Digimon/Grand Order 作:LAST ALLIANCE
先に言います。ボスのジャンヌ・オルタは竜の魔女。つまり竜系デジモンが出ます。
ちなみに究極体デジモン(オメガモンと釣り合わないから)です。
今回は第1節:百年戦争の地から、第3節:ジャンヌの謎の話が中心です。
では第1特異点でのオメガモン達の活躍をお楽しみ下さい。
第6話 2人の聖女
「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングの時間です」
「おはよう、マシュ。おかげ様でよく眠れたよ……ってこんな時間なのか!? 急ごう!」
「はい、急ぎましょう!」
第1特異点にレイシフトを行う当日。立香の自室。マシュが来た理由は立香を起こす為だ。彼女の服装はデミ・サーヴァントの者。紫色の鎧に身を包んでいる。
立香は4騎のサーヴァントが召喚されてからはトレーニングに打ち込んだり、ボードゲームやテレビゲームで交流を深めたり、サーヴァントのマスターとして仕事に励んだ。
疲れと第1特異点に向かう事への不安や昂りもあって、深い眠りに付いていた立香。ベッドの近くに置いてある時計を目にすると、既にブリーフィングが始まる時間になっていた。慌てて飛び起き、着替えを済ませてマシュと共に自室から出た。
「おはよう、立香君。よく眠れたかな?」
「はい、眠れました。遅くなってすみません!」
「いや気にする事はないよ。それじゃあブリーフィングを始めよう」
朝食を取ってから中央管制室に入る。マスターを出迎えたのはロマニ。他にいるのはオルガマリー、オメガモン、アルトリア、エミヤ、クー・フーリン、メドゥーサ。
早速始まったブリーフィング。オルガマリーの口から改めて説明されたのは、自分達がやらなければいけない事。先ずは特異点の調査と修正。その時代における人類史の決定的なターニングポイント。人類史における決定的な出来事。特異点に向かい、その正体を調査・解析して修正する。
次に聖杯の調査。特異点の発生には聖杯が関係していると推測されるが、聖杯は願いを叶える魔導器の一つ。膨大な魔力を持っているが、レフは何らかの形で入手し、悪用していると思われる。聖杯で無ければ時間旅行や歴史改変は出来ない。
特異点を調査する中で聖杯の情報を手に入れる。そして見つけて手に入れるか、最悪の場合は破壊する。それが聖杯に関する事案だ。
そしてもう1つは召喚サークルの作成。レイシフトして特異点に向かった後、霊脈を探し出す事だ。補給物資等を転送する場合、召喚サークルの存在が必要不可欠となる。マシュの宝具を使えば、触媒となって起動する。そうすれば自由にサーヴァントを召喚する事が出来るようになる。
「この場合は、その場所や時代に近しいサーヴァントになるけどね」
「出来れば早いうちに全クラスをマスターしたいわね。じゃあ今回のレイシフトに向かうメンバーを発表するわ」
オルガマリーが今回のレイシフトで向かうメンバーを発表する。マスターの立香、サーヴァントのマシュ、パートナーデジモンのオメガモン。彼らは基本メンバーだが、そこに今回は2騎のサーヴァントが加わる。
同行するのはアルトリアとエミヤ。アルトリアはレイシフト先で待ち受けるであろうシャドウサーヴァント戦の強力な戦力。エミヤも同様だが、前衛のアルトリアとは違い、後方支援担当であり、マスターの護衛も兼ねている。
「今回はオメガモン用のコフィンも用意してある。レイシフトは安全かつ迅速に出来る筈だ。特異点は7つ観測されたけど、今回は最も揺らぎが小さい時代を選んだ。向こうに到着したら、こちらからは連絡しか出来ない。先ずはベースキャンプを作る事。その時代に対応してからやれる事をやろう。健闘を祈るよ」
『アンサモンプログラムスタート。零子変換を開始します。レイシフト開始まで後3、2、1……』
いよいよ始まった第1特異点へのレイシフト。アルトリアとエミヤは霊体化し、立香、マシュ、オメガモンはコフィンの中にそれぞれ入ってレイシフトに備える。
コフィンの中に入った聖騎士が目を閉じると、身体がふわりと浮かびながら分解され、何処かに吹き飛ばされる感覚が走った。聖騎士にとって初めての経験だった。
オメガモンはクオーツモンの体内でデータ粒子に変わりながら、一度消滅されかけた経験持ち。このような経験には全くの抵抗がない。
『全行程完了(クリア)。グランドオーダー、実証を開始します』
(行くぞ……皆!)
コフィンの中に入っている立香、マシュ、オメガモンの姿が消失して第1特異点へとレイシフトしていった。
この世界でのオメガモンの戦いが本格的に始まる。人類の未来への挑戦も始まる。人理修復の長き旅が幕を開けた。そのスタート地点は1431年のフランス。
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「ここは……」
「……ふぅ。無事に転移出来ましたね」
「皆無事か?」
「あぁ。おかげ様で」
「大丈夫です」
オメガモンが目を開くと、そこには広大な青空と大地があった。その美しい景色に圧倒されながら、この場所に吹いている風や土の匂いを感じる。
どうやら無事に転移する事が出来たようだ。マシュの話によると、前回のレイシフトは事故による転移だった。今回はコフィンによる正常な転移だった為、身体状況も問題ない。
立香の呼びかけに応じたのはアルトリアとエミヤ。全員レイシフトに成功したが、この時代に来たのは彼らだけではなかった。
「フィーウ! フォーウ、フォーウ!」
「フォウさん!? また付いて来てしまったのですか!?」
「運命共同体だな……色んな意味で」
何時の間にかフォウもこの時代に来ていた。どうやらオメガモン、立香、マシュのコフィンのどれかに入り込んだのだろう。彼らのどれかに固定されている為、皆が帰還すれば、自然にフォウも帰還する事が出来る。
時間軸の座標を確認し、1431年のフランスに到着した事を実感したオメガモン達。現在は百年戦争が行われているが、この時期は戦争の休止期間となっている。
「……!? 皆、上を見るんだ!」
『ッ!?』
『よし、回線が繋がった! 画像は粗いけど、映像も通るようになった!』
「ドクター、ちょうど良い時に! 今から映像を送りますので解析を!」
オメガモン達が見上げているのは光の輪。衛星軌道上に展開された何らかの魔術式。眩く輝きながら、途轍もない熱量を放っている。途轍もないのは大きさもだ。北米大陸の大きさと同じくらいはある。
そんな時にロマニからの通信が届いた。正にナイスタイミング。狙っていたと言わんばかりだ。マシュはロマニに上空の光の帯の映像を送り、解析するように頼む。
『これは……! ロマニ、あの時代にそんな物があった記録は?』
『ありません。間違いなく未来消失の原因となる手掛かりになります。こちらで解析しましょう』
『立香達は現地の調査に専念して。先ずは霊脈を探して。話はそこからよ』
上空の光の輪はカルデアにいるロマニとオルガマリーに任せるとして、オメガモン達は早速動き出した。周囲の探索、この時代にいる人間との接触、召喚サークルの設置。あらなければいけない事は沢山ある。
先ずは周囲の探索から。ここがフランスの何処なのか。一体何があったのか。そういった事を調べる必要がある。どうしたものかと立香が考えていると、何かに気が付いたアーチャーが話し掛けて来た。
「マスター。この場所から少し移動した所に小さい砦がある。しかも戦いで傷付いている。何かあったのだろう」
「あぁ。そこに兵士と思われる人間の『
「分かった。先ずはその砦に行って、話を聞いてみよう。と言う訳でオメガモン……よろしくお願いします!」
立香が頭を下げてオメガモンに頼むと、オメガモンは全身に力を溜め込んで巨大化を始めた。初めて見るオメガモンの特殊能力。話に聞いていたが、直接見るのは初めてなアルトリアは口を開け、エミヤは苦笑いを浮かべる。
聖騎士が自分の身体に乗るように促すと、アルトリアは恐る恐るオメガモンの身体にしがみ付き、その場の雰囲気を和ませた。微笑みを浮かべたオメガモンはその場から飛び立ち、砦がある場所へと向かい始めた。
「凄いです……身体を大きく出来るだけでなく、空を飛べるなんて。初めての経験です」
「私の背中のマントは防御と飛行を両立させるアイテムなんだ。ところでエミヤ殿、君は凄いな……遠くを見渡せるとは。流石はアーチャーのサーヴァントと言った所か」
「何、それくらい貴方も出来るだろう。それに相手の気配を探知したり、相手の情報を解析するなんて反則も良い所だよ」
「そう言えばそうだな……英霊の真名を解析するのに役立てそうだ。ありがとう、エミヤ殿。1つ良い勉強になった」
エミヤの所有スキルの1つ。B+ランクの鷹の瞳。千里眼の亜種。視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上、遠方の標的捕捉に効果を発揮する。
今回は遠くを見渡して何処に何があるのかを確認する事に役立てた。オメガモンの能力の1つ、『電脳解析《デジタル・アナライズ》』と併用すれば、かなり有効となる。
徒歩だけでかなりの時間がかかる距離だったが、オメガモンのおかげで5分も経たない内に砦に到着した。オメガモンから降りたエミヤ達はお礼を言うと、身長を縮小したオメガモンは照れ臭そうに微笑んだ。
ーーーーーーーーーー
「砦に到着したのは良いけど……酷いなこれ」
「あぁ。砦としての機能を失っている。先の戦争でこうなったのか、或いは別の何かでこうなったのか……少し調べてみる必要があるな」
「確か戦争の休止期間なんだろう? 何があったのかな?」
立香の言葉に全員が頷いた。中身はボロボロ。外壁は何とか無事だが、砦と呼べる物ではない。雨風を凌ぐ事は出来るが、敵に攻め込まれたらどうしようもなさそうだ。
オメガモンが内部の反応を探知してみると、砦の中には人間がいる事が分かった。負傷兵ばかりだ。今は休戦中の筈なのに、一体何が起きているのか。
「おかしいですね……確か1431年にはフランスのシャルル7世がイギリスのフィリップ3世と休戦条約を結んだ筈なのに……」
「中にいる兵士から話を聞いてみよう。さて……この中でフランス語を話せる人はいますか!?」
フランス語を話せるのはエミヤとオメガモンのみ。オメガモンが行けば怪しまれる事間違いなしなので、代表してエミヤがフランスの兵士に話を聞く事となった。
戻って来た弓兵の話。それは兵士達は戦う気力がない程疲れている事、シャルル7世は魔女の炎に焼かれて死んだ事、ジャンヌ・ダルクが“竜の魔女”として復活した事、イギリスがフランスから撤退した事だった。
「ありがとう、エミヤさん。でも何でフランス語を話せるの?」
「生前にフランスに来た事があって、その時に覚えたのだよ……まさか英霊になっても役に立つとは思ってもみなかった。しかし驚いたな……救国の聖女が魔女になっていたとは」
エミヤが溜息を付くのも無理もない。ジャンヌ・ダルク。彼女は世界的に有名な英雄。百年戦争の後期、イギリスに征服されかけていたフランスを救う為に立ち上がった女性。
17歳の頃にフランスを救う為に立ち上がり、僅か1年でオルレアンを奪還する事に成功したのだが、イギリスに捕縛されて異端審問にかけられた後に火刑に処せられた。
1人の少女の思いが世界を変えた。彼女は最高級の英霊だが、一体何が起きたのか。思わず考え込む立香だが、そうはいかなかった。
「ッ! 敵の反応を確認! 立香君、指示を!」
「了解! アルトリアさんとマシュは前衛、エミヤさんとオメガモンは後衛で援護だ。間違えても誤射しないでね、特にオメガモン!」
「安心しろ。私の狙いは百発百中。如何なる敵も逃しはしない!」
「頼んだよ!」
オメガモンが探知した反応。それは少量の魔力による人体を用いた骸骨兵の集団。聖騎士の声にサーヴァント達は戦闘態勢を取り、目の前にいる敵兵と対峙する。
雑兵を蹴散らすように、斬り込み隊長の如く突進するアルトリア。彼女は両手に聖剣を握っているが、刀身は不可視となっている。Aランクの魔力放出のスキルを活かし、スケルトンの軍勢を薙ぎ払っていく。
マシュもアルトリアに負けじと、両手に握る身の丈もある十字形の盾を振るって骸骨兵の集団を撃破している。戦い方に慣れて来たのか、トレーニングのおかげなのか。動きに迷いが無く、次々と敵兵を蹴散らす。
彼女達を援護するのはオメガモンとエミヤ。エミヤはアーチャーらしく、弓矢を使って確実に骸骨兵を狙撃していく。
オメガモンはガルルキャノンを展開し、集団となっている個所を集中的に狙い、瞬く間に軍団を全滅させる。彼らのおかげで砦に押し寄せた敵兵は瞬く間に全滅した。
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「今度は違う敵の気配を探知!……大型で速い! あれはドラゴン!? この世界にいたのか!?」
『ギャオオオォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!!!』
「違います! あれはワイバーンです!」
骸骨兵を倒したのも束の間、オメガモンは更に砦に迫り来る敵の反応を探知した。大型で素早い相手。それはワイバーン。別名は飛竜。ドラゴンの亜種であり、最下級の竜種。ドラゴンから次々に生み出される。
15世紀のフランスに存在しない筈のワイバーン。押し寄せている飛竜と戦おうとオメガモン達が身構えたその時、1人の女性の声が砦に響き渡る。その女性は長い金髪を三つ編みに纏め、軽装の鎧を身に纏い、大きな旗を携えた1人の女性。
「そこの御方! どうか、武器を取って共に戦って下さい! 私と共に続いて下さい!」
「ワイバーン相手は人間には荷が重い……ここは私が務めよう。アルトリア殿、いけるか?」
「もちろんです。ところでオメガモン……ワイバーンのお肉は焼いたら美味しいと思いますか?」
「どうだろうな……私には分からない。それなら試してみるか?」
「えぇ。試してみましょう」
オメガモンは身体をワイバーンと同サイズに巨大化させ、左肩にアルトリアを乗せると、物凄く悪い笑みを浮かべながら彼女と話を始めた。
その笑顔は横から見ていた立香ですら若干怖がる程だった。あの笑顔は悪巧みを考えている。元々はアルトリアの発言が原因なのだが、それにオメガモンが悪乗りした事となる。
背中に羽織っているマントを翻し、その場から飛び立つオメガモン。アルトリアはワイバーンを見上げながら、聖騎士の左肩を足場にして跳び上がり、不可視の聖剣を振るって1体のワイバーンを斬り伏せる。
突然の奇襲を前に回避行動や迎撃を行う前に斬撃を喰らい、墜落を始めるワイバーンを足場に使い、アルトリアは次のワイバーンに襲い掛かる。ここでも魔力放出のスキルが大活躍している。後は倒した飛竜を足場に使って移動し、別の飛竜を倒してまた足場に使って移動する。その繰り返しだ。
青白い魔力と共に移動する騎士王。蝶のように舞い、蜂のように刺す。そのヒット&アウェイの戦い方を体現しているようだ。
―――まさか我が盟友、デュナスモンが宿す力となっている生物と戦うとはな……
目の前にいるワイバーンの軍勢と相対しているオメガモンは自分の盟友の事を想い、苦笑いを浮かべる。
飛竜の能力を持つデュナスモン。騎士道・武士道精神が強く、忠義や信義、礼儀を重んじる聖騎士。竜の様な強靭なパワーと、高純度のクロンデジゾイド製の竜鎧で無双の強さを誇る彼がいたらどうなるのか。それは気になるが今は戦いだ。気を引き締めていこう。
オメガモンはウォーグレイモンの頭部を象った左手の手甲からグレイソードを出現させ、ワイバーンの軍勢に向けて加速していく。
「ハァッ!!」
「凄い! やっぱすげぇよオメガモン!」
グレイソードを横薙ぎに振るってワイバーンの腹部を斬り裂く。聖剣を突き出して喉元を刺し穿つ。刺突で心臓を貫く。一撃必殺。最小限の動きを以て確実に飛竜を仕留めていき、気が付けば地上に墜落していくワイバーンが増えていった。
エミヤも矢を放ち、オメガモンとアルトリアをアシストする。彼らの見事な連携と高い実力に立香は感嘆の声を上げ、マシュも彼らに憧れると共に共に肩を並べられるようになりたいと決意を新たにする。
全てのワイバーンを倒して周囲一帯の敵の反応が無い事を確認すると、オメガモンはアルトリアを左肩に乗せて地上にゆっくりと着地した。
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『凄いよオメガモン! 空中戦と身体の大きい相手は君に任せれば怖い物知らずだね!』
「ありがとう、ロマニ殿。ところでそこにあるゴマ饅頭は?」
「それは私が用意したゴマ饅頭です」
「えっ!? 管制室にお茶と一緒に置いてあったからついうっかり……」
ワイバーンとの戦闘を終えた後、オメガモン達はロマニと通信を取っていた。ロマニが食べているゴマ饅頭。それはこの特異点から帰還した後、ささやかな労いとしてマシュが用意していた物だった。もちろん立香の為に用意していた物だ。
それを知ったオメガモンとエミヤの顔が青くなる。食べ物の恨みは怖い。彼らはそれを知っている。エミヤの場合はアルトリアが関係しているのだが。
「マスター。カルデアに帰ったら、今登録したエネミーに峰打ちを見舞わせます」
「止めてあげて!?」
「貴女は……いやお前は! に、逃げろ~! 魔女だ! 魔女が出たぞ~!」
オメガモンがガルルキャノンから絶対零度の冷気弾を撃ち出し、ワイバーンの死骸を冷凍保存していると、兵士達は自分達を鼓舞した少女を魔女呼ばりし始める。
そして魔女と呼んだ少女から逃げて行った。その様子を見て悲しそうな表情を浮かべる少女と、遣る瀬無い表情を浮かべているオメガモン達がその場に残った。
「失礼する。貴女のお名前は?」
「サーヴァント・ルーラー。真名はジャンヌ・ダルクです」
『ジャンヌ・ダルク!?』
「詳しい話は後にしましょう。先ずはこちらに来て下さい」
少女の名前はジャンヌ・ダルク。“竜の魔女”として復活した聖女がどうしてここにいるのか。誰もが驚く中、ジャンヌはオメガモン達を何処かに案内した。
そこは砦から少し離れた森の中。オメガモン達が簡単に自己紹介を済ませ、自分達がこの世界に来た目的を話すと、ジャンヌも自分の事を話し始めた。
どういう訳か本来与えられるべき聖杯戦争に関する知識が無く、ステータスもランクダウンしている。それに加えて、ルーラーのクラススキルの“真名看破”や、対サーヴァント用の令呪を使う事も出来ない。イレギュラーな召喚に、ジャンヌは驚きながら戸惑っている。
「そうなんですか……この世界で一体何があったんですか?」
「私も数時間前に現界したので詳しい話は分かりませんが……」
マシュの質問に答えるように、ジャンヌは話を再開させる。現在分かっているのは、この世界にもう1人の自分、もといジャンヌ・ダルクがいる事。そのジャンヌがフランス国王のシャルル7世を抹殺し、オルレアンで虐殺を行った事。
同じ時代に同じ真名のサーヴァントが2体召喚された。これはイレギュラーとしか言えない。聖杯戦争の記録を調べれば、同時召喚の事例はあるかもしれない。
シャルル7世はこの世界はおらず、オルレアンはもう1人のジャンヌ・ダルクに占拠された。これはつまり、フランスと言う国家が崩壊した事を意味する。
歴史ではフランスは人間の自由や平等を謳った最初の国であり、この在り方が確立する事が少しでも遅れれば、文明の停滞に繋がる。もしそうなっていたら、この世界も今頃は中世と同じような生活をしていたかもしれない。
「そういう事だったのか……」
「私はサーヴァントとして万全ではなく、正直自分を信じられないでいます。オルレアンを占拠したもう1人のジャンヌ・ダルクにワイバーン……あの竜達を操っているのはもう1人の私なのでしょう。どうやって操っているのかは分かりません。生前の私はそんな事思いつきもしませんでしたし、何より出来ませんでした……」
「あのワイバーンはこの時代にいる筈がありません。竜を召喚するのは最上級の魔術。ましてやこれだけの数になると……」
(恐らくあのワイバーンを召喚し、使役しているのはもう1人のジャンヌになる。そして彼女は聖杯を持っている……と言う事は間違いなくサーヴァントを召喚している筈だ)
ジャンヌの話にアルトリアが相槌を打っている隣で、オメガモンは内心で考えている。彼はワイバーンを召喚したのがもう1人のジャンヌで、彼女が聖杯を持っていると考えた。
竜を召喚するのは最上級の魔術。現代の魔術師では不可能であり、この時代の魔術レベルでも難しいと思われる。それが出来るのは神代の魔術師か、聖杯のようなアイテムを持っている人物だけだ。
そう考えると、もう1人のジャンヌが聖杯を使ってワイバーンを召喚し、使役している考えに辿り着く。その考えには筋が通る。
そして聖杯を持っているとしたら、間違いなくサーヴァントを召喚している筈だ。それくらいの事はしていてもおかしくはない。
「私の目的はオルレアンに向かい、都市を奪還する。その為にもう1人のジャンヌ・ダルクを排除する事です。主からの啓示はなく、その手段は見えません。しかし、ここで目を背ける事は私には出来ません」
「俺達が知っている貴女だ……例え手段は見えなくても、仲間ならここにいます。俺達と貴女の目的は一致しています。俺達は貴女に協力したい。貴女が掲げた旗の下で共に戦いたい。お願い出来ますか?」
「はい! こちらこそお願いしたいです! どれ程感謝しても足りない程です。ありがとうございます、立香。私は1人で戦う物だとばかり思っていました。でも例え相手が魔女と呼ばれている私であっても、こんな頼もしい方々がいるのなら恐れる事はありません」
立香とジャンヌが握手を交わした事で、彼らは協力関係を結ぶ事が出来た。どうやらジャンヌが火刑に処されてからまだ時間が経っていないようだ。今はもう1人のジャンヌ・ダルクを見定め、彼女を倒せば良い。
暫くは斥候に徹する事を決めたのは理由がある。目的はシンプルだが、達成するのが困難だからだ。まだまだ此処は見知らぬ土地であり、何より拠点がない。今は何より情報を集め、下準備を行う時だ。準備に徹するしかない。
それからもう1人のジャンヌ・ダルク、もとい“竜の魔女”がどんなサーヴァントなのかを調べなければならない。そして戦力の充実。協力者・案内人が欲しい。
「ジャンヌ。私達の他にサーヴァントの反応はありましたか?」
「……申し訳ありません。ルーラーが持っているサーヴァントの探知機能も今の私には使う事が出来ません。通常のサーヴァントみたいに、ある程度の距離にならないと、知覚する事が出来ません」
「そうですか……でも大丈夫です。私達には全自動万能探知機がいるので!」
「それに飛行による移動も可能だ! 私達を乗せてくれるぞ!」
「しかも神霊だから余程の事がない限りは大丈夫だ!」
「皆、頼むから私を物扱いしないでくれ……」
本来、ルーラーのサーヴァントは10キロ四方に及ぶサーヴァントに対する知覚能力を持っている。しかし、今のジャンヌはそれを失っている。
それでも立香達はそれをカバーする能力の持ち主がいる。アルトリアとエミヤと立香がオメガモンの両肩をバシバシ叩くと、オメガモンは悲しげな声を出した。
「フフッ、賑やかな方々ですね。では明日の早朝に出発しましょう。立香さんは人間なので、眠った方が……」
「そうだな……ならば今の内に夕食を食べよう」
「オメガモン……まさか君は」
「あぁ、持って来たぞ? 先程倒したワイバーンを」
―――このワイバーンを料理し、最高に美味しい料理を一緒に作ろう。
オメガモンが持って来たのは先程倒したワイバーンの死骸。それを冷凍保存した物。左手から橙色に輝く灼熱の火炎を発し、1体ずつ解答すると、エミヤに視線を向ける
その視線に呆れながらも笑みを浮かべ、エミヤはオメガモンと共にワイバーンのお肉を使った料理を作り始める。とは言っても本当に簡単な丸焼きなのだが。
「良し。作るぞ。ワイバーンの焼き肉!」
「オメガモン、凄い張り切っているな……」
「あぁ。まさかこういう一面があるとは思ってもみなかったな……」
まさかこのオメガモンが意外にも料理上手とは誰も思わないだろう。彼らとは対照的に、アルトリアとジャンヌは目をキラキラ輝かせている。
手順は簡単。オメガモンがグレイソードでワイバーンを次々と一刀両断していく。これで食べやすい大きさにカットされた。後はエミヤが塩と胡椒で味付けをし、串に刺して焚き火で焼く。これで完成となる。
「おっ、思っていたよりイケる!」
「美味しいです……!」
「こういう時、白飯と焼き肉のタレが欲しくなるな……」
「そう思うよなぁ、立香君。実は持って来てたんだな~!」
「オメガモン、グッジョブ!」
オメガモンが何処からか取り出したのは炊飯器と焼き肉のたれ。しゃもじとご飯茶碗も用意しており、全員の分を盛ってから再び食べ始める。
予想外にワイバーンの焼き肉が美味しく、しかもご飯に合っていた。それでいて数日分の食料を賄う事が出来た。発案者のアルトリアはエミヤに褒められ、赤面したのは言うまでもない。その様子を誰もが優しく見守っていた。
その美味しさにアルトリアは白飯をお代わりしたのだが、ジャンヌも同様にお代わりを要求した。これにはオメガモンのみならず、エミヤですら驚いた。
実はジャンヌも大食い属性持ち。食欲の塊のような野卑な兵士達に引けを取らなかった程の健啖家。2人の大食い属性持ちによってあっという間に白飯が無くなり、2人から文句を言われたのはご愛嬌。
この日は森の中で野宿をする事になった。オメガモンとアルトリアとエミヤの3人が見張りを担当し、立香とマシュは明日に備えて深い眠りに付いた。ジャンヌもステータスのランクダウンに伴い、早めに休むように促された。
「オメガモンさん……何か考え事をしていますね?」
「あぁ。貴女の方こそまだ眠っていなかったのか……明日の出発は早いのだろう? 私の事は大丈夫だから早く眠るんだ。」
「マシュさんから聞きました。貴方がここではない別の世界から来たデジモンと言う種族で、人類とデジモンの世界と未来を守る為に戦ったと……そして元人間で、戦いの果てに命を失ったと」
「そうか……私の事を聞いたのか。私は大した存在ではないよ。この世界の事も、サーヴァントの事も、何もかもが分からない。新鮮で未知の体験だ。今はこの状況に慣れるよう、頑張っている所なんだ」
「それは私もです、オメガモンさん」
ジャンヌは内心に秘めた苦悩を話し始める。自分の召喚が不完全だからか、それとも、本来の自分が数日前に亡くなったばかりなのか。今はサーヴァントの新人の感覚を感じているとの事。英霊の座には過去や未来は存在しないのに。
今の自分ではその記録に触れる事は出来ない。だからサーヴァントとして振る舞う事が難しい。まるで生前の初陣のような気分を感じる。救国の聖女としての自分を期待されても、応えられるかどうか分からない。
「……そうか。実は私のテイマーの立香君と、彼のサーヴァントのマシュさんも同じなんだ。彼らも今回が初陣みたいな物だ。立香君は一般人のマスター。マシュさんはデミ・サーヴァント。人間と英霊が融合した存在。英霊の力を完全に発揮できる訳でもないが、そんな彼女を立香君は信頼している。きっと“強いから”戦っているのではなく、出来る事をやろうとしているだけだと思っている。だから私は彼らの助けになりたいと願っている。それは貴女も同じだ。私の力が誰かの助けになれるのなら、聖騎士として本望だよ」
「ありがとうございます。貴方に話したからか、少し気が楽になりました」
「どういたしまして。ジャンヌ殿。一つ貴女に聞きたい事がある。貴女は自分が歩んだ人生を後悔した事はあるのか?」
オメガモンの問いは彼の心が如実に出ていた。理解出来ない。分からない。何故ジャンヌ・ダルクが英霊になれたのか。確かに生前の功績だけを見ればなる事は出来る。しかし、報われない人生を送って来た為、怨霊や悪霊になってもおかしくない。
事実、ここではない別の世界では怨霊や悪霊となったジャンヌ・ダルクもいる。真っ当な人間ならば、世を憎み、人々を恨み、世界を憎悪してもおかしくない。
「私は貴女の最後を知っている。信じていた物に裏切られ、全てを失い、非業の最期を遂げた事も……だからこそ貴女に聞きたかった」
「貴方を含めた皆、誰もが私の最期を無念と言います。復讐を望んでいると、救いを望んでいると誰もが考えています。ですが、私が駆け抜けた生涯には、私だけが知る事が出来る満足があります。誰にも共感を得られる物ではありませんが、少なくとも私は己の人生に一片の後悔を抱いていません。だって、私が歩んだ道は間違いじゃなかったですから」
「そうか……そうなのか……そうだな」
ジャンヌの嘘偽りのない答え。オメガモンはそれを聞いて唖然となった。目の前にいる少女は同じ人間なのか。同じ人間だったのか。信じられない。有り得ない。これだけの事をされたにも関わらず、何も恨んでいない。復讐を望まない。
背筋が寒くなるのを感じていると、今度はジャンヌがオメガモンに質問して来た。その質問に答えようとすると、オメガモンはエミヤとアルトリアを呼んだ。
「そういうオメガモンさんこそ、どうして今まで戦えたんですか? 国どころか、世界規模の話。全ての人類とデジモンを守る為、世界を守る為に戦うなんて……私には想像が出来ません。ましてや、自分が死ぬ事を分かっていながらも……どうして戦えたんですか?」
「私は貴女のような強い心はない。ちょうど良い。エミヤ殿、アルトリア殿。ちょっと来て欲しい。私の前世を話したいから」
オメガモンは3騎のサーヴァントに自分の真の姿を話し始める。かつて自分は八神一真と言う名前の一般人だった事。平和な生活を送って来た時、ディアボロモンの襲撃に遭って一度命を落とした事。オメガモンと一体化して復活した事。
デジモンとの戦いを経る内にオメガモンの力が増大し、それに伴って完全なデジモンとなった事。特殊能力を使用した結果、肉体が死亡し、精神が焼き切れて魂が消滅した。ホメオスタシスによって、オメガモンとなってこの世界に転生した。
今の自分はオメガモンだが、一般人だった特異な存在。だから自分は在り続けなければならない。立香とエミヤが憧れ、期待を寄せるオメガモンとして。その為に人間らしさを隠していたが、アルトリアとのやり取りでうっかりボロが出てしまった。
「私は全てを失った。人間としての人生や日常、帰る場所等の大切な物を。その代わりに得た物は本当に欲しかった物ではなかった。だから私は戦う。立香君やマシュさんの為に。かつて失った物を守る為に、これ以上誰かの大切な物を失わせない為に……失望しただろう? 聖騎士だの、デジモンだの、神霊だの言っていた存在が実は一般人で、この世界での戦いが初陣だったと……笑えないよな? いやいっそ笑い飛ばしてくれ……偽物のオメガモンを。紛い物の私を」
「いえ、私は貴方の事を笑いません。貴方は勇気を持って私達に自分の事を打ち明けた。貴方を偽物とは思いません。貴方のおかげで救われた人間やデジモン、世界や未来があるのですから……貴方は間違いなく本物のオメガモンです。私はそう思います」
「私も失望していない。むしろ自分から話してくれて嬉しかった。貴方も俺と同じだったから……」
「同じ? どういう事だ?」
今度はエミヤが自分の過去を話し始める。彼の本名は衛宮士郎。第4次聖杯戦争の終盤で発生した冬木大災害で天涯孤独となり、自分を救ってくれた衛宮切嗣の養子となる。
切嗣の“正義の味方”になると言う理想を受け継ぎ、第5次聖杯戦争に巻き込まれた彼は、セイバーことアルトリア・ペンドラゴンを召喚して第5次聖杯戦争の勝者となった。
その後世界の危機を救って遂には英雄と呼ばれたが、自分の行為に対して何の見返りも求めない姿勢が人々の恐怖を買い、裏切られ続ける日々の末に、自分が助けた筈の人物に罪を被せられた後に処刑された。
理想を追い続けたその生涯は最後まで報われることなく、多くのものに裏切られてきたが、誰一人恨むことはなかった。死後は英霊の力で更に多くの人を救う事を望んだが、それは自分の望んだ役割ではなかった。
信念も遂に磨耗し、かつての理想に絶望した彼に訪れた救い。それはかつて経験した第5次聖杯戦争に召喚された事。そこで自分が抱いていた理想は間違っていなかったと言う答えを得て、英霊の座に戻っていった。
「オメガモン。貴方の話を聞いて安心したのは、正体を知れた事よりも、俺と同じだったと言う事が分かったからだ。これから共に歩んでいける。俺が憧れていた聖騎士は、俺と同じような過去を持った仲間だった。そう思えたから、俺は貴方と盟友になれる。そう確信できた」
「ありがとう。だからか……アルトリア殿と仲が良いと思ったらそういう事だったのか……」
「あぁ。ちなみに昔から大食いだったのだよ……おかげで食費が……」
「分かる! あれだけの食べっぷりを見れば苦労していたと分かる! そりゃエンゲル係数も凄い事になるよ!」
「分かってくれたか同志よ!」
「私は大食いではありません!」
お互いの過去話をした事で、仲良くなったオメガモンとエミヤ。友情の証として握手を交わした2人の漢。カルデアに戻ったらランサーを加え、何かしらのグループを作るつもりでいる。
その様子を優しく見守るアルトリアとジャンヌ。今までオメガモンが一歩引いていたから中々話しにくかったが、彼の正体を知る事が出来た為、ようやく本当の意味で分かり合う事が出来た。そう思えたからだ。
その後にジャンヌは眠り、オメガモンもエミヤに促されて眠った。時には皆を乗せる移動手段、時には勇ましく戦う聖騎士として八面六臂の活躍を見せるオメガモン。
この世界に来れて本当に良かった、新しい友達や仲間に出会えて良かったと思いながら、目を閉じて深い眠りに付いた。その寝顔を優しく見守るエミヤとアルトリア。彼らの事を満天の夜空が見守っていた。
LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。
・オメガモンと相性の良いサーヴァント
基本誰とでも仲良く出来ますが、好み(男性として)なのはジャンヌさん、剣式さん、ランサーアルトリアさんです。本人から聞きました。
・ワイバーンのお肉
大食い属性のアルトリアさんとジャンヌさんがいる為、ついやらかしました(汗)
オメガモンが弾けました。彼はハジケリストでもあります。
・聖騎士と英霊のやり取り
今回の小説では、オメガモンと英霊が色々な事を話して信頼関係を構築していく事に焦点を当てています。ここから先もこういう場面が出ます。
・演じ続けなければならない苦悩
オメガモンの悩み。それは皆が期待し、求め続ける偶像であり続ける事。
それを演じ続けられるかどうか。これから先も出て来る問題です。
でも仲間がいる限り、彼の悩みは大丈夫でしょう。
以上になります。
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それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!
次回予告
オルレアン奪還とジャンヌ・オルタ打倒に向けて動き出したオメガモン達。
彼らはジャンヌ・オルタと相対した。
その時現れた謎の王妃とは!?
第7話 百合の王妃