荒れた地面。
草木は茂ってはいるものの『古代樹の森』とは違う、乾燥地特有の成長をしたものだ。
付近にはドロドロとした質感の沼。
ここは『大蟻塚の荒地』と呼ばれる乾燥地。
この地でミレイナたちは1頭の大型モンスターと見合っていた。
翠の鱗と甲殻。
大きな翼と強靭な脚。
その姿は伝記なので見かける竜そのもの。
それは陸の女王の名を冠する飛竜種のモンスター、リオレイア。
「せ、先生・・・」
「どうしたの?」
不安げな声を出すソフィー。
「私たち、キャンプの設営に来たんですよね?」
「そうね」
「なんでこんなことになってるんですか!?」
リオレイアと対峙する2人の後ろには土砂竜ボルボロスも現れていた。
「ご主人と狩りに出かける時はよくあることニャ」
クリスタルは呑気に呟く。
「そうね。よくあるわ」
「あるあるニャ」
「キャンプ設営の邪魔になるから狩っておくわよ」
「えぇ・・・。もう!」
ソフィーは半場ヤケになりながらトビカガチの素材から作り上げた『パルサーショーテル』を構える。
「いいわね。やる気じゃない。じゃあ、行くわよ!」
ミレイナも背中に担いだ『召雷剣【麒麟帝】』に手を添え、リオレイアへ走る。
「ソフィーちゃんとクリスもリオレイアに!マイラはサポートをお願い!」
「「了解ニャ!」」
クリスタルはミレイナの後ろについて走っていく。
一方、マイラが取り出したのは大きな虫籠。
その虫籠は何やら光を放っている。
それをその場に設置する。
「えっ!?ボルボロスはどうするんですか!?」
ボルボロスに誰も向かって行かないことにソフィーは驚く。
大型モンスターが同じエリアに現れた場合、片方を追い払うか手分けして狩猟するのがセオリーなのだが、ミレイナはそんな気はないようだ。
「あんなの、気づいたら死んでるわよ」
「はぁ!?」
ソフィーはミレイナと共に狩りに出るようになって気づいたことがある。
ミレイナはかなりの血の気が多い。
まず、目に入った大型モンスターは片っ端から狩ろうとする。
瀕死に追い込まれ、逃げようとするモンスターを罠やアイテムを使って逃がさない。
挙句の果てにはモンスターの捕獲の依頼ですら、そのモンスターにトドメを刺そうとした時は冷や汗ものだった。
「ほら!ぼーっ、としてると危ないわよ!」
既に攻撃を始めているミレイナ。
クリスタルとマイラもリオレイアに取り付いている。
「うぅ・・・。もうどうとでもなれ!」
ソフィーも腹を括り、ミレイナの指示に従う。
「ふっ!!」
ミレイナは早速真・溜め斬りをリオレイアの頭に直撃させる。
その一撃はリオレイアの頭の鱗を砕き、大きな切疵を作り出す。
そこへソフィーの踏み込み気刃斬りも叩き込まれ、リオレイアは大きく仰け反る。
「ソフィーちゃん、後ろに避けなさい!」
ミレイナの声に反応し、ソフィーはその場から後方へローリングする。
すると、そこへ頭を下げ、自慢の頭部を突き出したボルボロスが勢いよく突進してきた。
「あ、危な・・・」
ソフィーの目の前を走り抜けるボルボロス。
被弾しなかったことに安堵し、ソフィーは2体のモンスターを見据える。
「先生!」
再び走り出すボルボロス。
そのボルボロスの進行方向にはミレイナがいる。
「大丈夫よ!」
どうやらミレイナはボルボロスが接近していたことに気づいていたようだ。
リオレイアの股下を潜るようにローリングし、リオレイアの後ろに回る。
激しい衝突音。
ボルボロスの突進はリオレイアの胴体に当たる。
ギャオオオオオオオオ!!
グオオオオオオオオオ!!
リオレイアは怒りの咆哮をあげる。
それに感化され、ボルボロスも咆哮をあげた。
2頭はミレイナたちを無視し、互いに争い始める。
その度に咆哮をあげ、ミレイナたちは耳を塞ぐ。
「ソフィーちゃん!」
なんとかその場を離脱したミレイナたちがソフィーに駆け寄る。
「普通こういうのって手分けするから逃げるかですよ!やっぱり危ないですって!」
「まあまあ。なかなか1人の癖が抜けなくてね。とにかく」
ミレイナは足元の程よい大きさの『石ころ』を拾い、スリンガーに装填する。
「ギャーギャーうるさい、あの2体にはお灸を据えないとね」
「ひっ!?」
ミレイナに怯えるソフィー。
口は笑っているが、目がすわって瞳には光を感じない。
「あー。キレてるニャ」
「ど、どうして・・・」
クリスタルはやれやれ、と言ったように手をあげる。
「ご主人様はモンスターが何回も咆哮をあげるのが嫌いニャ」
「・・・クリスさんとマイラさんはよく見るんですか?」
「見るニャ」
クリスタルとマイラは頷く。
「うるさいわよ」
「は、はい!」
ポン、と『石ころ』が飛んでいく。
ミレイナが撃ち出した『石ころ』はマイラが最初に設置していた虫籠に当たり、壊れる。
すると、虫籠は激しい閃光を放つ。
ゴオオ!?
ガアッ!?
その光で2体は視界を奪われる。
ミレイナが壊したのは以前、マイラとクリスタルの2人で『古代樹の森』を探索した際、そこに生息するテトルー一族に貰ったオトモ道具、『閃光虫かご』。
これをマイラが使っている。
「じゃあ、行くわよ。3人共」
「は、はい・・・」
ソフィーは少し声を震わせながら、前を行くミレイナについて行く。
すると、ミレイナはポーチから小さな木の実と丸薬を取り出した。
その2つはどちらも赤い。
「あっ。これはマジなやつニャ・・・」
「ちょっと離れてた方がいいかニャ?」
クリスタルとマイラは顔を引き攣らせる。
「あれって、『怪力の種』と『怪力の丸薬』?」
ソフィーは至って普通のアイテムに顔を引きつらせるオトモ2人に首を傾げる。
ミレイナはその2つを一気に噛み砕く。
そして、『鬼人薬グレート』で口の中の実と丸薬を流し込む。
「・・・っはぁー。すぐに叩き潰してやるわ」
ミレイナは小声で呟いたはずだが、その声はソフィーの耳にはっきり届いていた。
「本当に大丈夫なんですか!?あんな先生見たことないですよ!?」
ソフィーは狼狽えながら、クリスタルとマイラに訴えかける。
「ああなったのって前はいつだったかニャ?」
クリスタルは足を止め、マイラに話しかける。
「確か、ユクモ付近のティガレックス亜種以来な気がするニャ」
マイラはその場に立ち止まるどころか、腰を下ろす。
「あー。あれは凄かったニャ」
クリスタルもマイラと並んでその場に座り込む。
「ちょっ!?二人共何してるんですか!?」
完全にリラックスして、自分たちの『回復薬』が入った水筒を飲む2人。
その行動にソフィーは叫ばずにはいられなかった。
「いくら先生とはいえ、2頭を相手に」
グオォ・・・。
「するの・・・は・・・」
グギャァアアアア!?
ソフィーに聞こえるのはリオレイアとボルボロスの悲鳴。
ゆっくり振り返り、ミレイナの方を見ると、全身の泥が剥がれ落ち、尻尾が切られているボルボロス。
リオレイアは両翼がボロボロだ。
「あの時のご主人様には近寄らないのが身のためニャ。一緒に斬られそうになるのはもう勘弁ニャ」
マイラが近くのキノコや植物を採取しながら言う。
「・・・何でもいいや」
ソフィーはクリスタルと同じ所に腰を下ろし、行く末を見守ることにした。
2頭を相手に取るミレイナ。
リオレイアのほとんどの攻撃は足元に潜ることで避けることができる。
強靭な脚と翼を使い、毒を生成する尻尾を宙返りしながらぶつける、リオレイアの代名詞の尻尾サマーソルトも真横に転がり、的確に避ける。
宙に浮いたリオレイアへ容赦なく『閃光スリンガー弾』を撃ち出し、地面へ叩き落とすと、真・溜め斬りを叩き込む。
そこへボルボロスが飛び込んで来るのだが、リオレイアと同時に真・溜め斬りの餌食となり、ボルボロスの巨体は地に倒れる。
リオレイアが立ち上がり、咆哮をあげようとするが。
「うるっさいのよ!!」
真・溜め斬りを放った直後だったミレイナはローリングからリオレイアの喉元へ渾身のタックルを放つ。
ギャッ!?
数歩後ずさるリオレイア。
そのまま息を大きく吸い込み、高出力炎ブレスを吐き出す。
だがそれは地面を焦がすだけでリオレイアの標的には当たらなかった。
ブレスの隙に足元へ移動していたミレイナは抜刀斬りから、強・溜め斬りを繰り出す。
その2発を脚に当て、リオレイアはバランスを崩し、倒れる。
「おぉりゃあああああああ!!」
倒れたリオレイアの頭部へ渾身の真・溜め斬りの1段目が直撃する。
頭部の甲殻をバラバラに砕き、柔らかい肉を刃が刔る。
クォ・・・
『召雷剣【麒麟帝】』の雷の刃。
その雷がリオレイアの傷口を焼き、血は一滴も出ていない。
だが、肉が焦げる嫌な匂いが鼻につく。
「せぇええええい!!」
全体重を乗せた一撃。
その一撃はリオレイアの頭部内を深く抉り、鮮血を撒き散らす。
リオレイアはその場で動かなくなった。
「ふん・・・」
ミレイナは『召雷剣【麒麟帝】』を地面に突き刺し、手をはたく。
『キリンXシリーズ』の純白が鮮血でところどころ赤く滲んでいる。
「3人共ー。帰るわよ」
「ボルボロスはいいんですか?」
ソフィーはいつの間にか逃げていったボルボロスのことを心配する。
「別にいいでしょ。あれだけこっぴどくやられたら仕返しにも来れないわよ」
「はぁ・・・」
「それより帰りましょう。後は技術班に任せるわよ。・・・お腹減ったし、シャワー浴びたいわ」
ミレイナは大剣を担ぎ、ベースキャンプまで歩き始める。
その後ろをクリスタルとマイラがトコトコと付いていく。
「めちゃくちゃだけど、やっぱり先生は凄いなぁ」
「ソフィーちゃん、置いていくわよー」
「あっ!待ってください!」
ソフィーも慌てて3人を追いかけるのだった。
ミレイナたちが拠点に戻ると何やら『アステラ』全体が騒がしくなっていた。
「何かあったのかしら?」
ミレイナはとりあえず近くにいた男性ハンターにこの状況を尋ねる。
「何かあったの?」
「ああ・・・。実はゾラ・マグダラオスの『痕跡』が見つかったんだ!」
「本当?」
「嘘なもんか。『古代樹の森』にヤツの落とした甲殻があったんだ。それを今、リーダーが取りに行っている」
「そうなのね。ありがとう」
ミレイナは礼を言うとソフィーたちに向き直る。
「とりあえず、総司令の元に行きましょう。そこで今後の動きを決めるわ」
「はいっ」
「「了解ニャ!」」
総司令の元へ行くと、来たか、とでも言いたそうな表情をした総司令が腕を組んで立っていた。
「来ると思っていたよ。皆を集めよう。ゾラ・マグダラオス捕獲作戦の会議を始める」
総司令の言葉にミレイナは眉を動かす。
「捕獲?待ってください。あんな巨大なものをどうやって・・・」
「この『アルテラ』の全てを持って挑む。あいつが帰ってきたら詳細を説明しよう。君も出席してくれ」
「・・・分かりました。行きましょう」
ソフィーたちに声をかけ、その場を後にする。
「1度解散ですか?」
「そうね。シャワーでも浴びてくるわ」
「私もそうします。では、また後で」
ソフィーは自分のマイルームへ行く。
彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、ミレイナたちも歩き始める。
「ワタシたちも先に行ってお風呂を沸かしておくニャ!」
「ありがとう、マイラ」
そう言うとマイラは走り出す。
その後ろをクリスタルが追いかける。
1人になったミレイナは空を見上げる。
「あんなに巨大でまだ調査不足の古龍を捕獲なんて・・・。無謀すぎる・・・」
誰もいない道でポツリ、とミレイナは呟いた。
調査班のリーダーが帰還し、会議が始まった。
各班のリーダー、副リーダーが招集されていた。
そして・・・。
「以上が内容だ。意見があるものは?」
誰も何も言わない。
どうやら皆賛成のようだ。
「よし。準備が整い次第決行だ。君たちに青き星の導きがあらんことを」
総司令の言葉で皆、血気盛んに作業に取り掛かっていく。
そんな中、ミレイナだけが浮かない顔をしていた。
「先生、何か引っかかるんですか?」
隣にいるソフィーが心配して声をかける。
「・・・普通、古龍っていうのはそこに現れただけで私たちに災厄をもたらすものよ。でもゾラ・マグダラオスは災厄をもたらした?」
「確かにそうですが・・・。災厄が起きない理由がこの『古龍渡り』に関係しているんじゃないんですか?」
「・・・だといいんだけどね」
ミレイナの直感は何か嫌な予感がする、と訴えかけていた。
決戦の時は近い。
怒って暴れる姿がミレイナが『白銀のヴァルキリー』と呼ばれる所以です。
ゆっくりすぎるペースですが、どうかよろしくお願いします!