私を止められると思うな!」

 

 オメガモンはガルルキャノンから絶対零度の冷気弾を撃ち出し、無数の海魔を一瞬で凍結させ、通過する事で発生した衝撃波で氷解していった。

 そのままジャンヌ・オルタの所に向かっていると、目の前に1騎のサーヴァントが立っている。それはジル・ド・レェだった。

 

「ジル……!」

 

「おやおや、お久し振りですな。まさかこのオルレアンに乗り込んでくるとは……正直に申し上げます。感服いたしました」

 

「御託は良い。そこをどいでもらおうか」

 

 ジャンヌとの再会を喜びながらも、ここまでの進撃を率直に褒め称えるジル・ド・レェ。それに対し、オメガモンはジャンヌ・オルタを止める為、一秒でも早く、前に進みたがっている。その為、殺気立った目でジル・ド・レェを睨み付ける。

 しかし、ジル・ド・レェはオメガモンの殺意と言葉に全く動じる事なく、逆に彼らを睨みながら大声を上げる。

 

「しかし! しかしだ! あぁ、聖女とその仲間達よ! 何故私の邪魔をする!? 私の世界に土足で入り込み、あらゆるモノを踏み躙り、あまつさえジャンヌ・ダルクを殺そうとするなど!」

 

「その答えは簡単だ! お前の行いが間違っているからだ!」

 

「ジル。彼女は本当に私なのですか? ジャンヌ・ダルクなのですか?」

 

「何と許せぬ暴言! 聖女とて怒りを抱きましょう! 聖女とて絶望しましょう! あれは確かに紛れもないジャンヌ・ダルク。その秘めたる闇の側面その物!」

 

 ジル・ド・レェが告げた事実。それはジャンヌ・オルタ、もといもう1人のジャンヌ・ダルクの正体。それは彼女の暗黒面を具現化した物だった。

 その事実に立香達が驚く中、オメガモンが前に進み出た。そして立香とマシュとジャンヌに顔を向けながら、彼らに先に行くように促した。

 

「立香殿、マシュ殿、ジャンヌ殿。貴殿達は先に行け。あのジャンヌ・ダルクを倒して来い。何、心配するな。直ぐに追いつく」

 

「オメガモン。私もご一緒させて下さい。あの英霊は前に聖杯戦争で戦った相手。私の経験が役に立つはずです」

 

「ありがたい。ならばお言葉に甘えよう。エミヤ殿、ジークフリート殿、護衛を頼む。後は任せたぞ!」

 

 アルトリアは第四次聖杯戦争でセイバーとして召喚されたが、ジル・ド・レェもキャスターのサーヴァントとして召喚された。

 その時に色々と嫌な経験をしたが、戦闘経験もある為、戦い方や攻略法を知っている。その為、ジル・ド・レェの足止めを務める事をオメガモンに頼んだ。

 それを受け入れないオメガモンではない。同時にテイマーの身を案じてエミヤとジークフリートに護衛を依頼すると、ジル・ド・レェとの戦闘に突入した。

 彼らの戦闘を一瞥した立香、マシュ、ジャンヌ、エミヤ、ジークフリートはジャンヌ・オルタのいる所へと向かっていく。

 

ーーーーーーーーー

 

「貴女に1つ伺いたい事があります。極めて単純な問い掛けです。貴女は、自分の家族を覚えていますか?」

 

 ついにジャンヌ・オルタの所へと辿り着いた立香達。ジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタ。2人の聖女が相対すると、最初にジャンヌ・ダルクが口を開いた。

 それはマリーとの会話を経て、ずっとジャンヌ・オルタに聞きたかった事。それは自分の家族を覚えているかどうかと言う事。物凄く簡単な内容にジャンヌ・オルタだけでなく、立香達ですら目を見開いた。

 

「例え戦場の記憶がどんなに強烈であろうと、私はただの田舎娘としての記憶の方が、遥かに多いのです。例え貴女が私の闇の側面だったとしても、あの牧歌的な生活を忘れられる筈がありません。いえ、忘れられないからこそ……裏切りや憎悪に絶望し、嘆いて憤怒したはず」

 

「私は……」

 

 ジャンヌの問いかけに答えられないジャンヌ・オルタ。その様子を見てジャンヌは気が付いた。ジャンヌ・オルタの正体に。

 彼女は自分と同じ記憶を共有していない。聖女として戦場に立つまでの生活を覚えていないのだから。

 

「記憶がないのですね……」

 

「それがどうした! 例え記憶がなかろうが、私がジャンヌ・ダルクである事に変わりはない!」

 

「確かにその通りです。記憶があろうがなかろうが、それは関係ないです。でもこれで決めました。私は哀れみを以て貴女を倒します!」

 

 立香達の目の前で始まったジャンヌ・ダルクとジャンヌ・オルタの戦い。彼女達は普段使っている旗ではなく、左腰に帯びている剣を以て戦った。その勝負は一瞬で決着が付いた。

 力量差があったのではない。ただの一撃で勝負が決まった。勝者はジャンヌ・ダルク。彼女が突き出した剣の切っ先がジャンヌ・オルタの胸を貫いていた。

 

「そんな馬鹿な……有り得ない……嘘だ……だって私は聖杯を所有していて……」

 

「だから負けない、と言いたかったのだろう? ジル・ド・レェから全て聞いたよ。お前は本来存在しない筈の英霊だと」

 

 そこに現れたのは聖杯を手にしたオメガモン達。それを見てジャンヌ・オルタはジル・ド・レェが倒された事を悟る中、オメガモンはジャンヌ・オルタについて話し出す。

 全てジル・ド・レェから聞き出した内容。ジャンヌ・オルタは聖杯を使い、ジル・ド・レェが造り出した存在。彼の願望の具現化。

 

「彼はジャンヌ殿を蘇らせようと心の底から願ったが、聖杯に拒絶された。だから信じる聖女を、焦がれた聖女を造ったと」

 

「そうだったのね……知らない方が良かった事もあったのね……」

 

 オメガモンの話を聞いて自嘲気味に微笑むと、ジャンヌ・オルタは消滅していった。その様子をジャンヌ・ダルクは複雑そうに見届け、オメガモンに先を話すように促した。

 話はまだ終わっていない。ジル・ド・レェがジャンヌ・オルタを造り出した理由が分かったが、彼の思いが分からないからだ。

 

「でも……例え聖杯で私を蘇らせる事が出来たとしても、私は彼女のようにはなりませんでしたよ?」

 

「それは話しました。ですが……そこで彼の思いを知る事が出来ました」

 

 オメガモンの代わりにアルトリアが話し出す。確かに生前のジャンヌは裏切られ、嘲笑されたりもした。無念の最後を迎えたと言っても過言ではない。

 しかし、彼女は祖国を憎む事も無ければ、恨む事も無かった。それでもジル・ド・レェは祖国を恨み、憎んだ。何故なのか。それはジャンヌ・ダルクを殺した祖国を許さないと聖杯に願ったのだから。

 

「そうだったのですか……彼が恨むのも、聖杯で力を得て国を滅ぼそうとしたのも分かります。でも……その思いを知ったとしても、私はジルを止めます。私は裁定者《ルーラー》のサーヴァント。右も左も分からなかった私を信じ、この街を解放までしてくれた。例え今がどうであれ、私はあの時のジルを信じていますから」

 

「その言葉を……彼に伝えたかったです」

 

「はい。私は最後の最後まで絶対に後悔しません。私の屍が誰かの未来に繋がっている。ただ、それだけで良かったのですから」

 

『良い感じになっている所大変申し訳ない! 聖杯の回収を完了した! これから時代の修正が始まるぞ! レイシフト準備は整っているから、直ぐにでも帰還してくれ!』

 

 ジャンヌとアルトリアの話が良い感じの雰囲気を出していると、ロマニからの通信が入った。聖杯の回収を把握した事で、時代が元通りに復元されていく。

 もう別れなくてはならない。もう行かなければならない。何故なら立香達にはまだまだやるべき事があるからだ。そしてエミヤとアルトリア以外の英霊も消滅し始めた。

 

「もう行かれるのですね……」

 

「ありがとう、皆。そしてまた会おう」

 

「絶対に召喚してみせるから、その時まで待っていて!」

 

 寂しそうな顔をするジャンヌを安心させるようにオメガモンは微笑み、立香は力強く拳を握ると、彼らも同様に消滅していった。

 短いようで長かった第一特異点での戦いは終わった。様々な出会いがあり、様々な戦いがあった。そして歴史が正しい姿へと修復され、特異点の1つが修復されたのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーーー

 

 カルデアに帰還したオメガモン達一行。光が収まり、意識がはっきりとしてきた。ゆっくりと目を開けてみると、自分達がコフィンの中にいる事を実感する。

 そして左右をキョロキョロし、自分達は無事にカルデアに戻って来た事を認識した。視界に広がるのはカルデアの管制室の天井。

 コフィンを出た一行を待っていたのはオルガマリーとロマニとダ・ヴィンチ、クー・フーリンとメドゥーサ。彼らは皆笑顔を浮かべている。

 

「お帰り。そしてお疲れ様」

 

「初めてのグランドオーダーは無事に遂行されたわ。本当によくやったわ。補給物資も乏しく、人員もいない中、最高と言える成果を残した」

 

「だいぶ疲れているようだから休んでね? 最新の記録では無事に修復は完了しているから」

 

「了解した。立香殿とマシュ殿は先に部屋に戻ってくれ。クー・フーリン殿、メドゥーサ殿。2人は疲れているから付き添いをお願いしたい」

 

 ロマニは立香達の帰還を労い、オルガマリーは彼らの活躍を称え、ダ・ヴィンチは休むように促した。彼ららしい立場と対応だ。

 彼らの話を一通り聞いたオメガモンは頷くと、立香とマシュに部屋に戻って休むように促し、クー・フーリンとメドゥーサに付き添いを依頼した。

 その内容に首を傾げる立香とマシュが、クー・フーリンとメドゥーサと共に管制室から出ていくと、オメガモンは真剣な表情をしながら、オルガマリーとロマニとダ・ヴィンチに報告を始める。

 

「報告がある。特異点でデジモンが出現した。しかも究極体……インペリアルドラモン」

 

『ッ!?』

 

 オメガモンの報告に誰もが息を呑んだ。エミヤとアルトリアはデジモンが出現した事は知っていたが、それが誰なのかは分からずにいた為、名前を聞いて唖然となった。

 インペリアルドラモン。古代に存在した究極の古代竜型デジモン。他のデジモンとは存在や能力の面で一線を画しており、強大なパワーを宿している為、制御するのは至難の技であり、扱い方によっては救世主にも破壊神にもなってしまう。

 必殺技は『メガデス』。着弾点から半径数百メートルの全ての物を完全に消滅させる、超質量の暗黒物質を発射し、全てを暗黒空間に呑み込んでしまう恐ろしい技。

 

「で、でもオメガモンは倒したんでしょう?」

 

「あぁ倒した。それに嘘偽りはない。だが問題と疑問が幾つか出て来たのも事実だ……」

 

 オメガモン曰く、自分が戦ったインペリアルドラモンはそこまで強くなかったとの事。本物と戦えば勝利はするが、手こずる事間違いなし。

 そして疑問は何故デジモンが特異点にいるのかと言う事。これに関しては少し考え込んだエミヤが答えを出した。

 

「恐らく今回の人理焼却を目論んでいる黒幕とは別に、この事態にデジモンが関与していると私は思う」

 

「だろうな。十中八九『七大魔王』だ」

 

 『七大魔王』。悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ7体の魔王型デジモンの総称。七つの大罪をモチーフにしている。

近年の研究で、そのあまりに強大な力から全ての平行世界に存在させることで力を分散させてると言う事実が明らかになった。それ程までに恐ろしい力を持ったデジモン達。

 

「恐らく黒幕はルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択だ。それ以外は有り得ないと思って良いだろう。残りの4体は私と互角以上の力は持っているが、黒幕を務める力はないと思う」

 

 ベルフェモンは常に眠っている為、余程の事がない限りは自分から動く事はない。リリスモンは直接的な戦闘力は低いものの、策略が合わされば恐ろしい敵となる。ただ黒幕になるかどうかと聞かれると、その可能性は低いとオメガモンは判断した。

 リヴァイアモンは身体が大きい上に、普段は何をしているのかが分からないと言われている。しかし、ベルフェモンとリヴァイアモンの厄介さをオメガモンは理解している。自分単独で止めるのは難しいと考えているからだ。

 ベルゼブモンはそもそも策略や黒幕といった事を嫌う為、最初に選択肢から外れるレベルだ。故にオメガモンはルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択と言い切った。

 謎が謎を呼ぶこの人理焼却の一件。果たして黒幕は誰なのか。今回の件に関与しているデジモンは誰なのか。不確かなままオメガモンの戦いは続いていく。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・敵デジモン登場!

今回の特異点では、竜繋がりでブラックインペリアルドラモン(ドラゴンモード)を出しました。しかし、聖杯でコピーしただけなので、オリジナルよりは弱いです。
これから先も敵デジモン(コピー体)も登場しますが、意外なデジモンが敵として出る事もあるかも!?

・ラスボス候補

ルーチェモン、バルバモン、デーモンの三択。誰が正解でしょうか。

以上になります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、作品の質を向上させるようなアドバイスや、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。それが執筆意欲に繋がります。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


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