「あ〜!もう!なんなの!?話の規模が大きくなりすぎなのよ!!」
「ま、まあまあ、先生。落ち着きましょう」
試練を終え、2日後。いつもの様に食事所で大量のビールと料理を平らげていくミレイナとそれを宥めるソフィー。それとやけに大人しいフレッドがそれぞれ楽な格好で夜を過ごしていた。
古代竜人にリオレウスとディアブロスの狩猟を完了したことを報告した2人。その見返りとしてゾラ・マグダラオスの情報を得たのだが・・・。
「ったく、冗談じゃないわ。寿命が来るからってここまでやって来て、今は地中を迷子ですって?お守りじゃないのよ!」
ジョッキのビールを一気に飲み干し、叩きつけるように荒くテーブルに置く。
「飲みすぎですよぉ・・・。それに少し違う気がします」
古代竜人の話をまとめると、ゾラ・マグダラオスは生命エネルギーの溢れるこの『新大陸』を求め、海を渡っていた。しかし、ゾラ・マグダラオスはこの『新大陸』の中心の地下回廊を彷徨っており、更には寿命が尽きようとしている。寿命が尽きたゾラ・マグダラオスは体内に蓄えに蓄えていた生命エネルギーを放出。それが地下回廊から地脈を伝い、『新大陸』を崩壊させるという。
「ほら、わたひって一応『舞姫』ってよふぁれてたひゃない?そーゆー古龍とかは割と慣れへゆし、撃退や狩ったことはあゆけろー・・・」
「飲み過ぎです。呂律回ってませんよ・・・。けどどうしたんですか?」
ミレイナは椅子に深く持たれ、満天の星空を見上げ、長く息を吐く。
「流石に規模が違いすぎるわ・・・。大陸1つが吹き飛ぶ、なんてね・・・」
いつもと違う雰囲気で語るミレイナ。いつも笑って、滅茶苦茶だが、しっかり事を片付ける彼女の姿にソフィーは不安を覚え、何も言えなかった。
「ま、なるようにしかならないわ。それより飲むわよー!ほら、ソフィーちゃん!」
「ちょっ、先生!私お酒は飲めないです!」
「えー?飲めないのー?まあいいわ。はい!あははははは!」
ビールの入ったジョッキを無理やりミレイナに持たされるソフィー。ここで拒んで持たなかったとしてもしつこく言い寄られるのは想像できる。これが正解だっただろう。
「はぁ・・・。お酒なんて飲んだことないよ・・・」
両手で持ったジョッキのビールの匂いを嗅いでみる。
「先生の匂いに似てる・・・?」
今のミレイナが飲み過ぎなだけだ。
もう一度嗅いでみる。
「やっぱ似てないや。・・・美味しいのかな・・・」
ジョッキに口を近づけて1口飲み込んでみる。
「・・・にがぁい・・・」
ソフィーの口には合わなかったようだ。
「ほーら、フレッドくん!」
ミレイナが自分の兄の名前が聞こえ、ソフィーがそっちを向くと・・・。
「わーっ!!?兄さーん!!??」
机に突っ伏しているフレッドに執拗に絡んでいるミレイナがいた。
「ねーえー。もうへばっちゃったのー?ねーねー?」
ミレイナは自分のジョッキをフレッドの頬に押し当てている。どうやらフレッドは酒で酔い潰れているようだ。
「ちょちょちょちょ!!先生何してるんですか!?」
自分の兄を守るように間に割り込む。目の前から漂う強い酒の匂いにソフィーは顔を顰める。
「何もしてないわよー。ちょっとお酒あげたらこんなになっちゃって。もー、弱すぎよー」
「何言ってる。そこの坊主に5杯も飲ませやがって。その前にも相当飲んでやがったんだ。当分起きねぇぞ」
料理長が呆れながら注文された料理を鉄板で焼く。
「もう、最近の若い子は・・・」
ミレイナはつまらなさそうに自分のジョッキを起き、メニューを手に取る。
「おっ、料理長!これ!」
メニューの1品を指差しで料理長へ見せる。
「ああ。持って来い」
料理長がウェイターをしているアイルーに指示するとそのアイルーは幾つも積まれた樽からワイングラスのようなものに注ぎ、慣れた足取りでミレイナの所まで持ってくる。
「ありがとう。はい、ソフィーちゃん」
受け取ったグラスをソフィーの前に置くミレイナ。
「わぁ。綺麗・・・」
グラスに注がれたドリンクは明るい黄色。見る人によっては金に光っているように見えるかもしれない。
「スターブランデーっていう果物の飲み物よ。頑張ったソフィーちゃんへ、私からのご褒美よ」
「えっ!本当ですか!?えへへ。ありがとうございますっ」
ニコニコしながらグラスを持つソフィー。余程ドリンクの見た目に気に入ったのか、飲もうとせずに眺めるだけだ。
すると、後ろから明るい声が聞こえてきた。
「お姉様、お隣よろしいですか?」
「あら、シェリー!珍しいじゃないの!」
ミレイナが振り向くとそこには彼女たちの受付嬢兼同居人のシェリーが受付嬢の制服のまま立っていた。
「今、マイラさんがソフィーのお部屋を用意してますし、クリスタルさんもお手伝いしてますから遊び相手もいなくて。なのでお姉様とご一緒しようかと」
「さっすがシェリー!ほら!座りなさい!」
隣の空いた椅子をバンバン叩きながら隣に座るように言うミレイナの言葉でシェリーは綺麗な動作で腰掛ける。
「マスター、レウスウイスキーを1つ」
シェリーが注文をするとマスターはやめろ、と呟きグラスにドリンクを注ぐ。どうやら注文も落ち着き始めたからか、そちらにまで出回り始めたようだ。
「そういえばソフィーちゃんが家の空き部屋で暮らすことになってたわね。忘れちゃってた」
「お姉様が言ったんですよ?」
ソフィーがミレイナのマイハウスで暮らすという話は随分前に出ていたのだが、ゾラ・マグダラオスの捕獲作戦や古代竜人の試練などでバタバタしており、全く進んでいなかった。
狩猟依頼などが一段落ついた今のタイミングがベストだった。
「シェリーも手伝えば良かったんじゃないの?」
シェリーから見てミレイナの後ろからひょこっ、と現れ、シェリーの隣の椅子に座ったソフィーが素朴な疑問をする。
そのタイミングでシェリーの注文したドリンクが彼女の前に置かれ、グラスを片手に持つ。
「マイラさんはこだわる方なので邪魔しないのが1番です。クリスタルさんはマイラさんのことをよく分かってるので問題ありません」
「ふーん。確かにそうかも」
「ところで、ソフィー。それは飲まないんですか?それに立ったままですよ」
シェリーに指摘され、手に持っていたグラスへ視線を落とすソフィー。
「あ、忘れてた。それにとっても綺麗だから飲むのが勿体ないなって」
「はぁ・・・?」
シェリーの反応に首を傾げるソフィー。
「まあ、いいです。そういえば貴女とこうして食事をするのは初めてですね。どうです?」
グラスをソフィーの前に少し突き出す。
それを見て彼女はぱぁっ、と笑顔を浮かべると、シェリーの隣の椅子に腰掛ける。
「うん!それじゃあ!」
「乾杯」
「カンパーイ!」
グラスがぶつかり、気持ちのいいカン、という音が静かに鳴る。
「いいわね、ああいうの。料理長もそう思うでしょ?」
何杯目かも分からないビールを飲み干したミレイナは空になった彼女のジョッキにビールを注ぐ料理長に声をかける。
「嫌いじゃないな。だが、そんな言葉が出てくるあたりお前も歳だな」
「うるさいわね。どうせ私は行き遅れたアラサーよ。それで、どう?料理長」
並々にビールが注がれたジョッキを料理長に向ける。
「営業時間中だ」
ふいっ、と背を向け、調理に戻って行った。
「何よー。ほら!フレッドくん!」
「も、もう・・・無理だから・・・」
「みんな連れないの・・・」
またビールを流し込むように飲むミレイナの隣でレウスウイスキーを半分ほど飲んだシェリーがふぅっ、と息を吐いていた。
「あら、珍しく顔が赤いじゃない。自分で言って恥ずかしくなった?」
「お姉様、からかわないでください。さっきのようなことは柄じゃありません」
「そう?私は好きよ?」
「・・・お姉様が仰って下さるのならたまにはいいかもしれません」
「それに、ソフィーちゃんと仲良くなれて嬉しいんでしょ?」
「なっ!?」
ずいっ、と顔を近づけてきたミレイナにシェリーは驚く。
「べ、べつにそんなのじゃありません!ただの業務です!業務!」
「照れちゃってー。可愛い」
照れを隠そうとグラスに口をつけ、ミレイナと目を合わせないようにするシェリー。
そこでふと隣に座っているソフィーが一言も喋っていないことを思い出した。
どうせ彼女のことだ。ニマニマと笑って私を見ているに違いない、と思い、横目で見てみると。
「ちょっ!貴女、馬鹿ですか!?」
そこにはスターブランデーを一気飲みしようと奮闘中のソフィーがいた。
「ん?おぉ!ソフィーちゃんやるわね!私も負けてられないじゃない!」
ぐっー!とジョッキをを傾け一気飲みするミレイナ。完全に酔っ払いの行動だ。
「お姉様も変なことやらないでください!ソフィー!それはそうやって飲むものじゃないですよ!」
ソフィーの肩を持ち、必死に止めるシェリーだが、彼女は静止を全く受け入れようとしない。
あれよあれよとドリンクは減っていき、ソフィーは飲み干してしまった。
「・・・ぷはっ・・・。ふぁっ、ほぇ・・・」
「ソフィー!ソフィー!?」
ソフィーの顔は真っ赤で目の焦点も合っていない。
「大丈夫ですか!?ソフィー!?」
「ふにゃぁ・・・。しぇ・・・り・・・」
「ソフィー!!??」
前のめりで机に倒れてしまった。
「ソフィーちゃん、お酒も飲んだことみたいだったしねぇ」
「なのにあんな強いお酒を飲ませたんですか!?」
「だってー。一気飲みするなんて思わなかったもの」
スターブランデーはワインの1種でアルコール度数40%を超える。
そんなものを酒になれていない者が飲めばソフィーのようになるのは当然だ。恐らくいつもビールを一気飲みするミレイナの真似をしたようだが、酒の種類が違いすぎる。
「まぁまぁ、寝かせてたらいいわよ。それより、今日は付き合ってもらうわよ、・・・と思ったけどそうはいかないようね。なんの御用かしら?リーダー?」
振り向かずに調査班リーダーの名を呼ぶ。
「すまないな、団欒中に。総司令からのお呼び出しだ。来て貰えるか?」
ミレイナたちの後ろにはリーダーが立っていた。
「ええ、行きます。一層の会議スペースですよね」
「ああ」
彼は特に何も言わず食事所を去っていく。
「はぁ、ごめんねシェリー。ちょっと行ってくるわ」
「いいえ。お気になさらず。私はお姉様がお望みならば何時でも参ります!」
「うん。ありがとう」
ジョッキに残ったビールを飲み干し、ミレイナは立ち上がる。
「料理長ご馳走様!これお代ね。足りなかったらまた払いに来るわ。シェリーたちの分もあるからまだ飲み食いしてていいわよ」
返事も聞かず千鳥足で食事所を後にし、会議スペースまで向かう。
フラフラと歩き、会議スペースに到着すると総司令、それぞれの班のリーダー、ソードマスターたちが神妙な顔をしていた。
「あー、これ。酔っ払いの来る場所じゃないんじゃないんですか?」
頬を掻き、苦笑いを浮かべるミレイナ。
「問題ない。君の意見を聞きたいと思ってな」
総司令が笑みを浮かべる。それにつられるように他のリーダーたちも笑っている。
「まあ、いいですけど・・・。どれどれ」
ミレイナは大机に広げられた地図や書類に目を通していく。
「なるほど。マグダラオスの進行ルートの地脈回廊に前回同様の防壁を設置。回廊内の岩を爆薬で破壊し、確実にダメージを与えていく、と。で、討伐してしまったら大爆発しちゃうからそうなる前に海に追い返そうという事ですか」
「その通りだ。何か質問はあるか?」
「物資は?」
「本土のギルド本部へ依頼すれば問題はないだろう。ここは本部にとっても重要な地点だ。ゾラ・マグダラオスに対しては何かと融通が効く」
「だったら撃龍船の手配も。それに物資も積めばいい。それに私の名前を出して、新大陸が爆発することを報告すれば二つ返事で送るはずです」
「撃龍船?」
聞きなれない単語に調査班リーダーが聞き返す。
「大砂漠のジエン・モーラン、厄海のグラン・ミラオスを撃退、討伐に使用した対大型古龍用の船です。必ず役に立ちます」
「他に付け足すことは?」
「そうですね・・・。・・・ネルギガンテがまた現れると思います。その時は全ハンターへゾラ・マグダラオスから離れるよう伝えてください。私が、私たちがアイツを引き受けます。では」
それだけ言うとミレイナは会議スペースを後にした。
ゾラ・マグダラオスを巡る戦いも終わりに近づいているのかもしれない。