激しい日照りが続くはずの砂漠だが、それは外の話。『大蟻塚の荒地』の砂漠地帯は2層構造になっており、ミレイナとマイラはその下層、大空洞にいた。もちろん、例外なくそこも砂の空間だ。
1度息を整えるために深呼吸をする。それだけで口の中がジャリ、と不快な音を立てる。
ミレイナは舌打ちをしながら唾と共に砂を吐き出し、目の前に相対する敵を睨む。
黄土色の甲殻に太い強靭な2本の脚。長い尾の先にはハンマーのように発達した骨。飛竜種に分類されているもののあまり使用されない1対の翼。一際目を引くのは頭部の1対の大角。それは、ディアブロス。『大蟻塚の荒地』に君臨する大型のモンスターだ。だが、その体はズタボロで、体のいたるところ甲殻が砕け、その隙間から血液が溢れていた。
「もう少しってところかしら。マイラはどう思う?」
横に並ぶオトモアイルーに話しかけるミレイナ。自身もそうだが、マイラの表情もまだまだ余裕があった。
「ワタシもそう思いますニャ。口から時々出る黒い息の感覚も短くなってるから、相当弱ってるんじゃないんですかニャ?」
「なるほどね」
ミレイナは言葉を聞き終えると、背中に納刀している『暴雪剣グレツァタギオ』の柄に手をかける。
「だったら早いところ終わらせましょう!お腹が減ったわ!」
「分かりましたニャ!」
2人はディアブロスに向かって駆け出す。
対してディアブロスはこちらに向かってくる標的にハンマーのような尾を水平に振り、薙ぎ払う。
ミレイナたちは感覚を研ぎ澄ませ、気配だけで近づいてくる尾をギリギリまで引き付ける。ミレイナは前方へローリング、マイラは縄跳びをするかのように高く跳び、薙ぎ払いをやり過ごす。
「マイラは脚!」
「ニャ!」
ミレイナは頭、マイラは背後から回るように脚へ二手に分かれる。
接近してくるミレイナに気づいたディアブロスは角を砂地に勢いよく差し込む。
「よっ」
体を半身にしてあっさりと躱す。その場で足を踏み留め、前に倒れ込むように背中の大剣を抜刀。全体重を乗せ、角へ振り下ろす。
ガキッ!!と金属音にも似た甲高い音が響くと同時に『暴雪剣グレツァタギオ』がディアブロスの大角の1本を断ち斬った。
ギャァアアアア!?
ディアブロスは角を断ち斬られた衝撃から大きく仰け反り、片角が砂を巻き上げる。
「きゃっ!?もう!砂まみれじゃないのよ!!」
頭から全身に砂を被ったミレイナは不満の声を上げる。
「そんなこと言ってないで早くして欲しいニャ!!」
仰け反ったまま動きを止めていたディアブロスの脚にマイラは渾身の一撃を叩き込む。
「・・・ニャ?」
反撃を警戒していたマイラが不思議そうな声を出す。
ディアブロスはそのまま動かず、マイラを睨んだまま息を吐く。
何かがおかしい。
「ま、まずいかも・・・、ニャ・・・?」
マイラは息をのみ、ディアブロスの出方を伺う。だが・・・。
ズドン・・・。
ディアブロスの巨体は地面に倒れ、砂塵が舞う。
「あー、もう・・・。最悪・・・。お風呂入りたい・・・。ってマイラ?」
体についていた砂を払っていたミレイナはやけに静かになったエリアに気づき、マイラの方を見る。
「それ、死んでるの?」
「は、はい・・・。相当弱ってたところに毒が回って力尽きたんだと思いますニャ」
「そういうこともあるのね・・・」
倒れたディアブロスを見ながら、ミレイナは呟く。
「まあ、なんにせよ。試練は1つクリアしたわ。マイラもありがとう。お疲れ様」
ミレイナはしゃがみ、マイラの頭を撫で、ポーチからオトモ用のウィンナーを取り出し、マイラに渡す。
「ご主人様もお疲れ様ニャ!」
ウィンナーを頬張りながらマイラは笑う。
「さて、帰りましょう。ソフィーちゃんたちを出迎えないとね」
「はいニャ!」
時刻は少し遡る。
『古代樹の森』に大きくそびえる大樹。その頂上付近に設置されているベースキャンプの外でソフィーとフレッド、一緒に残ったクリスタルは火竜リオレウス討伐の作戦会議をしていた。
「ヤツの飛んで行った方向から考えると恐らく・・・」
机の上に広げたこの土地の地図の1箇所をフレッドは指差す。
「ここだろう」
古代樹の頂上。そこは飛竜の巣だ。
「場所は狭く、戦いづらい場所だ。危ないと思ったらなりふり構わず逃げろよ」
フレッドが真剣な顔でソフィーに忠告する。だが、そのソフィーは薄ら笑みを浮かべていた。
「ありがとう。でも大丈夫だよ、兄さん」
「お前・・・。見ないうちに変わったな!」
驚いた顔をしたフレッドだがそれも一瞬で、笑顔になるとソフィーの頭をクシャクシャ撫でる。
「わわっ!ちょっと、何?兄さん」
「なんでもないさ!さ、行こう!」
「うん!」
少し乱れた髪を手で整えながらソフィーは返事をする。
「あれ?クリスさん、どうしたんですか?やけに楽しそうですけど・・・」
「ニャ?兄妹仲がいいニャー、と思っただけニャ」
「そうかもですね。でも、クリスさんもマイラさんと兄弟仲良いじゃないですか。どっちがお兄さん、お姉さんになるんですか?」
「・・・?ボクはマイラとは兄妹じゃないニャ」
「え!?てっきりそうとばかり!」
「へぇ。違うんだな」
大袈裟に驚くソフィーに対してフレッドは控えめだった。
「そんなに驚くことかニャ・・・。兄弟・・・。姉妹ならご主人とマイラニャ。あの2人は物心ついた時からずっと一緒ニャ」
「え・・・?先生はハンターになってからマイラさんと出逢ったって言ってましたけど・・・」
聞いていた話とは違うことにソフィーは首を傾げる。
「ニャ・・・?・・・・・・ああ、そうだったニャ。ボクの勘違いだったニャ」
「いや、それ嘘だろ?」
明らかに誤魔化してるクリスタルにフレッドは指摘する。
「まさか。ほら、行くニャ」
2人を置いてベースキャンプから出ていくクリスタル。
「クリスタルの様子、明らかにおかしいな」
フレッドはソフィーに寄り、小声で話しかけると、ソフィーは小さく頷く。
「うん・・・。なんで先生は嘘をついたんだろう・・・」
「それは分からんが、何か事情があったんだろうな。問い詰めてみるしかないな」
フレッドはソフィーの肩をぽん、と叩き、クリスタルの後を追う。
ミレイナの考えが今は目の前の狩りに集中するために頬を叩き、気合を入れる。
「さあ!打倒リオレウスだよ!リベンジ戦だね!」
ぐーっ!と腕を上にあげ、ソフィーは叫ぶ。
「だな。変に気張りすぎんなよ」
その横をうっすら笑みを浮かべたフレッドが通っていく。
彼女たち兄妹にとって因縁の相手と言うだけあって2人の気合いは十分だった。
リオレウスの巣と思われる古代樹の頂上に到着した3人だが、リオレウスの姿は見当たらなかった。
「留守中、だね・・・」
木の影に隠れている3人。ソフィーは小さな声で呟く。
「いや。そうとは限らん」
足元に落ちていた赤い鱗をフレッドはつまみ上げる。それを導虫の虫籠に入れる。すると。
「ほらな」
導虫は籠から飛び出し、空に向かって飛んでいく。
ギャァオオオオオオオオ!!!!
空を引き裂くような強烈な咆哮。
膨大な音量にクリスタル以外は一瞬体をすくませる。
「・・・きた・・・!」
赤い対の翼で大空を駆け回り、まさに竜と言う言葉が相応しいモンスター、リオレウス。空の王者がその姿をソフィーたちの目の前に現した。
「よし。行こう!」
フレッドと目を合わせ頷いたのを見て、飛び出して行くソフィー。
いつもならギリギリまで相手の様子を伺い、対象個体のクセなどを見極めるソフィーなのだが、今回はミレイナのように自分から突貫して行った。これが彼女の成長なのか、はたまたミレイナの影響なのかは分からないが・・・。
「まずは・・・」
滞空したままのリオレウスを見て、ソフィーは左腕のスリンガーに『スリンガー閃光弾』を装填する。
「先生の教え通りに・・・!」
腕を突き出し、スリンガーを打ち出そうとした瞬間、リオレウスは大きく息を吸い込み、ソフィーへ目掛けて火球を吐き出した。
「・・・!ブレス!?」
咄嗟に前方へ飛び、火球ブレスを回避するが、地面に着弾した際の熱風がソフィーを襲う。
「あっつぅ・・・!」
その場で体を丸め、熱風を耐える。
「ソフィー!アイツから目をそらすな!」
フレッドの声でハッ、としたソフィーは空を見上げる。リオレウスは次の攻撃を行おうとせず、見定めるようにソフィーを見ていた。
「試練って言ってたし、リオレウスも私を試してるのかな・・・。ははっ。そんなわけないよね」
呟きながらソフィーは体勢を変え、背中の『パルサーショテルⅡ』に手をかける。
「でも!先生の隣に立つんならこんなやつに負けてられない!!」
それに呼応するようにリオレウスは咆哮を上げる。
狩るか、狩られるか。
命のやり取りが始まった。