夏。
ムシムシと水分を含んだ空気がどこからとも無くやって来る。服と皮膚を引っつける汗をダラダラと流しながらルフィはダレていた。
机にベタりと顔をくっつけだらしない様子でその暑さに唸っている。
ルフィの前方に座る2人の男もまた、暑そうに服装を着崩していた。
「あーーー…暑い」
「言うな」
昇格したモーガン准尉、そしてたまたま休暇が重なった別支部のフルボディ大尉と合流して休日を楽しんでいた。
しかし、
「お、お前らなぁ…。第一、こんな所で寛げる神経がおかしいだろ」
キョロキョロと周囲を見ながら口に出したフルボディとは先日知り合った。
別支部との合同訓練でルフィによってボロボロにされたモーガンとフルボディは意気投合したのだ。そこから連絡先を交換し交流を深めた。
フルボディの方がモーガンより地位は上のはずなのだが直属の上司以外を敬う事をしないモーガンが悪い。二つ名持ちなのに何故か下っ端扱いだ。
〝鉄拳〟のフルボディは周囲を見回して嫌そうな顔をする。見るからにカモになりそうな少年を狙う犯罪者達がチラホラ見えたのだ。
「コイツ、俺らより化け物なのに狙うなよ…」
「分かる」
モーガンはうんうんと何度も頷いた。
当の本人は温くなったエールを呑みきると黙って顔を上げた。そんな突然の行動にモーガンが勘付く。
「アンタの〝けんぶんしょく〟とやらに何か引っかかったか?」
「うん…この近くにちょっと強いヤツが三つ…」
「ヘェ……。アンタより強いか?」
「流石にそりゃねェよ」
「ハハッ」
謎のやりとりについていけないフルボディだけが首を傾げた。しかしすぐに分かる事となる。
ルフィの規格外の戦力に。
「邪魔するぜ」
店の中に入ってきたのは一つの海賊団の船長。
「アイツは確か…」
モーガンがどこかで見たことあるような顔を睨みつける。ギリギリまで出ているのに分かることは賞金首だと言う事だけだ。
「あれは懸賞金1700万ベリー〝騙し討ち〟のクリーク。東の海最大の海賊艦隊の提督だ」
「「お前…よく覚えてるな」」
「敵ならどうでもいいテメェらとは違うんだよ!」
モーガンの代わりにフルボディが答えると2人が感嘆の声を漏らした。
フルボディという男、実は臆病者だがプライドの高い男だ。部下に対して、恋人に対して、『デキる男だ』という皮を被っている。その為には事前準備や前もって情報を集める事に長けていたのだ。
もちろん実力は大尉の名に相応しい実力だが、そのちっぽけなプライドが唯一の自衛手段だった。
ちなみにそのプライドはルフィによってボロボロに砕かれてしまった為この二人の前限定で被る努力を辞めた。持ってたら逆に死ぬ、と。
「どっかで見たことあるんだよな…」
「だから手配書で……!」
「う〜〜ん…」
ルフィは唸る。
フルボディがなんと言っても聞く耳は持たなかった。
「おいテメェら」
周りはクリーク海賊団に畏怖する中、悠々と会話を繰り返す3人組にクリークが目をつけ、声をかけた。
カラン、と1人の男が来店する音を聞きながら3人とクリークは視線を交える。
「いい度胸だな…犯罪者が多数いるこの島で海兵が寛ぐとはな」
「……!」
それぞれが違った反応を見せる。
モーガンはすぐにでも戦闘になれるように腰を浮かせ、フルボディは逃げ出せられる様に椅子に手をかける。
その中でルフィだけが腕を組んだままクリークを凝視していた。
「おいこらバカ」
「失敬だぞ」
「バカ野郎、敬う気はねェ」
ルフィはモーガンの鋭い声に耳だけ傾ける。
麦わら帽子を被り直してルフィは言い放った。
「猿みてぇ」
「お前が言うなモンキー!」
フルボディのツッコミが飛ぶ。
その様子にクリークは笑い始めた。
「お前ら仲間になる気はねぇか?」
「「「は?」」」
予想もしなかった提案に思わず声を揃えた。
「
「おいおい……仮にも海兵だと言ったテメェが勧誘するか普通……?」
「バカいっちゃいけねぇ…このご時世そんな事にこだわってるんじゃ生き残れねぇさ」
モーガンの最もな疑問にクリークはさも当然とばかりに答えると二人の視線がルフィへと注ぐ。
そんな事にこだわらない海賊の海兵がこの場にいる以上それを否定する気にもなれないようだ。
「第一、なんで俺たちが海兵だと?」
「おいおい…。知らねぇのか?」
クリークはモーガンへ視線を移した。
「お前だろ、アーロン一味を潰したって海兵は」
「………は?」
モーガンは首を傾げる。
何言ってるんだ?と。
「聞いてるぜ、麦わら帽子の海兵がいる軍が潰したって話は。お前が上官だろ…?」
「あー…。なるほど、そういう事か…」
モーガンは独りでに納得する。
見た目ガキの海兵が筋骨隆々の男の上官、更にはボコボコに出来る程の実力だとは思わないだろう。
麦わら帽子という特徴が伝わったとしても実際その姿を見てみれば拍子抜けする態度と容姿、噂が流れる事で歪んだ情報だと勘違いだと思う事があるかもしれない。例えそれが事実だとしても。
──こいつは噂を間違えた噂と捉えたか。
モーガンは基本脳筋なだけあって決して馬鹿ではない。
真の脳筋は麦わら帽子を被って飄々とした態度を取っている馬鹿だ。
「断る。例え海賊になるなら他がいい」
モーガンはルフィに視線を寄越す。
「そういう事だ、ごめんな」
ルフィはニッカリと歯を見せて笑った。
「ははは!まぁいいさ!酒でも飲め飲め!」
「お、ありがとな!」
ルフィが酒を差し出され口に出した瞬間、クリークは頭を押し潰す様に机に叩きつけた。
──バリンっ!
グラスと机の割れた音がする。
モーガンとフルボディは咄嗟に構えた。
「おいおい…まさかと思うが本気で海兵を勧誘するとでも思ってたのか?情けねぇな昨今の海兵は」
「チッ、騙し討ち、か」
「一人潰したぜ……さて、遊ぶとするか?」
「……はぁ、クリークよォ」
地面に押し潰した筈の人間がピクリと動く。
それに気付いた瞬間クリークは下からの爆発的な威力に軽く吹き飛ばされた。
「──誰が潰れたって?」
ルフィの1番の理解者、モーガンはニヤリと笑う。
「ルフィ、ここには幸い犯罪者しか居ねェ。全部一気に潰してもいいと思うが?」
「そっか?」
吹き飛ばした本人は音を鳴らしながら服に付いたホコリを取り、軽い調子で返事をした。
「首領・クリーク!」
部下の1人だろう男が悲鳴に近い声を上げる。
「やっぱり思い出せねぇなぁ……ま、いっか」
──ゴオォオッ!
ルフィの言葉が切れるタイミングで酒場は静まった。
弱めの覇王色の覇気だったが、それでも最弱の海では立ち上がる者は居ないようだ。
「んんっ、おしまいか?」
「おま、お前……なんだよそれ…」
その場では、ルフィの非常識さに慣れないフルボディが口をパクパク開いていた。
「ん〜?覇気だ」
「はき?」
「そうそう、覇気」
ご馳走様でした、とお礼を言いながら外に出ようとルフィは扉に手をかける。
「──っ、待て!」
3人では無い別の誰かの声が聞こえた。
──あぁ、泣きたくなる声だ。
「俺の名前はロロノア・ゾロ!世界中に声を轟かせる程強くなりたい!アンタが強い事はさっきのを味わえばすぐ分かった、俺に、稽古を付けてくれねぇか…っ!」
3つ。
それはクリークとギンとゾロでした