Digimon/Grand Order   作:LAST ALLIANCE

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皆さんお久し振りです。『Digimon/Grand Order』も更新再開します。
今回は第1特異点のエピローグから、アポクリファとのコラボイベント『Apocrypha/Inheritance of Glory』の第1節までの内容となっています。
暫く更新しない間にストーリーやイベントが進行しましたが、この小説は第1部で完結になります。それ以降はしません。と言うより出来ない内容にさせます。

それとこれから書いていく内容は特異点→イベント2つ挟む→特異点の繰り返しです。
なので登場する英霊によってやるイベントが前後したりしますが、それはそれで楽しんで頂ければ嬉しいです。




英雄 運命の詩(Apocrypha/Inheritance of Glory)
第10話 Dive Into Apocrypha


 第一特異点の修復が終わってから数日後。オメガモン達は『守護英霊召喚システム・フェイト』の前に立っている。

 マシュの宝具たる十字の大盾を触媒に用いて召喚サークルを設置し、特異点を修復して得た、セイントカードを使って召喚する。流れは前回と一緒だ。

 英霊のクラスの絵が描かれたカードを今回は何枚置いて召喚する。今回はセイバーが2枚、ランサーが2枚、ライダーが2枚、キャスターが2枚、バーサーカーが1枚、アサシンが2枚、ルーラーが1枚。合計15枚だ。

 

「何だろう……大体召喚される英霊が誰なのか薄々予測出来ている自分がいるよ」

 

「今回の召喚は一通り全てのクラスは揃うみたいだな……14騎の英霊か。カルデアも賑やかになって、私も忙しくなるな」

 

 立香は15枚のカードを1枚ずつ並べ、その上に聖晶石を乗せながら苦笑いを浮かべると、それにエミヤが頷きながら答える。

 英霊召喚システムとカルデアの電力が唸りを上げ、凄まじい魔力が集束しながら眩い輝きを放つ中、オメガモン達の目の前に15騎の英霊が姿を現した。今回も無事に英霊召喚は成功し、その光景に誰もが息を呑んだ。

 

「サーヴァント・ルーラー。ジャンヌ・ダルク。またお会いできて、本当に良かった!」

 

「ヴィヴ・ラ・フランス! お久し振り♪」

 

「やぁまた会ったね! 戦闘はともかく、キミの人生を飾る事だけは約束しよう!」

 

「あの時は敵だったから改めて名乗るよ。私はシュヴァリエ・デオン。フランス王家とキミとを守る――白百合の騎士」

 

「今度は味方としてここに参った。暫しの間、お邪魔するとしよう」

 

 1人目はルーラーのサーヴァント。旗を携えた、信心深く清廉で善良な少女。真名はジャンヌ・ダルク。一緒に戦った仲間と再会する事ができ、誰もが幸せになりそうな笑顔を浮かべている。

 2人目はライダーのサーヴァント。マリー・アントワネット。ダイヤモンドを象ったような大きな帽子を被り、天真爛漫な見た目の少女。

 カルデアに来た初めてのキャスター。彼の真名はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。黒服に身を包んだ音楽家であり、かの有名なモーツァルトその人だ。

 第一特異点では敵だった英霊もやって来た。ルイ十五世が設立した情報機関『スクレ・ドゥ・ロワ』のスパイ。羽帽子を被った可憐な男装の剣士、シュヴァリエ・デオン。

 闇に溶け込みそうなほどに黒い貴族服を着た王。ワラキア公国の王であり、当時最強の軍事力を誇っていたオスマン帝国の侵攻を幾たびも退けたヴラド三世。

 

「あら。過去の自分と一緒に召喚されるなんて、これも運命というやつかしら。サーヴァント、アサシン。カーミラと呼びなさい」

 

「サーヴァント、アサシン。シャルル=アンリ・サンソン。召喚に応じ、参上しました」

 

「約束を叶えてくれてありがとう、マスター。サーヴァント・ライダー。ただのマルタ。共に世界を救いましょう」

 

「セイバー、ジークフリート。召喚に応じ参上した。また共に戦う事が出来て嬉しい」

 

「ライダー、ゲオルギウス。召喚に応じ、推参しました。よろしくお願いします」

 

 茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。残忍で血を追い求めた彼女の生涯を表した彼女の真名はカーミラ。

 黒の外套を纏った青年の真名はシャルル=アンリ・サンソン。パリにおいて死刑執行を務めたサンソン家四代目の当主。

 露出度の高い修道服と、籠手が目を引く聖女のクラスはライダー。真名はマルタ。悪竜タラスクを鎮めた、一世紀の聖女。

 セイバーと名乗った英霊はジークフリート。灰色長髪の端整な顔立ちで、胸元と背中が大きく開いた鎧に身を包み、大剣を背にする長身の青年。『ニーベルンゲンの歌』に謳われる万夫不当の英雄。

 ライダーの真名はゲオルギウス。聖ゲオルギウス。聖ジョージとして名高き聖人。聖剣アスカロンを持ち、ドラゴンを退治した逸話が有名。一度だけ相手の攻撃を無効化するベイヤードという馬に騎乗する。

 

「アナタが新しいマネージャー? よろしく! 大切に育ててね♪」

 

「サーヴァント、清姫。またよろしくお願いしますね、マスター様」

 

「……コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです。よろしくお願いします」

 

「お招きに与り推参つかりました。不肖ジル=ド=レェ。これよりお側に侍らせていただきます」

 

 頭部には角が2本、お尻には先が割れた竜の尾のようなものがあり、フリフリの衣装に身を包んだ美少女。真名は美しい吸血鬼カーミラのモデルの一人であり、600人以上の娘の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした悪女。

 緑髪の幼い白拍子風の格好に竜の角が生えた少女。カルデアに来た最初のバーサーカー。「清姫伝説」に登場したヒロインこと清姫。真砂の長者、清次の娘として生を受ける。

 アホ毛が突き出た黒い帽子に短パン、青いジャージの上着と青いマフラーが特徴的な女性は謎のヒロインX。英霊の座とは異なる、原典という重力から解き放たれた宇宙的世界観の未来世界『サーヴァント界』から来た英霊。

 幾重にも重ねたローブと貴金属に身を包み、眼を広く剝いた異相をした長身の男性。ジル・ド・レェ。十五世紀の人物で、フランスのブルターニュ地方ナントに生まれた貴族にして軍人。

 

「合計15騎か……多いな」

 

「これからまだ増えると言う事を考えるとね……」

 

 合計15騎の英霊がサーヴァントとしてカルデアに召喚された。これで全てのクラスは出揃ったが、これから先も増える事を考えると、果たしてカルデアの施設で間に合うかどうか心配になって来た。

 その後は第一特異点修復の記念と、召喚された英霊達の歓迎会を兼ねた飲み会が行われた。エミヤとオメガモン、クー・フーリンとマルタ達が作った色々な美味しい料理が目の前に広がるが、食事の前にオメガモンから注意事項が伝達された。

 

「え~カルデアに来た以上、ここのルールには従ってもらおう。その内容はシンプル。英霊同士の殺し合いは何があろうが禁止だ。生まれた時代や国が違えば、性格や価値観の違いは当然あるだろう。喧嘩までは許そう。ただし訓練室でやってくれ。ここにいる間は我々は仲間だ。もしこのルールを破れば、それなりの処罰を下す。私自身もルールを破れば処罰を受ける故に、皆も気を付けて欲しい」

 

 オメガモンの注意事項が終わり、全員が食事を始めた。食堂に移動した後、エミヤ達が振舞った料理は予想以上に大好評だった。アルトリアだけでなく、ジャンヌもお代わりを要求する程に。

 その様子を少し離れた所で眺めながら酒を飲んでいるオメガモンの所に、同じく酒を飲んで上機嫌なクー・フーリンがやって来た。

 

「よぉ、オメガモン。お前は混ざらなくて良いのか?」

 

「今はカルデアの一員とは言えど、元々私は別世界から来たイレギュラー。しかもデジモンだ。あまり関わるのもどうかと思っただけだ」

 

「気持ちは分かるけどよ、何か勿体ねぇな。出しゃばらずに空気読むのもそりゃ大事だぜ? でもよ、騒げる時に騒ぐのも必要だと俺は思うんだがな……」

 

「貴殿の言う通りだ。そうさせてもらおう。そうだな……折角だから聞きたい事を聞こう。貴殿は聖杯戦争に参加した事があると言っていたな? 何か願いはあったのか?」

 

「俺か? そんなのねぇよ。ただ強い奴と戦いたいだけだ。お前さんはどうだ?」

 

「願いか……もう既に叶っているよ」

 

 クー・フーリンの問いに答えたオメガモン。彼は目の前で楽しそうにしている立香とマシュを見て、満足そうな表情を浮かべた。

 その様子を見たクー・フーリンは押し黙った。恐らくこれは自分には分からない何かがある。そう察して持っていた飲み物を一口飲む。

 

「私の願いは皆と共に過ごす事。泣いて笑って色んな事を経験し、ただ普通に過ごす。たったそれだけだった。それも今では叶わぬ夢となったがな……」

 

「叶わぬ夢……?」

 

「いや、私がオメガモンとなったあの日から普通に過ごしていた日常は終わり、非日常の中で生きる事となった。それは立香殿も同じだ……まぁ、いつか私の事は話すよ。まだ皆の事を知らないし、そこまでの信頼を築けていない。今の願いは残り全ての特異点を修復し、今回の黒幕を消去する事。ただそれだけだ」

 

 オメガモンの事を知っているアルトリア、エミヤ、ジャンヌは複雑そうな表情を浮かべていたが、ここで事態が少し進んだ。その日の夜に立香が夢でオメガモンの過去を見た。

 サーヴァントは夢を見る事はない。あくまで契約しているマスターの記憶を夢で見ることがあるだけだ。しかし、どういう訳か、テイマーたる立香がパートナーデジモンと共にオメガモンの過去を見てしまった。

 オメガモン、もとい八神一真。彼は何処にでもいるような青年だった。しかし、ある時ディアボロモンの襲撃に遭って瀕死の重傷を負った。その時にオメガモンとなり、ディアボロモンを倒した事で彼の戦いが始まった。

 そして戦いが進んでいくと共に、ある一つの場面で夢から覚めた。立香は一体オメガモンに何があったのかが気になり、確認する事を決めた。オメガモンは一体どのような過去を持ち、何の為にこれまで戦って来たのか。

 

ーーーーー

 

「あの……オメガモン、一つ聞きしたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「立香殿か……大丈夫だが急にどうした?」

 

「昨日夢で見たんだ……オメガモンの過去を」

 

 翌朝。オメガモンが食堂で朝食を美味しそうに食べ終え、少し休んでいると、立香から話を持ち掛けられた。

 夢で自分の過去を見た。その事実を聞いた途端、オメガモンの表情は固まると共に、静かに目が細まっていく。

 

「私の過去……か」

 

「マシュから聞いていたんだ。マスターとサーヴァントは夢を通じて記憶を共通する事があると。多分だけど、オメガモンと俺はパートナーとテイマーの関係だと思うんだ。恐らく似たような関係だから有り得たのかな……」

 

「成る程。そう言う事か。それなら仕方ないな。一つ聞くが、これは他の皆もか?」

 

「いや……俺だけみたいだ」

 

 オメガモンが周りを見渡すと、食堂にいる英霊達は食事をしたり、雑談に花を咲かせていた。どうやら殆どの英霊が知らないみたいだ。

 いつかは立香に話さなければならないと思っていたが、まさか早い段階で訪れる事になるとは全く考えていなかった。オメガモンは溜息を付くと、立香に自分の過去について話す事を決意した。

 オメガモンは元々人間だった。八神一真と言う名前の青年。ある日、ディアボロモンに襲われて瀕死の重傷を負い、オメガモンと一体化する事で甦った。ディアボロモンを倒した事で戦いが始まった。

 “電脳現象調査保安局”と言う組織に所属し、最初は“デジクオーツ”と呼ばれる異世界と人間界を往復する毎日を過ごした。そこに迷い込んだデジモン達は人間の心の闇や欲望を使って自らの力を増幅させ、人間界で様々な事件を起こして来た。その事件を解決する為、“デジクオーツ”で戦っていた。

 最終決戦で “デジクオーツ”を造り出した全ての黒幕―クオーツモンを倒した。全員の力とオメガモンの活躍によって。しかし、その時にオメガモンの特殊能力を使った代償として、一真の身体と精神が“デジモン化”してしまった。

 それから暫く経ったある日、『電脳世界(デジタルワールド)』の神様―イグドラシル。2つある人格の1つ、マキ・イグドラシルがデジモン達の殺戮を『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に命じた。人間界を崩壊させ、デジタルワールドと統合して新たなる世界を作り上げる計画―『NEOプロジェクト・アーク』の遂行を推し進める為に。

 人間界とデジタルワールドを守るべく、オメガモン達は戦った。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を悉く打ち破り、マキ・イグドラシルとの最終決戦を迎えた。

 その最終決戦で、マキ・イグドラシルが“千年邪神”と呼ばれているミレニアモンと一体化していた事が明らかになった。最終的にミレニアモンと戦って勝利し、ミレニアモンこと秋山千冬を説得した事で戦いは終わった。デジタルワールドに平和を取り戻すと共に、オメガモン達は再び人間界を救った。

 しかし、その代償は大きかった。一真の人格と精神が完全に消え失せ、八神一真は沢山の仲間達に見守られる中で息を引き取った。

 

「そっか……なぁ、オメガモン。君は過去を変えたいと思った事はない?」

 

「ないな。だがどうしてそんな質問を?」

 

「ないと言ってもさ……本当は普通に生きたかったと言っているような気がしてね……」

 

「確かに。私は人間のまま生き、人間のまま死にたかった。それは事実だ」

 

 オメガモンは正直に話した。本当はオメガモンになりたくなかった。戦いたくなかった。一般人として生き、一般人として死にたかった。それは事実。

 同じ人間を殺した事はない。デジモンも殺した経験もない。確かにデータに初期化した事はあった。それでも殺したも同然。白兜の中ではかなりの葛藤があり、己の必殺奥義はどうしても使わなければならない場面にしか使わないと決めた。

 剣を振るう。大砲を撃つ。それだけで大半の敵を倒し、大都市一つを壊滅させられる。そんな恐ろしい力をどうして振るう事が出来るのだろう。何も考えず使えるのは正気の沙汰だ。デジモンになった時点で、自分は人間ではなくなった。“人間の姿をしたデジモン”に落ちぶれてしまった。

 

「でもデジモンになった時点でそれは無理だった。私の道は一つしか無かった、戦う以外しか私には道が無かった。それでも幸せだった。沢山の仲間に恵まれたから。確かに人間だった頃の生活に戻りたいと言う思いは無いと言えば、それは嘘になるだろう。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの時笑顔で死んだ自分に、後の世界の事を皆に託した自分に嘘を付きたくない。だから過去を変えたいとは思わない。いや考えようとしなくなった」

 

 オメガモンも八神一真と言う人間だった頃の、普通の生活に戻れれば戻りたいと言っている。それでも過去を変えたいと思わないのは、死ぬ間際に後の世界を託した皆に、笑顔で死んでいった自分に正直でいたいと言う思いがあったから。

 この時、立香はオメガモンがデジモンではなく、八神一真と言う人間に見えた。この時にオメガモンが浮かべた笑顔が真実だった。

 

ーーーーー

 

 

 第一特異点を修復した後、第二特異点を観測するまでの間。立香とオメガモンは様々なサーヴァントと交流を深める中で、彼らが参加した聖杯戦争での経験談や苦労話を聞いたりして勉強していた。

 この日はジャンヌ・ジークフリート・ヴラド三世の3騎のサーヴァントから色々な話を聞いていたが、その中でジャンヌが『裁定者(ルーラー)』である事に疑問を抱き、彼女から『ルーラー』と言うクラスの事を聞く事になった。

 

「そうですね……『ルーラー』と言うクラスはどんな物かと言うと、簡単に言えば聖杯戦争の管理を行うクラスになります」

 

「と言う事は聖杯によって召喚されるのか……聖杯戦争の時になると必ず召喚される。そういう事なのか?」

 

「いえ、それは違います。通常の聖杯戦争で召喚される事は先ず有り得ません」

 

「? どういう時に召喚されるの?」

 

 マシュも一緒に話を聞いているが、主に英霊達の話を聞いて質問するのは立香とオメガモン。彼らは英霊や聖杯等の必要最低限の知識すらない状態。それを見かねたオルガマリーが頼み込んだのもある。

 

「大きく分けて2つの場合に召喚されます。一つ目は聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果がどうなるか分からない時。儀式の中枢の聖杯がルーラーを召喚しようと判断した時ですね」

 

「それが先程話していた『聖杯大戦』……か」

 

 『ルーラー』と言うクラスの説明を受ける前、オメガモンと立香は『聖杯大戦』の説明と過去にあったケースの話を聞いていた。

 14騎ものサーヴァントが2つの陣営に分かれてぶつかり合うという、大規模化した聖杯戦争。それが『聖杯大戦』。

 バトルロワイヤルな聖杯戦争とは違い、団体戦である事が特徴である為、普通の聖杯戦争では実力を発揮できないクラスのサーヴァントが活躍したりするのが醍醐味の1つ。サーヴァント同士の関係が大切になる事から、相性が良い者を組ませると遥かに格が上の敵でも打倒することが可能な事もある。支援に特化した者や集団戦闘で補正がかかるスキルを持つ者が真価を発揮する事だって大いに在り得る。

 しかし、チーム戦ではあるものの、聖杯を手にするのは一組と言う法則は変わらない。その為、片方の陣営が残ったら次は味方同士で戦わないといけなくなる。

 

「もう1つの場合は聖杯戦争の影響で、世界に歪みが出る可能性がある時。現在の聖杯戦争はマスターになった者達が英霊をサーヴァントとして使役し、戦う方式になっていますが、マスターになるのは大抵魔術師です。彼らは魔術の秘匿を第一に考えている為、世の中に混乱を招く事態を引き起こす事は滅多にありません。もしあったとしたら災害として処理されます」

 

「災害の一言で片づけて良いのかな……?」

 

「まぁ本来であればあってはいけませんが、そうせざるを得ない時もあります。聖杯は万能の願望機として機能するので、それが世界中に広がるのはあってはいけません」

 

「確かにな……何でも叶う魔法のランプが実在すると聞けばそれこそ、国家間での争いが起きる事が目に見えている」

 

「願いを叶える者が聖人君子ではなく、我欲の為であっても構いません。ただ問題なのは世界の崩壊を招く程の願いを抱いている者が聖杯戦争を利用し、己の願いを叶えようとする事です。その場合にルーラーは聖杯戦争によって世界の崩壊が理論的に成立すると見なされた時点で召喚され、聖杯戦争のシステムを守る役割を与えられます」

 

(まるでアルファモンみたいだな……)

 

 ジャンヌの説明を聞いたオメガモンは独り言ちながら、生前共に戦った盟友―アルファモンに思いを馳せた。

 アルファモン。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員であるが、彼ら自身を抑える役割を持つ存在。聖騎士でありながら、聖騎士への抑止力的な存在だと言われている。

 

「ところでルーラーのスキル……“対魔力”は分かるけど、“真名看破”と“神明裁決”って何? どういうスキル?」

 

「“真名看破”は直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・宝具……とにかく全ての情報を素早く把握出来る能力です。“神明裁決”は召喚された聖杯戦争に参加している全てのサーヴァントに2回まで令呪を行使できる能力です」

 

「流石に『裁定者』だけあって、スキルが豪華で実用的だな……」

 

 その後は特にする事も無かった為、立香は一旦昼寝を取る事にした。その隣でオメガモンも電池が切れたロボットのように眠りに付いたのは言うまでもないだろう。

 

ーーーーー

 

「オ、オメガモン~! 助けて~!」

 

「立香殿、私に掴まれ!」

 

「あ、ありがとう……オメガモン」

 

 立香とオメガモンは不思議な夢を見ていた。彼らは大海原に向けて真っ逆さまに墜落していると言う世にも奇妙としか言えない夢を。それでも高所から落ちている感覚、それこそバンジージャンプをしているようなリアリティーを感じている。

 オメガモンは2mくらいの身長を5m程に巨大化させる事で立香を自分の左肩に乗せると、体勢を直して大海原の上で佇む。その姿と風景の美しさに立香は息を呑んだ。

 

―――応じよ。我が呼び掛けに応じよ。

 

「この声は……」

 

「頭の中で響いている……」

 

「気が付いたな、カルデアのマスターよ。そして……人ならざる聖騎士よ。私がお前達を呼んだ者だ」

 

 オメガモンと立香の目の前に現れたのは邪竜。その名はファヴニール。かつて第一特異点で戦った敵だが、彼らの前に現れたファヴニールは何かが違う。

 かつて戦ったファヴニールからは殺気や敵意が感じられたが、目の前にいるファヴニールからはそれらが全く感じられない。これは一体どういう事なのか。不思議に思いながら、オメガモンと立香は目の前に現れたファヴニールを見る。

 

「今汝達がいる場所は夢だが、夢ではない。余が聖杯を使って汝達を夢と言う形で召喚した。今の汝達は精神体みたいな物だ。今はカルデアで昼寝をしている筈だ」

 

「と言う事は俺達の力が必要な案件なんだね?」

 

「その通りだ。今、この世界は危機に瀕している。汝達の力が必要だ。名乗るのが遅くなったが、我が名はファヴニール。かつて人類の奇跡を奪い去った邪竜だ」

 

『人類の奇跡を奪い去った……?』

 

 オメガモンと立香がファヴニールの言葉に違和感を覚え、その言葉の意味が分からずに顔を見合わせていると、ファヴニールは言葉を続ける。

 

「我々が今いる場所は“世界の裏側”だ。裏側と言うより、海の向こうと言うべきか……幻想の獣がいるような場所だと思ってもらえると良いだろう。そちらのいる世界は人の理によって成り立っている人間の世界だ。ここはそこから外れた世界だ」

 

(人間界とデジタルワールドみたいな感じか……意外と近い所があるな)

 

「分かりにくいとは思うが、人理と言う布が星全体を覆う事で貴方達の世界は成り立っている。だが、その布が世界を覆う前に幻想種と言う存在が退避してきた」

 

「だが今は人理焼却の一件でこちらの世界に幻想種が出てきている。ワイバーンや貴殿と同じファブニールを現時点で確認している。この世界が危機に瀕している理由は人理焼却の一件が関係しているのか?」

 

「違う。原因は俺が持ち込んできた大聖杯にある」

 

『何だと!?』

 

 目の前にいるファブニールが大聖杯を持ち込んだ。その事実に驚くオメガモンと立香は目を見開くのを見ながら、ファヴニールは更に話を続ける。

 

「そちらの世界で大聖杯がどうなったのかは知らない。だが、俺の時は大聖杯を世界の裏側に運ばざるを得なかった。表側にあると色々不都合な理由があったからな……ところがその大聖杯はとある宝具の余波を受けて半壊してしまった」

 

「それでこの世界に持ってきたんだ……でもそれがどうして世界の危機に?」

 

「正直に話そう。何もしていないのに壊れたんだ。記憶が曖昧でよく覚えていないが……問題は半壊した大聖杯の内側で、極小の規模だが“聖杯戦争が行われているらしい”。しかも一万を超える程の数が今まで行われている。最初は2騎だったのが途中から4騎、今では7騎が揃った」

 

「嘘だろう!? もう立派な聖杯戦争が行えるレベルじゃないか!」

 

「成る程……幾ら半壊したとは言っても、大聖杯の中にかなりの数の聖杯戦争を行える魔力が残っていたのか。問題なのは誰が何の為に行ったのかだが……」

 

 ファヴニールの説明に立香は驚き、オメガモンは目を細めながら真剣に考える。聖騎士の言葉に相槌を邪竜は打つ。

 

「聖騎士殿の推察通りだ。何者かが大聖杯にクラッキングを仕掛け、大聖杯を手に入れようと企んでいる。このままだと大聖杯は暴走し、世界が破滅してしまう。更に言えばこの大聖杯は預かり物で、俺や別の誰かが使う訳には行かない。大聖杯は大切に保管しなければならない。でないと世界が大変な事になってしまう……その上でお願いしたい。どうかこの世界を一緒に救って欲しい」

 

「やってみるよ。俺に何が出来るか分からないけど……」

 

「承知した。このオメガモン。貴殿の剣となり、銃となりて必ずやこの世界を救ってみせる」

 

「感謝する。それでは一緒に付いてきて欲しい。大聖杯の内部へと侵入する」

 

 ファヴニールの背中を追いかけるように、立香を乗せたオメガモンは飛翔を始める。その最中に立香とアイコンタクトを交わし、一緒にこの世界を救う事を誓い合った。

 

ーーーーー

 

「予想通りトゥリファスが再現されているな……それに“赤”のアサシンの空中庭園も」

 

「空中庭園……“赤”のアサシンの宝具? あれが?」

 

「どう見てもアサシンではなく、キャスターと言われないと納得出来ないが、何か事情があるのだろう。いずれ分かる話だ」

 

 大聖堂の内部に突入したファヴニール達。彼らが到着したのはトゥリファス。そこは『聖杯大戦』の舞台となった、ルーマニアにある小さな街。

 立香が自分達の真上にある空中庭園を見上げると、オメガモンは目を細めながら首を傾げる。アサシンではなく、キャスターの宝具と疑いたくなるのも無理もない。

 

「それにしてもここまで世界が正確に組み上がっていたとは……一体何が狙いなんだ?」

 

「う~ん……俺はよく分からないけど、過去にここであった聖杯戦争? なのかは知らないけど、何か強い願いを抱いて参加したマスターかサーヴァントが願いを叶えられず、どうしてもと思って……なのかな? そしたらどうして大聖杯の中で再現出来るようになったのかが説明出来けど……」

 

「そうだな……きっと召喚したサーヴァントと余程仲が良かったり、似た者同士だったのだろう。サーヴァントが大聖杯に魔力として吸収された際、それが大聖杯の内部に残ったと考えれば……あくまで仮定の話に過ぎないがな」

 

「今はここで議論しても仕方ない。下を見て欲しい。竜牙兵とゴーレムが湧いて出てきている」

 

 ファヴニールが真下を見ると、そこには敵の下級兵士と思われる竜牙兵とゴーレムが続々と出てきた。敵が来た事を察知して迎撃するつもりとしか思えない。

 

「この程度なら造作もない。焼き払おう」

 

「そうだな。私は少し離れよう」

 

 オメガモンが離れた事で彼らに余波が来ない事を確認したファヴニール。彼はブレスを吐いて竜牙兵とゴーレムを焼き払った。

 第一特異点では強敵として立ちはだかったファヴニールが今は味方となっている。頼もしいとしか言えないその姿に、オメガモンと立香は内心頼もしく思っていた。

 

「ッ! ファヴニール殿!」

 

「なっ!? サーヴァントか!」

 

「私から離れ……グアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 何処かから何者かが攻撃を放ってきた事を感知したオメガモン。彼はファヴニールを守る様に立ちはだかり、背中に羽織っているマントで攻撃を防ごうと試みる。

 マントで攻撃を防いだものの、完全には防ぎきれず、真っ逆さまに地上に向かって墜落を始めた。

 

「オメガモン!」

 

「ファヴニール殿……感謝する」

 

 地上に向けて墜落している途中で、ファヴニールが追いついた事に気付いたオメガモンは左手の乗せた立香をファヴニールに移動させるが、それが精一杯だった。そしてそのまま真下にある森の中に轟音と共に墜落した。

 

ーーーーー

 

「大丈夫かオメガモン?」

 

「オメガモン!」

 

「大丈夫だ立香殿……背中のマントで攻撃を防ごうとしたが、完全には防ぎきれなかった。あれは最上級の英霊の一撃だった……」

 

 墜落したオメガモンの隣に着地したファヴニール。その背中から降りた立香が駆け寄る中、オメガモンは地面に激突した際に発生した衝撃と激痛から立ち直りつつ、表情を歪ませて立ち上がる。

 

「先程の光は『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』……“赤”のランサー、カルナの宝具だ」

 

「カルナ!? あの英雄王と同等の英霊が参加していたの!?」

 

 オメガモンが喰らった一撃の名前は『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』。“赤”のランサーことカルナが持つ一度きりの最強宝具。

 それを聞いた立香は驚くのも無理もない。カルナは英雄王と同等の力を持った破格の大英雄であり、一説に寄ると、宝具とスキルの使用に制限を課した状態でなお最強クラスのサーヴァントと互角以上に渡り合う、桁外れの戦闘力を誇るとされている。

 それこそ万全状態ならばオメガモンと戦っても互角以上に渡り合い、下手をすれば勝利してしまう程の実力者。

 

「そのカルナと言う英霊はそこまで強いのか?」

 

「えっ? オメガモン……知らないの?」

 

「済まない……どうもデジモンに関わる以外の英霊には疎くてな……私は大丈夫だ。攻撃を喰らったが、空も飛べて戦える。多少ダメージを受けただけだ」

 

「今のはサーヴァントではなかった……サーヴァントが英霊に昇華された者を疑似的に再現した物と定義するならば、あれは不完全で何と言えば良いか……そうだ。ゾンビやメカに近い」

 

 オメガモン達に攻撃を仕掛けたのはサーヴァントであって、サーヴァントではない“何か”による物。戦闘能力こそはサーヴァントだが、感情や論理的思考が無い。それだけの違い。

 

「だが世界が小さくなったとは言っても、宝具を完全再現しているのは驚いたな……」

 

「ッ! 敵が来るぞ! ファヴニール殿、マスターを連れてここから離れろ!」

 

「オメガモン!?」

 

「私は殿を務める。君達が逃げる時間を作る。速く!」

 

 サーヴァントの反応を察知したオメガモンはファヴニールに立香を乗せて逃げるように促すと、ダメージを受けているオメガモンを見捨てられないと言わんばかりに、立香が心底心配そうな顔を浮かべながら聖騎士を見る。

 その表情を見て申し訳なく思いながらも、オメガモンはファヴニールにここから離れるように声を張り上げつつ、背中に羽織っているマントで敵が放つ宝具を苦しそうな表情を浮かべながら防ぐ。

 

「速く逃げろ! グアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「オメガモン!」

 

「まさか『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』まで再現されていたのか!」

 

「おや、どうやら賓客のようですね」

 

 しかし、それも限界が訪れた。半円状に拡散する黄昏の剣気までは完全に防き切る事が出来ず、攻撃を受けたオメガモンは吹き飛ばされると共に大木を十数本巻き込みながら、もんどりうって倒れて沈黙してしまう。

 悲痛な声を上げる立香を乗せたファヴニールが飛び立とうとしたその時、彼らの目の前に広大な森のような清冽な気配を持った青年が姿を現した。

 

「貴方は……」

 

「えっ? 知り合い?」

 

「管理者よ、共に行きましょう。マスター。貴方の名前を聞かせて下さい」

 

「立香。藤丸立香です」

 

「よろしいですか、立香。先ずはミレニア城塞へと向かいます。我が名はケイローン。指揮をお願いします」

 

 青年―ケイローンと共に森を離れたファヴニール達。途中で竜牙兵の集団と戦闘になったが、ファヴニールの前では敵ではなく、あっという間に蹴散らした。

 ケイローン。ゼウスの父クロノスと、島の女神ピリュラーとの間に生まれた彼は多くの大英雄達を育て上げ大成させてきた、ケンタウロス族の“大賢者”。

 あらゆる知識に精通し、その穏やかな性格と教え方の巧みさからギリシャにおいて彼に教えを受けた英雄は数知れない。有名な英雄はヘラクレス、アキレウス、イアソン、アスクレピオス、カストール等々。

 

「どうにか救出出来て良かったです……」

 

「ケイローン、オメガモンがまだ……」

 

「心配いりません。オメガモンと言う彼はライダーのサーヴァントが救出しています。今のうちに撤退を。夜が明ければ彼らは撤退します。正確に言えば消滅ですが」

 

「後はライダーがオメガモンを救出してくれるだけか……」

 

 ケイローンに案内される形でミレニア城塞に到着した立香達。彼らは朝が来るまでの間、束の間の休息を取る事にした。

 




LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。

・英霊の召喚

一応特異点の修復後、イベントの終了後にまとめて召喚する感じになります。
今回はかなり多めでしたが、時と場合によって多少ばらけます。

・オメガモンの願い

『仮面ライダー4号』に登場した仮面ライダー555こと乾巧みたいな感じですが、これはこの作品の終盤でも再登場する願いなので一応伏線(?)みたく張りました。
この作品では人間の魂が消滅してオメガモンになりましたが、様々な出来事を通じて人間らしさを取り戻していくお話にしていきたいです。

・アルファモン

今回の話で単語だけ出しましたが、第六章に敵として出す予定です。
第六章は色々な意味でクライマックスなので、出し惜しみなくやります。
アーラシュやハサン先生が個人的にお気に入りです。

・何故初イベントがアポクリファなのか?

今月誕生日を迎えた事と祖父の死を受けて、これからの人生だったり、夢の事を考えていた時にふと「イベントやるならアポにしよう」と思ったからです。
夢や願いの事に触れている印象が強いので……

・オメガモンの知識

 正直に言うと、オメガモンは英霊の知識はけっこう穴があります。デジモンに関係しているギリシャや北欧神話等は詳しいですが、インド神話は全然みたいな感じで……

以上になります。
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次回は第2節~第3節になるかと思います。敵デジモンは決めています。
それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!











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