スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜 作:『シュウヤ』
小学生の時ビビリ散らかしてましたけど。
洞窟に潜入してそこそこの時間が経った頃、一つの部屋に辿り着いた。
碁盤のように正方形のマス目が均等に並ぶ床が設置されており、その端に縦横それぞれ一体ずつ剣を構えた騎士の石像が設置されていた。
「んー、見るからに何かある場所だよね〜」
「愛ちゃん、何か知ってたりしない?」
「やー、実はここまで来るのも初めてなんだよね。ずっと昔に挑戦した時は、ずっと前でギブアップしちゃったから」
「そっか……」
愛の記憶には頼れないと分かった穂乃果は、剣士像へと歩み寄っていく。ひとまずモンスターの気配はしないので、武器には手をかけない。
「うーん、ここに来るまでにもたびたびこの石像見かけたし、何か意味があったりするのかなぁ?」
穂乃果は剣士像をペタペタ触りながら、その周りを歩く。
「あ、ねえ、待って。壁に何か文字が彫ってある!」
壁の隠し扉を探していた千歌が、丁寧に彫り込まれた文字を見つける。
「なんて書いてあるの?」
「えっとね……。──『天をあおげ! されば道は示されん!』」
「天を……」「あおげ……?」
愛と曜は復唱した自分の言葉に釣られるように、天井を見上げる。そして、
「「──あ、」」
それを見つけた。
天井に一ヶ所だけ空いた、四角い穴を。
「もしかして、あそこの穴になんとかして行けって事なのかな?」
「いやでも、高すぎるよ……」
曜は真上を見上げながら、小さく呟いた。
穴の大きさは一メートル四方ほどだが、問題は距離。天井までは、三メートルはあった。たとえジャンプしても、決して届く距離ではない。
「でも行き止まりだしなぁ。あそこに行くしかないと思うんだけど」
隠し扉の捜索は空振りに終わりその場で目一杯飛び跳ねる千歌だが、当然手は届かない。
「やっぱこの部屋に何か仕掛けがあるんだろうね」
「思いっきり助走つけたら届くかもしれない!」
「……穂乃果ちゃん、話聞いてた?」
曜のツッコミをスルーし、穂乃果は天井を睨む。そしてそのまま後退し、──姿が消えた。
「へ?」「お?」「ん?」
三人がそれぞれ声を上げた直後、
ゴッ!
っといういい音と穂乃果が上から降ってきた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
とても痛そうに、頭頂部を押さえながら。
「え、ちょ、どうしたのほのほの」
穂乃果が天井に頭をぶつけた事は分かったが、その理由が分からない。そして当の本人は、
「今日の穂乃果、こんなんばっかり!!!」
涙目で吠えた。
散々な目に遭いややいじけてしまった穂乃果は、思考を放棄してすぐ横に鎮座する剣士像に寄り掛かった。
「この洞窟造ったこーずかって人に会ったら、絶対許さないんだから……うわわっ⁉︎」
背中に体重を預けた穂乃果は、徐々にその抵抗がなくなりベシャッ、と床に転がった。
「……穂乃果ちゃん、何してるの?」
「穂乃果が知りたい……」
起き上がった穂乃果は、
「あ、これ動くんだ」
剣士像が見た目ほど重くない事を知る。体重を乗せて押せば、女性一人の力でも簡単に移動できる。
それを見ていた、
「二つの、剣士像……」
「区切られた、床のマス目……」
曜と愛は、
「「分かった!!」」
同時に歓声を上げた。
「え、曜ちゃんどうしたの?」
「千歌ちゃん!」
「え、うん」
「そっちの剣士像、ここまで押して!」
曜はある位置に駆け出すと、少し離れた場所に立つ千歌に手を振った。
「よく分からないけど……曜ちゃんがそう言うなら! ──っしょ、っと……!」
千歌は言われた通り、剣士像を曜の立つ場所まで運ぶ。
「アタシはこっち!」
愛も迷いなく、もう一つの剣士像を別の場所へと押していく。
「えーっと、三人共何してるの?」
「まあまあ、ほのほのよーく見ててよ?」
「さっき穂乃果ちゃんが吹き飛ばされたのは、床が持ち上がったからなんだよ」
曜と愛の意図する場所へ運ばれた剣士像。その二つの剣士像の視線が交錯する場所は、
「で、そのトリガーとなる場所が、この像の見つめる先がぶつかる場所」
天井に空く穴の、真下。
「床がマス目に区切られてるのは、多分そういう事なんだと思う」
「さあほのほの、穴の真下へ行ってみて!」
「う、うん……」
二人の説明にピンときていない穂乃果は、不安顔で言われるがままその場所へ移動。
「でも、さっき立った時は何も起きなかっ……うっひゃあああぁぁぁぁ────!」
穂乃果の言葉は、突如せり上がった床によって遮られた。悲鳴に変わったその言葉は、
「────あぁぁぁぁぁぁぁむぎゅ」
はるか頭上で、情けない声と共に途絶えた。
「予想的中!」「やったね愛ちゃん!」
嬉しそうにガッツポーズする二人を見ながら、説明してあげれば良かったのに、という言葉を千歌はそっと飲み込んだ。
その後残りの三人も順番に飛び出す床に乗り天井へと大ジャンプ。キチンと計算されているのか、ちょうど穴を超えたタイミングで勢いが弱まり抜けた先の床に綺麗に着地。
最後に曜が着地するのと同時に、
「ホラ見て見て!」
先ほどと打って変わって明るい穂乃果の声が響いた。
視線を上げたその先には、登り階段の奥に鎮座する、一際巨大な宝箱。
「あれってもしかして……!」
「このに入った時にも見た、あの宝箱だよ! あれに“ビーナスの涙”が入ってるんだよね!」
「アタシの聞いた話が正しければ、そのはず! いや〜、前に一人で挑んだ時には手も足も出なかったのに、仲間がいるって心強いね〜。みんな、ありがと!」
いつにも増して嬉しそうな愛は、三人の背中を強めに叩く。
「これで、凛ちゃんを返してもらえるね。苦労した甲斐があったなぁ〜。──ん?」
階段を駆け上る穂乃果を眺めていた千歌は、ふとすぐ近くに鎮座する剣士像の足元を見た。そこに埋め込まれた石板と、刻まれた文字を。
「千歌ちゃん?」
「『ビーナスの涙を求めし者よ、よくぞここまでたどり着いた! さあ、最後の試練を受けるがよい。』最後の試練……?」
千歌が首を傾げていると、
「──おーい、宝箱開けちゃうよ〜!」
頭上から穂乃果の声が降ってくる。
「今行くよ〜!」
愛は穂乃果に叫び返してから、
「ほら、千歌と曜も早く行こ? ほのほのに感動の瞬間を独り占めされちゃうよ?」
「……まだ、終わってないかもしれない」
「ん?」
「穂乃果ちゃんが危ないかもしれない!」
唐突に駆け出した千歌。
「ちょっ、千歌ちゃん⁉︎」
「何事……?」
慌ててその背中を追う曜と愛。
「穂乃果ちゃん、待っ──!」
階段を登り切った千歌が見たのは、今まさに宝箱に手をかけた穂乃果と、その宝箱が骸骨のモンスターへと変化した瞬間だった。
「え──?」
[トラップボックスがあらわれた!]
「ガァァァァッ!」
「あっぶなぁぁいっ!」
間一髪で不意打ちを回避した穂乃果は、反射的に剣を抜きながらも混乱していた。
「え、何でどういう事? あの宝箱に“ビーナスの涙”が入ってるんじゃないの……?」
「多分、それは間違ってないんだと思う……けど、それを手にする為にはこの『最後の試練』を乗り越えないといけないみたい……」
すぐ横で槍を構えた千歌から説明を受けた穂乃果は、
「……性格悪いっ!」
顔も知らぬ好事家へと文句を飛ばした。
「──うわわっ、何このモンスター!」
「見るからに普通じゃないね」
ようやく追いついた曜と愛も、眼前のトラップボックスを捉えて慌てて臨戦態勢へ。
「最後の最後まで、抜かりなく仕掛けを用意してるねぇ」
愛は手にしたばかりの杖を掲げると、
「悪いけど、ここまで来て引き下がる訳にはいかないんだよね。サクッとやっつけさせてもらうからね!」
[愛はメラミをとなえた! トラップボックスに39のダメージ!]
[穂乃果のはやぶさのごとき高速の二回こうげき! トラップボックスに48のダメージ!]
[曜は蒼天魔斬をはなった! トラップボックスに58のダメージ!]
[千歌はさみだれ突きをはなった! トラップボックスに46のダメージ!]
先制で攻撃を叩き込む四人。だが、相手は特に応えた様子もなく、
[トラップボックスはメダパニをとなえた! 穂乃果は混乱してしまった!]
「はらほらへれ……」
穂乃果がゆらゆらと挙動不審な動きを始める。
「でえいっ」
そして、隣に立つ曜に向かって剣を振りかぶった。
「ちょ、穂乃果ちゃん敵はあっち!」
盾で穂乃果の剣を払った曜だったが、
「──曜ちゃんっ!」
「え──」
[トラップボックスのつうこんのいちげき! 曜は84のダメージを受けた!]
強大すぎる一撃をもらってしまう。
「ぐっ……⁉︎」
足元がふらつく曜。意識が遠くなりかけたが、
[愛はベホイミをとなえた! 曜のキズが回復した!]
愛の呪文が飛んでくる。
「た、助かったよ愛ちゃん……」
「なんの! ──それと、」
愛はウインクを飛ばすと、未だ視線が定まらぬ穂乃果へ駆け寄ると、
「──しっかりせんかーっ!」
その頭を杖で殴った。結構強く。
「──……はっ! 穂乃果は何を⁉︎」
その衝撃で正気に戻ったのか、穂乃果は大きく頭を振る。
「くっそー、厄介な呪文使ってくるなぁ……。こうなったら……!」
「こうなったら?」
「やられる前にやる! 倒す!」
「ほのほのらしいね。アタシも賛成!」
[穂乃果は全身に力をためた! 穂乃果のテンションが5上がった!]
[曜は蒼天魔斬をはなった! トラップボックスに56のダメージ!]
[トラップボックスのこうげき! 千歌は36のダメージを受けた!]
[愛はメラミをとなえた! トラップボックスに35のダメージ!]
[千歌はホイミをとなえた! 千歌のキズが回復した!]
「──やぁぁぁぁぁぁっ!」
穂乃果の気合いを乗せた一振りが、思い切り振り抜かれた。
[トラップボックスをやっつけた!]
「た、倒した……?」
モンスターが力なく倒れ伏せても、警戒が抜けず構え続ける穂乃果。
だが、そのモンスターが粒子となって消滅し、元々の宝箱が口を開けた状態で鎮座しているのを見てようやく武器をしまった。
「やったじゃんほのほの!」
「うん! 愛ちゃんこそ、的確なサポートありがとう!」
「道中の汚名挽回できたね!」
「うっ、それは言わないでくれると助かる……」
戦闘直後にも関わらず、明るい笑い声が洞窟に反響する。
「あ、ねぇねぇ、中に何か入ってるよ?」
千歌がただの物質と化した宝箱の中から、目的のモノを取り出した。愛に手渡すと、四人はためすすがめつ眺め回す。
「これが“ビーナスの涙”……」
それは、淡く水色に輝くレインドロップの形をした宝石だった。片手に収まりきらないその大きさは、とてつもない価値を秘めている事はその道に詳しくない穂乃果達でも容易に想像できた。
「…………」
宝石を眺める愛は、少し懐かしそうに目を細めた。
「……前に、アタシが一人でこの洞窟に挑んだって話したじゃん?」
「? うん」
「あの時挑んだの、実はりなりーの為だったんだよね」
「えっ? そうなの? 自分のモノにするんじゃなくて?」
「パルミドなんてゴロツキだらけの街に住んでたから、昔は同じ年頃の女の子がりなりーくらいしかいなくてさ。一緒に遊んだり、闘ったり、逃げ回ったり、色々やってたんだよね。だから、りなりーがずっと欲しいって言ってたこれをゲットしに来たんだけど……一人じゃ実力不足でね〜。──まさか、こんな形で手に入れる事になるとは思わなかったよ」
愛は肩をすくめると、
「──もしあの時、首尾よくゲットできてたら、どうなってたんだろうなぁ」
愛は宝石を軽く掲げて、光に透かしてみる。
そこで、聞き入ってた三人に気付く。
「あれ、どうしたのみんな。過去は過去、今は今だからそんな深く考えなくていいってば! これ持ってって、凛を返してもらお! そうと決まれば、さっさと帰る!」
強引に話を切り上げた愛は、出口へ向かう。一度振り返った愛は、
「あ、今の話はりなりーには絶対秘密だかんね?」
笑顔で口元に指を当てた。
・穂乃果
LV21
はがねのつるぎ
くさりかたびら
せいどうの盾
鉄かぶと
スライムピアス
・曜
LV20
鉄のオノ
せいどうのよろい
鉄の盾
ヘアバンド
金のブレスレット
・愛
LV21
まどうしの杖
おどりこの服
キトンシールド
とんがりぼうし
金のロザリオ
・千歌
LV21
ホーリーランス
レザーマント
騎士団の盾
はねぼうし
聖堂騎士団の指輪