「はっ、はっ、はっ!」
一定のリズムで呼吸をしながら車を追いかける。車の方も追いかけているミハルに気づいているはずなのに振り切る素振りを見せない
「(誘ってるのか?ふざけた事を!)」
心の中でメイヴに苛立ちを募らせながら走るミハル。しばらくすると車は運搬業者が使う様な真新しい倉庫群に消えていった
「はぁ、はぁ…ここが目的地か…」
少し乱れた息を整え潜入するミハル。すると先程まで追いかけていた車が乗り捨てられていた
「見つけた。…あの倉庫に入ったのか?」
そう言いながら静かに倉庫に近ずきドアノブに手をかけるとドアは音もなく開く
「…絶対に罠だな。でも、」
覚悟を決めて倉庫に忍び込む。中は電気がつき明るい
「さて、すずかちゃんは何処にいるか…!」
足音が近ずき慌てて辺りを見回すと慌ててダンボールに隠れるミハル。すると、近づく男達の声が聞こえてくる
「しかし、なぜ海斗様は傭兵など雇ったのか我々だけでも誘拐は問題ないだろうに」
「恐らく誘拐時に例の剣士か戦闘人形との戦闘になった時のためだろうよ。実際、安次郎様はそこを侮ったのが原因で投獄されたらしいからな」
そんな会話をしながら男達は離れていくのを確認し息を吐き出すとダンボールから出る
「まさか直樹の家で遊んだゲームの隠れ方が役立つとは…しかし、海斗様ね。そいつが今回の親玉ってわけか…」
[ミハルさん!聞こえてますか?答えてください!]
[!ユーノか、どうした?]
突然のユーノからの念話に答えるミハル
[あぁ、良かった繋がった!ミハルさん今どこですか!?こっちはミハルさんとすずかさんが消えて大騒ぎになってますよ!士郎さん達は男の人と話してどこかに行きましたけど]
T字の通路の角に張り付きのぞき込む。人がいないことを確認し移動する
[そうか、時間が無いから要点だけ伝えるぞ。すずかちゃんが誘拐されて、それを追いかけて見つけた誘拐犯達のアジトに潜入してるところだ]
[え、じゃあ今敵地の真ん中にいるんですか!?]
[まぁ、そうなるな]
[危険です!早く戻ってください!]
すぐに逃げるように言うユーノ。だがミハルはそれを否定する
[悪いけどそういう訳にはいかないんだ]
[ミハルさん!]
[ゴメン]
そしてミハルは無理やり念話を切った
(でもさっきの兵士、気になることを言ってたな。『例の剣士』は多分士郎さんか恭弥さんだろうけど『戦闘人形』ってのはなんだ?)
そんなことを考えながらミハルは移動するのだった
一方その頃のメイヴは…
「これでよろしいでしょうかミスター海斗?」
「あぁ、この小娘を人質にすれば両親は無論、あの頭の硬い忍も折れるだろう」
「しかし、我々傭兵に戦闘ではなく誘拐をしてこいと言うのは少しですが驚きましたよ」
一応契約相手であるためかしこまった言葉を使いながらも嫌味を言うメイヴ
「そちらの提示した金額の倍近い額を出したのだ。文句はあるまい?」
だが契約者の月村海斗は軽く流す
「(う〜ん、やっぱりこういうタイプの男は苦手ね)そうですね。では、残りの我々の仕事はこの少女を取り返しに来る者達の迎撃でよろしいですね?」
「そうだ、まぁ、私の護衛が10人、この建物を2人1組で巡回している何かあれば直ぐに連絡が来るだろう。それまでは自由にしていて構わないよ」
「う、うぅ」
メイブと海斗が今後の計画の確認をしているとすずかの意識が戻る
「おお、目が覚めたかい?すずかちゃん」
「ここは…ッ!、海斗おじ様!?一体…!何これ!?」
意識を取り戻したすずかは海斗の姿を見ると驚きそして自分が縛られているのを気づく
「『一族』の君にはロープでは心もとないのでね。悪いが鋼鉄製のワイヤーで拘束させてもらっている」
「…私を人質に家の財産を頂くつもりですか?」
「やはり君はお姉さんと同じで聡い子だ…。安心したまえ、向こうが要求を飲むのなら君には危害は加えないとも。拒んだ場合はその限りではないがね」
「海斗おじ様…」
海斗がすずかと話している中、メイブは護衛の男、自分の兵に小声で確認を取る
(それで、ミハくんはここに来てるのかしら?)
(はい。まず間違いないかと)
(そう…ウフフ、やっぱりこういうのは刺激がないとね)
満足そうに笑うメイブ。話を終えた海斗が戻ってくる
「さて、私は俊と春菜に要求を伝えてくる。あの子をしっかり見張っててくれたまへよ」
「ええ、分かってますよ。ミスター海斗」
海斗が部屋を出るとメイブはすずかの元に近づき目の前でしゃがみこむ
「フフッ。怖いのを必死に我慢して可愛わよ」
「……」
「安心なさい、きっと素敵な王子様が貴方を助けてくれるわ」
「え…?それって一体…」
すずかの質問に答えず立ち上がり離れていくメイヴ
「さて、ミスター海斗も言っていたしみんな休憩よ。まぁ、直ぐに忙しくなるでしょうけどね…あら?グリーは何処に行ったの?」
「アイツは待ちきれずに出ていきました。メイブ様」
「…まぁ、いいわ。あの子は若干戦闘狂のケがあるしね」
メイヴは妖艶な笑顔になる
「さぁ、早く来なさいミハくん私を楽しませて…」
その頃ミハルは
「グ、グッ〜〜〜ッ!………」
「…よし、気を失った。これで10人、巡回しているのはこれで全部かな?」
首を絞め意識を奪った男から装備を剥ぐ。拳銃はマガジンを取り出し中に装填されている弾丸もスライドして排莢し、男の手足を縛る
「使えるのはコンバットナイフとコレぐらいか…」
今のミハルの装備は敵から奪ったナイフ4本と手に持った金属の筒のみ。それをズボンのポケットに入れる
「あとはメイ姉の兵士だけ。だけど一筋縄じゃいなかいよな」
「あぁ、その通り」
「!!!」
背後からの声に咄嗟に身を蜘蛛のように低くすると頭上で何か大きな物が風を切りながら通過すると壁に当たり破砕音が響く
「オッリャ!」
「!っと」
ミハルは低い体制のまま男の膝に蹴りを入れると男は僅かによろめく。その隙に飛び退いて距離をとり、ナイフを両手に持ち構える
「メイ姉の兵士だな!」
「正解だ。傭兵会社アルスターの社員、グリーという者だ」
顔を見るとその男はメイブのと話した時に立ち塞がった男だった
「さっきぶりだな、戦鎚かそれもバカデカいのを…」
「その通り、これだけ大きければ攻守ともに優れているからな。それにこんな一本道の通路では避けるのも簡単ではないだろう?」
壁にめり込んだ戦鎚を引き抜くグリー、その大きさは戦鎚と言うよりもモンスターをハンターするゲームに出てくるハンマーの方がしっくりくる
「…悪いけど時間が無いんだ。一気に行かせてもらう」
身を屈め、まるで虎や豹が飛びかかるような体制になるミハル
「ならばこい。圧死させてやる」
それを見たグリーも戦鎚を構え、迎え撃つ準備をする
「「…………」」
互いが構えたまま数秒の沈黙。先に動いたのはミハルだった
「がぁッ!」
床を蹴りグリーに飛びかかる
「フン!」
グリーは飛びかかるミハルに戦鎚を振り下ろした
少し時は戻りメイヴは…
(うーん。暇ね、それにしても意外とミハくんって慎重だったのね巡回してる兵なんて正面から叩き潰すと思ったんだけど)
そんなの事を考えていると突如建物が揺れる
「どうやらグリーが敵を見つけたようですね」
兵の言葉に僅かに口が釣り上がる。すると部屋のドアが勢いよく開き月村海斗が飛び込んできた
「一体なんだ!?今の揺れは!」
口を元に戻し質問に答えるメイヴ
「私の兵と侵入者が戦闘になったようです」
「侵入者だと!?クソっ!なぜ連絡が来なかったのだ!」
通信機を取り出す海斗
「おい!応答しろ!聞こえないのか!?応答しろ!!!」
声を荒らげるが通信機からは何も返信は来ない
「くそ!使えん奴らめ!!!」
海斗ら通信機を床に叩きつけメイヴを睨む
「おい!さっき貴様の兵と戦闘中だと言ったな!高い金を払ったんだそいつは倒せるだろうな!!」
詰め寄ってくる海斗にメイヴは冷静に言い放つ
「それは難しいでしょう。なぜなら侵入者は――「ドガッーン!!!」」
メイブの言葉をかき消して壁を壊しながら一人の男が飛び込んできた
「うぐぐ、」
壁に穴を開けた男、グリーは首だけを上げて穴の方を見る
「あんた、頑丈さだけならフェルじいといい勝負しそうだな」
穴の置くから現れたミハルはそんなことをグリーに伝える。体は土煙などで服が汚れているが傷は見受けられない
「なぜなら侵入者は、スカサハの息子にしてその弟子ですから」
メイヴは先程遮られた言葉を言い直すのだった