飛行機の修復はできたが、飛行機の調整やテストには、予想以上の時間がかかった。
部品の痛みこそ少なかったものの、恐ろしく複雑で、調整に一番苦労したのがエンジンだった。
エプロン(駐機場)。
機長席に座ったツチノコが、左のエンジンのスタートスイッチを入れた。
ヒューンと音がした。
ビーバー 「ツチノコさん! スイッチを切って!」
副操縦席には、ビーバーが座っていた。
プレーリー 「なんで止めるでありますか?」
客席から、プレーリーが窓の外を見ていた。視線の先には、止まったままのプロペラがあった。
ビーバー 「始動が遅かったッス。多分燃料系ッスね……」
ツチノコが、左のエンジンのスタートスイッチを入れた。
ガスタービンの始動音と共に、飛行機の左のプロペラが、ゆっくりと回り始めた。そして、徐々に回転数を上げていった。
プレーリー 「おお!! まわったであります!」
ビーバー 「ツチノコさん! スイッチを切って!」
ツチノコ 「なんでだよ!」
ビーバー 「バルブの取り付け、ちゃんと締めたッスよね?」
プレーリー 「なんども確認したでありますよ!」
飛行機の左のプロペラが、徐々に回転数を上げていった。
ビーバー 「それ以上あげないで! 温度が上がってるッスよ!」
ツチノコ 「とめるか?」
ビーバー 「いきなりとめないで、徐々に回転数を下げるっス」
機体の外に出た一同が、エンジンを見ていた。翼の上に乗ったプレーリーが、エンジンまわりのパネルを開いた。
プレーリー 「あっちぃっ!」
ツチノコの、ピット器官の透視映像には、過熱したエンジン内部が映し出されていた。特に、タービンまわりは、真っ白に光って見えるほどだった。
ツチノコ 「ひでえな……。おっ、と」 ※1
ツチノコが、ふらりとよろけた。
プレーリー 「ツチノコどの!」
ビーバー 「ああっ! むりしちゃだめだって言ったのに!」
飛行機の左のプロペラに続き、右のプロペラが回り始めて、徐々に回転数を上げていった。
プレーリー 「右、へんな音してるであります!」
ビーバー 「とめてとめて!」
ツチノコ 「くそっ!」
飛行機の左右のプロペラが、高速回転していた。
ツチノコ 「だめだ……。出力が上がらねえ!」
プレーリー 「むりしないで! パワーを下げてください!」
ビーバー 「タービンが焼けちゃうッスよ!」
ツチノコ 「またかよ!」
ビーバー 「へんな振動が!」
ツチノコ 「なにも感じないぞ」
ビーバー 「とめて!」
ツチノコ 「なんの問題もねえだろ!」
エンジンが止まった飛行機の、胴体後部左側のドア ※2 が開き、ツチノコ、プレーリー、ビーバーが降りてきた。
飛行機から少し離れたところに、オオカミが立っていた。彼女は、首にデジタル一眼レフカメラを下げていた。手には小さなスケッチブックを持っていて、飛行機から降りてきた三人を、スケッチしていた。
エプロン。
飛行機がプロペラを高速回転させていた。
機内。コックピットの左側、機長席にはツチノコが座っていた。
ツチノコ 「今日は快調、だな」
ツチノコは右を見た。いつものように、副操縦席には、ビーバーが座っていた。
ビーバー 「やっと安定したッスね……」
ツチノコ 「……おまえ、パイロットやってみるか?」
ビーバー 「ええ! そんな! むりっスよ!」
ツチノコ 「だよなぁ……」
プレーリーが、客席からコックピットに身を乗り出した。
プレーリー 「パイロットなら、ぜひ、じぶんに!」
ツチノコ 「ダメだ!」
ビーバー 「申しわけないッスけど……プレーリーさんには……」
プレーリー 「なぜだめでありますか!?」
ツチノコ 「おまえらはエンジニアだ。パイロットには向かんな」
ビーバー 「えっと、初飛行では……いっしょに……」
ツチノコ 「……ビーバーには、飛行中、エンジンと機体のチェックをやってもらう。機上整備員ってやつだ」
プレーリー 「それなら、じぶんも、機上整備員になりたいであります!」
ビーバー 「いっしょに飛べるッスね……」
ツチノコ 「ふたりもいらんのだが……」
プレーリーとビーバーは、笑顔で見つめ合っていた。
ツチノコ 「まあ、いっかぁ……」
ツチノコは、ため息をつくように言った。
ビーバー 「でも、パイロットは、ふたりいるッスよね?」
ツチノコ 「わかってる。…………また、おおごとになるぞ……」
初飛行時の機長は、ツチノコに決まっていたが、副操縦士が必要だった。
シミュレーター(温泉宿 ※3 のゲーム)でパイロットの訓練と試験が行われた。
島中のフレンズに、訓練と試験のことを伝えた。参加は強制ではなく、興味があって、都合が合えば、とした。たくさんの候補者が集まった。
なわばりが遠くて、飛行場に通うこと、あるいは、飛行場付近で生活することが困難なフレンズは、訓練に入る前に、選抜から外された。※4
46名の候補者が、最初の『操縦訓練 第1回』を受けた。訓練の教官は、ツチノコだった。
そこで、次の段階に進むのを辞退したフレンズが19名いた。 ※5 候補者は27名に絞られた。
鳥系のフレンズは、期待されていたが、シミュレーターの訓練と試験の結果、『自分の飛行感覚で操縦してしまい、かえって危険』※6 ということが判明した。
『副操縦士選抜試験 第1回 兼 操縦訓練 第2回』では、シミュレーターによる試験が行われた。試験では、ツチノコが、離陸、直線飛行、旋回、着陸の技量・習熟度を審査した。候補者は20名に絞られた。
『操縦訓練 第3回』のあと、2名が自己都合(自分のなわばりへ戻るため)により辞退した。候補者は、18名になった。
特に優秀だったのは、キタキツネとフンボルトペンギン(フルル)だった。
フルルは、『初心者なのにすごく上手い』というレベルだった。だが、キタキツネはそんなレベルではなく、ずば抜けて優秀だった。「ゲームで鍛えてる」というのは伊達ではなかった。
温泉宿。
[ 副操縦士選抜試験 第2回 兼 操縦訓練 第4回 ]
シミュレーターで成績の良かったフレンズが、ハイスピードタキシー(滑走路上での高速地上滑走)試験を行った。
---- タイリクオオカミ ----
ツチノコ(副操縦席)※7「止まれ、止まれええええ!! オーバランしちまう!!」
飛行機は、オーバラン寸前で止まった。
オオカミ(機長席)※7 「いい
タイリクオオカミ:器用で物覚えも良かったが、心臓に悪い操縦を行ったうえ、試験中にスケッチを行う問題行動があったため失格。
---- パンサーカメレオン ----
パンサーカメレオン「怖かったでござる……」
ツチノコ 「まあまあだな…………半分、消えてるぞ!」
パンサーカメレオン:一通りこなしたが、緊張しすぎて姿を消してしまい、動作が見えなくなって危険だった。保留。
---- スナネコ ----
スナネコは、ツチノコと仲がいいから、といういい加減な理由で連れてこられた。シミュレーターの操縦は上手かったが、すぐに投げ出してしまった。
ツチノコ 「よし、エンジンスタート…………って居ねえええ!」
ツチノコ 「…………ま、わかってたけどな……」
スナネコ:エンジンスタート前にどこかへ行ってしまい失格。※8
---- アルパカ・スリ ----
アルパカ・スリ「うまくいかないもんだにぇ……」
ツチノコ 「もうちょっとできると思ったんだがな……」
アルパカ・スリ:ひと通りこなしたが、不安定なので保留。
---- ジャガー ----
ジャガーのなわばりは飛行場から遠かったが、頼まれたら断れない性格のためやってきた。
ジャガー 「わからん……全然わからん……」
ジャガー:初めは、シミュレーターよりはるかに複雑なコックピットを見て困惑したが、操縦は器用にこなした。合格。
---- カバ ----
カバ 「あら、取れてしまいましたわ」
ツチノコ 「なにやってんだ、おまええええ!!」
カバ:精神面は強かったが、操舵輪(ヨーク)を破損させ失格。
---- リカオン ----
リカオン 「オーダー……完了しました……」
ツチノコ 「なかなかいいな」
リカオン:そつなく一通りこなしたが、緊張しすぎなのがやや不安。合格。
---- サバンナシマシマオオナメクジ ----
ツチノコ 「誰だおまえ!、選抜メンバーじゃねえだろ! つーかどうやって操縦する気だ!」
ツチノコ 「うああ!!なんだそれ!なに出してんだ! やめろさわるな気持ちわりぃ………」
サバンナシマシマオオナメクジ:フレンズなのかも不明。なぜか操縦できたが、突っ込みどころが多すぎて失格。そのあと座席がベタベタになった。
---- フンボルトペンギン(フルル)----
フルルは、シミュレーターでは天才的な操縦をみせた。彼女はキタキツネの最大のライバルとみられていた。
マーゲイ 「さすがフルルさん! 無骨なコックピットとのギャップがいいですねえー」
フルル 「このいす座りやすいねー」
マーゲイが、少しうつむいて、暗い表情になった。
ツチノコ 「そろそろ行くぞ」
マーゲイが顔を上げた。
マーゲイ 「アイドルにそんな危険なことさせられません!」
ツチノコ 「なんでだよ! もったいねえだろが!」
フルルがうしろを振り向き、何かを見ていた。
フルル 「…………」
マーゲイ 「フルルさん?」
フルル:マネージャーのストップがかかり棄権。※9
---- キタキツネ ----
滑走路の端。
飛行機のプロペラとエンジンの音が変わった。ブレーキリリース。飛行機が滑走路を走り、速度を増していった。機首を上げ、エンジンの出力を落とした。飛行機は徐々に減速し、自然に機首が下がった。前脚が接地し、主脚のブレーキとプロペラピッチ角の変更(逆推力)により、さらに減速した。滑走路に余裕を残し、十分に減速した飛行機は、滑走路の端でUターンして、エプロンへ戻っていった。※10
キタキツネ(機長席) 「飛べないとおもしろくないね」
ツチノコ(副操縦席)「……完、璧……だ…………」
ツチノコは驚いた様子で言った。
キタキツネ 「…………うしろ、なにかいる」
ツチノコが振り返って、後部座席を見た。
ツチノコ 「何もいねえぞ、怖いこと言うなよ……」
飛行機がエプロンへ戻ってきた。上空で様子を見守っていたハシビロコウが降りてきた。
ハシビロコウ「しっかり真ん中を走ってて、ふらつきもほとんどなかった」
そのあと、後部座席にペンギンの幽霊が現れるという噂が流れ、ほかの訓練生が怖がって、試験が出来なくなってしまった。 ※11
修復後の初飛行時の副操縦士は、キタキツネに決まった。※12
つづく
※1 第1話で、ツチノコが、ピット器官でエンジン内部を透視して、めまいをおこした理由は、エンジン内部の情報が多すぎたためです。でも、この時は、すでに見慣れていました。それにもかかわらず、めまいをおこしてしまった理由は、次の通りです。
エンジンの過熱によって、強い赤外線が放出されました。それは、ピット器官でエンジン内部を透視したツチノコにとっては、強烈な光のようなものでした。それが、ツチノコの脳を刺激して、ツチノコは、めまいをおこしてしまいました。
※2 キングエアC90には、胴体後部左側にドアがあり、外側に下向きにドアが開き、ドアの内側の面がタラップ(階段)になります。
※3 「温泉宿」と書いていますが、あそこは宿ではなく入浴施設だけなのでは?とも思います。でも「温泉」だけだと山にある源泉と混同しそうなので「温泉宿」の表記にしています。
※4 整備員である、ビーバーとプレーリーは、鳥系のフレンズ(連絡役)に運んでもらうか、徒歩で飛行場に通っていました。ツチノコは、格納庫に泊まり込んでいましたが、図書館で調べものをしたり、シミュレーターのある温泉宿へ行ったり、オオカミのいるロッジへ行ったりと、忙しく動いていました。
※5 辞退した理由は、『想像以上に難しく、自分には無理』、『なわばりに帰りたくなった』、『興味本位で一回やってみて、それで満足した』、『人数が多いと迷惑かも、と思った』、『思ってたのと違った』、『教官が怖かった』、『急用ができた』、『なんとなく』などがありました。
※6 自分の感覚よりも、シミュレーターの方が反応が鈍く、間接的な操縦のため、細かなコントロールもできませんでした。これは、シミュレーターが、スティックやペダル、ソフトウェアを経由して動くためです。加えて、風の流れ・(翼にかかる)揚力・加速度・遠心力なども感じられないため、ダイレクトな操縦感覚が得られず、思い通りに飛べなかったようです。『気持ち悪い』と感じるフレンズもいました。
また彼女たちは『自分で飛べるのに、なぜこんなものに乗るのか?』と疑問を持っていました。
※7 訓練なので、訓練生が機長席に座っています。
※8 そのあと、近くの砂浜に穴が見つかり、スナネコがその中で寝ているのが発見されました。
※9 そのあと、PPPのメンバーが飛行機を背景にしたり、操縦席に座ったりして撮影会が行われました。オオカミがスケッチをして、マーゲイが、デジタル一眼レフで撮影しました。
※10 この飛行場には、滑走路と平行にのびる誘導路が無く、エプロンと滑走路が直結しています。離陸する飛行機はエプロンを出てすぐに滑走路に乗り、滑走路上をタキシングして、滑走路の端まで移動し、Uターンして離陸します。着陸はその逆になります。
※11 オオカミの嘘ではなく、フルルのファンだったようです。
※12 これは、あくまでも修復後の初飛行時の話で、そのあとの飛行では、他の合格者にも操縦する機会が与えられる予定でした。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
エンジンテストの様子を加筆しましたが、そんなことよりも、操縦訓練や操縦試験の様子を書くべきなんじゃないか? とも思いました。でも、そのあたりを詳しく書くと、恐ろしい長さになってしまいそうなので、やめました。候補者の数なんて、どうでもいい情報な気もします。
操縦試験のところは、ネタが古くてちょっと恥ずかしいです。でも、あえてこのままにしています。『ひこうじょう』シリーズ全体に言えることですが、アニメ1期にこだわりすぎでは、とも思います。
フライトシミュレーターの設定
温泉宿のゲームコーナーにあったもの。ゲームだが本格的なシミュレーターに近い。単座。動揺装置は無い。画面はけっこう大きい。操縦桿はジョイスティックタイプ(センター)。ラダーペダルがある。シートには背もたれが無い。選択できる機種が豊富だが、ミリタリー系が中心。