「ここ、ミラーボール島で必要物資の補給と休憩を挟む!元々割り振られていた仕事をこなし各自自由行動!集合時間は5時間後、昼食を適当に食べてから支部へ帰還!分かったなテメェら!」
「「「「はい!」」」」
モーガンの的確な指示が飛ぶと船からどこか浮かれた様子の返事がした。
「モーガン、俺先に飯行ってるな」
「朝飯食ったばっかりだろ…」
「干し肉や乾パンだけで膨れねぇよ」
指揮官がさっさと船から飛び降りて街に向かった。
後で追いかければいいかと思いながらモーガンは荷物を確認し、手配書の束を取り出して海岸にある海賊旗を視界に入れる。
「見たことねェ旗だな…最近出来た海賊か」
燃えるようなジョリー・ロジャーを睨んだ。
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「おっちゃん飯くれ飯!」
「海兵の小坊主か、何がいい」
「肉!」
「あいよ」
飯屋の店主は朝から元気な客に笑顔を零す。
「んめぇぇ!おっちゃんの飯もうんめぇな!」
「おうよ、この街じゃ浮いてるが腕は1流さ!」
素直な感想を述べるとサービスで炒飯まで付いてきた。ルフィはニコニコと食べ進める。
前は宝払いをして居たが今はそれなりに稼いでいる。ルフィは次々と料理を頼んでいた。
「おっちゃん、俺にも隣の海兵と同じくらいくれや」
「おう!兄ちゃんは旅のモンか?」
「ん?まー…そうでもいいけど海賊だな!」
「…お、おい……」
その言葉に思わず店主は苦い顔をする。客は全て客、今さら注文を受け付けない事は決してしないが隣に座っているのは海兵だ。
「なんだ、海賊だったの─────」
食事の手を止めてルフィが横を見ると動きを止めてしまった。その男も、止まる。
「ル、ルフィ!?」
「……エースっ」
ルフィ、15。エース、18の春。
二人の兄弟の道が交差した。
「そっかそっか、ルフィは海賊の海兵になったのか」
「う、うん…」
「……。」
「………。」
「そ、そうだ!1度兄ちゃんと戦ってみるか!?兄ちゃんな、1年くらい前に悪魔の実を食べてルフィと同じ能力者になったんだ!」
「………メラメラの、実」
「し、知ってたのか?」
「……おう」
「………。」
「………………。」
エースは会話を続けようとするが所々会話に間が開く。店主も思わず苦笑いをする空気だった。
エースにとってルフィとは約8年ぶりの再会になる。話す事も見当たらなければ、どういう対応をすればいいのか分からずアタフタしていた。
対するルフィは成長していた兄の思わぬ登場に心の整理が付かずにいた。子供の頃とは違い死んだ姿と重なる。
何より記憶を思い出してから顔を合わせるのが初めてだ、逃げること以外思い浮かばない。
「そ〜だ、ルフィ!お前今何が好きなんだ?」
「……ん…」
「兄ちゃんな、最近火の玉でジャグリングするのにハマっててよ〜!」
「う、うん」
「みっ、見せてやろうか?」
「……ううん」
思春期の子供に話しかける不器用な父親の様になっていたが気にせず会話を繋げようとする。
ルフィ本人には続ける気が無い様で、すぐに限界が訪れる事となってしまった。
「おっちゃん、飯、美味かった。これ置いとくな」
チャリン、と代金を置いてルフィは立ち上がると店を出ようとする。
最初に目を合わせてから目が合ってない事にエースは気付いた。慌てて止めるように声を出す。
「ルフィ!?ま、待てよ、なんか…ほら、話そうぜ?」
「…………俺は海賊だけど海兵だ、来ないでくれ」
体のいい理由を盾に逃げ出そうとした。
その手をぱっと掴んでエースが引き留めようとする。
「……。エース、離してくれ」
「だめだ」
「死ぬぞ…」
エースという存在は海賊王が殺した。
ゴール・D・ロジャーとモンキー・D・ルフィという二人の海賊王が。
だから、触れたくなかった。
コルボ山には帰ろうとしなかった。
ルフィは辛そうに顔を歪めてエースを見下ろす。
「……離せ」
これ以上、死を見せないで欲しいから。心も体も弱い自分に近付かないで欲しい。
あの戦争でルフィが出来たことは少ない。足を引っ張ったりもした。エースはルフィを庇って胸を突き抜かれ、マグマに焼かれた。
エースの死は、確実に自分のせいだと思っている。
エースは自分の弟の姿を目にしてふとした違和感の様なものを覚える。
そして、口に出してしまった。
「お前……誰だ……」
自分の呟いた言葉に気付きハッと口に手を当てる。
──何を言ってんだ…! ルフィはルフィだろ!
「な、何言ってんだろうな俺ってやつは!ハハ、兄ちゃんルフィが随分大人になってたからビックリしちまったよ!悪いな…!」
その言葉に嘘は無かった。
何年かぶりの再会で大きくなったと思ったのも事実だ。
でも昔と決定的に纏う空気が違っていた。
そう思ってしまい口から零れ出たのだろう。
まるで歳上を相手しているような、重たい空気。
子供の頃の無邪気な空気とは一味違っていた。
「ル、ルフィ?」
ルフィ本人は青い顔をしていた。
エースは嫌な気分にさせてしまったかと焦ったが本人は違う。ある意味正解の言葉を当てられた事に罪悪感を感じたのだ。
記憶を思い出す前に共に過ごしたエースだからこそルフィの違いに気付いた。
『過去でありある筈の無い未来の兄』と『記憶の無いルフィの兄』は同じ自分の兄であるが違っている。
──今のエースから、記憶を思い出すことで
「……俺、もう行くよ」
ルフィは震える声で飛び出した。
「……っくそ、おっちゃん!これ!釣りは要らねぇから!」
エースはごちそうさん!と声を上げながらルフィの去る背を追いかけれた。エースにはその背がサボと重なってしまう。自分達兄弟を守る為に貴族の家へと去るサボの背と。
「ルフィ!」
「ッ!」
エースはすぐにルフィの姿を見つけたがルフィは黒い大きな目を不自然に揺らし即座に走り出す。
「逃げるなよ…」
逃げ足だけは速かったルフィの足は、鍛えているのか回転が速く、あっという間に姿をくらましてしまう。撒かれたと気付いた時には悔しくて地面に座り込んだ。
ルフィの不思議な行動にエースは思わず頭を抱えた。
昔は海賊になると言っていたのにどうして海兵に。
だが、どこで何をやろうとこの絆は切れないと誓った。問題なのはそれなのに何故避けるか、だ。
そして何より圧倒的に違いが見える気配。
あっという間に歳を追い越されて、知らない間に成長していた弟が少し怖かった。
「だからって『誰だ』は無ェよな……あー……やっちまった……弟ってどう接すれば良かったんだ…?」
再会から間違えた行動ばかりだ。
「よぉエース」
「あ、デュース」
「何してんだ?」
「……弟に、会ったんだけど。避けられた」
「あんたが自慢してた仲良しの弟って奴か…逃げられるとはなぁ。コイツも冒険記に入れとくか?」
「ばっかやろう…情けなさすぎるだろ」
過去を知り今を知るほど距離が遠のく。
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モーガンは交代で船番をしてくれると言う兵士を有り難く思いながら街中をブラブラしていた。騒がしい方向に行けば
綺麗な街並みを眺めながら舗装された川辺の道を歩く。
「ん?ル──」
するとモーガンの正面からルフィが今にも倒れそうな足でやってきた。よぉ、と弱い声を漏らす姿に思わず眉を顰める。
「(何かの地雷に触れたか……)」
ルフィは慣れぬ船旅で酔ってしまった新米海兵の様な青い顔色をしていた。いや、もっと酷い。彷徨う死人のようだ。
「吐くか?」
「……海賊の、兄ちゃんに会った」
「そうか」
ルフィは麦わら帽子をグッと深く被った。
「ビックリするくらい……、怖かった」
「お前も人間だったんだなぁ、俺ァ一安心してるぜ」
「……モーガンも怖いのあるのか?」
「当然だ」
そっか、と笑う。
ルフィは心がぐちゃぐちゃになった時、咄嗟に見聞色の覇気でモーガンを探した。やはり、彼に頼って正解だったのかもしれない。
心がスッと軽くなった気がした。
「お前はまだガキだもんなぁ、そりゃそうだ」
「俺、そんなに若くない」
「俺の息子と変わらない歳してるくせに何を抜かすかテメェは」
「わ、やめろよ!」
頭をギリギリと押さえ付けられてルフィは苦笑いを零す。段々いつもの調子に戻ってきたらしい。
「うっし、飯食いに行くぞ!」
「あ?まだ食べてなかったのか」
「うんにゃ、食った」
「……お前なぁ、胃袋はゴムにすんなよ」
「ゴム人間ってお得だな〜」
仕方ない、本当に。
小さいのに大きな背中、頼り無いのに頼りになる男、子供なのに大人で、弱くて強い魂。
モーガンは矛盾が多く存在する男に続いて歩き出した。
唯一『記憶なしのルフィ』の身近にいた人間エースの登場!
酷いと思うかも知れませんが子供の成長って早いですからねー、特に見た目。
それに加えてルフィ(精神年齢不明)とエース(18)は色々複雑なお年頃。
混乱×混乱=大混乱。
多分一番不憫なのはこの話を見るハメになったミラーボール島の飯屋の店主