星が瞬く綺麗な夜に、二人で星を見ていた。憧れの勇者と二人きり。勇者の隣に座っているのは私、私の隣に座っているのは勇者。横を向けば、そこには目を輝かせて空を見上げるあこがれの人。もう触れることなんてないと思っていた手も、ほんの少し伸ばすだけで繋げる距離にある。流れ星が、私のお願いを本当に叶えちゃったのかな。ううん、たいした事じゃない。たいした事じゃないよ。友達同士二人きりなんて珍しいことじゃない。だいたい、中学の時は毎日こんな風にしてたじゃない。なのに、なんでこんなに胸が苦しくなって、体の熱をはっきりと感じてしまうんだろう。
冨樫「こんな綺麗な景色、なかなか見られないよな」
七宮「そうだね・・・」
七宮(なにか、なにか普通の話題を!)
七宮「そういえば、暗視ゴーグル持ってきてなかったね、邪王真眼。きっと持ってくると思ってたんだけど」
冨樫「あぁ、あれか。わくわくし過ぎて忘れちゃったんだと。実は俺も借りようと思ってたから残念だよ」
七宮「ふふっ、邪王真眼らしいね」
七宮(よし、ちゃんと話せてる。にーはっはっ、魔王魔法少女にかかればこんなの楽勝だよ!)
冨樫「こうしてると思い出すな~七宮と冒険してた時のこと」
七宮「そうだね・・・え?」
冨樫「思い出したよ、こけた時のこと。うぅ、恥ずかしい~!」
七宮「にはは・・・ねえ、その後のことも、憶えてる?」
冨樫「そのあと?う~ん、なんかあったか?」
七宮(どうせ恥ずかしがってくれないもんね・・・。言っちゃえ!私!)
七宮「私が魔力補給してあげたら顔真っ赤にしてたよね。可愛かったな~あの時の勇者。」
冨樫「またそれかよ・・・あれって結構恥ずかしいんだぞ」
頬を掻きながら勇者が答える。もう顔を赤くしてはくれないけれど、今の勇者は空想の敵じゃなくて私を見てくれている。気配なんて気にしないで、一緒に空を眺めてくれている。もう私に特別な気持ちを抱いている勇者じゃないけれど・・・私は、私は・・・
七宮「ねえ勇者」
冨樫「ん?どうした?」
七宮「私を好きだったこと、ある?」
冨樫「なっ、なんだよ急に」
七宮「そばに寄ると恥ずかしがったり、鼻ぽちしたら真っ赤になったり。もしかして、私のこと好きだったのかなって思ってさ」
冨樫「いや///あれは、その・・・・はあ、ごめん、でも以前のことだとしても、それは言えないよ。口にするだけで、六花の気持ちを裏切ることになる。」
七宮「それを聞けただけで充分かな」
七宮(言っちゃってるようなものだよ、勇者。)
七宮「私は・・・言わなくても勇者は知ってるんだよね。でも聞いてほしいな」
ゆっくりと横を向く。困惑した表情の勇者と目が合った。
七宮「私はね、勇者のことが、勇太のことが、ずっと好きだったよ」
ゆっくりと体を傾けて、勇者に寄りかかる。勇者の肩が少し震えた。邪王真眼への申し訳なさよりもずっと大きい気持ちが心を支配してしまっていた。続くわけのない、一瞬の時間だとしても、勇者の隣でこうしていられるなら、他のものは全部壊れてもいいとさえ思ってしまう。
冨樫「お、おい」
七宮「好きだよ、勇太」
気持ちが思いもよらない方向に暴走していた。勇者の心を動かしたい。私の言葉で、表情で、仕草で。ホントの私じゃなくてもいいから。
ねえ、勇太。ドキドキしてる?私のこと、ちょっとは考えてくれて─────
がし!!
冨樫「七宮!」
勇者が私の両肩をつかんで、思い切り引き離した。今度は私の肩がびくんと跳ねた。・・・やばい、勇者をまじに怒らせてしまった。気づくと同時に、一気に我に返った。何やってるんだ私・・・勇者をたぶらかそうとして、邪王真眼から奪おうとして・・・
七宮「あ、あぁ・・・・ご、ごめん!!」
冨樫「あ、おい、七宮!」
勇者を振りほどいて駆け出した。途中つまづいてこけてしまったけれど、構わずまた走り出す。後悔してももう遅い。あぁ、やってしまった。やってしまったんだ。邪魔者でしかない私に、勇者や邪王真眼や、モリサマーが作ってくれた居場所を、この手で壊してしまったんだ。
七宮「うっ、うぅ・・・ぐすっ」
涙が頬を伝い、風にあてられて流れていった。勇者の熱を感じていた体は、すっかり冷えてしまった。