七宮「星が瞬くこんな夜に」   作:秋野親友

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勇者は魔王も救いたいのです。


崖っぷち

がさがさ!・・・ばっ!

 

七宮「きゃあ!!・・・あ」

 

冨樫「はぁはぁ、やっと見つけた・・・」

 

七宮「勇者・・・なんで」

 

茂みをかき分けて現れたのは他でもない勇者だった。きっと必死に走ったんだ、体のあちこちを擦りむいている。服もボロボロだ。

 

冨樫「なんでじゃないだろ」

 

七宮「・・・」

 

勇者に見つめられて思わず顔をそらす。何も言い返せずにうつむいていると、勇者が更に近づいてくる。

 

七宮「だ、だめ、来ないで・・・」

 

あまのじゃく。一体私は何がしたいんだろう・・・さっきまであれだけ一人でいることを怖がってたくせに、勇者を目の前にするとこみ上げてくる罪悪感に体が勇者から離れようとする。

 

冨樫「おい、七宮・・・?」

 

震える足で立ち上がって、勇者から後ずさる。離れなきゃ。勇者の隣は彼女の場所だ。

 

七宮「私は、邪魔者だから・・・勇者のそばには、いちゃいけないから・・・」

 

冨樫「何言ってるんだよ・・・おい!七宮!」

 

勇者が私の心配をしてくれている。そんな事実が嬉しくて、そんな自分が恨めしくて、迷った足は体を支えきれず、後ろによろけていく。

 

七宮(あぁ、これで転ぶの何回目だろう・・・)

 

頭の冷静な部分が自分にあきれ返っている。だけど、傾く体を支えるためにもう一度出した足は、いつになっても地面を踏まない。

 

七宮(うそ・・・)

 

両手をばたつかせるが、抵抗むなしく体がどんどん傾く。どうやら私は文字通り崖っぷちにいたらしい。

 

七宮「わわわ!きゃあ!」

 

冨樫「七宮!!!」

 

がし!!

 

七宮「勇者!」

 

冨樫「ぐっ、くそ!」

 

私の全体重を勇者の手が支えていた。強く握られて腕が痛いけど、今はそれどころじゃない。

 

ずる!

 

七宮「!!勇者!離して!」

 

勇者の体もだんだん前のめりになって滑り始めていた。このままでは勇者まで道連れになってしまう。

 

冨樫「誰が離すかよ・・っ!一気に引くぞ!せーの!!」

 

ぐい!・・・どすん!!

 

七宮「はぁはぁ・・・」

 

冨樫「はぁ・・・何やってるんだ!」

 

七宮「ううぅ・・・ぐすん」

 

冨樫「ちょ、おい、七宮?」

 

七宮「うわーん!!ごめん、ごめんなさい!ごめんなさい~~!!」

 

助かった安心感に、我慢していたものが全部とび出した。勇者の前で恥じることもなく思い切り泣きじゃくる。こんな私を助けてくれたんだ。ごちゃごちゃになっていた感情は、崖の底に落ちていったみたい。居場所だとか、邪魔者だとか、ちょっとだけ忘れさせてね、勇者。

 

 

────────────────────────

 

 

七宮「ぐすん・・・」

 

冨樫「ほら、もう泣きやめって。」

 

七宮「うん・・・ごめん」

 

冨樫「あと謝るのも禁止な。無事だったんだし、もういいだろ?ほら、みんなのところに戻ろう」

 

七宮「うん・・・」

 

泣いている間、勇者は黙って私を見ていてくれた。抱きしめることも、頭を撫でることもしてくれないけど、隣にいてくれるだけで心が安らいでいった。

 

冨樫「ほら、立てるか?」

 

勇者が手を差し出してくれる。今は手を握ることさえ申し訳なく感じちゃうけど、一人じゃ立てなかった。

 

七宮「ありがと」

 

すくっ。勇者に引っ張られながら立ち上がる。良かった、ケガは無いみたいだ。

 

七宮「あ、あの、勇者?」

 

冨樫「なんだ?」

 

七宮「手、もう離して大丈夫だよ?」

 

私が立ち上がっても、勇者は私の手を離そうとしなかった。

 

冨樫「駄目だ。またどっか行かれたら面倒だし、懐中電灯は一つしかないんだ。もうこけたくないだろ?俺は魔力補給なんかできないんだから」

 

七宮「う、うん・・・」

 

手を握ってくれるのは嬉しいけど、だんだん恥ずかしくなってきた。さっきは自分から寄りかかったりしたくせに・・・

 

七宮(ってホントなにやってんの私!?!?!?!)

 

今日何度目かも分からない不毛な自問自答。顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。さっきから忙しいくらいに色んな感情が暴れてたけど、ここにきて初めて強烈な羞恥心に襲われた。

 

七宮(私、勇者のこと「勇太」だなんて・・・あぁ~///恥ずかしい!!)

 

自分でやった事なのに滅茶苦茶恥ずかしい。これが、いつかモリサマが言っていたいわゆる黒歴史というやつなのだろうか・・・でも、それでも・・・

 

勇者の手はとても力強くて、優しくて。

 

私を前へと引っ張ってくれていた。

 


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