スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜 作:『シュウヤ』
謎の少女善子と別れた一行は、ようやくパルミドへと到着する。すでに太陽は傾き始めているが、日没まではまだ少し余裕がある、そんな時間だった。
入り口は簡素な木造のアーチ。街を囲む壁も、木の板を張り合わせただけで防衛性は感じられない。
「……なんか、まさにって感じね」
「いちおーアタシの故郷だぞ〜?」
「悪かったわよ。……でもあんまり期待はしてないのよね。また石投げられるのはごめんよ?」
「ありゃりゃ、トラペッタでの出来事がよっぽどトラウマになってるっぽい」
「……何があったの?」
当時はその場にいなかった千歌が、隣の曜に訊ねる。
「あー……にこちゃんの見た目が魔物そっくりで、街の人から追い出された事があってね」
「うーん確かに言われてみれば……。チカもあの見た目で修道院に入ってきたら、退治しちゃうかもしれないなぁ」
「聞こえてんのよそこ!」
「うわわ、ごめんってば〜」
ビシッとにこに指さされ、反射的に姿勢を正す千歌。
「とりあえず入ってみようよ! じゃなきゃ分からないよ! 何とかなるって!」
無駄にポジティブな穂乃果は、にこの手を掴むと強引に引きずる。
「ちょちょ……っ、まだ心の準備が……」
「往生際が悪いにゃ、にこちゃん」
「──パルミドにとうちゃーく!」
入り口付近にいた通行人は、穂乃果の大声でこちらを見やる。当然、その手に繋がれたにこにも視線をやる。
「ど、どうも〜……」
遠慮がちに挨拶をしたにこだったが、
「こりゃまた変なのが来たな。ま、よろしくな」
通行人はそれだけ言うと、何事もなかったように歩み去った。
「…………」
しばらくポカンとしていたにこだったが、
「い、今の見た⁉︎」
勢いよくこちらに振り返った。
「私の姿を見ても無反応だったわよ! 何とも思ってないわ!」
「ね、だから言ったじゃん?」
ニッと笑った愛に、
「疑って悪かったわ。確かにここなら安心して過ごせそうね。──となれば、早速ご飯よ! 久しぶりに美味しいものたらふく食べてやるんだから! 凛、行くわよ!」
「にこちゃん、ゲンキンだにゃ〜」
「先に行ってるから、アンタ達は情報屋ってのと会ってから来なさい。愛が知ってるんだから、すぐでしょ」
すでに駆け出していたにこは、それだけ言い残すと角を曲がって見えなくなった。
「はいは〜い。りょうかーい」
見えない後ろ姿に手を振った愛は、
「ま、喜ぶ気持ちも分かるからね〜。言われた通り、散策しながらまずは情報屋に話を聞きに行こっか。ドルマゲスを追いかけてるっていう本来の目的も、忘れちゃダメだからね」
どことなく嬉しそうな愛の先導で、四人はパルミドの街を歩く。
「──こっちだよ。……でも気を付けてね。ここは『物乞い通り』って呼ばれてて、パルミドの中でも特に治安が悪い場所だから」
街の東側を歩きながら、愛はそんな事を口にする。
「ええ……、何だか怖いんだけど……」
「元々そういうならず者の集まる街だし、注意して損は無いって話。ほのほの達は強いから、ここの連中もそう簡単には手出しできないと思うけどね〜」
あくまで愛の口調は朗らか。警戒心を解けない穂乃果達と違い、そんなスリルも楽しんでいる気さえする。
「やっぱり慣れ、なのかな……?」
愛の適応力の高さに感嘆していると、一つの扉の前に到着する。
「──おーい、愛さんだよ〜」
愛は扉をノックする。が、返事は無い。
「いないの〜? 久しぶりに愛さんが会いに来たよ〜」
もう一度強めにノックするが、やはり反応は無い。
「むー……」
不服そうな顔で振り返った愛は、小さく肩をすくめる。
「アタシが言ってた情報屋の家ってここなんだけど、いないみたい。──たまに新しい情報を求めて旅に出る事があるんだけど、タイミングが被っちゃったみたいだねー。あちゃー、こりゃアンラッキーだよ」
「そっか……でもいないなら仕方ないよね」
「どうしよっか……。ひとまず、にこちゃん達と合流して報告かな?」
「そうだね。それからどうするか話し合う感じかな」
頼みの綱が空振りに終わり意気消沈の四人だったが、ここにいても仕方ないと宿屋の隣に建つ酒場兼食堂へ向かう。パルミドで一番賑わうそこの雰囲気で、少しだけ気が紛れた。
探していたにこは、大胆にもカウンターのマスターの目の前で食事をしていた。凛の姿は見当たらない。
「わお、にこちゃん吹っ切れてる」
四人が近付くと、
「ご飯って、こんなに美味しかったのね……。──たかがご飯で、どうしてこんなに苦労しなくちゃいけないのよ……」
感動しているのか愚痴っているのか分からない呟きを漏らしながら料理を頬張っていた。
「「「「…………」」」」
アスカンタ城での一件が近く、四人はしばし言葉をかけられなかった。
「──ん? なんだ来てたのね。案外早かったじゃない。ドルマゲスの情報、何か掴めたの?」
「えっと、それが……」
曜が状況を説明すると、
「……留守? はあ、タイミング悪いわねぇ……」
こちらもあからさまに落胆する。
「ねぇ、ところで凛ちゃんは? さっきから見当たらないんだけど」
「ん? ああ、凛なら外で野良猫と遊んでるわよ。姿が似てるからなのかしらね。懐かれて大はしゃぎよ」
猫のような姿に変えられた凛とじゃれる本物の猫を想像して、四人は癒される。
「……魔物みたいな見た目で悪かったわね」
「いや、何も言ってないじゃん……」
曜が呆れたツッコミを飛ばしたところで、
「──んな……何するにゃ〜⁉︎ ──ムグッ⁉︎」
『『『⁉︎』』』
外で何か声がした。そして、暴れるような足音。
「今の声……凛よね? 何かあったの⁉︎」
弾かれるように飛び出したにこ。
「まさか……!」
と血相を変えた愛も続く。何がなんだか分からない穂乃果と千歌と曜も、その後ろを追いかける。
「──凛! 凛! いるなら返事しなさい!」
外へ出ると、にこが大声で叫んでいた。
「凛がいない……。入り口すぐの所にいたのよ!」
突き当たりになっているので、隠れる場所も無い。そして凛が戯れていたであろう野良猫が、小さな茂みで怯えて丸くなっていた。
「こりゃあ、アタシとした事がうっかりしてた……!」
「何か知ってるの⁉︎」
「パルミドの街はならず者の集まり……。泥棒を咎める人なんていないんだった!」
「何ですって⁉︎」
愛に詰め寄ったにこ。その剣幕に押された愛は少し背を逸らし、
「落ち着いて落ち着いて。人さらいって言っても、そう簡単に遠くには行けないよ。少なくとも、街の外に出ても何も無い。まだ犯人は、パルミドのどこかにいるはず……」
「た、確かに今は凛を見つけ出すのが先決ね……。──穂乃果! アンタ達は街中くまなく探しなさい! 私は念の為、出入り口を見張ってるから!」
「わ、分かった!」
言うが早いか駆け出したにこ。
「……何だかんだでにこちゃん、凛ちゃんの事大切に想ってるんだね」
「憎まれ口叩かれても、大切な仲間って事なんだろうね」
見えなくなったキノコ姿を、少しだけ頼もしく感じる四人。
「──さ、アタシ達も探そう! 絶対に犯人を見つけるぞ〜!」
「「「おーっ!」」」
・穂乃果
LV20
はがねのつるぎ
くさりかたびら
せいどうの盾
鉄かぶと
スライムピアス
・曜
LV19
鉄のオノ
せいどうのよろい
鉄の盾
ヘアバンド
金のブレスレット
・愛
LV19
ダガーナイフ
おどりこの服
せいどうの盾
とんがりぼうし
金のロザリオ
・千歌
LV18
ホーリーランス
レザーマント
騎士団の盾
はねぼうし
聖堂騎士団の指輪