ひこうじょう(通常版)   作:くにむらせいじ

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第6話「エマー」

  ―― 機内 ――

 

 搭乗者が激しく揺さぶられていた。窓の外の、右上がりに傾いた景色が、激しく揺れていた。

ツチノコ  「またかよっ!!」

プレーリー 「さっきよりはげしいであります!!」

ビーバー  「なに!? なにがおきてるんスか!?」

キタキツネ 「さっき乱暴にしたからだよ」

ギンギツネ 「シートベルトって、このためにあったのね……」

 ギンギツネは、揺さぶられながら、窓の外を見て顔を引きつらせていた。窓の外には空しか見えず、雲が揺れていた。

 

 

  ―― チェイサー ――

 

ショウジョウトキ「すじが切れたみたいなんですけど!」

ト キ     「重症だわ!」

 飛行機は、傾いてふらついたまま、高度を下げていった。

 チェイサーのふたりは、飛行機との距離を縮めた。

 

 

  ―― 機内 ――

 

プレーリー 「エルロンが変であります!!」

 プレーリーは、右の窓の外を見ていた。エルロンが、上を向いて、小刻みに揺れていた。

ビーバー  「こわれちゃった!? こわれちゃったッスか!?」

ギンギツネ 「こわれた? こわれたっ、て、なに?」

 ギンギツネの声は震えていた。

キタキツネ 「かわって」

ツチノコ  「なにぃ!」

キタキツネ 「いいからかわって」

ツチノコ  「くそっ!」

 ツチノコからキタキツネへ、操縦が移った。

 キタキツネが、操縦桿を握って、顔をしかめた。

キタキツネ 「うでが、いたい」

 

 

  ―― 管制 ――

 

はかせ   「なにも見えないのです。じょしゅ」

助 手   「遠くに、三つの点が……見えませんか? はかせ?」

はかせ   「見えないのです。鳥のまちがいではないのですか?」

助 手   「なんだか、気持ちわるい動きなのです」

 

 

  ―― 機外 ――

 

 飛行機は、水平に戻った。だが、カクン、カクン、と、左右に揺れていた。さらに、左右に機首を振るような動きも加わっていた。そして、コースも蛇行していた。

 

 

  ―― 機内 ――

 

ビーバー  「すごい、たてなおした……」

ツチノコ  「緊急着陸! 旋回できるか?!」

 キタキツネは、操縦桿・ラダーペダル・スロットルレバーを細かく動かしていた。

キタキツネ 「ちょっとしかまがれない」

ツチノコ  「コースを飛行場へ!!」

キタキツネ 「やってる」

ツチノコ  「飛行場まで持つか!?」

キタキツネ 「むりっぽい」

ツチノコ  「なにいぃ!!」

ビーバー  「どうしよう……。どうすれば、いいんスか……」

プレーリー 「なおすであります!」

ツチノコ  「なおすぅ!?」

ビーバー  「飛びながら!?」

ツチノコ  「キタキツネ! 痛いのはどこだ!?」

キタキツネ 「右うで……ひっかかってる……エンジンのそば、12番リブのまえ」

ビーバー  「それ、つばさの中っスよ!」

ツチノコ  「ケーブルだな……。切れてはいないだろ」

プレーリー 「ビーバーどの、指示をおねがいするであります!」

ビーバー  「指示って言われても、外からパネルをあけないと……」

プレーリー 「非常口を開ければ、つばさの上へ行けるであります!」※1

ビーバー  「ええー!!」

 プレーリーがシートベルトを外した。その腰には工具差し(ツールベルト)が巻かれていった。

ツチノコ  「むちゃ言うな!! 死ぬぞ!!」

キタキツネ 「……スピード、限界まで下げるよ。高さも」

ツチノコ  「おまえもむちゃ言うな!!」

ギンギツネ 「いや……聞きたくない……」

 ギンギツネは、頭を抱えて、うつむいて、青ざめていた。

キタキツネ 「フラップ、だうん」

 

 

  ―― 機外 ――

 

 飛行機は、フラップを下げて、機首を上げ、超低速飛行に移った。そして、ふらつきながら、高度を下げていった。

 

 

  ―― 管制 ――

 

はかせ   「見えたのです。じょしゅ」

助 手   「下がってますね。はかせ」

はかせ   「なんで下げるのです?」

 

 

  ―― 機内 ――

 

キタキツネ 「ツチノコ、アイビスをよんで」

 

 

  ―― チェイサー ――

 

ト キ     「重そうなのに、こんなにゆっくり飛べるなんて」

ショウジョウトキ「どんどん下がってるんですけど!」

ト キ     「これ、作戦だわ。低く飛べば、らくになるでしょ」※2-1

 ピーピー、と音がした。

ト キ     「!」

ショウジョウトキ「きました!」

 ふたりが、トランシーバーを手に取った。

ト キ     「ビーチエイトスリー! なにがあったの!」

 

 

  ―― 機内 ――

 

 トランシーバーから、激しいノイズと、風の音が聞こえてきた。

トキ(無線)「……………トス…………………あ……の!」

ツチノコ  「やはりきこえんかぁ……」

 ツチノコが左を見ると、トキが飛んでいた。右を見ると、ショウジョウトキが飛んでいた。

ツチノコ  「アイビスツー!! 右側から、プレーリーが外へ出る!! つばさの上へつれてってくれ!!」

 プレーリーが、非常脱出口(客席の、前から二列目右側、ギンギツネの隣の空席の窓)のロックを解除して、レバーをつかんだ。

ビーバー  「ほんとにやるんスか? やめて、やめてほしいッス……」

プレーリー 「案ずることないでありますよ。じぶんは頑丈であります!」

 プレーリーは、振り返って、ビーバーの方を見て笑った。

プレーリー 「ビーバーどの、この飛行が終わったら……」

ツチノコ  「プレーリー!! 言うな!!」

 

 

  ―― チェイサー ――

 

 トキとショウジョウトキは、トランシーバーを耳に当てていた。

ト キ     「すごいこと考えるわね」

ショウジョウトキ「うしろ、ななめ上から……いきます!」

 ショウジョウトキが、飛行機より少し後方へ下がり、少し高度を上げた。

ト キ     「あぶないわ! わたしが!」※3

ショウジョウトキ「だめです! やらせてください!」

 

 

  ―― エプロン ――

 

ハシビロコウ「海の上、ぎりぎりを飛んでる」

オオカミ  「トラブルか?」

 

 

  ―― 機外 ――

 

 飛行機は、ふらつきながら、さらに高度を下げていった。海面が近づいてきた。

 

 

  ―― 管制 ――

 

はかせ   「三つとも、見えなくなったのです」

助 手   「遅いですね。はかせ」

はかせ   「そろそろ戻ってくるはずなのです」

助 手   「…………落ちたのでは?」

はかせ   「そんな、そんなはずないのです!」

 

 

  ―― 機内 ――

 

ツチノコ  「どこまで下げる気だ!」

キタキツネ 「ふわっとするまで」

ツチノコ  「地面効果か……」※2-2

 高度計が、ゼロを指した。※4

 フロントガラスからは、水平線が見え隠れしていた。

キタキツネ 「海がよく見えない。高さ、見てもらって」

ツチノコ  「アイビスワン! 高度を見ててくれ!! 海面スレスレを飛ぶ!!」

キタキツネ 「あけてだいじょうぶ」

 非常脱出口が開いた。機内の空気が激しく乱れた。

ギンギツネ 「だいじょうぶじゃないわよ!」

 非常脱出口からは、主翼の後縁と、すぐ下の海が見えた。海は、高速道路を全速力で走っているような速さで、左から右へ流れていた。

 

 

  ―― チェイサー ――

 

ショウジョウトキ「トキさ、アイビスワンは高さを!」

ト キ     「……了解」

 トキは、飛行機の左側、海面すれすれを飛び、主脚と海面の距離を見守った。ツチノコは横の窓を開けて、少し顔を出し、斜め下にいるトキと、海面を見つめた。

 ショウジョウトキは、飛行機の右側に近づいていった。非常脱出口から、プレーリーが身を乗り出した。

 

 

  ―― 機内 ――

 

 ビーバーが、プレーリーの両足を、両脇に抱えるようにしてつかんでいた。

プレーリー 「もっと外へ!!」

ビーバー  「これ以上はむりッスよ!」

 ギンギツネが、シートベルトを外した。

ギンギツネ 「手伝うわ!」

 ギンギツネが、ビーバーの腰をつかんだ。

 キタキツネは、操縦桿とラダーペダル、スロットルレバーを細かく動かしていた。

 プレーリーの体全体が、機外へ出て、ビーバーの上半身が、機外へ出た。

 

 

  ―― 機外 ――

 

 主脚と海面の距離が、2mを切るほどになった。機体のふらつきは続いていた。

 プレーリーは、宙吊りの状態になっていた。

 ショウジョウトキが、飛行機の後方右上から、プレーリーに近づいていった。

 彼女は、プレーリーの方へ手をのばし、右の主翼、エンジンの後方へ近づいた。

 

 突然、ショウジョウトキがバランスを崩した。

ショウジョウトキ「うあっ!」

 ショウジョウトキは、乱れた気流に体をひねられて、機体後方へ飛ばされそうになった。彼女は流れに逆らって翼に近づこうとした。だが勢いあまって、右肩を飛行機の主翼上面に打ち付けた。

ショウジョウトキ「ぃやあっ!!」

 飛行機が、ガクンと右に傾いた。

 

 

  ―― 機内 ――

 

キタキツネ 「うう」

ツチノコ  「まずい! もちこたえろ!!」

 

 

  ―― 機外 ――

 

プレーリー 「ショウジョウどの!!」

 ショウジョウトキは、少し機体後方へ引き離されていた。

 飛行機がふらついて、高度を下げた。

ト キ   「あげて! あげて!」

 トキが、腕をあげて、空を指差した。

 主脚が、水面に近づいていった。

 

 

  ―― 機内 ――

 

 ツチノコは、トキを見ていた。

ツチノコ  「あげろぉ!!」

キタキツネ 「わかってる」

 

 

  ―― 機外 ――

 

 右の主脚が、一瞬水面に触れて、しぶきがあがった。飛行機はわずかに上昇した。

 ショウジョウトキが、機体後方から、再びプレーリーに近づいた。プレーリーが、後方を見た。

プレーリー   「ビーバーどの!! 手をはなすであります!!」

ビーバー    「なに言ってるんスか!?」

 ショウジョウトキが、飛行機の胴体に近づいた。

ビーバー    「むちゃッスよ!!」

プレーリー   「もうすこしであります!!」

 プレーリーが、足をばたつかせた。

ビーバー    「ちょっ! あばれないでっ!」

 

ショウジョウトキ「まって!! まだだめ!!」

 

 機体が揺れて、その拍子に、ビーバーの手が離れた。

 プレーリーが、機体後方へ吹っ飛んだ。

 

ビーバー    「プレーリーさーん!!」

 

 ショウジョウトキが、プレーリーを受け止めようとした。

 プレーリーの頭が、ショウジョウトキの胸にぶつかった。

 

ショウジョウトキ「うっ!」

プレーリー   「あぁっ!」

 

 プレーリーとショウジョウトキは、機体後方へ落下した。

 機体が揺れて、ビーバーとギンギツネの視界から、プレーリーとショウジョウトキが消えた。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 実機写真を見ると、非常脱出口は、胴体右側、前から三つ目の丸い窓にあるようです。この窓の内側には、客席右側、前から二列目の座席があります。非常脱出口は、窓のまわりが四角い枠になっていて、それが開く(外れる?)つくりのようです。多分外側に開くのだと思います。これは脱出口なので、開けたらドアが外れてしまい、閉じられなくなるかもしれません。

 

※2-1 ※2-2 水面(地面)近くを飛ぶと、揚力(飛行機を持ち上げる力)が増します。この場合、地面効果ではなく、水面効果と呼ぶべきでしょう。ですが、この飛行機は小型のプロペラ機なので、ここまでしなくても、ゆっくり飛べるはずです。ふらふらの、機首上げ低速飛行の状態で、こんな低空飛行をするのは逆に危険だと思います。これは、キタキツネだからできるのです。

 

※3 プロペラが起こす、激しい気流の乱れに巻き込まれる可能性があります。もちろん、プロペラに巻き込まれたらアウトです。飛行機のまわり(特に後方)には、翼や胴体がおこす気流の乱れもあります。

 

※4 高度計は、少し高度があってもゼロを指す場合があると聞いたことがあります。低空では、電波高度計で高度を測ると思うのですか、気圧高度計は、海面近くではゼロを表示すると思います。どちらの高度計が、具体的に、どの高度で、どんな表示になるのかは、筆者の知識不足でわかりません。このおはなしでは、多分両方ともゼロを表示しています。

 

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