スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜   作:『シュウヤ』

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原作知ってる人は読んでて「おや?」と感じてたと思いますが、この辺の設定はちょっと変えてます。


第33話

 トロデーン城に近づくにつれて、その周辺に見るからに禍々しい空気が覆っているのが確認できた。

「目視できるほどの、呪い……」

 寒くもないのに、千歌は腕を抱いた。

「…………」

「…………」

 にこに加え凛まで、途端に口数が減る。

「……本音を言えば、呪いをどうにかするまで近づきたくはなかったんだけどね」

「凛も、ここにはもういい思い出無いにゃ……」

 ひとまず城を覆う禍々しい空気は、残留した呪いであり現状実害ないものと千歌が判断したので、一行は城の正門へと続く坂を登っていく。

 立派な門扉は壊れる事なく、固く閉ざされていた。加えて、イバラがビッシリと表面を覆っていた。

「ぐぐっ……! 出発した時はこんなの無かったのに……!」

 穂乃果が力いっぱい扉を押すが、軋むだけでびくともしない。

「──っはぁ! ダメだ〜! 全然開かない!」

 どうにもならない穂乃果が一歩下がると、

「じゃ、愛さんの出番かな」

 代わりに愛が進み出る。

 愛は扉を塞ぐイバラに触れると、

「やっぱただのイバラじゃないねコレ──」

 魔法を唱える。愛の手から放たれた炎はイバラを覆うと、たちまち燃やし尽くしてしまう。

「──ま、こんなトコかな」

「おぉ、流石愛ちゃん……」

 扉周辺のイバラを撤去した愛は、肩をすくめる。

「アタシの魔力じゃこれが限界。これ以上この城のイバラをどうにかするのは、ちょっと無理かな〜」

「充分だよ! さあ、入ろう!」

 

 

 

 

 正門をくぐった一行。凄惨なその状態に、全員が息を飲む。

 伸び放題の雑草。割れた石畳。枯れた噴水。あちこち崩れた建物。そして、恐怖の表情のままイバラと一体化した異形として静止する人間の成れの果て。

「酷い……」

 無意識の内に、そんな声が漏れた。

 

 

「──にこちゃん達は、あの日この城にいたんだよね?」

「……そうね。私と、凛と穂乃果が」

 千歌の質問に、にこは重々しく頷く。

「曜ちゃんと愛ちゃんは?」

「私は、この城の傭兵として向かってる途中だったんだよ。ちょうど、明日には着くかなって時だった。ようやく着いたと思ったら、お城は呪われちゃってて穂乃果ちゃん達がお城の前で愛ちゃんと話してて……元々傭兵のつもりで来てたから、その流れで一緒に」

「アタシは、たまたまこの辺フラついてて。そしたらこの城がとんでもない事になってるって聞いて、野次馬根性で見に行ったらほのほの達と出会って。──そんで紆余曲折あって、一緒に旅する事に」

「じゃあ、二人はここで何が起こったか知らないんだ」

「前に滝の洞窟で闘ったザバンもそれっぽい事言ってたけど、実際にどんな状況だったのかは……」

「まあね〜。人の過去ほじくり返すシュミは無いし、デリケートな部分だろうし。──と、いう訳だからにこにー。無理に話さなくてもいいからね?」

 愛に話を振られ、にこは大きくため息をつく。

「……そんな言い方されたら、話すしかないじゃないのよ。いい性格してるわねホント。──ま、ちょうどいい機会だし。闘ってくれる仲間だし。真実を知らずにモヤモヤしたくはないでしょ。凛と穂乃果も、いい?」

「うん」「にゃ」

 にこは空を仰ぐ。釣られて五人も見上げると、呪いの雲の隙間から皮肉のような満天の星が瞬いた。

 

 

 

 

「──ほう、あいどる、とな?」

「はい、トロデ王。にこ達は人々を笑顔にするべく世界を回るアイドル、と呼ばれる存在です」

「初めて耳にする言葉じゃが……旅芸人や踊り子とは違うのか?」

「にこちゃんが考えた言葉なんだから、知らなくて当然にゃ」

「あんたは黙ってなさいっ。──それらとはまた一線を画したものでございます。歌って踊って笑顔にする──それがアイドルです。それを今から、ご覧に入れましょう」

「よーし、テンション上がるにゃ〜!」

 

 

 国王の座す大広間でパフォーマンスを披露した二人は、優雅に一礼。

「素晴らしいっ! こんなにも昂り感激した余興は初めてじゃ!」

 トロデ王や隣に座る王女をはじめ広間で観ていた者達は、残らず手を叩いて大喜び。

「にこ、凛、大変に貴重な技を見せてもらった。礼は弾むぞ」

「「…………」」

 にこと凛は、誰にも見えないように素早く背中で拳を打ち合わせる。

「今宵は我が城でゆっくり休むと良い。──そうじゃ、お付きを一人用意しよう。なに、年頃も近いし腕も立つ。すぐ打ち解けるじゃろうて」

「「ありがとうございます」」

 二人はもう一度一礼すると、大広間をあとにする。その背中で、ウキウキを抑えきれないトロデ王は呟きを漏らす。

「今日は良い日じゃのう。道化師に次いで二つも余興を楽しめるなど」

 

 

「──任命された穂乃果ですっ。よろしくね!」

 あてがわれた客室でくつろぐ二人に、少女が賑やかにやってくる。

 にこは穂乃果を眺めると、

「腕が立つって、本当なのかしら?」

「あ、ひどーい! こう見えて優秀な近衛兵なんだから!」

「本当に優秀な人間は、自分から優秀なんて言わないものよ」

「でもにこちゃん、自分で世界一のアイドルって言ってたんでしょ?」

「……私はいいのよ。だって事実だもの」

「一人しかいなかったら、誰だって世界一だにゃー」

「そこうっさいわよ! 凛だって同じアイドルじゃないのよ!」

「凛は歌って踊れればそれでいいもーん」

「ぐぬ……まあいいわ。──穂乃果って言ったわよね」

「うん?」

「ちょっとこのお城案内してくれない? 結構広そうだし、探検してみたいなって思って」

「うん、いいよ。迷ったりしたら大変だもんねー。そっちの──凛ちゃん、は?」

「暇つぶしになるなら!」

「なるよ! 任せて! 穂乃果がバッチリ案内してあげるから!」

「……直感的に不安なんだけど」

「そんな事ないよ〜。私こう見えて、このお城に来て長いんだから」

「そうなの?」

「うん、子供の頃からずっと」

「ここの生まれじゃないの?」

「それは違うみたいなんだけど、私自身よく覚えてなくて」

「ふーん、なんか複雑なのね」

 

 

 城内を散策しながら、三人は雑談に花を咲かせる。

「そういえば、今日ってにこ達以外にも客人がいるのよね?」

「あーうん、詳しくは知らないけど、なんか道化師らしいよ。魔法が得意なんだって」

「どんな人だったか、穂乃果ちゃんは見たの?」

「遠くからチラッと見ただけなんだけど、ヒョロっとした背の高い男の人だったよ。なんか自信なさげで、ずっとニコニコしてた」

「ふうん……さっきのトロデ王の反応見る限り、つまんない芸を披露したって訳じゃなさそうよね。せっかくの機会だし、一度話をしてみたいわね」

「にこちゃんと凛ちゃんがやってたダンス、穂乃果は気になるけどなぁ」

「ふふん、そう簡単にマスターできるスキルじゃないわよ?」

「むむ、そう言われると逆にやる気が──」

 そこで穂乃果は言葉を切った。

「どうしたのよ?」

 急に静かになって立ち止まった穂乃果に、にこは追突しそうになる。

「──ちょっ⁉︎」

 いきなり駆け出した穂乃果に、置いていかれては困るとにこも慌ててあとを追う。そしてにこと凛も、状況を把握する。

 廊下に衛兵が、倒れ伏せていた。

「──大丈夫⁉︎ 何があったの⁉︎」

 介抱された衛兵は、

「な、何者かが……この階段を……ぐっ……!」

 虚ろな視線を彷徨わせながら、途切れ途切れに言葉を発する。

「階段……?」

 穂乃果が視線を向けた先には、重厚な扉が。絢爛な城内において、無骨な両開きの扉は際立って見える。明らかに、普通の場所ではない。

「ここって確か、封印の間……!」

 穂乃果の目が見開かれた理由も、部外者の二人には分からない。

「な、何があったのよ。この扉の先に何があるのよ」

「普段は立ち入り禁止だから私も噂で聞いただけだけど、『絶対的な力を得られるこの国の秘宝』が眠ってるって……」

「じ、じゃあ、誰かがそれを狙って……?」

「くっ……!」

 詳しく話を聞こうとしたが、腕の中の衛兵はすでに気を失っていた。

「……国王様に知らせなきゃ!」

 穂乃果は立ち上がると、一目散に駆け出す。

「ここは危ないかもしれないから、二人は部屋に戻ってて!」

 そう言い残して。

「「…………」」

 残された二人は、

「部屋に戻れって言われても……」

「どうやったら戻れるか、もう分かんないにゃ」

 揃って扉へと視線を向けた。鍵穴は破壊され、僅かに隙間が覗いていた。

 

 

 

 

 扉の先は、長い登り階段だった。壁にぐったりと別の衛兵が倒れ伏せていたが、息はあるようだった。

「「…………」」

 慎重に階段を登った二人は、部屋の中心で鎖に巻かれた杖を見た。床には複雑に描かれた魔法陣。そしてそれに手を伸ばす、人影も。

「っ…………⁉︎」

 何とか声を上げるのを堪えたにこだったが、

「……?」

 その気配を人影は過敏に察知。

 振り返った人影──道化師のような見た目の男は、悲哀とも侮蔑とも取れる感情を内包した笑みを浮かべた。

「これは……これは……。確か、城の客人の旅芸人のお二人ですか。よもやあなた方に見つかってしまうとは」

「あんた……ひょっとしてもう一人の客人の道化師ね!」

「ええ、ご存知でしたか。──ドルマゲスと申します。以後、お見知り置きを」

 微塵の礼儀も感じさせない丁寧な挨拶に、にこは寒気を覚える。それでも果敢に、一歩詰め寄る。

「こんな所で何してんのよ! ここは立ち入り禁止って聞いたけど⁉︎」

「ここまで見て、まだそんな事を言えますか。この杖のウワサくらいは、知っているでしょう?」

 さっきね、という言葉をにこは飲み込む。

「このトロデーン城の奥深く、封印されし伝説の魔法の杖、持ち主に絶大なる魔力を与える、と……。私はこれを手に入れて、究極の魔術師となる。──そして、私の事をバカにしてきた愚民どもを見返してやるのだ!」

「バッカじゃないの!」

「……何?」

 発言を一蹴され、ドルマゲスは眉根を寄せる。

「そんなくだらない事考えてるヒマがあったら、その時間使って努力しなさいよ! 甘ちゃんな考えしてんじゃないわよ!」

「…………クク、小娘の分際で、偉そうな。──後悔しても、知りませんよっ!」

 ドルマゲスは瞳孔を見開くと、引ったくるように手を伸ばすと、杖を掴んだ。

「ちょ……待っ──!」

 手を伸ばしたにこの目の前で、無情にも杖はドルマゲスの手中に収まる。

「──さて、それでは早速この杖のチカラを試させていただきましょうか……」

 下卑た笑みでにこを睨んだドルマゲスは、

「偉そうな戯言を吐いた小娘。まずはあなたに実験台になってもらいましょうか」

 杖をにこへと指し示した。杖の先端から赤い光が発せられ、それはにこへと一直線に──

「──にこちゃん危ないにゃ!」

 射線に飛び出してきた凛を巻き込んで、二人を包んで四散した。

「う…………」

「…………」

「──おや?」

 一人はキノコが人型になったかのような、もう一人は耳と尻尾が生えた猫のような姿で意識を失っていた。

「姿を異形に変えただけ、か……。この程度の呪いしか使えないとは、期待外れだな」

 当のドルマゲス本人は、冷めた表情で手元の杖を見下ろした。そしてその視線は、足元の幾何学な紋様に向けられる。

「……なるほど。この結界が杖の魔力を抑えているのですね。なら、ここを出て結界の外で杖のチカラを試してみるまでです」

 ドルマゲスは倒れたにこと凛に一瞥もくれず、部屋を出て階段を降りていく。そして向かいの部屋からテラスへ出ると、杖を天高く掲げた。あの部屋からここまでの間に、すでに杖を不気味な赤いオーラが覆っていた。

「──さあ、杖よ。己の真のチカラを我に示してみせよ!」

 バチ、バチ、と。杖から赤いスパークが漏れ出し、ドス黒いオーラが腕を伝ってドルマゲスへと流れていく。

「おお……! この溢れんばかりの魔力! なんと素晴らしい……!」

 恍惚の表情を浮かべるドルマゲス。だが次の瞬間、勢いよく心臓を押さえた。

「こ、これは……このチカラは……! お、押さえきれないぃぃぃぃぃ…………っ!」

 ドルマゲスが吠える。

 その足元から、無数のイバラがどこからともなく出現し、城内を余す所なく這っていく。

 廊下、大広間、食堂、客室、そして、にこと凛のいる封印の間にも。

「──な、何よコレ……⁉︎」

 地響きと轟音で目を覚ましたにこは、周囲を取り囲む無数のイバラに驚愕する。意思を持つかのごとく這い回るイバラだったが、結界の内部にいたにこ達には手出しができないようだった。見えない壁に弾かれたように、空中に衝突してはのたうちまわる。

「…………!」

 どうする事もできず、にこは凛の手を握ったまま全てが終わるのを待つしかなかった。

 

 

「──はぁ……はぁ……はぁ……」

 一方元凶のドルマゲスは、溢れ出る魔力を解き放ち荒い呼吸を整えていた。

「…………。…………くく」

 しばしの沈黙の後、歪んだ口元の口角が上がる。

「くっくっく……。──きひゃ、きひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! あははははははははははははははははははははっ!! ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはぁっっっ!!!」

 この世のものとは思えない奇怪な笑い声を響かせながら、遙か上空へと飛び去り姿を消した。

 

 

 

 

 沈黙が支配するトロデーン城で、

「──う……?」

 廊下で倒れていた穂乃果は起き上がった。

「な、何これ……!」

 いきなり飛び込んできた目の前の惨状に驚愕し、

「だ、誰かいないの……?」

 生存者を探すべく周囲を見回す。

「は、そうだにこちゃん達!」

 知り合ったばかりの友人達の存在を思い出し、再びそちらへ走る穂乃果。

 縦横無尽に、しかしもう動かないイバラを睨みながら、封印の間への階段を駆け登る。

「にこちゃーん! 凛ちゃーん!」

「! 穂乃果⁉︎」

 未だその場から動けずにいたにこは、聞こえてきた声に思わず立ち上がる。

「……にゃっ?」

 腕を引っ張られた凛が目を覚ます。

「無事だったんだね! にこ……ちゃん?」

 階段を登りきった穂乃果は、目の前の光景に情報を処理しきれなくなる。

「にこちゃん……だよね? そっちは、多分凛ちゃん」

「はい? 何言ってんのよ。いくら会ったばかりだって、このスーパーアイドルにこにーの美貌を忘れるなんて許されないわよ」

「い、いや、だってその顔……」

「顔?」

 首を傾げたにこは、ふと自分の両手を見下ろす。どう見ても人間のそれではない腕を捉えると、弾かれたように近くに散らばっていたガラスの破片を鏡代わりに覗き込む。

 自分を見つめるキノコの化け物と目が合うと、

「な、何よコレぇぇぇぇぇぇーっ!」

 

 

 

 

 一通りにこの話を聞いた三人。流石に茶化すような事はしなかった。

「今でも不思議なんだけど、あの時結界の中にいた私と凛はともかくどうして穂乃果も無事だったのかしらね?」

「うーん……私に聞かれても……。気を失って、目が覚めたらもうこんなだったから……」

「本人に分からないんじゃどうしようもないわよねぇ。まあ、分からないけど運が良かったんでしょうね。そんな感じしそうだし」

 分からない事には結論は出ない。それを分かっているので、にこも深くは聞いてこない。

「──さて、じゃあそろそろ行動開始しますか。ドルマゲスが思った以上にヤバい存在だって分かったし、あんまりモタモタしてらんないでしょ」

 枯れた噴水に腰掛けていた愛は勢いよく立ち上がると、穂乃果の背中を強めに叩く。

「辛い事思い出しちゃうかもしれないけど、案内頼むよ! 元近衛兵さんっ」

 

 

 

 

 

 

・穂乃果

LV22

はがねのつるぎ

くさりかたびら

せいどうの盾

鉄かぶと

スライムピアス

 

・曜

LV21

鉄のオノ

せいどうのよろい

鉄の盾

ヘアバンド

金のブレスレット

 

・愛

LV22

まどうしの杖

おどりこの服

キトンシールド

とんがりぼうし

金のロザリオ

 

・千歌

LV22

ホーリーランス

レザーマント

騎士団の盾

スライムのかんむり

聖堂騎士団の指輪

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