ゾラ・マグダラオス撃退戦への準備が刻々と進んでいく中、ミレイナたちのマイハウスのポストにある一通の手紙が届いており、それに気づいたマイラがミレイナの元に持ってきた。
「ご主人様、こんなのが届いてたニャ」
「ありがとう」
ミレイナは手紙を受け取り、差出人を見る。
「送り主は陸珊瑚の研究室からか。私とソフィーちゃん宛にねぇ」
封を開け、内容を読んでいく。
「これはヤバいかも・・・。ソフィーちゃん!」
「はーい!」
つい先日から同居することになったソフィーの返事は庭から聞こえてきた。どうやら庭に放して飼っている、各地で捕まえた環境生物と戯れていたようだ。
「『陸珊瑚の台地』に行くわよ。研究室から直接手紙が届いたから相当ヤバいかも。これ、読んでおいて」
「は、はい!」
ミレイナはソフィーに手紙を渡すと自室に入り、準備を始めた。
おどおどしながらソフィーは手紙に目を通し始め、ぎょっ、とする。
「これって古龍・・・?」
場所は変わって『陸珊瑚の台地』の上層エリアのベースキャンプ。普段ならば美しい珊瑚と青空を見ることができるのだが、この日の空は黒い雲がかかり、異様な雰囲気を漂わせていた。
ミレイナはいつも通りの『キリンXシリーズ』と大剣『輝煌剣リオレウス』を、ソフィーはおろしたての『ガロンシリーズ』と太刀『鉄刀【禊】Ⅱ』を装備していた。
「さて、3期団の人たちの話を聞く限りこの場所でめっきりモンスターの姿を見なくなった、て話ね。十中八九古龍が現れた、って考えてよさそうね」
「はい・・・。この場所で古龍が現れたなんて記録はないですけど」
「ゾラ・マグダラオスの活動で異常が起きてると思いますニャ。他の場所でも古龍の目覚めは連鎖していくというのはよくあることニャので。ワタシたちも何度か巻き込まれましたニャ」
マイラがソフィーに自分たちが経験してきたことを伝える。
「とにかく何か『痕跡』を探しましょう。近くに何かあるはずよ」
ミレイナの提案に一同は頷く。
フィールドに出てみたが報告にあった通り、モンスターの姿は全く見当たらず、目に映るのは珊瑚と砂のみだ。普段ならこのエリアにはガジャブーが屯しているのだが1匹も外に出ていない。
しかし、この状況をプラスと捉えるならモンスターの妨害がなく、未知のモンスターの『痕跡』をじっくり探すことができる。
「手がかり無し、か・・・。うーん、ある程度目星は付けてきたんだけど。ここじゃないのかしら」
顎に手を当てながら他の候補地を考えるミレイナ。
「それも分からないですニャ。そもそもどんな奴がいるかすら・・・。ニャ?」
「どうかした?」
お手上げ状態だったマイラがふと後ろを振り向く。その視線の先にいたのはしゃがみこんで何かを見つめるソフィーとクリスタルだった。
「何か見つけたの?」
ソフィーたちの後ろに立ち、その視線の先を見てみると何かの小さな足跡がそこにあった。
「蹄、でしょうか?」
「この足跡ってアイツじゃないかニャ?」
ソフィーとクリスタルがミレイナへ振り向きながら聞く。
「ええ、そうね。感が当たったかも。きっと―」
ミレイナがモンスターの名前を言おうとした瞬間、激しい轟音と共に雷が落ちた。しかも彼女たちの真後ろに。
恐る恐る振り向くとそこには馬によく似た体躯だが、その大きさは馬より遥かに大きい。全身は銀に輝いており、真っ白な鬣には青い光を纏っていた。その中でも最も目を引くのは頭部に生えた蒼く美しい1本角。
そこにはミレイナの纏う防具の元となっている、幻とまで言われるほど目撃例の少ない古龍キリンが佇んでいた。
「綺麗・・・」
初めて生で見るキリンの神々しさに見とれるソフィー。対してキリンはソフィーを一瞥した後にミレイナを見つめる。
「・・・来る・・・!」
ヒヒィィィィィィィィン!!
キリンは後脚だけで立ち上がり、馬の鳴き声に似た雄叫びを上げると同時に自身の周辺に雷が数本落ちる。
それが回戦の合図となり、ミレイナたち4人は一斉に散る。
「いい!ソフィーちゃん!角を狙いなさい!後、とにかく動き回って!立ち止まらないことよ!」
「は、はい!」
全員がそれぞれキリンの正面に入らないように距離を詰めようと走る。
キリンがまず標的にしたのは1番近くにいたミレイナ。彼女へ向かって頭を下げ、角を突き刺すように一直線に突進する。その速度はこれまで戦ってきたモンスターの誰よりも速い。
「余裕!」
突進を走って避け、距離を詰める。キリンが方向転換と共に立ち止まり、振り向く瞬間にミレイナの溜め斬りがキリンの頭を捉える。この程度では全く怯む様子はなく、ミレイナはすれ違うように前方へローリングし、キリンの後方へ離れる。
「クリス!」
「おうニャ!」
ミレイナの呼びかけが来るのが分かっていたかのようにクリスタルが続けざまにキリンの角へ斬撃を浴びせる。
それを鬱陶しく感じたのか、キリンは頭を振り、クリスタルを追い払おうとする。
「ふん、そんなのには当たらないニャ」
ヒヒィイイイイン!!
キリンのけたたましい声と同時にクリスタルがいた場所へ雷が数本落ちる。
「あっぶニャ!?」
声に反応し、咄嗟に移動していたクリスタルは雷に当たることはなかったが、直前までいた地面は真っ黒に焦げ、煙を上げていた。
「クリス!あんまり調子に乗るんじゃないわよ!」
いつの間にか距離を詰めていたミレイナが溜め斬りでキリンの頭を捉え、クリーンヒットさせる。
斬りつけると同時に火属性の爆発が起きるが、キリンはビクともしない。
「やぁああああああああ!!」
続け様にソフィーの太刀の連撃。これにも反応を示さないキリンはソフィーを追い払うかのように自身の周辺へ雷をいくつか落とす。
「わっ・・・!危ない・・・!」
これまで培ってきた経験と感で間一髪落雷を回避したソフィー。
「これならどう!?」
キリンの目がソフィーに向いている間にミレイナは限界まで力を溜めた真・溜め斬りを繰り出す。
これまでにない火属性の激しい爆発が巻き起こり、爆風でミレイナの髪がなびく。
ヒィイン!!?
キリンは苦しむような鳴き声を上げ、その場で怯む。しかし、それがキリンの堪忍袋の緒を切ってしまった。荒い鼻息を吐きながら銀の体毛からバチバチと白い火花を発し始めた。
「さ、ここからもっと楽しくなるわよ」
「笑ってる場合じゃないですよ!って、わぁっ!!??」
全く別の位置にいる4人に対し、雷を放つキリン。何とか雷を避け、キリンへ近づこうとするが、先程に比べて走る速度と独特なステップの速度が目に見えて上がっており、近づくことを許してくれない。
「速いわね・・・。でもっ!」
キリンの突撃を紙一重で避けたミレイナは上手くキリンの背後をとる。
「ふん!!!!」
キリンが振り向くのに合わせた渾身の抜刀溜め斬り。だが、キリンは怯んだ様子を見せず、目の前のミレイナを角で薙ぎ払う。
「うぐっ!?」
キリンの角がミレイナの脇腹を捉え、その方向へ彼女の体は吹き飛び、地面を転がる。
「ご主人!?」
彼女の比較的近くにいたクリスタルがミレイナを案じ、駆け寄る。
「マイラさん!」
「分かりましたニャ!」
吹き飛ばされたミレイナをカバーするためにソフィーとマイラがキリンの注意を引くための行動を起こす。
マイラは『はげましの楽器』で補助。ソフィーは拾っていた『石ころ』をスリンガーに装填し、キリンの頭に当てることで視線を誘導する。
「こっちを向いた!」
頭に当たった『石ころ』が癇に障ったのか、キリンはソフィーをじろっ、と睨む。
「どう来る・・・」
身構えるソフィーとは反対にキリン落ち着いた様子で静かに横方向へ歩きながら頭を下げる。
「な、何もしない・・・?」
しかし、この状況でそれはありえない、と思ったソフィーは今の状況を確認する。
(角が光ってる。・・・他には聞いたことも無い音。例えるとするなら空気が鳴るような微かに高い音・・・。肌が電気を感じて少しむず痒いかも・・・。それに目の前がやけに眩しく、目を瞑ってしまいそう・・・。あれ?キリンが頭を振りそう・・・)
ソフィーが出した結論は。
「・・・!マイラさん!!」
「ニャッ!?」
隣で楽器を奏でていたマイラを抱き込むようにその場から跳ぶソフィー。
その瞬間何か鋭いものが2人の居た場所の空気を裂き、暴風が起きてから雷の音が3度、遅れて聞こえてきた。
どうやらキリンは雷を操り、ソフィー目掛け、水平に放ったようだ。
「あ、危なかった・・・」
「た、助かりましたニャ、ソフィーさん・・・」
起き上がり、キリンのいた方を確認するが奴の姿はない。どうやら移動したようだ。
「良かったわ、何事もなくて。あんな攻撃方法初めて見た」
『回復薬』の入った瓶を飲みながらミレイナがソフィーの元へ歩いてくる。その後ろには同じように水筒を飲むクリスタルが彼女の後を着いてきていた。
「先生も知らないなんてことがあるんですか?」
「そりゃ、この『新大陸』特有の個体がいるんだもの。『現大陸』にいるモンスターでも動きが違うなんてあってもおかしくないでしょ?」
「確かに・・・」
「さあ、追うわよ。アイツが居たんじゃここ一帯が雷で黒焦げになっちゃうわ」
今までミレイナたちがいたエリアから少し下層の『回復ミツムシ』たちが飛び回る見晴らしの良いエリアに移動した彼女たち。そのエリアの中央にキリンは佇んでいた。
高所から飛び降り、ミレイナはキリンとの距離を一気に詰めようとするが、すぐさま彼女に気づいたキリンが凄まじいスピードで走ってきた。
「それを・・・」
ミレイナもスピードを落とすことなく走り、相対的に距離が縮まってくる。
「うらぁっ!!」
目の前の段差を使い、宙に跳ぶミレイナ。飛ぶと同時に大剣を抜き、刃がキリンの角へぶつかる。
「とった!」
僅かに怯んだキリンの隙をミレイナが見逃すはずもなく、キリンの背に乗る。
背に乗った敵を振り落とそうとキリンは暴れるが、ミレイナは衝撃をいなし、剥ぎ取り用のナイフで何度もキリンを突き刺し、体力を奪っていく。
自らが傷を負うのも厭わないようで、キリンは壁に自分の体ごとぶつけ、ミレイナを振り落とそうとする。
「あっぶないわね!」
キリンの背から頭の方へ飛び移り、衝突を避けるミレイナ。そしてキリンは今ぶつかった壁からの衝撃が強かったのか、大きくのけぞり、その場に足を止める。
「このっ!!」
ミレイナは『輝煌剣リオレウス』を抜刀。力を溜め始める。そのタイミングでようやく追いついた3人もそれぞれキリンへダメージを与えていく。
「っせぇいっ!!」
勢いよく振り下ろした大剣がキリンの額を引き裂く。そのまま頭を砕こうと力を込め続けるがキリンが動き出すと判断したミレイナは武器を背負投のような動作で強引に引き抜き、キリンから飛び降りる。その軌跡を描くようにキリンの頭からは鮮血が散り、キリンがその場へ転倒する。
「みんなお願い!」
キリンから飛び降りるも、いくらかの距離が離れたミレイナはソフィーたちへ追撃の指示を出す。
ソフィーたち3人はそれぞれキリンの頭を集中して攻撃する。遅れてミレイナもキリンの攻撃に加わるが、程なくしてキリンは起き上がってしまう。
キリンは全員を1度睨むとその場で力を溜めるような素振りを見せると同時に雷がキリンへと集まっていく。
「まずい!離れて!」
その瞬間、キリンに大きな雷が降り注ぐ。
ミレイナの声が届いたソフィーたち3人は咄嗟にキリンから離れたことでなんとか直撃を免れたが、体に若干の痺れを感じる。それほどの電気量だ。
そして、目の前に落ちた雷の中から現れたのは全身を青白く輝かせながら、大量の雷を帯電させ、鬣を逆立たせたキリンだ。その神々しく、恐ろしくも感じる姿にソフィーは言葉を無くしていた。
「これが古龍の力・・・?」
「そう、これが古龍。私たちの常識なんて通用しな―、ってきゃあ!?」
ソフィーの漏れた呟きにやや離れた位置からミレイナが答えた瞬間、キリンはミレイナに向かって突進する。
間一髪でミレイナはそれを避け、距離を取る。
「行きます!」
丁度近くで立ち止まったキリンへソフィーが仕掛ける。
走っている勢いを乗せた抜刀縦斬りはキリンの角へ命中し、ソフィーは次の一撃を打ち込もうともう一度太刀を振るう。だが。
ガン!
「か、硬い・・・!」
キリンが少し前進したせいで頭から首の根元に狙いがズレたソフィーの攻撃は硬い金属音を鳴らし、弾かれてしまった。
「なんで?さっきは確かに斬れたのに・・・!」
衝撃を感じた方向へキリンが頭を向けると、ソフィーと視線が合う。その角は輝きを強くしていた。
「まずい!?」
慌てて武器をしまい、後ろに向かって走るソフィー。そしてキリンが短く鳴いた声を聞いて思いっきり跳び、緊急回避を行った。
その瞬間凄まじまい轟音と共に太い雷の柱がソフィーの真後ろに落ちた。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
起き上がれもせず、倒れたまま荒く息を吐き続けながらキリンへ体を向ける。
(あ、危なかった・・・。死んでた・・・。一瞬気づくのが遅れてたら黒焦げとかじゃ済んでない・・・。一瞬で消し飛んでた・・・。・・・これが古龍・・・)
雷が落ちた場所は地面を深くえぐり、その地点は真っ黒に焦げ、黒煙が上がっていた。もし、その場に自分の体があったならどうなっていたかは容易に想像がつく。
紙一重で回避した死を目の前に恐怖し、動けず、体を震わせていた。
「はぁああああああ!!」
倒れているソフィーの前にミレイナが立ち塞がり、キリンの頭へ一撃を与える。
それでキリンの敵視はミレイナに向き、彼女は誘導を開始する。
「マイラとクリスはソフィーちゃんを後ろへ!私が!」
ミレイナの指示が飛ぶとすぐさまオトモの2人が動けないでいたソフィーの元へ駆け寄る。
「ソフィー!立てるニャ!?」
「・・・は、はい・・・。あ、あれ・・・、足に力が入らない・・・」
「腰が抜けてるみたいニャ。クリス!」
「分かったニャ」
マイラとクリスタルが2人でソフィーの両肩を持ち上げ、引きずりながら歩く。
「ごめんなさい・・・。また・・・。また、足を・・・。足を引っ張って・・・。迷惑かけて・・・」
「気にしないでくださいニャ。ソフィーさんは古龍と真正面から戦うのは初めてだから仕方ないのですニャ」
「ぅくっ・・・。ごめん、なさい・・・。ごめんなさい・・・」
「泣くんじゃないニャ。立ち向かっていけるだけ上出来ニャ。今はボクとマイラが近くにいるニャ。あそこの言わ陰に隠れて落ち着くのが最初ニャ」
(よし、だいぶ皆とは引き離すことができた)
キリンと対面に向き合いながらチラッ、と見てミレイナは3人が十分離れたことを確認する。
大剣を納刀し、キリンの出方をうかがいながらジリジリと距離を縮めていく。
その場でキリンは前脚で地面を何度か蹴る。
「来る。・・・って、あれ・・・」
キリンは颯爽と駆け出し、珊瑚の丘を駆け上って行った。
ミレイナはそれを追おうとせず、ただ見送る。
「・・・良かった・・・。・・・ソフィーちゃん!マイラ!クリス!どこ!?」
付近を走り回りながら名前を呼びながら3人を探す。
「こっちですニャ!ご主人様!」
ひょこっ、と岩陰から顔を出したマイラがミレイナを呼ぶ。
「マイラ!ソフィーちゃんは!?」
「体は大丈夫ニャのですが・・・」
言葉を濁すマイラ。その言葉に不安を覚えながらソフィーの元に向かう。
「ソフィーちゃん・・・」
「せ、んせい・・・」
ミレイナが見たソフィーは膝を抱え込んで座り、体を震わせていた。そして目は挙動不審に動いて焦点も合っていないように見える。
「・・・怖かったわね」
「同情は、やめてください・・・」
「同情じゃないわ」
「・・・・・・」
「相手は古龍だもの。ましてやソフィーちゃんは初めて真正面から対峙した。仕方の無いことよ」
「・・・でも・・・、もしかしたら私、死―」
「もう・・・。はい、これ」
「え?」
ミレイナがポーチから取り出したのは焼いた肉だ。ソフィーと顔の高さを合わせるためにしゃがみ、目の前に差し出す。
「ツマミのつもりで持ってきてたんだけど、ソフィーちゃんにあげるわ」
「・・・食欲なんか、沸かないです・・・」
「いいから食べなさい」
「もがっ」
無理やり口へ押し込むミレイナ。
「噛んで。・・・呑んで。どう?」
「・・・んっ・・・。美味しい、です」
「他は?」
「・・・温かいです・・・」
「ソフィーちゃんはそれを感じることは好き?」
「嫌いじゃないです・・・」
「もう、不貞腐れちゃって。でもそれはね、生きてる証なの。ソフィーちゃんが生きてるって証拠なのよ」
ソフィーの頭を撫でながらミレイナは優しく語りかける。
「・・・っうぅ・・・」
ソフィーは膝に顔を埋め、声を殺して泣き始めてしまった。
「あらら。悪いけどみんなはキャンプでシェリーと待機。その間に私がケリをつけてくるわ」
返事を待たずにミレイナは『導虫』に従い、キリンを追う。
「この感じだと頂上かしら・・・」
スリンガーから射出できるアンカーをいたる所に止まっている『楔虫』へ絡めながら、台地の高低差をものとせずに登っていく。
「よっ、と・・・」
珊瑚の丘の頂上。
そこはまるで決闘場のように逃げ場もなく、段差もない平地だ。キリンは体の輝きを増して、ミレイナがやってくるのが分かっていたかのように待ち構えていた。
「かかって来なさい」
キリンは鳴き声をあげ、前足を振り上げる。落雷と同時に両者が正面から対峙した。
「くっそ・・・。やっぱり古龍って奴らは桁違いね・・・」
幾度となく降り注ぐ落雷を避け、何度も頭にその瞬間の最高の攻撃を当て、ダウンさせてもキリンは真向からミレイナへ襲いかかってくる。
(アイテムも残り少ない、これじゃあ・・・。・・・ジリ貧ね)
キリンの突進を真横にローリングし避け、起き上がりと同時に『怪力の種』を齧る。
「なっ!!?」
キリンが走り去った方向へ振り返った瞬間に奴はミレイナの目の前にまで戻ってきていた。
「はっ、速っ・・・!?」
キリンは頭を下げ、勢いよく突き上げる。
「くぅ・・・!!」
反射的に大剣を盾にし、角を受け止めるが衝撃でミレイナの体が後退する。
「コノヤロウ!」
下から上に『輝煌剣リオレウス』をかち上げるように振り上げる。それはキリンの下顎を斬りつけ、キリンが怯み動きを止めた。
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
前ローリングでキリンの頭の目の前に位置をとり、洗練された動作で真・溜め斬りまで角へ叩き込む。
「まだダメなの!?」
まだキリンを打ち倒すことはできず、声を荒らげるミレイナ。その動揺が隙を生み出し、落雷がミレイナへ直撃する。
「ガハッ・・・!?」
真上からの衝撃でミレイナの体は地面へ叩きつけられてしまう。
キリンはそれ以上の追撃をしようとせず、倒れたミレイナをただ見ているだけだ。
倒れたまま動かないミレイナの防具から煙が上がり、焦げた匂いがする。
その場は完全に静寂が支配していた。
・・・・・・。
キリンは動かなくなった標的を後目に立ち去ろうと踵を返し、歩みだそうとするが1歩目を踏み出す瞬間に動きを止め、ミレイナの方へ目を向けた。
ピクッ・・・。
倒れていたミレイナの指が動く。
「・・・ぅぐっ・・・」
(視界が少しボヤけてる・・・。立てるなら関係ないわ・・・)
両腕に力を込め、上半身を起き上がらせる。
「ゲホッ・・・!ゲホッ・・・!・・・あー・・・、効いたわ・・・。アナタの仲間の防具じゃなかったら今頃死んでたわよ・・・」
フラフラと立ち上がるミレイナ。
キリンは立ち上がった敵に対して威嚇するように鳴き声をあげる。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
足元に落ちていた自分の武器を拾い上げ、構える。
キリンはミレイナの目の前まで走り寄り、角を突き上げるが、それを見切ったミレイナは横へ転がり、回避と同時にその勢いを乗せ、真横へ大剣を薙ぎ払う。
その刃はキリンの角を的確に捉え、ピシッ、とキリンの角がひび割れるような音が聞こえた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
哮りと共にギロチンのように振り下ろされる溜め斬りが角の根元へ勢いよく食い込み、パキン、という気持ちの良い音を鳴らし叩き折った。折れた角は宙を舞う。
大剣の刃はそのままキリンの鼻梁を捉え、それをキリンは受け止めた。
「あああああああああああああああ!!!!」
さらに声を荒らげ、力を込める。
(このまま、頭を潰す・・・!)
メキメキ、と軋む音が微かに聞こえ始め、キリンが抵抗する力が弱まってきているのが分かる。
「はぁあああああああああああああああああ!!!!」
ついにキリンは抑えきれなくなり、頭から地面へ叩きつけられ、さらに潰そうとする。血飛沫が上がり、それを顔面に浴びる。
悲鳴をあげるキリン。
尚も力を込め続けるミレイナ。
そして・・・。
この戦いで起きたものとは比にならないほど巨大な雷がキリンを中心に落ちた。
数分前。
ベースキャンプに何とか戻ったソフィーたち3人はシェリーと合流。ソフィーは落ち着きを取り戻した後、ミレイナの言葉を守らず、『導虫』を追い、キリンの元へ向かっていた。
そこには『シーカーシリーズ』という探索用の防具を身につけたシェリーの姿もあった。
「シェリーまで来る必要はなかったんじゃないの?」
「また貴女がうじうじしてたら1発平手打ちで立ち直らせるためです」
「あ、あはは・・・」
「それに、嫌な感じがするんです」
「嫌な予感?」
「はい・・・。言葉には表せませんがね・・・」
シェリーの雰囲気にソフィーは黙り込んでしまい、無言のまま『導虫』を追っていく。
「よいしょ、っと」
ソフィーが『楔虫』からアンカーを外し、先に着地。すぐにシェリーも近くに近くに着地するが、バランスを崩し、転びそうになる。
「おっと、大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
「ニャハハ!シェリーはもっと運動した方がいいニャー」
「ば、バカにして・・・!」
クリスタルがケラケラ笑うその後ろから影が急に接近し、それはクリスタルの真後ろに荒々しく着地した。
「な、なに・・・。あれ・・・」
「嘘・・・」
それは漆黒の毛の巨大な猿のようなモンスター。
異常なまでに発達した両腕と頭から生える対の剛角が目を引く。
それはじっ、とソフィーたちを睨み、今にも襲いかかってきそうだ。
「シェリー!下がって!」
ソフィーはシェリーの前に立ち、背中の『鉄刀【禊】Ⅱ』に手を伸ばすがその腕をシェリーが掴み、止める。
「な、何してるの!?危ないから!」
「逃げましょう・・・。アイツは無理です・・・」
「何言ってるの?古龍じゃないと思うし、マイラさんとクリスさんもいれば・・・」
「ソフィーさん、ワタシもシェリーさんに従うニャ・・・」
「そうだニャ。警戒しているけど敵視はされてないニャ。今のうちだニャ」
「な、なんでそんな逃げ腰なんですか・・・」
いつもと違う皆の様子に戸惑うソフィー。
「いいから逃げますよ!例えここにお姉様がいても討伐できるかどうか・・・」
「・・・また・・・・・・い・・・、・・・・・・し・・・て・・・」
「ソフィー・・・?」
ギリッ、とソフィーが歯ぎしりをした音が微かに聞こえた。
「じゃあ、シェリーたちは逃げてよ。私が足止めする」
シェリーの腕を振り払い、ソフィーは前に歩き出す。
「ば、バカ・・・!あれはラ―」
だが、その瞬間、眩い光が走り抜け、地面を揺らし、遅れて雷の音が上空から鳴り響いた。
「今度はなんですか!?」
その音を聞いたモンスターは空を見上げ、何かを追うように視線を動かす。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
耳をつんざくような雄叫びをあげ、遥か彼方へ跳んで行った。
「なんだったの・・・」
ソフィーはモンスターが跳んで行った方向を呆然としながら見つめる。
「ソフィー!!」
「あ、シェ―」
ソフィーが振り向いた瞬間、彼女の頬に鋭い痛みが走る。
(シェリーに、殴られた・・・?)
「貴女、いくらなんでも無謀です!確かにあれは古龍じゃありません!ですが、あれはその凶暴さゆえに古龍級生物に認定されているラージャンですよ!さっき死に目にあってべそかいていた貴女じゃ即死です!」
「・・・・・・」
「ソフィー!!」
「・・・・・・ごめん」
「・・・いきなりすみせんでした。私もパニックだったので・・・。とにかくお姉様の元へ。恐らく今の音はお姉様とキリンです。急いでいきましょう」
「・・・うん」
シェリーを先頭にマイラとクリスタルが着いていく。少し遅れてソフィーがゆっくり歩き出す。
「このままじゃダメなのに・・・。私だって・・・」
「お姉様!」
「先生!」
「ご主人様!」
「ご主人!」
頂上に到着した4人が目にしたのは煙が立ち込める平地に武器も足元に落とし、立ち尽くすミレイナの姿だけだった。
ミレイナは首だけ動かして4人の方を見る。
「・・・全く・・・。待ってなさい、って言ったのに・・・」
そして彼女の体から力が抜け、その場に倒れ込む。
意識はあります!全身、火傷が酷いです!急いでキャンプに!
ご主人様!しっかりしてくださいニャ!
先生!先生!!
ご主人!気張るニャ!
あまり動かさないでください!マイラさんは―
ミレイナの意識は途切れた。
最近モンスターの設定や生態を見るのにハマってていろいろ話したい所存。キャラを使って解説や考察とかしてみたいですね。