海賊の海兵【完結】   作:恋音

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獣の躾は難しい。

 

 

「俺の名前はロロノア・ゾロ!世界中に声を(とどろ)かせる程強くなりたい!アンタが強い事はさっきのを味わえばすぐ分かった、俺に、稽古を付けてくれねぇか…っ!」

 

 その時のルフィの顔を見た瞬間モーガンは察する事が出来た。これは地雷だと。

 

 ──何度目だよ…その顔は…!

 

 決してやめろとは言わないが、流石に見たくない。

 その苦痛に満ちた辛そうな表情は。

 

「あんた、名前は!それとさっきの奴って一体──」

「落ち着けガキ」

 

 まずはグイグイ来る積極的なこの男を何とかしなければならない。フルボディは地雷を踏み抜かれたルフィの対応は初だ。モーガンがルフィとゾロの間に入る。

 

「こいつはモンキー・D・ルフィ。分かったらさっさと去る事だな、剣士」

「…テメェには関係無ェだろ」

「いーや、関係ある。俺はこいつの部下だ」

 

 バチバチと2人の視線が交差した。

 

 そんな中『強さ』と『弱さ』が答えを出す。

 

「俺には無理だ」

 

 ゾロに向き合う『強さ』とゾロから逃げる『弱さ』が。

 

「ッ!なんで」

「俺には剣を使えない、料理も作れないし航海術だって無いし弱さに立ち向かう強さだって無い。傷を治す事も、船を直す事も、音で人を幸せにする事も、泳ぐ事も。仲間が居ないと何も出来ない俺だから、俺はゾロに強さを教える事は出来ないんだ」

 

 一つ一つルフィは仲間の顔を思い浮かべた。

 目の前のゾロと仲間が被る。

 

「ゾロは、世界一の剣豪になれる才能を秘めている。俺だけじゃ絶対その才能を咲かせてやれねぇ」

「………それは、お前も居ないと世界一の剣豪になれないことと同じじゃないのか」

「んー…そうかもしれないなぁ」

 

 『ゾロ』の才能を開花させたのは『ルフィ』じゃない。

 ルフィは少し見ない間にドンドン強くなっていく副船長を1番長く隣で見ていた。

 

 アラバスタや空島はもちろんだが、2年間の修行期間でもゾロは鷹の目ミホークに強くしてもらったと聞いていた。

 そこにあるのは自分の名前じゃない。

 

 

 ルフィは自分を過小評価しない。

 本能で事実を把握する。

 

 『ゾロ』が強くなったのは『ルフィ』の為だ。

 『ゾロ』を守ったのだって『ルフィ』のお陰だ。

 そして『ルフィ』が強くなったのは『仲間』のお陰。

 

 助け、助けられ、あの海を生きてきた。

 

 『海賊狩りのゾロ』に近付くには『麦わらのルフィ』が必要であり今のルフィでは無い筈だ。

 

「俺がお前の道を潰してる」

「……は?」

 

 あの頃の軌跡を潰してる。

 

「じゃあな、ゾロ。俺は今のお前に会う資格が無いんだ」

 

 ルフィは背中を向けて外へ出る。痛い程太陽が照りつけ、汗がだらりと出てきた。それは心が悲鳴を上げる冷や汗というものかもしれない。

 

 ──寒い…。暑いはずなのに。

 

「待て!待てよッ!」

 

 ゾロは背中を向けるルフィに向けて叫ぶ。

 ルフィは決して振り返らなかった。

 

「どういう事だ…!俺は、俺に何が足りない!誰かの背中を守ってみたいと初めて知ったんだ!」

「……おいルフィ」

「…………。」

 

 ゾロの必死な声にフルボディが動かされる。少しくらいは話をしてあげてもいいんじゃないか、そう言おうとしたがルフィは全く反応しなかった。

 

「俺が名を轟かせるにはアンタの力が必要だ!アンタを守りたい!アンタの側で強さを学びたい!」

 

 フルボディはルフィを冷徹な奴だと思った。

 しかしその顔を見て思わず口を噤む事になる。

 

「ッ、なんでそんな…」

「フルボディ」

 

 必死なゾロよりルフィの方が辛そうな顔をして泣くのを我慢していたからだ。

 フルボディは何か口を挟もうとしたがモーガンがそれを制す、ルフィをこれ以上押し潰すな、と。

 

「ッ!」

 

 結局、ルフィは島を出るまで一言も喋らず振り返る事は無かった。爪で血が滲むほど握りしめた拳を開かずに。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「アイツは何を考えてるんだ…?」

「さァな、分かんねぇよ」

 

 帰りの客船の中、船に備え付けてあるバーでフルボディとモーガンは酒を呑みながら一人の男について語っていた。

 

「どうしても俺には、弱さしか見えない」

「あれだけコテンパンにされてたってのにそう言えるならお前は俺と同類だな…」

 

 ルフィは強い。東の海(イーストブルー)で燻っている期間が勿体ないほどに。

 しかしこの2人の男にとってルフィとは弱い生き物だと認識していた。それは恐らく東の海(イーストブルー)1だと。

 

 モーガンは自分と同じような価値観を持っているフルボディを嬉しく思いながら、そして理解できるのは自分だけだと言う特権が薄れた事を少し残念に思いながら酒をあおる。

 

「あの剣士も弱さを見抜いていたのか?守ってみたいと言っていたし……」

「さァな、だが俺は守ってみたいとは思わねぇな」

 

 フルボディの疑問に答える。

 

「まるで世界の王みたいなあいつは、守られる事を嫌うだろ」

「あぁ、確かに。背中で庇うタイプだ」

「せいぜい出来る事は支える事だ」

 

 モーガンは自嘲気味の笑みを浮かべた。

 

「──アイツの仲間は俺じゃねェからな」

 

 あの子供が何を背負っているのか、何に苦しめられてるのか、分かってることは少ない。

 しかし今のルフィを守っているのは『仲間』だろう。

 

「なんつーかよ。見る目が無いな、お互い」

「まぁな」

 

 

 

 

 

 

 

 かつてルフィが過ごした時間が『助け守り合う世界』なら、今の時間は『傷付け支え合う世界』だ。

 一つの小さな命が世界を変えてしまうのだから、この世界はあまりにもお粗末過ぎる世界だ。

 

 それだけ世界は『麦わらのルフィ』 を求めている。

 

 世界の意思を知ってか知らずか、ルフィは度重なる困難に負けないよう心を閉ざし続けるだけだった。

 

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