ミレイナたちの目の前に広がるのは枯れ、飢え、荒廃した大地。
地面の至る所に白骨化したモンスターの骸が散乱していた。
「ここが『瘴気の谷』か・・・」
ミレイナは呟く。
「はい。『陸珊瑚の台地』の真下に位置するのにこんなに違うんですね」
新調した『ウルムーシリーズ』を装備したソフィーは遥か上を見ながら呟く。
なぜ彼女たちがここに居るかというと、3期団長からの提案からだ。
この『瘴気の谷』の深層部にゾラ・マグダラオスの痕跡があるかもしれない、ということを言われ、ここに降り立ったのだ。
「それにしてもあのおばあさん、元気ね。『陸珊瑚の台地』からここまで続く道って結構険しかったわよ。なのにスイスイ進んで行って」
ミレイナの言うおばあさんとはフィールドマスターのことだ。
ここまでミレイナたちを案内したのも彼女で、ここから先はいつ狩猟が始まるかは分からない。ハンターではないフィールドマスターは研究施設に戻って行った。
「おばあちゃんはここをもう何十年も調査してるみたいですよ。それでも新発見ばかりで飽きない、って言ってました」
「確かにね。新大陸に生息していないモンスターの死骸も沢山ある」
ミレイナは付近を見渡し、狩猟経験のあるモンスターの死骸を見つけながら呟く。
「あれ、ダラ・アマデュラじゃないのかニャ?」
クリスタルが指さした方向には山を飲み込みそうなほど大きな蛇の頭。
シナト村に伝わる御伽噺に出てくる古龍、ダラ・アマデュラ。その骸がこの『瘴気の谷』を取り囲んでいた。
「本当ね、初めて見たわ。白骨化しているとはいえ、幻に近いの古龍を見れるなんて運がいいわ。もしかしたらこの谷は大昔にあのダラ・アマデュラが掘ったのかもね」
「まさかニャ」
「ご主人様の言うこともありえるかもしれないニャ」
クリスタルはミレイナの言葉を否定したが、マイラは賛同する。
「御伽噺にダラ・アマデュラが通ったあとには谷が生まれるっていう一文があるニャ。もしかしたらここはその御伽噺を体現しているのかもしれないニャ」
「ほぇ〜。マイラさんは物知りですね」
感心するソフィーに対してマイラは胸をはる。
「当然ニャ!色んな場所でモンスターを狩って来たニャ!だからいろんな村の伝記を読んできたのニャ。ご主人様もワタシと同じくらい知識があるのニャ。クリスはもう少し勉強した方がいいニャ」
意地悪な笑みを浮かべながらマイラはクリスを見る。
「ほっとくニャ」
「ほら、おしゃべりはそこまでにして行くわよ。3期団長は深層部が臭うって言ってたけど、一応上層部も見ていくわよ」
ミレイナの声に3人は返事をし、上層部を目指し、歩き始めた。
「待って・・・。これは・・・」
道のように削られた溝を進んでいた4人だが、ミレイナは何かを見つけ、全員を止める。
「何かあったんですか?」
「ええ。これよ」
ミレイナは何かへ歩み寄り、しゃがむ。
「・・・?これは?」
ソフィーが見たのは無数に丸く抉られた地面。
1つ1つの穴は小さいが、それがあちらこちらに無数に存在している。
すると、ミレイナとソフィーの虫籠から導虫が緑の光を纏いながら飛び出す。
「モンスターの『痕跡』ニャ」
クリスタルが呟く。
「こんな『痕跡』を残すモンスター・・・。一体どんなやつなんだろ・・・」
「分からないわ。とにかく気をつけましょう」
ミレイナは立ち上がり、3人へ注意するように告げる。
「ニャ?」
マイラがヒゲを震わせながら不思議な声をあげる。
「マイラ?どうかした?」
「ニャンか地面が揺れてるようニャ・・・」
「揺れてる?」
ミレイナも周囲に目を運ぶが特におかしなものは見当たらない。
「何も無いわよ。勘違いじゃないの?」
「で、でも!確かに揺れたんだニャ!」
「え〜?」
珍しく食い下がるマイラを不思議そうに見つめるミレイナ。
「んー。クリスとソフィーちゃんは何か感じた?」
「いえ・・・。私は特に」
「ボクも同じニャ」
マイラ以外は誰も揺れを感じていない。
「ほら。やっぱり勘違いよ。・・・ん?今、揺れた?」
「ほら!やっぱりニャ!」
ミレイナも一瞬だが地面が揺れるのを感じた。
「先生もですか?」
「・・・気のせいかしら・・・。いや、強くなってる」
「あ、私も今感じました」
おかしな揺れに4人は周囲の警戒を始める。
「っ!ソフィーちゃん!」
「え?きゃあ!?」
ミレイナはその場から横へ飛び込み、ソフィーを押し倒す。
クリスタルとマイラも道の脇へ避け、ソフィーだけが確認できていない何かをやり過ごす。
「ソフィーちゃん、大丈夫!?」
ミレイナは体を起こし、押し倒したソフィーを見下ろす。
「ははははははい!?大丈夫ですよぉ!?」
「・・・?どうしたの?」
「どうもしてないですよ!?」
「明らかに変じゃない。正直に言いなさい」
「そ、そのぉ・・・」
ソフィーはモジモジしながら呟く。
「すごくいい匂いがして、髪もサラサラで・・・。近くで見ると改めてキレイなお顔だな、って・・・」
「・・・・・・」
「先生?・・・痛い!?」
ミレイナは無言でソフィーにチョップする。
ソフィーは叩かれた所を両手で押さえ、少し瞳に涙を貯めながら、ミレイナを見つめる。
「な、何するんですか〜!」
「いきなり変なこという方が悪いのよ」
そう言ったミレイナはソサクサと歩いていく。
「あれ、照れてるニャ」
「間違いないニャ」
クリスタルとマイラがヒソヒソと話している。
「うるさい!ほら、行くわよ!全く、モンスターに襲われかけたのに気楽な・・・」
ミレイナは文句を言いながら先を行く。その後ろを3人はついて行くのだった。
通り過ぎて行ったモンスターの『痕跡』追いながら道を進んで行き、道の終わりはちょっとした高台になっていた。
下は少し開けているが、岩などによって見た目以上に狭く感じる。
「あれかしら・・・。見た目はウラガンキンのようね」
ミレイナたちは岩に隠れながら、モンスターを観察する。
モンスターは黒い皮膚の上に多くの骨を纏っていた。
「あれはラドバルキンですよ。研究施設の資料で読みました」
「なるほどね。よし」
ミレイナは立ち上がる。
「え、えっと・・・。特徴はですね・・・」
「ま、いいリハビリになりそうね。行くわよ!」
「あっ!先生!?」
ソフィーの説明もろくに聞かずにミレイナは飛び出して行った。
「やれやれニャ・・・」
クリスタルとマイラもミレイナに続いて降りていく。
「ちょっ!?お2人共!?」
「ソフィーもいい加減なれるニャ」
そうクリスタルに言われ、結局残されたのはソフィーだけだった。
「もう・・・、なんなの・・・?」
諦めつつ、ソフィーも続いて降りていくのだった。
「いい?まだ気づかれてないわ。私が懐に潜って一撃入れるから、クリスは虫籠を置いて、あいつが吼えた瞬間に壊して動きを止めて」
「分かったニャ」
「マイラは・・・、そうね適当によろしく」
「お任せニャ」
降りたミレイナたちはラドバルキンの背後に回り、初動の段取りを決める。
「ソフィーさんはどうするニャ?」
マイラの言葉でミレイナはソフィーの方を見る。
ソフィーは少し離れた岩の裏にいる。
「・・・アドリブで合わせてくれるはずよ。仕掛けるわ」
ミレイナは身を屈めたまま走り、ラドバルキンの懐に潜る。
『召雷剣【麒麟帝】』を抜刀と同時に溜め始め、一気に振り下ろす。
ゴァア!!
振り下ろした剣先はラドバルキンの柔らかい腹を切り裂く。
ラドバルキンはその場から動き、ミレイナを見据え、咆哮の体勢に入る。
「クリス!」
ミレイナの声と同時に眩い閃光が走る。
閃光を直視したラドバルキンは驚き、大きく仰け反る。
「これは、ドンピシャでしょう!!」
クリスタルを信用し、既に溜めモーションに入っていたミレイナ。
溜めた力を一気に解放させ、真・溜め斬りをラドバルキンの頭部に直撃させる。
ミレイナはその場から真後ろへローリングした。
「先生!合わせます!」
すかさずソフィーがラドバルキンの正面に立ち、『鉄刀【禊】』を黒い皮膚へ浴びせる。
ソフィーが相手をしている間にミレイナは納刀し、ラドバルキンの側面へ回り込み、脚に向け、抜刀切りを放った。
しかし。
「・・・っ!かった・・・」
ミレイナの攻撃は両足の角のような骨に弾かれてしまう。
1度ミレイナは距離を取り、鬼刃大回転斬りを放った後の無防備なソフィーのカバーにはいる。
納刀したソフィーはすぐさま抜刀縦斬りのモーションに入る。それに合わせてミレイナも縦斬りを繰り出し、2本の刀の刃がラドバルキンの腹を切り裂く。
ゴガァアアアアアアアア!!
不意の咆哮。その轟音に2人は耳を塞ぐ。
ラドバルキンは咆哮をあげた後に顔面より出っ張って、発達している顎を2度地面に叩きつけた。
「あっぶな・・・」
顎を叩きつけたことにより飛び散る小石や土を浴びながら、ソフィーは顎が自分たちに向かって来なかったことに安堵する。
ラドバルキンはミレイナたちではなく、後方でブーメランやオトモ用の手押し車型のスリンガーで後方のマイラとクリスタルへ向かって行った。
「確かに危なかったかも・・・。次は後ろにいたマイラたちを狙い始めたわ。マイラたちの攻撃も聞いてるみたいだし、私たちも混ざるわよ」
ソフィーの言葉に同意しながら、ミレイナは『怪力の種』を1つかじる。
「そんな遊びみたいに言ってる場合ですか!?」
「言ったでしょう?私はこの生き方しかできない。それにこれが楽しい。だったら全力で生きて死ぬまで楽しむだけよ」
ラドバルキンに向かって走りながらミレイナは言う。
「先生は凄いですね・・・」
「何か言った?」
モンスターの叫びや地鳴りでソフィーの声はかき消されてしまう。
「なんでもありません!私もそんなふうになって見せます!」
「ふふっ。頼もしいわ」
2人がクリスタルとマイラと合流しようとした瞬間、ラドバルキンは反動を付けるような動きを見せる。
「みんな、横に逃げなさい!」
ミレイナは危険を察知し、咄嗟に叫ぶ。
ラドバルキンは体をアルマジロのように丸め、ミレイナたちを目掛け、転がり始める。
ミレイナは真横に倒れ込むように大きく飛び、緊急回避する。
すぐさま起き上がり、ソフィーたちの安否を心配する。
「みんな、無事!?」
「はいっ!」
ソフィーは問題ないようだ。
「ギリギリだったニャ・・・。ご主人!」
突然クリスタルは大声をあげる。
「え?・・・嘘っ!?」
ラドバルキンは体中のまとった骨を上手く使い、回転を途中で止め、ミレイナに向かって方向転換を行い、再び転がり始めた。
「いい度胸じゃない・・・」
ミレイナは避けようとしない。そればかりか、『召雷剣【麒麟帝】』を抜刀し、力を溜め始める。
「ちょっ!?先生!!」
「流石に無謀ニャ!」
「ご主人様逃げるニャ!」
全員の叫び声。今回ばかりはクリスタルとマイラもミレイナを止めよう、と声をあげる。
そして、ミレイナとラドバルキンの距離は0になる。
「でぇぇぇぇぇやぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!」
ミレイナの振り下ろした刃はラドバルキンの頭を正確に捉え、荒々しい稲妻を撒き散らした。
ゴガァ!!?
ラドバルキンが頭部に纏っていた骨は砕け散り、そのままバランスを崩し、ミレイナの横を通り過ぎて盛大に倒れる。
「め、めちゃくちゃだよぉ・・・」
ソフィーはあまりの光景に口を開けたまま立ち尽くす。オトモ2人も同じ反応をしている。
「何してるの!?今がチャンスなのよ!」
既にミレイナはラドバルキンに向かい、頭へ真・溜め斬りを叩きつけようとしている真っ最中だった。
「は、はい!」
困惑しながらもソフィーも錬気を溜め、鬼刃兜割りを尾へ浴びせた。
クリスタルは脚へ打撃を、マイラは笛を吹いてサポートに回る。
やがてラドバルキンはゆっくりと立ち上がり、大きく息を吸い込む。
「まさか・・・、こいつも?」
ミレイナは見た目がウラガンキンと姿と攻撃手段が似ていることから予感はしていた。
そのラドバルキンの腹から白いガスが微かに溢れ出す。
「離れて!」
「え?」
その瞬間、睡眠性のガスが大量に噴出された。
ミレイナ、クリスタル、マイラは逃げきれたが、反応の遅れたソフィーはガスを大量に吸い込んでしまう。
「あ・・・、あれ・・・?」
ソフィーは武器を落とし、目を擦る。
「なんか・・・、ねむ・・・」
とさっ、と倒れ眠り込んでしまったソフィー。
「最悪ね」
ミレイナは歯ぎしりをしながらラドバルキンを睨む。
「『閃光弾』で目を眩ませたうちに離脱はどうかニャ・・・?」
マイラが呟く。
「ダメよ。もしアイツが暴れるようなやつだったソフィーちゃんはペシャンコよ」
「うぅ・・・。その通りニャ・・・」
「とにかく、私たちに注意を向けないと・・・!」
ラドバルキンの目の前に飛び込もうとしたミレイナだが、ラドバルキンはミレイナたちとソフィーとはまるで違う方向へ転がっていった。
「逃げたのかしら・・・?」
ミレイナは1度息を吐き、眠っているソフィーへよる。
「ソフィーちゃん、起きなさい。ソフィーちゃん」
頬を何度か叩くがソフィーは起きない。
「えへ・・・。プーギー・・・」
「・・・これはダメね。幸い、ベースキャンプも近いし、行きましょう」
ミレイナはソフィーを担ぎ、ベースキャンプに向かい始めた。
「むへへ・・・。せんせー、これ、おいひ・・・」
「ハイハイ。分かったわよ」
ミレイナはソフィーの寝言に相槌をうつ。
「ご主人様、前より雰囲気が柔らかくなったニャ」
「確かにニャ。これもソフィーのおかげニャ」
「2人とも、何してるの?」
ミレイナに呼ばれ、オトモ2人も後ろをついて行くのだった。
瘴気の谷は色んな考察ができる面白いエリアですね。
個人的に1番しっくり来ているのがかつて海中だった説です。
モンスターの骨などからここにどんなモンスターが生息していたのかを想像するのも楽しいですよ。