海賊の海兵【完結】   作:恋音

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美味くて不味いレストラン。

 

 約1週間程前の『百計のクロ及びクロネコ海賊団討伐』の実力を認められ、ルフィはシェルズタウン三人目の将校、少佐に昇格が決まった。

 

「おめでとうルフィ!」

「ひゃー、流石本部推薦。やるなぁ」

「ありがとうな!」

 

 階級が変わっても態度は変わらない様子なので他の兵士達は気負う様子は無かった。一人を除いて。

 

「……っクソ、抜かれた…!」

 

 最近特にルフィと競うように力を付けるモーガンだった。憎い、などの感情は無いようだが唯一勝っていた地位で差をつけられてむしゃくしゃしているようだ。

 

「まー…気にすんなよ、モーガン」

「………。昇格おめでとうございますルフィ少佐殿」

「やっめろよぉ」

「くそ!絶対に追いついてやるからな!」

 

 嫌味っぽく敬語を使ってみるもルフィはクネクネと挑発するような仕草しかしなかったので敬う事はすぐにやめた。的確な判断だっただろう。

 

「副指揮官が指揮官より地位を頂戴するのに文句はねェ、完璧俺の実力不足だったしな」

 

 十数年は一つの船で船長を務めてきた経験があるルフィ、傘下もバルトロメオや様々な濃い人物をまとめあげてきた。多少頭が空でも仲間も守る事の判断は間違える事を許されなかった立場だ。

 正直クロネコ海賊団との海戦は『いつもの事をしていた』だけ。それに対して評価を貰うのはルフィが少し不満だった。

 

「ルフィ少佐の昇格祝いで何か美味いもん食べに行こうぜ!」

「おっ、ナイスアイデア!ルフィ少佐ゴチになります」

「俺かよ〜」

 

 押し付けられた会計役に文句を言うこと無くウキウキとした様子で口角を上げている。

 

「やっぱり行くとしたらあそこだな」

「「「バラティエ!」」」

 

 声を揃えて笑う兵達。

 ルフィはその笑顔をこっそり消した。

 

 

 

 ==========

 

 

 

『くそお世話になりました!』

 

 そう言って泣きながら頭を下げた大事な仲間。

 衝突もあったがお互いを信じて戦った。

 

 とても優しい恩義の男。

 

「この時代に海でレストランとはたまげたなあ」

「いつからあるんだ?」

「……俺が子供の時くらいからだ」

「ルフィ少佐詳しいな」

 

 今も子供だろ、とモーガンに叩かれながら扉を開けると初めて見た景色と変わらない店内の様子に懐かしい気持ちが溢れてきた。

 

「やっぱり海賊お断りの店なのかな…?」

「いらっしゃい、何名だ?」

 

 兵士がそう言いながら入ると一人の男がガラの悪そうな態度で接客をする。

 

 黄色の髪で片目を隠し黒いスーツを着こなした記憶にあるより若いコックの姿。

 

 ──サンジだ。

 

 ちらっと目が合った様だが特に興味を示さないのかサンジは淡々と定型文を続けた。

 

「5人で」

「こちらのお席へどうぞ」

 

 丁寧なもの言いだが態度は軽々しい。

 モーガンだけはムッとした様だがルフィを除いた他の3人が慌てて諫め席に座る。

 

「サ……」

 

 ルフィはもどかしげにサンジの名前を呼んで止めかけたが慌てて口を噤んだ。

 

 さっさと席を離れたサンジにルフィは気付く。

 ……覚えてない。

 

 そもそも覚えてること自体おかしな話だし昔の未来が分かるなど自分が異質だとは分かっていた。でも心のどこかでは期待していた、仲間はきっと覚えていてくれる。自分が誰だか、分かってくれる。

 

 今すぐにでもこの店から逃げ出したい気持ちに駆られる。ここには、居たくない。

 

「…………」

「おい」

 

 ルフィが下を向いてしかめっ面をしてると隣に座るモーガンが声をかけた。

 

「大丈夫か…?」

「モーガン?」

「うわ、大丈夫じゃ無さそうだな。顔色が悪い」

「あー……平気だ」

 

 白さを通り越して真っ青なルフィの顔が力なくへにゃりと笑い同席している4人が心配する。

 俺肉食いてぇ、と言いながらメニューを開くので敢えて触れない事にしたがその脆さに不安が生まれた。

 

「何頼む?」

「んー…文字だけじゃ想像つかねぇからコースでも良いかなって思ってるんだが」

「決まらないならそれでいいんじゃ無いか?」

 

 適当なメニューを注文して待っているとサンジの素行の悪さが徐々に会話の話題になってきた。

 女性客贔屓にモーガンが目を付けたのだ。

 

「愛想悪いと思ってたけど」

「まぁ…野郎ばかりだとなぁ」

 

「それよりルフィ、これからどうするんだ?地位をもらっても大佐も中佐も居るし特にやる事なんてあるのか?」

「あー…俺は巡回に力を入れようと思ってんだ。だってほら、海賊って言ったら冒険だろ?」

「……おいルフィ、それは敵と自分、どっちの事を言ってる?」

「俺」

「堂々と言うな…!」

 

 モーガンの質問に答えたルフィはやけに堂々としていた。

 海賊の海兵であるルフィの海賊要素が無いと思っていたがまさか巡回を冒険とするとは思わなかった。その事にモーガンは思わず頭をテーブルに打ち付けた。

 

「とりあえず今度海賊しょっぴく」

「ちなみに聞くが誰を」

「アーロン」

 

 ここに来た事で忘れっぽいルフィにもようやく記憶が蘇ってきたのだ。ここでミホークとゾロが決闘し、ナミがメリー号とお宝を盗んで出ていき、その後アーロンを倒した事を。

 

「みかんが有名な島の名前ってなんだっけ」

「………基地で調べといてやるよ」

「おう、ありがとなモーガン」

 

 流石に航路や島が何処にあるかなど覚えている筈も無かったがアーロンの縄張りはかつての仲間の島だ。

 彼女といえばお金にみかん。変な覚え方だったが微かな情報を覚えているだけ儲けものだろう。

 

 後は『記憶の無い彼女』とは会わないことを願うだけ。

 

「注文の品をお持ちしました」

 

 知らない男が品を運んでくれたことにルフィはそっと安堵の息を吐き食事へと移った。

 

 味だけでなく見た目の鮮やかさで食事を楽しませる様な色とりどりのオードブルも。

 魚介類の旨みがぎゅっと凝縮され、しかししつこく無くサッパリとした味のスープも。

 ホロホロになるくらい煮込まれた牛も。

 

 海軍基地で食べる料理が見劣りする様な食事が次々と運ばれてき、皆舌鼓を打った。

 

「……」

 

 ただ一人を除いて。

 

「どうしたルフィ、美味くないのか?」

「…………うん。美味しくない」

「「「「…は?」」」」

 

 まさかの言葉に全員が声を揃える。

 基地では美味しい美味しいと言って食べる男が基地の食事よりずっと美味しい料理を不味いと言った。

 

「美味しいけど…美味しくないなぁ」

 

 ルフィの舌は一流コックのお陰で普通の人より何倍も舌が肥えている。

 『(他の人に比べれば)美味しいけど(仲間のサンジにしては)美味しくない』

 ルフィは気付く、『仲間のサンジ』は自分の好みの味付けをしてくれていたからこそ、一番の料理になったんだ。細やかな心配りと優しさに溢れる料理を毎食提供してくれていたんだと。

 

 細かく言えるわけもなく中途半端な言葉を漏らした。

 

「オイ」

 

 そんなルフィに後ろから声がかかる。

 

「副料理長のサンジだ。生憎そのメインディッシュは俺の自信作でね…どこがどう不味いのか説明してもらおうか」

 

 眉間にシワを寄せたサンジが仁王立ちしていた。

 『仲間のサンジ』の面影を残す年若い少年のその姿にルフィは思わず痛みに耐えるような表情に変わる。

 

「ごめんな」

 

 その言葉にサンジが思わず掴みかかった。

 

「なんで謝ったんだよ…!」

「お、おい!サンジ!」

「なんで言ったテメェが辛そうな顔してんだよ!」

 

「俺のわがままだから、ごめんな」

 

 仲間のサンジの飯が食べたい。

 自分の為に作ってくれるあの料理を。

 

 大勢の客の為に作るこの料理じゃない。

 

 我儘な欲求だけが生まれる。

 

「ふ、ざけんな!」

 

 訳の分からない苛立ちに襲われてサンジはルフィを蹴り飛ばした。ルフィは避ける事などせず、ただ黙って吹き飛ばされる。

 怪我はない。でも胸が痛かった。

 

 

 ──俺は、思ってたより仲間に会いたいんだな

 

 叶えられない欲求が溢れる。

 

「俺の料理の何が足りねぇって言うんだ!タダのクレーマーじゃねぇ事くらい分かる!なんで、お前が!」

「わかんねぇ」

「アァ?」

「俺は、仲間がどんな料理を作ってくれてたか分からねぇ。でも、これじゃない事は確かだ」

「俺の料理はテメェの仲間の料理じゃねぇ…!」

「うん、だからごめんな」

 

 仲間の料理は腹を満たすだけじゃない。

 体を作ってくれる料理なのだと気付いた。

 

 感謝の気持ちで溢れる、だが目の前に居るサンジには謝ることしか出来ない。

 

「ごめんな、サンジ」

「ッ、テメェ」

「──止まれボケナス」

 

 怒り狂うサンジを止めたのはこの船のオーナー、ゼフだった。

 

「悪いな兄ちゃん」

「あ、いや、俺が全面的に悪いんだ……俺が弱いから」

「弱い、ねぇ…。偉大なる航路(グランドライン)でもやってける様に見えるが」

「うん」

 

 微妙に噛み合わない返事にゼフが苦笑いを零す。

 

「でも、弱いんだ」

 

 そう言った瞬間モーガンがルフィを殴り飛ばした。これ以上ここに居て、これ以上自分を卑下させるとダメなような気がして。力技でドロドロとした感情から救い上げた。

 痛みは感じないが息が詰まる。

 その様子をモーガンは見下ろして呟いた。

 

「迷惑かけたな。ルフィ行くぞ」

「…ありがとな」

 

 モーガンはルフィの襟首を掴み俵担ぎにすると残る3人の分まで料金を払い外へ出ようとする。3人に、残りは全部食べることを指示しながら。

 

「まて麦わら!」

 

 ゼフの後ろに居たサンジが思わず怒鳴る。

 担がれてたルフィはモーガンに頼んで降ろして貰うと外を向いたまま聞いた。

 

「……なんだ?」

「名前、は」

「……俺の名前はモンキー・D・ルフィ。海賊の海兵だ」

 

 決して顔は見せずにルフィは名を名乗った。

 

「ごめんなサンジ。俺、もうここには来ないから。…迷惑かけてすいませんでした」

 

 優柔不断な弱い自分がどれだけ人に迷惑をかけるのか。仲間といたい、と焦がれても手に入らないその欲求は誰にも言えない。

 

 サンジは去る姿を睨みながら叫ぶ。

 

「絶対美味いって言わせてやる!」

 

 ──負けず嫌いはどこの世界でも同じなんだな。

 

 海風を体に纏いながらぼんやりと考えていた。




ルフィの記憶にあるサンジの料理はその他大勢では無く自分の為に作ってくれる特別な料理で、2年間の修行を積んでからは特にそれがハッキリとしていると思ってます。要は『麦わらの一味の為の料理』
ジェルマ編とかで出てくるお弁当みたいな感じですね(ネタバレにならない程度にふわっと)
だからサンジの料理だけど『サンジ』の料理じゃ無い。みたいな。
文章力なくて申し訳ない……。

そして言わせてくれ。
モーガンの人気がすぎょい……(小並感)
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