海賊の海兵【完結】   作:恋音

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ミカンの香りに罪を知る。

『すごいっ、強いのねあんた。(サーベル)相手に素手で勝っちゃうなんて!』

『あ!…誰だお前』

『私は海賊専門の泥棒っ!ナミって言うの、私と手を組まない?』

『海賊専門?』

 

 天候を読む航海士はいつも正しい道を示してくれた。

 

『助けて…!』

『当たり前だ!!』

 

 世界地図を書く強くて優しい航海士。

 彼女はいつもミカンの香りを纏い、船を明るく照らす。彼女が居たからルフィは迷わず海賊王としての道を進めただろう。

 

 

「………モーガン」

「あいよ、指揮官殿。──相手は魚人だ!海中からの攻撃に注意しろ!」

 

 船に乗る海兵の雄叫び声の様な意気込みが聞こえる。

 

 

 1ヶ月程前から進められていた計画。アーロン一味がココヤシ村に在中している情報をどこからか手に入れたルフィの言葉から始まった。

 モーガンがルフィの持つ微かな情報から島を割り出し、その島の実態を調べたところ救援要請が出てるにも関わらずどこかで握り潰されている事が判明したのだ。

 そこからどこかの海軍支部も絡んでるだろうと睨み付近の支部から虱潰(しらみつぶ)しに回って行くと出処不明の金が回る場所が出てきた。そこはアーロンがいるだろうと推測されるココヤシ村から最も近い支部で、ネズミという名前の大佐が務めていた。怪しい、と睨んだモーガンはすぐさま本部に問い合わせるなどしてネズミの経歴を洗うと黒い噂が出てくる出てくる。

 

 そして遂に動かぬ証拠を手に入れたシェルズタウン支部は討伐へと出向くことになった。

 

「きた」

 

 海中に二つの気配が現れたのをルフィが感じ取る。

 モーガンはその視線で嫌な予感を覚えた。

 

 ──問答無用で船を沈める気か…!

 

「邪魔をするな…ッ!」

 

 ゴオッ!と風がルフィを中心に吹く。

 殺気は海底に向いているというのに心臓を鷲掴みにされた様な感覚に陥った。

 

「なんっだ、これ…」

「覇王色の覇気って言うんだ、相手を威圧する力」

「悪魔の実の能力か?」

「うんにゃ、違う。世界中探せばゴロゴロ出てくるぞ、覇気使いなんて」

 

 ゾクリとした。

 世界を見通すその目に。

 

 行こう、なんて軽い調子で催促してくれなければ固まった体は動かなかっただろう。

 

 何度差を見ればいいんだ。何度畏怖すればいいんだ。何度強くなろうと思えばいいんだ。背中を向けるその1歩が重く遠い。

 

 モーガンは自分の顔を殴って、前を見据えるルフィの隣に立った。

 

「血、出てるぞ」

「ハッ、イケてるだろ」

「カッコイイな」

 

 その口から参ったと言わせたい。

 

 

 ==========

 

 

 

 ナミは驚き固まった。

 航海から帰りアーロンに会わなければ、と重い体に叱咤しようと海岸線に目を向けると見慣れない海軍の船が有ったことに。

 

 ネズミ大佐の船は他との違いを分ける為に船の底の方にマークがついてあるし、元々魚人が好きでは無い為予定外の訪問はしない。

 

「ナミ!」

「ノジコ!どういう事!?」

「アーロンが…!」

 

 アーロンが何かしたのか。村の人達は無事か。もしも、もしもベルメールさんみたいに殺されたりなどしたら……。

 顔色を青く染めた妹にノジコは安心して、と呟いた。

 

「……誰も死んでない」

「本当…?」

「本当だよ、とりあえずアーロンパークに行こう」

 

 

 

 アーロンパークで起こっている信じられない現状にナミは頭がクラクラした。

 

 アーロンが、血を流して膝をついてる。

 魚人が倒れている。

 そこに立つのは麦わら帽子を被った1人の海兵。

 

「何が起こってるの…」

 

 ナミがか細い声で呟くとアーロンと目が合う。

 

「おかえり我らの測量士…」

 

 ニヤリと笑う顔に恐怖を覚え、ナミの体がビクリと震える。

 

「コイツもアーロン一味の仲間か…!」

 

 一人の海兵が銃を向けた。

 

「待って!ナミは私達の為に…!」

「──そいつは違うぞ」

 

 ノジコが慌てて止めようとすると麦わら帽子の少年が、ルフィが静かな声で止める。

 村人は、いや海兵でさえも驚いた顔をしていた。

 

「ナミは違う」

 

 一億ベリーで村を買い取ると決めた時からナミはアーロン一味だ。刺青が見えてなかったのだろうか。

 それにしてはハッキリと否定の言葉を口にした。

 

「ッ、この、下等種族が!」

 

 血をぼたぼたと流しながらアーロンがルフィに向かって独特な刀─キリバチ─を振り下ろす。

 

「むん!」

 

 しかし呆気なくキリバチはバラバラに砕けてしまう。

 愛刀が使えなくなってしまったアーロンは顔に恐れが浮かんでいた。仲間をやられた怒りは、もう無かった。

 

「思ってたより重いし速い。でも、届かねぇぞ」

 

 ルフィは昔の事を思い出す。

 実力のついた自分ではもう少し楽に潰せると思っていたが返しと威力が予想より強かった。

 

 それもそうだろう、かつてアーロンと拳を交えた時は今より3年も後の話。縄張りで威張り散らすだけの生活ではブランクに差が出てくる。

 張り合いのない最弱の海で力を伸ばせるとも思えない。つまり、高みを目指すことを辞めたアーロンは弱くなる一方だ。

 その事に気付くとルフィは思わずため息を吐いてしまった。自分は長年のブランクがある魚人にあれだけ翻弄されていたのか、と。

 

「ッ、モーム!」

「ンモォオオオオ!」

 

 雄叫び声と共に巨体が水飛沫を上げて飛び出てきた。

 

「ルフィ!一旦下がれ!そいつは海王類だ!」

「海王類なんて居たっけなぁ……。ん、よいっしょ」

 

 後ろから聞こえるモーガンの忠告をルフィは聞こえないフリをして屈伸する。

 そして掛け声と共に地面を蹴り飛んだ。

 

「〝ギア(セカンド)〟」

 

 ドッ!と一つの軽い音。消えたと思った麦わら帽子の海兵は空中で留まる様に拳を固めていたのだ。

 ズゥンッ、と海王類モームの倒れる音を背にルフィは再び地面へ降りた。

 

「お前…何者だ」

「海賊。そんで海兵だ」

「シャーッハッハッハ!頭がイカれてやがる!」

「俺もどうかと思うよ」

 

 もはや後が無い絶体絶命のアーロンは狂ったように笑う、その姿をルフィは表情を変えずに見ていた。

 

「お前に言うのもどうかと思うけど」

 

 サニー号の上で魚人の彼と酒を飲んだ。

 彼は涙を流しながら悔やみ、ルフィに感謝をしていた。

 

「ジンベエが」

「……ジンベエアニキは関係ねぇな」

「もっと寄り添ってやれれば良かった、って。酔うと何度も言うんだ。お前はさ、馬鹿だよ」

 

 ルフィは赤く染まり蒸気を排出する体で拳をアーロンに向けて放つ。一瞬で伸びて、その反動でアーロンの体が軽々と空中へ弾き飛ばされた。

 

「〝ゴムゴムのJET(ピストル)〟」

 

 静かな決着のつき方だった。

 

 しかし村が解放された事には変わりない。

 

「アーロンが倒れた…」

「魚人の支配はもう終わったんだ!」

「あぁ…、終わった!」

 

 口々に喜びの言葉が漏れでる。

 そんな中、村人の中で1人だけ沈んだ顔をした人物がいた。

 

「どうして!」

 

 悲痛な叫びがルフィに届く。

 

「どうしてそんなに強いのに!」

 

 オレンジの髪を揺らしながらルフィの元へ行って、ナミは殴った。ルフィはそれを避けること無く受け止める。

 

「もっと早く助けてくれなかったの!」

 

「…なっちゃん」

「ナミ……」

 

 何度も、何度もルフィに殴り掛かるナミを誰1人として止めようとしなかった。いや、出来なかった。

 うら若き少女が苦しそうに涙を流していたから、殴られる少年も辛そうな顔をしていたから。

 

「もっと早く倒してくれてれば…ベルメールさんは死ななかった!どうして!どうして!」

 

「ごめんな」

 

 ルフィは謝った。

 

 昔、ナミの話を興味無いからという理由で聞かなかった。何より先にアーロンを倒そうと意気込んで。

 自分の航海士がいつからなど具体的に覚えていなかった。

 もっと、覚えていれば。

 ここにいるナミの心を救えたんじゃないか。

 

「ごめんな…」

 

 ダメな船長でごめんなさい。

 『仲間』とナミに謝った。

 

「謝るくらいなら…ッ、もっと、もっと早く……うわぁぁああっっ!」

 

 ナミはルフィの胸の中で泣きわめいた。

 泣くな、泣くべきは自分じゃない。ルフィは感情を押さえ付けて泣き崩れるナミの頭を撫でる。

 

 

 

 彼女の纏うミカンの香りが鼻腔をくすぐった。

 




死闘じゃなかった為原作のナミと捉え方が違っています。
アーロンを倒したルフィと初対面であり、ベルメールさんと同じ海兵である事が1部影響してるでしょうな。


この作品、評価者が50人越え、そしてお気に入り数が1000を突破しましたー!わーい!今後とも(モーガンだけじゃなくてルフィも赤犬さんも)よろしくお願いします!
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