申し訳ありません。
「ぅん・・・。ここは・・・。あっ!ラドバルキンは!?」
ベースキャンプに設営されたテントの中にあるベッドで眠っていたソフィーは狩猟中だったことを思い出し、飛び起きる。
「起きた?ラドバルキンは逃げていったわ」
同じくテント内で剥ぎ取りナイフを砥石で磨きながらコーヒーを飲んでいたミレイナがラドバルキンの行方を教える。
「そ、そうなんですか・・・。でもなんでキャンプに・・・」
「アイツの睡眠ガスを吸っちゃったのよ。少し迂闊だったわ。私も、ソフィーちゃんも」
「・・・すみません」
ソフィーが謝罪するとミレイナは立ち上がり、『召雷剣【麒麟帝】』を担ぐ。
「動ける?ラドバルキンも相当弱っているし、さっさと片付けてゾラ・マグダラオスの痕跡を探しましょう」
「大丈夫です!」
ソフィーは元気よく返事をし、ミレイナに続いてテントから出ていく。テントの外にはクリスタルとマイラがそれぞれ装備の確認や腹ごしらえをしていた。
「さて、追いかけましょうか。導虫もしっかり匂いを覚えてくれてるようだしね」
ミレイナの虫籠から導虫が帯となり、ラドバルキンの元へ誘導を開始する。
「よし!行きましょう!」
頬を叩き、一喝いれたソフィーは3人の前に出て導虫を追いかけ始めた。
4人が導虫を頼りに辿り着いた場所はかなりの高所で、割れた岩の足場を植物がネットのように貼り巡っている。一部の場所の岩は完全に穴が開き、植物のツタと葉だけで足場になっている。
そのツタの上にラドバルキンは佇んでいた。
「こんなところで戦いたくはないわね・・・。ソフィーちゃんならどうする?」
「え!?・・・そうですね。この辺りには『はじけクルミ』が多く実って落ちているので、それを当てておびき出す・・・。というのはどうでしょう」
ミレイナは彼女の回答に笑顔を浮かべる。
「採用よ。じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
ミレイナは足元に転がっていた『はじけクルミ』の実を拾い上げ、身を低くしながらラドバルキンへゆっくり近寄っていく。
(もう少し詰めたいわね)
スリンガーがいくら投擲機であったとしても、その飛距離は大したモノではない。確実に弾が当たる距離まで詰め寄っていく。
ツタの足場に乗ったミレイナは足場が頑丈か確かめるために、なんどか足踏みをする。
(うん。これなら撃った後走れる)
左腕のスリンガーに『はじけクルミ』を装填し、狙いを定める。
スリンガーの弦を絞った瞬間だった。ミレイナとラドバルキンの視線が交差した。
「まずっ!」
ミレイナは慌てて『はじけクルミ』を放つ。全く同タイミングでラドバルキンも咆哮を上げ、その声にミレイナは耳を抑え、しゃがみこんでしまう。
そして、『はじけクルミ』はラドバルキンの頭上を越えていった。
「先生!?」
ソフィーが岩陰から飛び出し、ミレイナに走り寄る。
「ワタシたちも!」
「分かってるニャ!」
ソフィーに続いてオトモ2人も飛び出した。
(これを・・・!)
ソフィーはポーチから『スリンガー閃光弾』を取り出し、すぐさま撃ち出す。
ゴォッ!?
眩い閃光はラドバルキンの視力を一時的に奪い、大きく仰け反る。
「先生、今のうちに!」
「ありがとう!」
ミレイナはラドバルキンから距離を取るためにソフィーたちの元へ走る、のだが・・・。
「あっ・・・。ふにゃっ!?」
ツタに足を絡ませ、ビタン!と顔から転んでしまった。
「何やってるニャー!ご主人!」
「なんでいつもこういう時ばかり!そういうドジっ子アピールはいらないニャ!」
クリスタルとマイラが目を釣り上がらせ叫ぶ。
ソフィーはと言うと目を丸くして立ち尽くしていた。
「う、うるさいわね・・・」
ミレイナが立ち上がった瞬間だった。
ラドバルキンはその大きな顎をツタの足場に強く打ち付けた。
「きゃあ!?」
顎を打ち付けた衝撃でツタは波打ち、ミレイナは再び倒れてしまう。
「こうなったら・・・」
ソフィーはポーチから別のスリンガー弾を取り出し、ラドバルキンに撃ち込んだ。
するとラドバルキンはミレイナたちとは違う場所へ向かって行った。
「良かった・・・。『こやし弾』が早く効いてくれて・・・」
ソフィーが撃ったのは『スリンガーこやし弾』だ。モンスターの糞を使用し、作られた弾は着弾したモンスターを追い払う効果がある。その効果のおかげでラドバルキンは立ち去ったのだ。
「た、助かったわ…。流石にもうダメかと思ってたから」
ソフィーたちの元に戻ったミレイナは覇気のない声でお礼を告げた。
「いいえ。いつもは私が助けてもらってばかりだったので。少しは恩返しできたかな…」
「それはもう。私ももう少し気を引き締めないと。さあ、追いましょう」
ラドバルキンの向かった方へ進んで行くとラドバルキンともう1つ違うモンスターの鳴き声が響いた。
「狼みたいな声…。まさか!?」
ソフィーが駆け出す。それを追うように他の3人も走る。
「やっぱり!」
そこにいたのはラドバルキンと赤い狼のようなモンスターだった。
「異形ね…。あのモンスターは?」
赤いモンスターを見たミレイナはソフィーに尋ねる。
「オドガロンです。この『瘴気の谷』の生態系の頂点に立つモンスターなんです」
「そう…。厄介なのが現れたわね」
「…はい。あっ!」
ソフィーが驚いた声を上げると、ラドバルキンは体を横にし、駒のように回転し、オドガロンへ突っ込んで行った。
オドガロンは軽やかな身のこなしであっさり避け、体勢を整えたラドバルキンの背中に飛び乗った。
オォォォォォォォォォン!!
片手で10はありそうな鋭い爪でラドバルキンの背中を守る骨を砕き、露わになった肉を荒々しい牙で貪り食らう。
ゴアァァァァァァァァ!!?
ラドバルキンは倒れ、オドガロンは倒れたラドバルキンへゆっくり近寄る。
「うっ!?」
「まあ、そうなるわよね」
オドガロンはラドバルキンの喉元を抉り、捕食し始めた。その光景にソフィーは目を逸らし、ミレイナは当たり前のように見つめる。
「もう1度キャンプに戻りましょう。流石に無策でどうにかなる相手じゃないわ」
「は、はい・・・」
気づかれないようにその場を後にする4人だった。
「さて、アイツの、オドガロンをどうするかだけど。ソフィーちゃんの知ってるアイツの情報を教えて」
ベースキャンプに戻ったミレイナたちは作戦会議を始めた。
イスに腰掛けたミレイナは足を組み、自分のハンターノートを広げ、ペンを走らせている。
「はい。先程も言った通り、オドガロンはこの『瘴気の谷』の生態系のトップに君臨する存在です。外観から見ても分かるように、全身の筋肉が発達しており、素早い動きで翻弄してくるのは容易に想像できます」
「確かに。あのラドバルキンの骨も噛み砕いたり、切り裂いていた。迂闊に飛び込めないわね」
ミレイナは難しい顔をして悩む。
「他に生態は?」
「そうですね・・・。そもそも『瘴気の谷』の深層部付近は調査が進んでいないのでこれと言ったものは・・・。ただ餌を求めて上層の『陸珊瑚の台地』まで姿を現す程度しか」
「役に立つ情報は無し、か・・・」
ミレイナはため息をつく。
「仕方ないわ。いざとなったら・・・」
「いざ?」
ミレイナが意味深に呟いた『いざ』という言葉にソフィーは首を傾げる。
「なんでもないわ。できればアイツ以外に使いたくないからこれで何とかするわ」
ミレイナはキャンプに立てかけられた自分の愛刀たちを見つめながら言う。
「とにかく情報が足りないわ。私がなんとか抑えるからソフィーちゃんはオドガロンの行動をよく観察して」
「分かりましたけど、1人で大丈夫ですか?」
「なんて事ないわ。そういうことは何度も経験してきたから。今回も同じよ」
ミレイナは立ち上がり、大剣『ハイジークムント』を手に取る。
「さぁ、行きましょう」
最後にオドガロンを見かけた場所に向かい、ミレイナはヤツの『痕跡』を収集する。
「よし、これで追えるわ」
足跡や爪痕に残ったオドガロンの匂いなどを導虫に記憶させていくと導虫は虫籠から飛び出し、オドガロンの元へ誘導を開始した。
4人は導虫の光を追いかけ、谷の深部へ向かう。
「・・・これは?」
そこは黄色いガスのようなものが蔓延する場所だった。見るからに人体に有毒なのは明らかだ。
「これが瘴気ですね。吸いすぎると体を内部から蝕むみたいですが、少量なら問題ないようです。だけど、厄介ですね」
ソフィーは付近を見渡し、あるものを見つけるとそこへ向かう。そして屈み、あるものを拾う。
「これで瘴気を払えます」
ソフィーは拾ったものをスリンガーに装填し、地面に向けて撃ち出す。
地面に撃ち出したものは着弾すると同時にその場で燃え始め、瘴気を払う。
「へぇ。そんなものもあるのね」
ミレイナは感心したように笑う。
ソフィーが撃ったのは『火打石』と呼ばれる衝撃を受けると発火する石だ。これで瘴気を気にせずに進むことができる。
「はい。行きましょう」
瘴気を払いながら進む4人。
それを人では登ることのできない石の壁の穴蔵から見つめる鋭い眼光があった。
次回、戦闘開始。