スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜 作:『シュウヤ』
(なお三週間前)
いやぁ遅くなって申し訳ないです。
愛からの説明が無いまま、璃奈の家からしばらく歩くと、足元の草原がいきなり不毛の荒野へと変化する。
そしてその荒野のほぼ中央に、地下へと続く怪しい階段が口を開けていた。
「──ここが、通称『剣士像の洞窟』って呼ばれてる場所」
ようやく振り返った愛が、やや苦い顔で口を開いた。確かに階段の両側には、剣を空に構えた兵士の石像が鎮座している。片方は、脚から折れて行方不明だが。
「大昔の好事家が、“ビーナスの涙”って宝石を守る為に造ったって言われてるんだよ。……で、まあ、りなりーの条件は、それを取ってくるって事」
「こーずかって……何?」
首を傾げた穂乃果に、曜がズルっと肩を落とす。
「いや……そこ?」
「だって知らないし……」
「あはは……実は私も」
その隣で、苦笑いで頭をかいた千歌。
「……好事家って言うのは、変わった事に興味を持つ人の事だよ。簡単に言えば、マニアみたいな人って感じかな」
「そそ、『大昔の宝石マニアが、自分の宝物を隠しました』って話だね」
噛み砕いた説明をした愛に、曜は『助かるよ』と視線を送る。
「まあ詳しい事は、中に入ってみれば分かるかな」
早速階段を下ろうとする愛に、
「私は闘えないから、あの家の近くで待ってるわよ」
にこが声をかける。
「あれにこにー、この洞窟が危険ってアタシ言ったっけ?」
「言ってないけど、ただの宝石取ってくるおつかいならわざわざ頼む意味ないし、そんな有名な宝石が誰にも盗られず残ってる確証があるんなら、それだけこの洞窟が侵入者を拒んでるって事でしょ。そんな場所が安全な訳ないじゃない」
「おお、にこちゃん鋭い!」
「アンタが単細胞なだけよ!」
手を叩いた穂乃果に、にこはこの旅で何度目か分からない不安がよぎる。
「ともかく、その宝石を持ってこないと凛を返してくれないんだから。ちゃっちゃと行ってきなさいよ!」
「分かってる! 泥船に乗り込んで待っててよ!」
ビシッと差された指に、穂乃果は拳を突き上げて応える。
「……不安だわ」
階段を下り、閉ざされた扉を開けた四人。愛以外の三人は、その内装に驚く。
『洞窟』と呼ばれている割には、滑らかに石組みで造られており人造である事は明らかだった。立派さで言えば、パルミドより上である。
「言った通り、好事家が宝石を守る為に造った場所だからね。イメージの洞窟とは違うかもね」
愛は肩をすくめる。
だが、滲み出た地下水や埃っぽさ、カビ臭さからは人が住んでいるイメージは出てこない。遠くに散見されるモンスターの姿を捉え、三人は気を引き締める。
「──あそこ、見える?」
愛が正面を指差す。見ると、人間が楽々と横になれそうなほど巨大な宝箱が、固く蓋を閉じて鎮座していた。
「あの宝箱の中に、“ビーナスの涙”が入ってるって話だよ。アタシも前に一人で挑戦した事があったんだけどね〜、辿り着けなかったんだよ」
「愛ちゃんが“ビーナスの涙”に変な反応したのは、そういう事だったんだね」
「まあ、そういう事。一回諦めたお宝に、再挑戦するって話だよ。……りなりーも、アタシが諦めた事は知ってるはずなんだけどね〜」
愛は苦笑すると、
「目の前に宝箱が見えてる訳だし、簡単だと思うじゃん?」
三人の思考を先読みする。
「それが、この洞窟を造った好事家はちょ〜っとやらしい性格しててね。色んな仕掛けがあって一筋縄じゃいかないんだよねぇ」
見ると、宝箱へは祭壇のように大きな階段が続いているのだが、その階段は今いる場所へは通じていない。守護するように屹立する剣士像の隣に見える奥の部屋へと繋がっているようだった。
「……つまり、何とかしてあそこまで回り込まないといけないって事?」
「そういう事。簡単じゃないけど、今回は曜もいるし存分に知恵を貸してね!」
「「私達は⁉︎」」
自分を指差して駆け寄る穂乃果と千歌に、
「あー、はは、まあ戦闘になったらよろしくっ!」
愛は軽い調子で肩を叩いた。
「あはは……こんなんで、大丈夫なのかな」
正面に見える巨大な宝箱を名残惜しそうに見送りながら、四人は左側の扉の先にあった階段を下っていく。
「うーん、これは確かに入り組んでて複雑だなぁ」
曲がり角をキョロキョロと見渡しながら、穂乃果は呟く。モンスターの姿を捉えて、慌てて首を引っ込める。
「愛ちゃん、どっちか分かる?」
「えーっとね、確かこっち」
一度訪れた事のある愛の指差した方向へ、他の三人は迷いなく進む。
「ってそんな信頼されても。結構昔なんだけどな〜」
「今は愛ちゃんの記憶だけが頼りなのだ!」
千歌が笑顔を向けると、
「おっ、そこまで言われると、愛さん頑張っちゃうかもよ!」
愛も悪い気はしない。そんな二人へ、
「──あっ、見て見て宝箱!」
穂乃果の声が響いた。
四人の視線、穂乃果の人差し指の先には、正面の巨大宝箱とは別の宝箱が通路の奥に置かれていた。
「行き止まりだったけど、これは結果オーライってヤツ?」
「開けてみようよ!」
先ほどからうずうずした様子を隠せない穂乃果は、勢いよく石畳を蹴る。
「あっ、抜け駆けはさせないぞほのほの!」
愛も楽しそうに追いかけ、千歌と曜も背中を追う。
一足先に辿り着いた穂乃果は、顔を輝かせて宝箱に手をかけた。
「…………」
「──へっ?」
だがそこで、違和感に気付く。
「──ガアッ!」
「うひゃぁ⁉︎」
突如、宝箱が文字通り牙を向いて噛み付いてきたのだ。
「あっぶな……!」
間一髪で避けた穂乃果。
「あれは……!」
一歩後ろに立つ愛は、その正体に気付く。
[ひとくいばこがあらわれた!]
「宝箱じゃないじゃん! 騙された!」
涙目で武器を構えた穂乃果に、
「うん、まあ、そういうモンスターだし」
曜の冷静なツッコミが入る。
「私のワクワクを返せーっ!」
そんな曜の声は届かず。怒り心頭の穂乃果は、バツを描くように剣を二回振るう。
[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! ひとくいばこに52のダメージ!]
「おお、やるねほのほの。負けてられないよ」
[愛はメラミをとなえた! ひとくいばこに36のダメージ! ひとくいばこをたおした!]
「──はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で息する穂乃果の目の前には、転がる空っぽの宝箱。もう何の反応もない。
「あー、ほのほの?」
「……あんまりだよっ!」
穂乃果の叫びが、洞窟内に反響して消えていく。
「宝箱を見つけたのがよっぽど嬉しかったんだろうなぁ……」
心中察する曜が呟くが、お宝が見つかった訳ではないので慰める言葉が見つからない。
「まあまあ、ほのほの。お宝なら、でっかいのがドーンとあったじゃない。あれさえゲットできれば、こんな出来事チャラになるって!」
それに、と愛は続ける。
「きっと他にも宝箱はあるって! 愛さんのカンがそう言ってる!」
「そ、そうなのかな……」
「そうそう!」
「……うん、そんな気がしてきた! お宝目指して、まだまだ頑張るぞ〜っ!」
「その意気だほのほの!」
乗せられやすいのか愛が上手いのか両方なのか、元気に立ち上がった穂乃果の背中を愛は強めに叩く。
「愛ちゃんが道間違えたからなんだけどね」
とは曜は言えなかった。
・穂乃果
LV21
はがねのつるぎ
くさりかたびら
せいどうの盾
鉄かぶと
スライムピアス
・曜
LV20
鉄のオノ
せいどうのよろい
鉄の盾
ヘアバンド
金のブレスレット
・愛
LV20
ダガーナイフ
おどりこの服
キトンシールド
とんがりぼうし
金のロザリオ
・千歌
LV20
ホーリーランス
レザーマント
騎士団の盾
はねぼうし
聖堂騎士団の指輪