スクスタクエスト〜空と海と大地と呪われしYAZAWA〜 作:『シュウヤ』
穂乃果の案内で、トロデーン城内を歩く一行。
完全にイバラと一体化して開かなくなってしまった扉や、イバラが巻きついた衝撃で瓦礫の山が形成されている場所など、迂回を強いられる箇所が多い。そして何より、
[魔物のむれをやっつけた!]
呪いの影響なのか、城内であろうとモンスターが蔓延っている。
「お城が、こんな危険な場所になってるだなんて……」
「私らが出発した頃は、モンスターなんていなかったのに」
「お城の人もみんな優しかったんだにゃ……」
城での思い出がある三人は少なからずショックを受けており、
「人をこんな姿に変えるなんて……」
千歌達も変わり果てた従者達を見て言葉を失っていた。
城内のいたる所で散見される彼らは、体色がイバラと同じ緑色に変色しており、腕は蔓状の植物そのもの、脚は床を這うイバラと同化していた。瞳は白く濁り光は無く、ほぼ全員、恐怖や驚愕の表情のまま凍りついていた。幸いなのは、徘徊するモンスターが『人』と認識せず目もくれていない事だった。傷つけられた姿は、一人も見ていない。
呼び掛けても触っても反応は一切ない。だが、
「……温もりはある。多分、死んではないんだね」
「じゃあ、ドルマゲスを倒して呪いを解けば……」
「この城もこの人達も、きっと元通り!」
にこ達もね、の声に、少しだけ明るさが戻る一行。
「──あ、ここだね図書館」
穂乃果は一つのドアの前で立ち止まると、恐る恐るドアノブに手をかける。──幸い、ドアは問題なく開いた。
「……うわ」
狭い通路に所狭しと並べられた本棚に、誰が言うでもなく声が出る。
イバラの浸食が控えめだったのか、多少床に本が散乱する程度で大きな被害は見受けられない。奥のガラスのなくなった窓枠から、満月による月明かりが差し込んでいた。
「……これは、簡単じゃないわね」
無限にも思える書物の山を眺めながら、にこは呟く。
「そもそも、あの船に関する情報があるかも分からないんだよね……」
「ネガティブ言ってても始まらない! 行動あるのみ!」
愛は喝を入れると、
「モンスターが出るかもしれないし、アタシは入り口付近。千歌と曜は奥の窓側。にこにーと凛は、真ん中辺りをほのほのと一緒に探す!」
テキパキと指示を飛ばす。
「オケー?」
五人も気合いを入れ直すと、それぞれ持ち場へ散って行く。
しばらくの時間、静寂が流れる。聞こえてくるのは、ページを繰る音、僅かに移動する足音、読書が苦手な者の声なきうめき。
全員が調べた冊数を数えるのを諦めた頃、
「──あっ!」
穂乃果の声が静寂を切り裂いた。
「これ! この本見て!」
集まってきた五人に、穂乃果は本の表紙を見せる。
色褪せていて装丁もくたびれているその本には、『荒野に忘れられた船』と書かれている。
「そ、それ……!」
「へへーん!」
得意げな笑みを向けてくる穂乃果に若干の悔しさを滲ませながら、
「……早く読んで調べるわよ!」
にこは本をひったくるとテーブルへと向かった。
「あ、にこちゃん酷い! 見つけたの穂乃果なんだからね!」
「見つけるのが目的じゃないのよ!」
「近くにいたのに見つけられなかったからって、にこちゃん大人げないにゃー」
「アンタは黙ってなさい!」
その光景に愛は肩をすくめると、
「他にもあるかもしれないし、アタシ達はもうちょっと探しておこっか」
「そうだね。一冊の本を大人数で読んでも仕方ないし」
「何か分かったら、また呼んでねー」
三人は再び本棚に向き直る。
──一通り読み終えたにこは、本を閉じると大きなため息を一つ。
あらかた探し終えた千歌達も、椅子に座ってそれを眺めていた。
「……結局分かったのは、大昔はあの辺りも海だったって事だけね」
「それが分かってもねー。今もあそこが海だったら、何の苦労もしなかったんだけどねぇ」
「そしたらここまで戻ってこられなかったかもよ?」
軽口を叩いてみるが、進展はゼロだったのだ。空気は重い。
「──ん?」
ふと顔を上げたにこは、月光が作る窓枠の影が伸びているのを見た。現実的にありえない速度で、壁に向かって真っ直ぐと、綺麗な形のまま窓枠の影が伸びていく。
「な……何よあれ⁉︎」
声を上げたにこの視線を追って、他の五人も異常に気付く。
「まさか……」
「これってもしかして……⁉︎」
初見の凛は若干の怯えを見せたが、四人には心当たりがあった。一度、見ている。月夜が綺麗な、丘の上だった。
「ど、どうしてここに……?」
恐る恐る、壁に作られた窓枠の影に近づく。まるで、扉のような。
「ち、ちょっと穂乃果! これがなんだか知ってるの⁉︎」
「う、うん。前にアスカンタの王様助けた時に……」
「ああ、なんか不思議なハープで演奏してどうとかってヤツ……?」
あの時説明はされたが半信半疑だったので、記憶が曖昧なにこ。
「……で、それがどうしてここに出てくるのよ。アスカンタのお伽話じゃなかったの?」
「語り継がれたのがアスカンタだけで、他の場所で起こっても不思議じゃないと思う」
「千歌ちゃん?」
「それにだって、今のこのトロデーン城は、『普通じゃない』場所なんだから」
目に映るイバラを見ながら、一同は納得。
「乗るか反るか。──乗るしかないっしょ!」
穂乃果は頷くと、影に手を置く。
「──じゃあ、行くよ」
窓の先は、一度見た世界。しかし見慣れない世界。そこに立っていた者も、同じ者。
「──あら……? 月の世界へようこそ、お客さん」
振り返った絵里は、ハープの音を奏でる。
「月影の窓が、人の子に叶えられる願いは生涯で一度きり。再び窓が開くなんて、珍しいわね」
絵里の言葉に『二度目はない』のかと不安に駆られたが、
「さ、いかなる願いがキミ達をここに導いたのかしら? 話してちょうだい?」
どうやら門前払いされる気配はないようで安堵する。そういえば前回は、願いを叶えたのは自分達ではなくパヴァン王だった。
「実は──」
説明しようとしたにこを、穂乃果は止める。
「あ、大丈夫だよにこちゃん。この人には言わなくても分かるから」
「は? いやでも、今話せって……」
ハープを奏でた絵里は、小さく頷く。
「──なるほど、ね。あの船の事なら知っているわ。かつては月の光の導くまま、大海原を自在に旅した。覚えてるわ」
勝手に進んだ話ににこが驚愕していると、
「穂乃果達の靴から話を聞いたんだって」
「……もう、何でもアリね……」
絵里は微笑むと、
「再びあの船を海原へと走らせたいのね? それなら簡単な話よ」
「ほ、本当⁉︎」
「ええ。キミ達も知っているでしょう? あの場所はかつて海だった。その太古の記憶を呼び覚ませばいいだけよ」
簡単に言っているようだが、穂乃果達には方法がサッパリである。
「アスカンタで王妃の記憶を見せたように、大地に眠る海の記憶を形にすればいいだけよ」
「あー……なるほど」
「……穂乃果ちゃん、絶対分かってないね」
乾いた笑顔で濁した穂乃果には気にも留めず、絵里は演奏を始める。神秘的な音色が辺りを包み込み、
──バツッ!
っと。乾いた音が響いた。
「……やっぱり、この竪琴じゃ無理なのね」
見ると、絵里の持つハープの弦が切れてしまっていた。
「大地の記憶を呼び覚ますくらい大きな仕事となると、楽器もそれに相応しいモノが必要なようね」
絵里は思案顔を見せると、正面の穂乃果と目が合った。
「──あなた……。その気配……かすかだけど、確かに感じるわ」
「えっ?」
「──“月影のハープ”、ね……。昼の世界に残っていたのね。あの楽器なら、この大役も立派に務めてくれるはずだわ」
何やら独り言を呟いた絵里は、
「よく聞いて。大いなる楽器──“月影のハープ”は、地上のどこかにあるわ。その楽器なら、きっとあの船を蘇らせる事ができるはずよ」
「それを探して持ってくればいいんだね!」
「話が早くて助かるわ」
優しく微笑む。
「いや、ちょっと待ちなさいよ。どこかってどこよ? 世界のどこかにある楽器一つ探してこいって、言ってる事無茶苦茶よ」
にこの正論に我に返るが、
「心配には及ばないわ。ハープの気配は、キミ達全員から……いえ、人の子四人全員から感じるわ。つまり、キミ達四人が歩いてきた道、そのどこかに。縁の深い者が、導き手となるはずよ」
絵里が言葉を続ける。
「にこだって人間なんですけど……」
という抗議はスルーされた。
「もし願いを叶えたいのなら、私の元に“月影のハープ”を持ってきてちょうだい。そうしたら、船を動かすのは約束するわ」
「……分かった! 待っててね、すぐ持ってくるから! 絵里ちゃん!」
「──あら、ふふ。私をそんな風に呼ぶなんて、長い記憶の中でも初めてね」
・穂乃果
LV23
はがねのつるぎ
鉄のむねあて
せいどうの盾
しっぷうのバンダナ
スライムピアス
・曜
LV22
鉄のオノ
せいどうのよろい
鉄の盾
サンゴのかみかざり
金のブレスレット
・愛
LV23
まどうしの杖
おどりこの服
キトンシールド
毛皮のフード
金のロザリオ
・千歌
LV23
ホーリーランス
レザーマント
騎士団の盾
スライムのかんむり
聖堂騎士団の指輪