―― 機内 ――
ツチノコが振り返って、客席を見た。
ツチノコ 「なんだ! どうしたんだ!」
ギンギツネは、ショウジョウトキとプレーリーが消えた方、機体後方を見ていた。
ギンギツネ 「うそ……」
―― 機外 ――
ビーバー 「…………」
ビーバーも、機体後方を見て、放心していた。
後部胴体の陰から、ショウジョウトキが現れた。彼女は両手で、プレーリーの右腕をつかんでいた。そして、プレーリーの両足を、トキがつかんでいた。プレーリーは、ずぶ濡れになっていた。
プレーリー 「ビーバーどの!! 指示を!!」
ビーバー 「プレーリー、さ……」
ビーバーは、涙声になっていた。
ギンギツネ 「ほんとうに、頑丈ね……」
ギンギツネは、あきれたように言って、明るい表情になった。
ショウジョウトキ「トk、アイビスワン、いったん手をはなします。下からささえてください」
ト キ 「わかった。よいしょっと」
トキは、プレーリーの足をつかんだまま下へ回り込み、プレーリーを立った姿勢へ変えた。
プレーリー 「わわわ、風がすごいでありますう!」
ショウジョウトキが、プレーリーの右腕を離した。
プレーリー 「おわあっ!」
プレーリーが、後ろに倒れそうになった。ショウジョウトキが、素早くプレーリーのうしろに回り込み、プレーリーの腰を抱いて支えた。
トキが、プレーリーの足を離した。
トキ 「気流の乱れ、気をつけるのよ」
ショウジョウトキ「だいじょうぶです。さっきのでわかりました」
トキは、二人から離れて、再び高度の確認に戻った。
ビーバー 「右へ! エンジンの右ッス!」
ショウジョウトキとプレーリーは、右の翼(エンジンナセルのすぐ右側)へ近づいていった。
ショウジョウトキ「ここ、空気がうずをまいてるんです。風が強いから、気を付けてください」
ふらつく飛行機、気流の乱れに苦戦しつつ、ふたりは、翼に近づいた。
ビーバー 「もうちょっと後ろ! そう、そこのパネルをあけるッス!」
プレーリーは、ショウジョウトキに支えられたまま、翼に寝そべるような格好になった。開けようとしているパネルは、翼の中央付近にあり、後縁のフラップが下がっていたため、プレーリーの下半身が宙に浮いた。プレーリーが滑り落ちないように、ショウジョウトキが飛びながら支えた。
プレーリーが翼に乗ると、飛行機が一瞬右に傾いた。飛行機はすぐに水平に戻ったが、大きくふらついた。※1-1
―― 機内 ――
キタキツネ 「おもい……。きもちわるい」
ツチノコは、左の窓から顔を出し、外を見ていた。
ツチノコ 「少し上げろ!」
―― 機外 ――
飛行機がわずかに上昇した。
プレーリーは、腰に下げあった工具を使って、主翼上面のパネルを開けた。
パネルを開けた直後、笛のような風切り音がして、飛行機が再びふらつき、高度が下がった。
※1-2
ショウジョウトキが下に引っ張られて、体勢を崩しかけた。
ショウジョウトキ「わっ!」
―― 機内 ――
キタキツネ 「うああ」
ツチノコ 「がんばれ!」
―― 機外 ――
飛行機はふらついたままで、ショウジョウトキは上下に揺さぶられた。
ショウジョウトキ「くっ……うあっ! つらそう、ですねっ……」
ビーバー 「右の板、そこの箱の中を通っているケーブルです! どうなってますか!?」
プレーリー 「ささえが、まがっているであります!」
ト キ 「あぶないわ! あげて!」
トキが空を指差した。
―― 機内 ――
ツチノコ 「もっと上げろ! スピードも上げていい!」
キタキツネ 「よいしょっ」
―― 機外 ――
飛行機が少し上昇した。
ビーバー 「角度を板と平行に!! ボルトを締めなおして!! できれば、上から板をあてて、補強してください!!」
―― 機内 ――
キタキツネ 「あぁっ、んんっ」
ギンギツネ 「キタキツネ、へんな声ださないの!」
キタキツネ 「いたきもちいい」
―― 機外 ――
プレーリー 「……できたであります!」
プレーリーが、パネルを閉めた。
ギンギツネ 「はやっ!」
プレーリーが、ビーバーとギンギツネの方を見た。
プレーリー 「もとよりも、頑丈でありますよー!」
ショウジョウトキ「離れます!」
ショウジョウトキとプレーリーが、主翼から、少し上後方へ離れた。
―― 機内 ――
ツチノコが、窓から顔を引っ込めて、キタキツネを見た。
ツチノコ 「だいじょぶそうか!?」
キタキツネ 「いいかんじだよ」
―― 機外 ――
飛行機は、ふらつきが弱くなり、安定してきていた。ショウジョウトキとプレーリーの位置は、非常脱出口に近かったが、少し高かった。
プレーリー 「ショウジョウどの! ビーバーどののそばへ!!」
ショウジョウトキ「あぶないです! また落ちますよ!」
ギンギツネ 「もう怖いことはやめてちょうだい!」
ビーバー 「……プレーリーさん! 飛行場へ、戻ってくださいっ!」
ビーバーは、済まなそうに言った。
プレーリー 「無念であります……」
ビーバー 「プレーリーさん……」
プレーリー 「健闘を祈る、であります!」
プレーリーが、敬礼をした。※2
ショウジョウトキ「戻ってきます」
ショウジョウトキとプレーリーは、飛行機から少し上へ上がり、飛行機の右へ離れていった。
ビーバーは、離れていく二人に向けて、敬礼をした。
ショウジョウトキは、飛行機から離れると、減速して方向転換し、飛行場の方へ向かった。
―― 機内 ――
ギンギツネが、ビーバーを機内へ引き込んだ。ビーバーが、非常脱出口を閉じた。
ツチノコ 「閉じたぞ。上昇しろ」
―― 機外 ――
プロペラの音が変わった。飛行機が加速し、上昇して海から離れていった。十分に上昇したあと、フラップを上げた。
―― 機内 ――
ツチノコ 「すまねぇみんな……。オレのせいで……」
ビーバー 「オレっちも悪かったッスよ……。あんなとこがこわれるなんて……」
ビーバーとギンギツネは、座席に戻って、シートベルトを締めた。
ギンギツネ 「みんな無事だったんだから、いいじゃな……うっ!」
ギンギツネは、両手で口元を覆った。
ビーバー 「だ、だいじょうぶッスか!?」
ツチノコ 「吐くなよ!」
キタキツネ 「無事じゃなかったね」
―― エプロン ――
ハシビロコウ「上昇した……のかな? ……赤い点が見える」
遠くに見えていた赤い点が、徐々に大きくなってきた。
オオカミ 「あれは、ショウジョウトキか?」
ハシビロコウ「そう、だね……。あれ? だれか、抱いているみたい」
―― 管制 ――
はかせ 「どういうことなのです? わけがわからないのです」
ショウジョウトキとプレーリーが、はかせと助手のもとへ飛んできた。プレーリーは、濡れていた。
助手 「生存者、1名……」
はかせ 「残念な結果になったのです……」
―― 機内 ――
ツチノコ 「やっぱり……安定してるな……」
キタキツネ 「ギア」
キタキツネが突然、機長席側に手をのばした。
キタキツネ 「あっぷ」
キタキツネが、ランディングギア(脚)レバーを上に上げた。
ツチノコ 「オイ!! 緊急着陸だろうが!」
ガコンと音がした。
キタキツネ 「だいじょうぶ。ちゃんとなおった」
ツチノコ 「直ったって……。ギアは上げないはずだろ!」※3
キタキツネ 「足が出てるとかっこわるい」
ツチノコ 「そういう問題じゃねえ! ランプは、よし。……確認するぞ」
キタキツネ 「ちゃんと上がってるよ。へんなかんじ、なくなったから」
ツチノコは、キタキツネを無視して、トランシーバーのボタンを押した。トランシーバーから、ノイズと風の音が聞こえて来た。
ツチノコ 「アイビスワン、
ツチノコは、左の窓の外を見た。トキが飛んでいた。
―― チェイサー ――
トキは、飛行機より少し低い高度へ下がり、飛行機を見た。飛行機の脚は上がっていた。トキは上昇して、飛行機の左真横へ移動した。そして、飛行機の方を向き、両腕をあげて丸を作った。
―― 機内 ――
ツチノコ 「大丈夫だ……仕方ねえ、まだギアは下ろさない。左に旋回。飛行場へ戻る」
キタキツネ 「わかった。旋回したら、操縦代わる?」
ツチノコ 「…………いや、おまえのほうが安全だ」
―― 管制 ――
はかせ 「重大インシデントなのです」
助 手 「事故なのでは?」
はかせ・助手が、管制塔の屋上に降り立った。そこには、先客の、鳥のフレンズが数人いた。はかせは、緑色の旗を屋上に置いた。助手は、矢印のパネルを、滑走路の使用方向に向けたまま、屋上に置いた。
ショウジョウトキ「どっちでもいいんですけど……。このひと、置いていきますよ?」
ショウジョウトキが、プレーリーをはなした。プレーリーは、屋上に着地した。
プレーリー 「ここ、いい眺めでありますな!」
ショウジョウトキ「わたしは、むこうに戻ります」
ショウジョウトキが飛び去っていった。はかせ、助手、プレーリーが、その方向を見た。
はかせ 「飛行機が戻ってくるのです」
助 手 「足が上がってますね」
はかせ 「なぜ上げたのです? 緊急事態ではないのですか?」
助 手 「キタキツネですから」
プレーリー 「キタキツネどのなら、問題ないでありますよ!」
はかせ 「……キタキツネなら、しかたないのです」
プレーリー 「……しかし、毛皮がべたべたして、きもちわるいですなあ」
はかせ 「あとで温泉に入るです」
―― 機内 ――
ツチノコが足を動かした。つま先がラダーペダルにコツンと当たった。
キタキツネ 「!」
キタキツネがビクッとなった。ツチノコは、さらにコツンコツンとペダルを軽く蹴った。
キタキツネ 「ん……はぅっ……」※4
キタキツネがビクッ、ビクッと反応した。
ツチノコがニヤリとして、手をはなしていた操縦桿を軽くにぎった。
キタキツネ 「ふあぁっ……なに? なにしてるの?」
キタキツネは驚いたが、前を向いたままだった。
ツチノコ 「操縦に集中しろ」
ツチノコは操縦桿を指でパチンとはじいた。
キタキツネ 「いたっ!」
今度は操縦桿を下から上へ、人差し指でこすった。
キタキツネ 「ぁあああ……くすぐったい……やめて……うぅん……」
ギンギツネ 「ツチノコ……キタキツネにへんなことすると……食べちゃうわよ……」
ギンギツネの声は低く、重かった。
ツチノコの脳内に、ギンギツネ(元の動物)の口から、ヘビのしっぽのようなものが飛び出している映像が浮かんだ。しっぽのようなものは、ピクピクと動いていた。そのギンギツネは、もぐもぐと口を動かして、しっぽのようなものを飲み込んだ。
ツチノコ 「…………」
ツチノコは、青ざめて、いたずらをやめた。
つづく
※1-1 プレーリーが翼に乗ったことで、『翼の形状が変わった』という効果が発生し、翼の揚力が減少しました。また、プレーリーやショウジョウトキが発生させる、乱れた気流によって、飛行機が不安定になりました。
※1-2 メンテナンス用パネルを開けたことで、また、『翼の形状が変わった』という効果が発生し、飛行機はさらに不安定になりました。
なお、プレーリーは、体重の半分くらいを翼にかけていて、ショウジョウトキが、プレーリーの体重の半分くらいを持ち上げています。
※2 ここは、敬礼だとちょっと不自然な気もします。サムズアップのほうが良かったかもしれません。でもサムズアップだと「ぐっどらっく、であります!」のほうが合うような……。
※3 新型機の初飛行では、脚を下げたまま飛ぶことが多いようです(下りなくなったら困るので)。ただ、今回は、レストア後の初飛行なので、そのような場合どうするのかは、知識不足でわかりません。条件によって違うかもしれません。このおはなしでは、ツチノコとビーバーが慎重だったため、脚を上げない予定だった、としています。
※4 機長席と副操縦士席の操縦装置は、つながっています。飛行機を操縦中のキタキツネは、飛行機と一体化しています。それなので、操縦桿やペダル(神経に相当)を触られると、『感じやすい』キタキツネは、自分の体や、頭の中をいじられたように感じてしまいます。