よろしくお願いします!
『アステラ』のマイルームでミレイナはコーヒーを啜り、手に持った書類を読みながら顔を顰めていた。
その光景を後ろからソフィーとシェリーは部屋の隅の方で見つめているという、異様な空間がそこにあった。
「先生、難しそうな顔、してるね」
「ええ。ですが、無理もありません。2人が『瘴気の谷』で見たレイギエナを仕留めたのはお姉様の敵であるネルギガンテなのですから」
オドガロン狩猟中に『陸珊瑚の台地』から落ちてきたレイギエナの死体。それを調べると黒い棘がいくつもレイギエナの体を貫いていた。
恐らく、『瘴気の谷』に残っていたゾラ・マグダラオスの匂いを追って、ネルギガンテも近辺まで訪れていた所に、『陸珊瑚の台地』を統べる、レイギエナと交戦したようだ。
しかし、そのお陰か3期団の空挺は『瘴気の谷』まで降下でき、調査を大きく進めることができたのも事実だ。
「なんであそこまでネルギガンテに固執するんだろう・・・。私には分かんないよ・・・」
座り込み、膝を抱え込むソフィー。
「私も詳しいことは知りませんが・・・」
シェリーは小さく呟き、隣で座り込む、ソフィーの頭を撫でる。
「今、お姉様の一番近くにいるのはソフィーです。何かあった時に頼れるのは貴女だけなのですから、頼みましたよ」
「・・・うん!」
ソフィーが静かに、だが力強く頷く。それと同じタイミングでミレイナがガタッ!と音を立て、勢いよく立ち上がる。
その音に2人は驚き、肩を跳ねさせる。
「行くわよ、ソフィーちゃん」
ミレイナは振り向き、目を丸くしているソフィーに告げる。
「え、っと。どこにですか?」
「『古代樹の森』よ。私は腹ごしらえしてるから準備ができたら食事所まで来なさいね」
「は、はぁ・・・?」
詳しい話もせずに、ミレイナは外へ出ていく。
「な、何だったんだろう?」
「わ、私にも分かりません・・・。あの書類は私も読んでいませんので・・・」
「うーん。よく分からないけど、私も行くね」
ソフィーは壁に立てていた『パルサーショテルⅡ』を手に取り、ミレイナの後を追いかけて行った。
目的地までの翼竜で空を飛ぶ移動時間に『ガロンシリーズ』を纏ったソフィーは何故そこへ向かうのかをミレイナに聞いていた。
「ゾラ・マグダラオスの行方を探す手がかりがあるらしいわ。なんでもそこに住んでる古代竜人が知ってるらしいけど・・・。まあ、眉唾物だから行って確かめないとね」
何がなんだかよく分かっていないソフィーは首を傾げるのだった。
「うーん。この辺に居るみたいなんだけど・・・」
『古代樹の森』の人が歩けるほど大きくなった枝や蔓の上を歩きながら高層へと進んでいく4人。だが、進んでも進んでも古代竜人が住んでいそうな場所は全く見当たらない。
「あの情報、嘘だったんじゃないのかニャ?」
面倒臭くなってきたのか、クリスタルがやる気のなさそうな声を出す。
「本当に正しいのかどうかを調べに来てるのニャ。シャキッとするニャ」
マイラにどやされながら、クリスタルはため息をつく。
「・・・待って・・・」
先頭を歩くミレイナが片手を水平に上げ、3人を止める。
「・・・居たわ。上から見下ろしてくれちゃって。いいご身分だわ」
「上?」
ミレイナの視線が上に向かっていることに気づいたソフィーはその視線を追う。
「あっ・・・」
そこには木の枝に乗った竜人族が居た。その竜人族はソフィーの知っている者たちとは見た目もそうだが、雰囲気など言葉には表せないような何かが根本的に違っていた。
「ずっと、見ていたのかしら?」
「ーーーーーーーーーー」
ミレイナの問いに答えたように古代竜人は口を動かすが、言語を理解できない。
「・・・マイラ、分かる?」
「えっと・・・。断片的ニャら。空の王と陸の暴君・・・?倒す・・・?」
「へぇ、なるほどね。分かったわ。そいつらを狩ればいいのよね?」
古代竜人は頷く。その瞬間、遥か遠くから猛々しい方向が森に響き渡る。一瞬、音の方を向いたミレイナたちだが咆哮の主の姿は見当たらなかった。
視線を戻すとそこに古代竜人の姿はなかった。
「あ、あれ?居なくなってる・・・」
ソフィーが付近をキョロキョロ見渡しても姿を見つけることはできなかった。
「まあいいわ。やることは分かった訳だしね」
「そうなんですか?」
「ええ。あの古代竜人は空の王と陸の暴君を倒せば教えるって言ったわ」
そう告げるミレイナの口元は薄く笑っていた。
「リオレウスとディアブロスを狩る。たったそれだけで教えてくれるなんて優しいわね」
すると・・・。
「ん?ミレイナさんとソフィーじゃないか」
背後から声がした。その声の主は新たな防具、『ギエナシリーズ』を身につけたフレッドだった。
「兄さん!?なんでこんな所に?」
突然現れたフレッドにソフィーは驚いていた。
「1期団の人に頼まれて古代竜人を探しにここまで来たんだが、どうやらお役御免のようだ」
「フレッドくんも、というかあの太刀使いの人も私と同じみたいね」
ミレイナは顎に手を当て、少し考える。
「ふむ・・・。なら、こうしない?ソフィーちゃんとフレッドくんの2人はここのリオレウスを狩猟してくれるかしら。手分けした方が早いし。ついでにクリスも置いてくわ」
「ついでってなんニャ?ついでって」
「え・・・。でも・・・」
自信がなさそうにソフィーはか細い声を出す。
「大丈夫よ。貴女ならできるわ。自分を信じなさい、相棒」
そう言ってミレイナは自分の胸を叩いた後に軽くソフィーの胸を叩く。
「はいっ・・・!」
力強い返事をする。
ミレイナはにっこり、と笑みを浮かべる。
「じゃあ、早速私は行くわ。気を抜かないようにね」
ミレイナとマイラが地上までの道を歩いて降りて行く。姿が見えなくなると同時にソフィーたちの真上を巨大な影が通り過ぎて行く。
「・・・リオレウス」
赤い体に大空を雄大に飛ぶ姿はまさに王と呼ぶに相応しい飛竜。2人にとっては因縁の相手だ。自然と背筋が伸び、緊張感が体に襲いかかる。
「大丈夫ニャ。今のソフィーなら問題ないのニャ」
クリスタルがいつもの調子で話す。
「はい。シェリーと約束した矢先に離れ離れですが、先生の期待に応えます。行こう、兄さん」
「ああ」
この大樹の上層、飛竜の巣へと3人は歩み始めた。
今回は新たな狩猟の前の閑話という形になりました。
次回からこのモンスターハンターの代名詞との戦闘になります!
あまり期待せずにお待ちください。