Digimon/Grand Order 作:LAST ALLIANCE
そう言えば『デジモンアドベンチャー tri』の予告でオメガモンの新形態が出るらしいですが、設定と詳細が分かり次第、この小説でも出していきたいと思います。
来月からFGOの第2部が本格的に始まりますが、書ければ書きます。
うっすらと朝の日差しが木々の間から差し込んでいた頃、オメガモン達は目を覚まして朝食を食べ始める。カルデアから送られて来た食料を使ってオメガモンとエミヤが料理を作り、一日のエネルギーを補給した。
先ずはこの森を抜けてオルレアンに向かう。直接乗り込むのは無謀だから、周辺の街や砦から情報を仕入れ、戦力を整えてオルレアンに突入する。方針が決まると、オメガモンは巨大化して立香達を乗せて移動を始める。
低空飛行ではあるものの、その速さは尋常ではない。立香に気を遣って普段より遅くしている。それにも関わらず、徒歩や馬車よりも早い。未知の体験にジャンヌが目をキラキラと輝かせる中、あっという間に近くの街―ラ・シャリテに到着した。
「ここで何かしらの情報が得られなかった場合、更にオルレアンに近付かなければなりません。なるべくそうならないように願いたいです」
「そうですね……今の私達で彼らに打ち勝てるかどうかが分からない以上、攻め込む訳には行きませんし」
「でも正直焦っています。もう1人の私はどう考えても正気ではありません。そんな怪物が人を支配して何をするのか……」
ラ・シャリテで情報収集を行うのはジャンヌ、アルトリア、エミヤ、マシュ。オメガモンは立香の護衛役。見た目で現地の人々と関わって問題を起こしたくない。本人も仕方ないと割り切って周囲の風景を眺めた。
青い空に白い雲。広大な青空はいつ見ても心地良い物だ。踏み締める大地の感触もとても良い。自分の足で立ち、自分の目で眺める景色は最高だ。人間の時は都会暮らしだった為、このような景色はあまり見る事がなかった。何処か新鮮に思える。
優しく笑っている風も、鼻に届く匂いも、背後から聞こえる街の賑やかさも全て真新しく思えるのは、余程都会暮らしが馴染んでいたからなのか。
「ッ! 此方に近付いて来る巨大な反応を探知! 速度から推測すると、これはワイバーンに乗っている! サーヴァントが5騎来るぞ!」
「何だって!? 皆、情報収集は一時中断! 戦闘態勢に入ろう!」
オメガモンが立香に報告したと同時に、敵が姿を見せた。青空を覆い尽くす無数のワイバーンの軍勢。砦で戦った数とは比べ物にならない。
立香の指示を聞いたアルトリア、エミヤ、ジャンヌ、マシュの4騎のサーヴァント。彼らが集結して空を見上げていると、その先頭の飛竜の上に5騎のサーヴァントが乗っている事に気が付いた。
「これで分かった。敵は聖杯を持っている」
「聖杯を?」
「昨日ジャンヌ殿から聞いた話で予測はしていた。竜を召喚するのは最上級の魔術と。あれだけの数のワイバーンを召喚し、使役出来るのはかなり難しい。それにサーヴァントを召喚していたとなると……やっぱり聖杯を持っていたのか」
「5騎のサーヴァントにワイバーンか……Dr.ロマン。念の為にマイルームに待機しているランサーを呼んで下さい。相手のクラスが分からない以上、前衛で戦えるサーヴァントは多い方が良いので。いざという時に召喚します」
『了解! だいぶマスターっぽくなったね』
「はい。これでも勉強やトレーニングに励みましたから!」
町の広場に降り立った5騎の敵サーヴァント達。上空には無数のワイバーンがいる。サーヴァントの数なら1騎足りないこちらが不利だが、オメガモンがいるから戦力差を埋める事は出来る。
ロマニと通信を行ってクー・フーリンを召喚出来るように準備を行うと、5騎の敵サーヴァントを見る。立香はこの特異点に来るまでの間、とにかく勉強とトレーニングに励んでいた。勉強家な一面が見えた。
相対する2人の聖女。片方は善で、もう片方は悪。何事にも負けない光を持つ白い聖女と、絶対に消えない憎悪を抱く黒い聖女。まるで鏡移しのようだが、所々違う所がある。白い聖女が持つのは神を戦える旗で、黒い聖女が携えているのは竜が描かれた旗。
「何て事なの。まさか、まさかこんな事が起きるなんて……フフッ。アハハハハハハハッ!!!!!」
「あれがもう1人のジャンヌ・ダルク……!」
「それに4騎のサーヴァントを従えている……!」
もう1人のジャンヌ・ダルク。彼女は“竜の魔女”として蘇り、復讐の念に染まった黒い聖女。反転したジャンヌ。ジャンヌ・オルタ。
彼女の周りには4騎のサーヴァントがいる。クラスや真名は分からないものの、一目見ただけで分かる。強力な相手であり、一筋縄では行かないと。
「ねぇ、お願い! 誰か私の頭に水をかけて! まずいの! ヤバいの! 本気でおかしくなりそうなの! だってそれぐらいしないと、あまりに滑稽で笑い死んでしまいそう!」
「おかしいのはお前の方だ、黒ジャンヌ。いやジャンヌ・オルタ。何故この街を襲おうとした? いやこの街だけじゃない……この国その物を。お前がジャンヌ・ダルクと言うなら、どうして今まで守って来た物を破壊しているんだ?」
「何ですか、そこの聖騎士。……あぁ、ジルが一番警戒しろと言っていた奴ね。良いでしょう。その答えは簡単。フランスを滅ぼす為ですよ。全ての悪しき種を根本から刈り取る為に」
「何だと?」
ジャンヌ・オルタはオメガモンの事を一番警戒していると言いながらも、質問にはきちんと答える。反転しているものの、オリジナルの真面目かつ律儀な部分は残っているようだ。
フランスを救う価値がないから破壊する。自分を騙し、裏切った人々を救っても意味はない。主の声も聞こえないという事は、この国に愛想をつかしたという事。
それに対し、オメガモンは反論する。関係のない、何の罪もない人々を巻き込んで良い理由にはないと。騙され、裏切られる痛みや苦しみは分かるが、だからと言ってやって良い事と悪い事はある。
「だからと言って……何も関係ない人々を消す必要はないじゃないか! 彼らが何をした! 何も関係ない人々を己の復讐の為に巻き込むな!」
「いえ、その必要はあります。人類が存続する限り、私の憎悪は収まらない。このフランスは沈黙する死者の国にする。それが私の救済方法です」
「そんな物は救済じゃない! 自分以外に誰もいない、かつて守ろうとした人々もいない、あるのは血と死体しかない……そんな世界にする事が救済と言えるのか!?」
オメガモンこと八神一真。彼が最後に戦った相手はミレニアモン。彼女はデジモンに対して外道な事や、非人道的な事をし続けた人類に絶望し、自らが邪神となった。
そして、人類とデジモンが本当に共存できる世界を築き上げようとした。手段は間違えていたが、理想は正しかった。
しかし、ジャンヌ・オルタの場合は違う。彼女の言う救済はただの復讐。自分を裏切り、見捨てたフランスを滅ぼす事。それが聖騎士にとって我慢出来なかった。
「私はフランスに復讐出来れば、それで良い。何も知らない奴が口出しをするな! ワイバーン達よ、あの聖騎士を喰らい尽くせ!」
『ギャアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!』
「喰らい尽くされるのはお前達の方だ!」
ジャンヌ・オルタが旗を掲げてワイバーンに指示を下すと、空中で待機していたワイバーン達が一斉にオメガモンに襲い掛かる。
迎え撃つ聖騎士の瞳が輝くと同時に、オメガモンの姿が一瞬消失した。そう誰もが思った次の瞬間、ワイバーン達が全員地上に墜落した。
『ッ!?』
「な、何……!? 何なの……!?」
何が起きたのか分からず、困惑している全員の目の前でオメガモンが地上に降り立つ。その円らな空色の瞳が告げる。街に住んでいる人々には手を出させはしない。フランスを滅ぼさせたりはしない。何故なら彼らは人間であり、守りたいと願う日常があるからだ。
攻撃を繰り出す前に全て狩り尽くされた。他でもない聖騎士の手に寄って。血や肉が飛び散らず、何が起こったのか分からないまま、飛竜の軍勢は全滅した。
―――まさかあの一瞬で全てのワイバーンを仕留めたのか!? やっぱすげぇよ、オメガモン……
立香は気付いた。オメガモンが一瞬の間に全てのワイバーンを仕留めていた事に。そうでないと説明が出来ないからだ。
オメガモンは自分が撃ち出した砲撃より速く動く事が出来る為、無数の砲撃をあらゆる場所から撃ち込んだとしても、それが一瞬だったと言う出鱈目としか言えない身体能力を持っている。
「クッ……! ならばあの聖女から先に潰してしまいましょう。バーサーク・ランサー! バーサーク・アサシン!」
オメガモンの実力の一端を見せ付けられた事で、ジャンヌ・オルタはオメガモンよりも先にジャンヌを倒す事を決めた。あの聖騎士を倒すのは別の相手でなければならない。そう考えたのだろう。
ジャンヌ・オルタの命令を聞いて前に進み出たのは2騎のサーヴァント。バーサーク・ランサーと、バーサーク・アサシン。
バーサーク・ランサーは闇に溶け込みそうなほどに黒い貴族服を着た王で、バーサーク・アサシンは茨を思わせるドレスを纏い、仮面をつけた淑女。
「よろしい。では血を戴くとしよう」
「いけませんわランサー。私は彼女の肉と血、臓を戴きたいもの」
「強欲だな。魂はどちらが戴く?」
「貴方に譲ります。名誉や誇りで美貌は保てると思って?」
「良かろう……馳走に預かるとするか」
「セイバーはあの黒い男性を、アーチャーはもう1人の女性を!」
バーサーク・ランサーと、バーサーク・アサシンの相手。それはアルトリアとエミヤの2騎のサーヴァント。立香の指示を受け、彼らは前に進み出る。
アルトリアはバーサーク・ランサーと戦う為に両手で不可視の聖剣を握り締め、エミヤはバーサーク・アサシンと対峙しながら、両手に陰陽二振りの短剣―干将・莫耶を構えたその時、何者かの声が響き渡る。
「優雅ではありません」
『ッ!?』
4騎のサーヴァントが戦おうとしたその瞬間、ガラスの薔薇が何処かから放たれ、4騎のサーヴァントの中心で爆発した。
巻き起こる黒煙と爆炎。咄嗟に後退した4騎のサーヴァントが周囲をキョロキョロと見渡していると、そこに1人の少女が現れた。
「戦いも、思想も、主義もよろしくないわ。貴女は美しいのに、憎悪と血に染まっている。例え善であれ、悪であれ、人間はもっと軽やかに在るべきじゃないかしら。そう思うでしょう、そこの聖騎士さん」
「あっ、あぁ……そうだな。ところで貴女は?」
「私はマリー。マリー・アントワネット」
「何!? かの有名なフランス王妃ではないか!」
「我が愛しの国を荒らす竜の魔女さん。貴女は私が来てもまだ狼藉を働く程邪悪なのですか?」
天真爛漫なアイドルみたいに可愛らしい少女。彼女の名前はマリー・アントワネット。ハプスブルク家の系譜にあたるフランス王妃。王権の象徴として愛され、祝福されて生きながら、王権の象徴として憎まれ、貶められて亡くなった女性。
まさかの人物の登場に敵味方問わず、誰もが驚く中、マリーはジャンヌ・オルタに質問をする。その問いが無意味だと分かっていても。
「黙りなさい。貴女がこの戦いに関わる権利はありません。先ずはあの鬱陶しいお姫様を始末なさい!」
「お前の相手は私だ。マリー殿ではない」
「ッ……!」
ジャンヌ・オルタがマリーを倒すようにサーヴァント達に指令を下すと、させないと言わんばかりにオメガモンが前に進み出る。
右腕から展開したガルルキャノンの照準をジャンヌ・オルタに合わせ、サーヴァント達を睨みながら視線で告げる。一歩でも動けば大将を攻撃すると。これにはサーヴァント達も迂闊には動けなくなった。
「分が悪いわね……撤退するわ。オメガモン、次は必ず貴方を倒す」
「いつでも相手になる。その時は全身全霊でお相手しよう」
このまま戦闘を行っても無意味であり、こちらが不利だ。そう考えたジャンヌ・オルタは直ぐに撤退する事を決めた。自身の能力でワイバーンを召喚して騎乗すると、ワイバーンは飛び上がり、そのまま飛び去って行った。
4騎のサーヴァントは霊体化してその場から離脱していったが、オメガモンはジャンヌ・オルタの能力に目を細めた。“竜の魔女”の二つ名の通りに竜を使役する能力を持ち、ワイバーンの群れを自分の手足のように操る。極めて厄介な特殊能力だ。
ーーーーーーーーーー
「どうにかなりましたね……それにしてもオメガモンさんは凄いです。一瞬でワイバーンの大群を全滅させるなんて」
「ありがとう。でもあれはウォーミングアップに過ぎない。一々驚いていたら先が思いやられるぞ?」
オメガモンの行動は“
この場合はワイバーンの軍勢を全滅させ、聖騎士の実力を見せつける事でジャンヌ・オルタに心理的重圧をかけた事になる。
『砦から近くの森に霊脈の反応を確認したよ』
「ありがとう、Dr.ロマン。マリーさん。よろしければご一緒しませんか?」
「マリーさん……ありがとう! とっても嬉しいわ! 今の呼び方、耳が飛び出るくらい可愛かいと思うの!」
「そ、そうですか……」
天真爛漫なマリーのペースに押されつつも、立香達は巨大化したオメガモンに乗り、強い霊脈が探知された森に向かう。この時にもう1騎のサーヴァントと出会った。
黒服に身を包んだ音楽家―ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。18世紀の人物で、世界有数の天才作曲家にして演奏家。
世界史に名を残す程の偉人に出会えた事にオメガモンは狂喜乱舞した。聖騎士の正体を知っているジャンヌ、アルトリア、エミヤは優しい雰囲気で見守ったのは言うまでもない。
森の中に入った立香達一行。召喚サークルを設置してカルデアとの通信・報告を試みると、オルガマリーが通信に出た。
『そっちの様子はどう?』
「今の所は問題ありません。現地にいるサーヴァントと合流し、今はオルレアンに向かっています。ジャンヌ・オルタ……黒いジャンヌを倒す為に」
『報告ありがとう。そう言えば、立香君に教えていない事があったから説明するわ』
オルガマリーが説明を始めたのはサーヴァントの相性。例えばセイバーはランサーに、ランサーはアーチャーに、アーチャーはセイバーに強い。ライダーはキャスターに、キャスターはアサシンに、アサシンはライダーに強い。いわばじゃんけんみたいな物だ。
バーサーカーは全てに強いが、攻撃される時は全てに弱い。一部のサーヴァントは例外だが、基本はこのようなルールとなっている。それでも最後に物を言うのはサーヴァントのスペックなのだが。
オルガマリーとの通信を終えた後はお互いに自己紹介をした。マリー・アントワネットのクラスはライダー。召喚された理由は不明で、マスターがいない。フランス繋がりで、ジャンヌ・オルタへの抑止力として召喚されたのかもしれない。
モーツァルトのクラスはキャスター。事情もマリーと同じだ。英雄と呼ばれる事に実感が無ければ、キャスターのクラスで呼ばれた理由も分からない。恐らく魔術を嗜んでいたからだと本人は推測している。
「貴女は聖女ではないのよね? それなら私はジャンヌと呼んで良い?」
「えぇ、勿論です。そう呼んで戴けると、何だか懐かしい気がします」
「ありがとう。なら貴女も私をマリーと呼んで。貴女が聖女ではないただのジャンヌなら、私も王妃ではないただのマリーになりたいの」
自分は聖女ではなく、一度も自分を聖女と思った事はないと言い切ったジャンヌと、そんな彼女と名前で呼びたいマリー。
マリーはジャンヌを聖女として尊敬しているが、彼女の心情を知って友人になりたいと提案して来た。その提案をジャンヌは了承し、彼女達は時代を越えた友達となった。
「良いな……友情って良いな。なんかマリーさんを見ていると、とても世界史で勉強した事が嘘のように思えて来るよ。“パンがなければケーキを食べればいいじゃない”……だっけ? あれ本当に言ったとは思えないよ」
「あの名言のケーキは、俺達の知っているケーキとは違うと聞いた事があるよ」
「あっ、その言葉なんだけど……ごめんなさい。それ、私が言った言葉じゃないみたいなの。言った記憶がなくて……どうしても思い出せないの」
「はい!?」
「何だと!? 歴史家、仕事しろ!」
―――パンがなければ、ケーキ(お菓子)を食べればいいじゃない。これはマリー・アントワネットの台詞として名高いが、実際には別人の発言だったという説がある。
ジャン=ジャック・ルソーの著作『告白』が出典元になっているのだが、この時は“王女の誰か”が言った言葉をルソーが思い出した為、一体誰が言ったのかが名言されていない。
そもそもルソーが『告白』を執筆した当時、マリーはまだ9歳でオーストリアにいた。この言葉が革命期前後のフランスで、貴族を糾弾するための材料として引用された。そしてそれがマリーが言った事になった。
ちなみに“ケーキ”は日本語の意訳であり、正確に言えばブリオッシュというフランス発祥の菓子パンを指している。ブリオッシュは卵黄とバターを多量に使った黄色い生地が特徴。マリーはこれを好きだったらしい。
ちなみに当時のブリオッシュの値段はパンより安かったので、本来は“(高価な)パンがないのなら、(安価な)ブリオッシュを食べれば良い”という意味の言葉だったと思われるが、歴史家によって捻じ曲がった形で伝わったと考えれば良いだろう。
その後、立香達がマリーとモーツァルトに自分達が来た理由を話すと、2人は真剣な顔をしながら話を聞いていた。
「話は分かりました。フランスだけでなく、世界の危機なのですね。形は違えど、これも聖杯戦争と言う訳ですね……」
「マスター不在で召喚されたと分かった時は危険な音しかしなかったけど、予想以上だなこれは。あの時相対したサーヴァントは5騎。今分かっているサーヴァントは合計11騎。オメガモンを入れれば合計12騎になる。これは多過ぎだよ」
「既に7騎の法則は形骸化していると考えた方が良さそうですね。流石に無制限と言う事はありませんが……」
「サーヴァントの数が7騎以上でも不思議な事はない。確か……15騎のサーヴァントが争った聖杯戦争もあったらしい」
エミヤが言ったのは聖杯大戦。14騎ものサーヴァントが2つの陣営に分かれてぶつかり合うという、大規模化した聖杯戦争。
同じ陣営に属する他の組との連携が求められるチーム戦であり、サーヴァント同士の関係が密接で、相性が良い者を組ませた場合、遥かに格が上の敵でも打倒する事が可能だ。
「私達が召喚されたのは英雄のように、彼らを打倒する為なのね! この世界でやっとやるべき事を見付けられた気がしたわ!」
「でも相手は強敵だ。ジャンヌとマシュ、アルトリアにエミヤ、オメガモンに立香は戦いに慣れているとしても、僕とマリーは汗を流すタイプじゃない。頭数はともかく、戦力は……う~ん、正直どうだろうね」
「モーツァルト殿の言い分は正しい。何より敵の戦力を把握出来ていないし、相手のサーヴァントの真名が分からない。もう少し情報収集に勤しむ等、慎重に動くべきだ」
「オメガモンの言う通りです。ルーラーのクラス能力の真名看破は失われていますが、分かった事があります。彼らは皆、『狂化』を付与されています。属性や伝説の有無に関係なく」
「『狂化』……そう言えばバーサーク・何とかと言っていたな」
バーサーク・サーヴァント。彼らはジャンヌ・オルタによって召喚された。元々このスキルはバーサーカーのクラススキル。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿す事が出来る。弱いサーヴァントを強化したり、元々強いサーヴァントを強化する事も出来る。
その反面、理性や技術・思考能力・言語機能を失い、現界のための魔力を大量に消費するようになる。それに加えて全てのクラスに強いと言う相性持ち。反則としか言いようがない。
『オメガモン。君の考えていた通りだ。黒いジャンヌ……ジャンヌ・オルタは聖杯を持っている。だからサーヴァントを召喚してバーサーカー状態にしたり、ワイバーンを自分の手足のように使役出来る。そう考えた方が良さそうだ』
「えっ? 聖杯を求めて戦うのが聖杯戦争なんでしょう? 相手はもう聖杯を手に入れているなんて……」
「そうでないと説明が出来ないし、筋が通らない。でもマリーさんとモーツァルトさんが呼ばれた理由は分からない……いや待てよ? この世界では聖杯戦争は行われていない。そうだよね、マシュ」
「はい。それなのに聖杯を持っているサーヴァントがいる……つまり聖杯が抑止力になっていると言う事ですか? あのバーサーク・サーヴァントはジャンヌ・オルタが召喚したと」
「だと思うんだけど……相手が強ければ強い程、反動は大きくなるみたいに。……ごめん。俺じゃよく分からない」
全員で議論する中、分かった事がある。先ずはマリーやモーツァルトのように、この国の何処かに彼らのようなサーヴァントが召喚されている可能性がある事。
それは希望であると共に、絶望でもある、必ずしも味方ばかりとは限らないからだ。それでも探してみなければならない。出来るだけ早く行動するべきだ。ジャンヌ・オルタ達が彼らを見付けるよりも前に。
ジャンヌのサーヴァント探知機能が失われている今、オメガモンとロマニの探知機能が頼りだ。ルーラーを凌駕出来るかどうかはともかく、それに勝るとも劣らない距離をカバーする事は出来る。
「そうと決まったら少し休みましょう! 皆さん。疲れているでしょうし」
「そうですね、マスター。暫くお休みください。私達が見張りますので」
「ありがとう。お言葉に甘えてゆっくり休むよ」
立香とマシュが仮眠を取り、残りの面々で見張りを始めた事で周囲は静寂に包まれる中、オメガモンは『
正直、野宿するのはカルデアに来てから初めての経験となる。今までは自宅のベッドで寝ていたが、今はそういう贅沢は出来ない。背中に羽織っているマントを毛布替わりにしているが、時々自宅のベッドが恋しくなってしまう。
ーーーーーーーーーー
「敵サーヴァントの反応を確認。数は1騎。マスターを起こそう。戦闘態勢だ」
森の中で休んでいる立香達一行。夜も更けて来た頃、オメガモンが自分達に近付いて来る敵サーヴァントの反応に気が付いた。
それを聞いたアルトリア達が武器を構え、マシュが立香を起こしていると、そこに1騎のサーヴァントが現れた。それは露出度の高い修道服と、籠手が目を引く聖女。バーサーク・ライダー。
「こんばんは、皆様。寂しい夜ね」
「あ、どうも。こんばんは。どちら様でしょうか?」
「ご丁寧にどうも。私は聖女たらんと己を戒めていたのに、今では壊れた聖女の使いっ走りとなった者よ」
「あれ? 狂化されているのに喋れる……ランクの問題かな?」
「貴方がマスターかしら? 中々鋭いわね。私達は彼女のせいで理性が消し飛び、凶暴化しているのよ。今も衝動を抑えるのに必死で困っているの」
ラ・シャリテでも顔を見せていたが、戦う事は無かったバーサーク・ライダー。彼女は狂化の影響を受けつつも、強靭な精神力で衝動を抑え込んでいる。
しかもジャンヌ・オルタの命令に背いている。と言うのも、立香達一行がジャンヌ・オルタを倒せるかどうかを試そうとしているからだ。
「だから私は貴方達の味方にはなれない。警戒していないと、後ろから攻撃してくるようなサーヴァントを味方にはしたくないでしょう?」
「仲間に慣れると思ったのに……でもどうしてここに?」
「貴方達を監視する事が私の役割だったけど、最後に残った理性が貴方達を試すべきだと囁いている。貴方達の前に立ちはだかるのは“竜の魔女”。究極の竜種を従えた、災厄の結晶。私を乗り越えられなければ、彼女を倒す事は出来ない。私を倒してみなさい。私はマルタ。さぁ出番よ大鉄甲竜タラスク!」
バーサーク・ライダーの真名はマルタ。悪竜タラスクを鎮めた、一世紀の聖女。竜種に騎乗したという逸話持ちのドラゴンライダー。
彼女が召喚したのは大鉄甲竜タラスク。ローヌ川近辺の森に住んでいた半獣半魚の竜であり、“旧約聖書”に記されるリヴァイアサンの仔。角を生やした巨大な頭、鋭いトゲを持つ亀の甲羅、六本の脚、蠍のような長い尾といった特徴を持っている。
タラスクが高速回転しながら襲い掛かって来るのに合わせ、オメガモンが駆け出した。タラスクと同じ大きさに巨大化すると、左手の籠手から出現させたグレイソードを横薙ぎに一閃し、竜を弾き返して戦闘に突入する。
「タラスクは私に任せろ!」
「分かった! 頼んだぞオメガモン! あの聖女さんは……」
「私が行きます!」
「ジャンヌさん……頼みます!」
ジャンヌはマルタと正対し、そのまま戦闘に突入する。生まれた時代は違えど、同じ聖女。これは正しく聖女対決。
他の面々は周囲を警戒しながら2つの戦いを観戦する。立香はオメガモンを信頼している為、聖騎士の勝利を確信している。なのでオメガモンに全てを任せてジャンヌの方に専念し、もう一方の戦いを観る。
ーーーーーーーーー
「ハアアァァァァァーーーーー!!!!!」
裂帛の気合を上げながら、オメガモンはグレイソードを連続で振るう。鋭いトゲを持ち、鉄壁の城塞の如き硬さを持つ甲羅に力強い斬撃が直撃する度に、タラスクの表情が苦痛と衝撃によって歪んでいく。
生前マルタにステゴロで説伏されたことから常に悲しそうで、困ったような顔をしているタラスク。そんな顔をしていようが、いまいがオメガモンには関係ない。
ここでタラスクを倒し、マルタを超えなければ、ジャンヌ・オルタを倒して第1特異点を修復する事が出来ない。そう思っているからだ。
「グオオオォォォォッ!!!!!」
しかし、タラスクだって負けていない。生前はローヌ川に潜み、船を沈めては人々を喰らい、討伐に訪れた戦士達の刃や矢を固い甲羅で悉く弾き、火を吐いて彼らを焼き尽くした逸話持ちの竜だ。このような場面はこれまで経験してきた。
近接戦闘が得意な相手には距離を取って挑めば良い。そう考えたタラスクは身体を回転させ、オメガモンとの間合いを空ける為に蠍のような長い尾を振るう。
「そう来たか……だが甘いぞ!」
「ガアアアァァァッ!!!!!」
オメガモンは跳躍する事でタラスクの攻撃を躱し、そのままタラスクを飛び越え、体を反転させながらガルルキャノンを展開した。
周囲一帯の大気中に存在するエネルギーを砲身の内部に集束させ、砲弾の形に凝縮させてガルルキャノンから撃ち出す。その数は3発。怒涛の三連射。
聖騎士の連射砲撃を喰らったタラスク。苦痛に満ちた叫び声を上げながら、爆発で発生した黒煙と爆炎の中に姿を消していく。
着地したオメガモンが油断なく構えを取っていると、黒煙と爆炎を切り裂いて灼熱の火炎が放たれた。タラスクの口から放たれた攻撃。
「効かないな!」
オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えて一閃し、灼熱の火炎を青白い剣圧でかき消すが、その間にタラスクが次の一手を仕掛けて来た。
突如として凄まじい速度で回転を始め、目にも止まらぬ勢いでオメガモンに襲い掛かって来た。一番最初に繰り出した攻撃。大鉄甲竜・灼熱大回転撃。何処かの二足歩行の亀の姿をした地球の守護神に似たような攻撃方法。
「ハアアアアァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」
雄叫びを上げながら左肩を突き出し、装備されているブレイブシールドΩでタラスクの攻撃を防ぎつつ、押し返そうとするオメガモン。
左肩に凄まじい質量と勢いを感じるが、左肩に装備している聖盾の守りは揺らがない。流石は最強硬度を誇る聖盾だ。
両足でしっかりと地面を踏み締め、体重をしっかり乗せると共に前方移動を行い、突進を開始してタラスクを弾き飛ばした。
地面に叩き付けられ、倒れ込んだタラスク。そろそろ戦いを終えようと思い、オメガモンはガルルキャノンの照準をタラスクに合わせ、砲身の内部に蒼い煌きを放つ光を集束し、砲弾の形に凝縮させて撃ち込む。
「勝負あったな……」
ガルルキャノンから撃ち込まれた青い光の波動弾。その直撃を喰らい、大爆発の中に消えていったタラスク。目の前にいた相手の『
両手の武器を戻したオメガモンはカチャ、カチャという金属音を鳴らしながら、仲間の所へと戻っていった。
ーーーーーーーーーー
「そこよ!」
「クッ!」
オメガモンとタラスクが激戦を繰り広げているのと同じ頃、ジャンヌとマルタは戦いを開始していた。最初に仕掛けて来たのはマルタからだった。槍のように長い十字架の杖を掲げて祈ることにより、十字架を輝かせて爆発させる。
何が起きるのか考えるよりも先に、ジャンヌはその場から飛び退いてマルタの攻撃を躱した。彼女の保有スキルの1つ、Aランクの啓示。“天からの声”を聞き、それに従いながら行動する。ジャンヌはマルタとの間合いを詰めていく。
それをさせまいとマルタは十字架を掲げて攻撃を続けていると、突如としてジャンヌは旗を丸めて槍の形にして地面に突き刺した。
棒高跳びの要領で跳び上がり、上半身を捻りながら自然落下の勢いを上乗せし、ジャンヌは旗をマルタに向けて振り下ろす。
「そこですっ!」
「やるじゃない……でもね! 甘いわよ!」
「……ッ!?」
『何!?』
ジャンヌの攻撃を十字架で受け止めたマルタだったが、何を思ったのか、突然十字架を手放し、その場から飛び退いた。
立香達が驚く中、上半身を振り被って強烈な右拳をジャンヌに叩き込んだ。腹部に鋭く、重い一撃を受けたジャンヌの動きが止まる中、見逃さないと言わんばかりにマルタの怒涛のラッシュが繰り出される。
マルタは聖女として落ち着く前は道具を持たず、主の加護を宿した拳で竜を説伏する武闘家だった。それを思い出したマシュが立香に教えると、立香は冷や汗を浮かべながらジャンヌを見る。彼女が立ち上がり、最後に勝つと信じて。
「負けるな、ジャンヌ殿! 戦う気力がある限り、まだ負けたとは言わない!」
「オメガモン……」
「タラスクが……!?」
マルタの怒涛のラッシュを受け、崩れ落ちながらも旗を支えに立ち上がろうとしているジャンヌ。彼女に聖騎士からのエールが届いた。
それはタラスクとの激闘を終えたオメガモン。戦う気力がある限りはまだ戦える。まだ彼女が掲げた旗は折れていない。勝負はまだまだこれからだ。
得意のインファイトに持ち込もうとするマルタに対し、ジャンヌも駆け出す。右腕が襲い掛かる中、両手に握る旗を突き出した。交差する右拳と旗。その時間は一瞬。決着は刹那の間に付いた。
「ここまでのようね……」
「マルタ……」
「手を抜いていないわ、馬鹿。これで良かったのよ。全く、聖女に虐殺させるんじゃないってぇの」
勝者はジャンヌで、敗者はマルタ。突き出された旗の先端が胸部に突き刺さり、霊核を破壊していた。右拳はジャンヌの顔の目の前で止まった。
仲間が勝った事に安心する立香達だが、同時に狂化しても精神を維持しながら、自分達を試そうとしてきたマルタに感謝の気持ちを抱く。
「最後に一つだけ教えてあげる。“竜の魔女”が操る竜に、貴方達は勝てない。そこの聖騎士は例外だけど。あの竜を倒す答えを見つけたければ、リヨンに行きなさい。かつて都市だった所よ」
「かつて都市だった所?……まさか!」
「えぇ、貴方の考えていた通りよ。昔から竜を倒すのは聖騎士でもなければ、聖女でもない。 竜を倒すのは“
マルタが伝えたかった事。それはジャンヌ・オルタこと“竜の魔女”が使役する竜に勝つには、“
伝言を残した彼女は微笑みを浮かべながら消滅していった。タラスクに内心謝罪すると共に、次は真っ当な召喚をされたいと願いながら。
「聖女マルタも逆らえないとは……召喚された事に加え、狂化されては仕方なかったのかもしれません」
「本来なら会話が出来ない筈だが、彼女は自らの意志で話し掛けた。我々の目的地は決まったな。リヨンに行き、“
「エミヤさん。行けるかじゃないよ。一緒に来やがれって奴だ。オメガモン、皆でリヨンに行こう。善は急げだ!」
「了解した、立香君! マルタ殿の為にも!」
立香達一行のやる事は決まった。リヨンに向かい、マルタが伝えた“
オメガモンは直ぐに巨大化して全員を乗せると、その場から飛び立ち、ジャンヌ達フランス組の案内を受けてリヨンに向かっていった。
LAST ALLIANCEです。
後書きとして、本編の裏話を話していきます。
・主人公なのに……
オメガモンの見せ場は意外と少なめです。
でもボス戦になると大幅に増えます。仕方ないですよね……
・マリーさん好きに
シナリオ読んでいて、マリーさん大好きになりました。
外見は可愛いけど、中身が美しい。流石は王妃。
以上になります。
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それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!
次回予告
竜殺しを探しに動き出したオメガモン達。
色々な英霊と出会う中、物凄く違和感しかない英霊と出会う事に!?
一体何トリアなんだ!?
第7話 謎のセイバーX