スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜   作:『シュウヤ』

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何やかんやで、マイエラ編も佳境です。更新ペースを落とさず、頑張りたいと思います。


第17話

ドアを開け室内に入っても、変わらず静寂が支配していた。だが、明らかな違和感がそこにはあった。倒れる、人。

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

どうやら修道院長護衛の聖堂騎士団のようだが、立ち上がる力も残っていないほどのダメージを受けている。

「ううっ……何者だ……。あの道化師……。だ、誰か院長様を……!」

「やら、れた……。アイツはオディロ院長様を狙っている……。──ゲホッ! 院長が、あぶ、ない……!」

「あいつ……あのおかしな道化師は、ここに来てしばらくの間は穏やかに振舞っていたのだ……。それが急におかしくなったように笑い出し、院長様のお部屋へ駆け上がろうと……。わ、我々は必死に止めようとしたのだ。だが……三人がかりでも……止められ、なかった……!」

途切れ途切れに、事情を話す騎士団員。

「やっぱりドルマゲスが……!」

穂乃果は慌てて周囲を警戒する。

「穂乃果ちゃん!」

そこへ、曜の声が飛ぶ。穂乃果がそちらを向くと、

「階段がある」

二階へと続く階段が、そこにはあった。

「…………」

穂乃果はゆっくり頷くと、慎重に階段を登っていく。

二階にも動く人影は見えないが、規則的な呼吸音が小さく聞こえた。

「……寝息?」

念の為慎重に視線を送ると、かなり高齢の老人が、簡素なベッドの上で静かに眠っていた。

「あれが、オディロ院長さんかな?」

「だと思う」

「良かった〜。無事だったんだね」

三人が安堵の息を吐く。そして視線を少し横にずらし──

「…………っ⁉︎」

その表情が凍りついた。

院長の足元。そこにフワフワと浮かぶ人影が見えたのだ。赤や紫といった毒々しい色の道化服に身を包んだ、──話通りの道化師が。

思わず剣に手が伸びた穂乃果だったが、

「…………」

道化師はこちらに気付くと、不気味な笑みを残してその場から消え去った。

「……消え、た……?」

姿は消えたが、ねっとりと絡みつくような緊張感は消えない。

「不意打ちを狙ってるかもしれないから、油断しちゃダメだよ」

「院長さんは、大丈夫かな?」

寝息は穏やかなので心配ないと思いつつ、様子を確認しようとベッドへ近付く。

「……う、ん? 何だ、この禍々しい気は……?」

すると、話しかける前にオディロが目を覚ました。

「君たちは……? わたしに、何か用かね?」

すぐに穂乃果達に気付き、不思議そうな顔を向けてくる。

「あー用って言うか……」

なんと説明しようか迷っていると、騒がしく階段を駆け上ってくる足音が聞こえた。どうやら騎士団員の援軍のようだった。そして、

「いたぞ! こいつらだ!」

何故か、穂乃果達に向かって剣を構える。

「オディロ修道院長の命を狙うとは、なんたるバチ当たりめ!」

「え、え、え⁉︎」

突然の事態に、困惑する穂乃果。

「これは……何の騒ぎだね?」

どうやら、オディロも状況を把握できていないようだった。

「──オディロ院長」

すると、彼らの背後から凛とした声が響いた。聞き覚えのある、キツい声色。

「聖堂騎士団長果南、御前に参りました」

「おお、果南か。一体、何があったのだ」

「修道院長の警護の者達が、次々に侵入者に襲われ深手を負っております」

「なんと……」

その報告に嘘はなかった。そこまでは、裏道を使った穂乃果達でも把握している。

「もしやと思い駆けつけましたところ……昼の間からこの辺りをうろついていた賊を、今ここに捕らえたという訳です」

その報告には覚えがない。

「え、ちょっとそれは誤解だって──」

「どうにか間に合いました。ご無事で何よりです」

当然抗議する穂乃果だが、果南は聞く耳を持たない。

「いや、待て。その方は、怪しい者ではない」

すると、オディロが口を開いた。

「かようにも、澄んだ目をした賊がいるはずはあるまい。何かの間違いだろう」

キッパリと果南の報告を否定したオディロ。

「しかし……!」

果南は納得いかない様子で穂乃果達を見やる。

「……分かりました」

それから、小さく息を吐き出した。濡れ衣が晴れて安堵した穂乃果達だったが、

「ただ、どうしてこのような夜更けに院長のもとを訪れたのか。それだけははっきりと聞いておかなければ。よろしいですか?」

「ほっほっほ。お前は心配性じゃのう。分かった。それならよかろう」

オディロはあくまで朗らかに、小さく頷く。

「──さあ、来てもらおうかな?」

 

 

 

 

場所は変わって、例の尋問室。

そこで果南と向かい合った三人は、仏頂面で立っていた。

「──だーかーらー! 濡れ衣なんだってば!」

「そうそう! 聖堂騎士団の人に頼まれて、院長さんの様子を見に行ったんだってさっきから言ってるじゃん!」

「……院長は甘すぎるんだよね。じゃあ、君たちが犯人じゃないって言うなら部下達は誰にやられたの?」

「だーかーらー!」

堂々巡りする尋問。

「私の目はごまかせないよ。白状するまで──」

コンコン、と。ドアがノックされた。

「誰?」

果南の声に、

「団長が、呼んだんじゃなかった?」

これまた聞き覚えのある声が。

「……入って」

団員がドアを開けると、

「どうもー」

千歌が立っていた。

「千歌にも質問がある。……けどその前に」

果南は穂乃果達に視線を戻し、

「修道院長の命を狙い部屋に忍び込んだ賊を、先ほど捕らえた。──この三人だよ」

「へえ」

千歌の反応は、あくまでドライだ。

「それはともかく、問題はここから。──このマイエラ修道院は、厳重に警備されている。よそ者が忍び込める隙なんてない」

ドルマゲスの侵入は許したのに、と穂乃果は思ったが口には出さない。

「……誰かが、手引きをしない限りは、ねぇ?」

含みのある言い方をした果南は、懐を探る。そして取り出したのは、聖堂騎士団の指輪。

「この三人の荷物を調べたところ、この指輪が出てきたんだよ。聖堂騎士団員の千歌。指輪はどこにあるの? 持ってるなら見せてくれる?」

しばしの静寂。そして、

「──良かった〜! 果南ちゃんの所に戻ってたんだね!」

明るい声で果南の手を掴む千歌。

「……どういうこと?」

穂乃果達にも展開がサッパリなので、成り行きを見守るしかない。

「酒場でスリにあっちゃって困ってたんだよ〜。良かった〜、見つかって!」

とんでもない発言をした千歌に、

「スリって……何を言って──」

事実と違う話に当然抗議しようとする穂乃果。

「こんな賊の言う事を、真に受ける必要なんてないよね」

それを遮って、千歌は笑顔でさらにとんでもない発言をする。

「んなっ…………」

言葉を失う三人。

「そういう訳だから、私は部屋に戻るね。今度からは、ちゃんと肌身離さず持つようにするからね〜、指輪」

後ろ手にヒラヒラと振って、千歌は尋問室を出て行ってしまう。

「……はぁ、まったく千歌は……!」

果南は大きくため息をつくと、

「……という事らしいけど?」

穂乃果達に向き直る。

「そんな事言われても……」

頼みの綱を失って、穂乃果もどう話せばいいのか分からなくなってしまう。

──コンコン、と。

再びノックされるドア。

「今度は何?」

「修道院の外でうろついていた魔物を二匹、捕まえて参りました!」

魔物? と三人が顔を見合わせる。

ドアが開かれ、

「何でにこがこんな目に遭わなくちゃいけないのよ……!」

「にこちゃんがウロウロし過ぎるから見つかったんだにゃ!」

「にこのせいだって言いたい訳⁉︎」

「他に無いにゃ!」

口喧嘩をしながら連行されるにこと凛の姿が。

「──って、穂乃果達じゃない。こんなトコで何やってるのよ。オディロ院長はどうなったのよ?」

状況を知らないのか、最悪のタイミングで、最悪の質問をぶつけるにこ。

「……決まりだね。やっぱり狙いはオディロ院長だったと」

果南は立ち上がると、

「全員を牢屋へ! どれだけの事をしたか、知ってもらう必要があるよ」

高らかに指示を飛ばした。

 

 

 

 

抵抗などできるはずもなく、牢屋の部屋へ全員連れ込まれた一行。

「何でにこがこんな目に……。ていうかあんた達、何でこんな事になってんのよ⁉︎」

「さあ……」

「気が付いたら、こうなってたんだよね……」

「あの果南って人も千歌って人も、全然話通じないんだもんねー」

「ドルマゲスを倒すはずの正義の味方が、牢屋生活なんて笑えないにゃ」

凛の発言が一番笑えないのだが、穂乃果達にはなすすべが無い。脱獄なんて不可能だし、助けを待っても誰か来る訳でも──

「どうも〜」

いきなり笑顔を覗かせたのは、千歌だった。

「ああっ!」

鉄格子に飛びついた三人。

「そんな怒らないで欲しいな〜、なんて。さっきはごめんね。──ほら」

そう言って千歌は、鍵の束を取り出す。そして、鉄格子を解錠する。

「……どういう事?」

未だ警戒色の三人だったが、

「ここだと声が上に聞こえちゃうかもしれないんだよね。だからついて来て。話はそこで」

千歌はまだ何も話さない。先導して歩き出したので、一行はついて行くしかない。

「──ここだよ」

千歌に案内されたのは、尋問室のさらに奥。

その部屋に鎮座していたのは、いわゆる鉄の処女と呼ばれる拷問器具。

「……あー、私、これ知ってる」

曜は、複雑な声を出す。

「曜ちゃんは物知りだね〜」

「それはともかく、急に掌返してどうしたの? 実は最初から味方でしたってオチ?」

愛の声色は、まだ硬い。

「そのまさかなんだけどね……。指輪の話は、ああしないとチカが疑われちゃうし……」

「……ふぅん?」

「ま、まあまあ。現にこうして助けてもらったんだしさ?」

未だ疑惑の目をやめない愛を、曜がなだめる。

「そうそう、ちゃんと助けてあげるから安心して!」

そう言って千歌は、鉄の処女を開く。

ギギギ、と重い音が響き、漆黒の空間が現れる。

『…………』

全てを飲み込むような深い闇に、五人は息を呑む。

「そんな怖がらなくていいのに〜。……えっと、にこちゃんだっけ?」

「そうだけど、何よ。言っとくけど私は、れっきとした人間で──」

「中、覗いてみて」

「……は? あんた正気? これって拷問器具でしょ? にこに死ねって言いたい訳?」

「いやだなぁ、そうじゃないってば。これにはちょっとした秘密があるんだよ」

「……秘密ぅ?」

にこは怪訝な顔をしたが、

「──早くするにゃドーン!」

しびれを切らした凛が、にこの背中を思いっきり突き飛ばした。

「ちょっ……⁉︎」

前方へ吹き飛ばされたにこは、吸い込まれるように鉄の処女の中へ。

「さらにドーン!」

そして千歌が、開いていた部分を閉める。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

くぐもった悲鳴が響き渡った。

「二人共何やってるの⁉︎」

「にこちゃんが死んじゃう!」

「にこにー生きてる⁉︎」

慌てて駆け寄った三人だったが、

「…………ん?」

中から再びにこの声が聞こえてくる。

「ど、どうしたのにこちゃん!」

「無事なの⁉︎」

「天国の様子はどんな感じ⁉︎」

「勝手に殺すんじゃないわよ!」

意外にも、元気なツッコミが返ってくる。

「どういう事?」

「実は、この奥は抜け穴になってるんだよ。これはただの飾り。秘密の脱出ルートって事だね」

へー、と感心する三人。

「凛ちゃん、よく分かったね」

「んーん〜、知らなかったにゃ。凄い造りだね〜」

「え…………」

「だってにこちゃんがウジウジして進まないから、我慢できなくって」

「あ、あはは……」

「……凛、後で覚えてなさいよ」

「にゃは〜☆」

再び鉄の処女の開いた千歌は、

「さ、みんな急いで。逃がそうとしてるのバレたら、それこそおしまいだから」

順番に鉄の処女の中へと入って行く。最後に入ろうとした曜は、ふと気付く。

「……ん? にこちゃんが中に入った時、閉める必要ってあった?」

「無いよ。楽しそうだったから、つい!」

「……本当に、信用して平気なのかな」

 

 

抜け穴を進みながら、

「わざわざ濡れ衣を着せておいて、何で助けに来たの?」

「いや、それに関しては申し訳ないと思ってるよ。私、この修道院であんまりよく思われてないからさ。あそこで『この人達は悪くありません』って言っても、信じてもらえなかったと思うんだ。果南ちゃんだったら、『一緒に牢屋に入ってなさい』って言ってたかもしれない」

『…………』

複雑な関係を察し、一行は黙る。

「──さ、着いたよ」

通路の突き当たりに、ハシゴがかかっていた。

「ここから外に出られる。船着き場から来たなら、途中で空の馬小屋を見なかった? あそこに繋がってるんだよ」

千歌の言葉を聞いて、何日か前の風景に納得する。

 

 

ハシゴを登り、藁の山から這い出す一行。

「うひゃ〜、身体中がチクチクする……」

「まあ仕方ないよね。後で綺麗にしよう」

藁のカスを互いに払いながら、千歌に礼を言う。

「ありがとう千歌ちゃん。おかげで助かった」

「いいっていいって〜。私は早く修道院に戻らないとだから、ここでお別れかな。──いい旅を」

「うん!」

空の馬小屋から出た一行は、

『……………………』

呆然と立ち尽くした。

視界の先、修道院と院長の建物を繋ぐ橋が、炎を上げて燃えていたのだ。

「何で、どうして……。修道院が、燃えてる……⁉︎」

脳内で処理が追いつかない千歌だったが、

「まさか、さっきの禍々しい気の持ち主がまた……⁉︎ ────っ! オディロ院長が危ない……っ!」

何かに気付き、颯爽と駆け出した。

「あっ、千歌ちゃん!」

手を伸ばした穂乃果。

「何やってんのよ! 早く追いかけるわよ!」

その脇を、にこが走り抜けた。

「穂乃果ちゃん早く!」

「ほのほの、ボーッとしてる場合じゃないよ!」

「急ぐにゃ!」

呆気に取られていた穂乃果の背中を、残りのメンバーがバシバシ叩く。

「うわわわわっ⁉︎ 分かってるってば!」

穂乃果も追いかけるように、慌てて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV17

どうのつるぎ

うろこのよろい

せいどうの盾

ターバン

聖堂騎士団の指輪

 

・曜

LV16

石のオノ

たびびとの服

うろこの盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV17

ブロンズナイフ

くさりかたびら

せいどうの盾

皮のぼうし

金のロザリオ


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