「モンキー・D・ルフィ、だったか」
三つの刀を腰に差し、短く刈り上げた頭をかきながら1人の男は海を眺めた。
キラキラと光が反射する。
──追いかけてやるさ、どんな試練があっても。
麦わら帽子が風にたなびく姿を、側で見てみたい。
あの男が世界にどう影響を及ぼすのか、誰に影響を与えるのか、見てみたい。
あの王に従いたい、命を預けたい、預けてほしい。
男は、ゾロは刀を胸に誓いを立てた。
「絶対掴まえてみせる」
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マリンフォードにそびえる海軍本部基地。大将、赤犬ことサカズキの元に一人の男が戻ってきていた。
「大分、シケたツラをしとるのぉ」
「はは…やっぱりそう思うか?」
自嘲気味の笑みを浮かべてモンキー・D・ルフィが立っている。サカズキはその姿を見て、予想以上の疲労具合に眉を顰めた。
「どうじゃった」
「んー…。神様を恨んだ、かな」
「神、のぉ」
「まぁ昔は神様をぶん殴った事あんだけどよ」
少々笑えないエピソードが零れたがサカズキは気にせず耳を傾ける。
「俺は。この世界の時間が戻るなら、なんも知らない頃の俺に戻して欲しかった。昔の仲間に会うだけ、夜に涙が零れるんだ」
ルフィはどこかで聞いた言葉を思い出す。
涙の数だけ強くなれる、とは何なのだろうか。自分は涙の数だけ挫けそうになる。
転ぶと、恐らく立ち上がれない。
「そうか…やはりお前さんも人間じゃったか」
「猿って言われた事はあるけどな!ウッキッキ〜!」
猿真似をするルフィにため息を吐く。
空元気なのは、どこから見ても分かっていた。
「実績は?」
「良く分かんねェけど、大佐にはなったぞ」
「上出来じゃろう。アーロン一味を潰した様じゃしなぁ」
「海賊やってもいいか?」
「せめて少将、いや中将まで頑張るんじゃな」
「長いなぁ〜」
ルフィはのんびりとした口調で感想をこぼすとソファに座る。そういえば、と思い出した様に再び口を開いた。
「帰りに乗った軍艦、新しいヤツ?」
「どれじゃ」
「えっと…操舵の形が少し小さめの、風呂付き!」
「……………あぁ」
サカズキは少し考え込んでから肯定する。
フッ、と鼻で笑ってルフィを見た。
「腕のいい厄介者を海軍に抱え込んだ」
「へぇ〜」
「腹が立つ程腕が良くての、なんなんだお前さんは」
「お、おう?なんかよく分かんねぇけどゴメンなさい」
ペコッと頭を下げたルフィ。サカズキは戻ってきたと実感しながら喉の奥でくつくつと笑う。
──絆されたのはわしの方か…
情けない笑みをしまい込んでルフィに指示を出した。
「さて、暫くお前さんはわしの隊に逆戻りだ。最弱の海で緩み切ったその態度を改めさせてやるわい」
「元々こんなんだったけどな、俺」
「目をつけられても知らんぞ」
麦わら帽子の男は『海賊の海兵』だ、と本部内でじわじわ噂が広がっている。その男が赤犬のお気に入りの話は未だ流れてない分、守れるのは己のみ。厄介な事に首を突っ込む男が、厄介者に絡まれ巻き込まれない様に。
操り人形の様に大人しくしてくれないのが難点だが。
「ひとまずガープに顔でも出してきたらどうだ」
「うん、行ってくる」
「奴は今センゴクと共にマリージョアに居るからな」
いつまで経っても態度の変わらない祖父に会うのは、個人的に気持ちが楽だった。
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しかし、ルフィに待ち受けていたのは別であった。
「あっ!あ〜〜っ!?…!!」
心から驚いたような、声にならない声がルフィの耳に飛び込む。廊下を歩いていた周囲もその様子に政府の役人も海兵も思わず注目する。
「げ…」
「麦わらァ!」
驚きの声を上げたのは『七武海』だったからだ。
「………ワニ」
「お前っ、今までどこに……!いや、そうじゃなくて…!どうしてここに…っ!?」
影でサカズキにより『オチた』と評価を受けたクロコダイルはあの日ルフィに出会ってからさり気なくルフィを探していた。
約3年間、あの日受けた屈辱と衝撃と偉大さを忘れずに。
「フフッ。ボス、取り乱しすぎよ」
「黙ってろオールサンデー」
クロコダイルの後ろに控えていた女が声を出す。
それに気付いたルフィは思いっきり目を見開いた。
「ッ!」
「オイ海兵、こいつは一応七武海の手足だから捕まえんなよ……って流石に分かるか」
ニコ・ロビンと手を組んでいる事を知っていた海兵だ。そこを考えて納得する。
クロコダイルは変わっていた、それはいい方向に。
国の乗っ取りに興味をなくしたとロビンに告げてから彼女の態度も一変した。
彼女は本当の歴史を求める者、元より国盗りに興味は無い。改めて協力を結ぶ事になったのだ。
クロコダイルという男を隠れ蓑に使い、ロビンという女を手足と使い。そうしてBWが新しく変わっていった。
「麦わら?」
ルフィは思い出す。
『私を、仲間に入れて』
クロコダイルの元から現れた彼女は風で髪をたなびかせながらそう告げて仲間になった。
仲間を助ける為にその命を犠牲にしようとして、世界を相手に喧嘩を売った。
「っ、なんで、もない」
「なんでもねぇ事は無いだろ…」
「気にすんな!」
ニッ、と笑いながらルフィは言う。
この組み合わせは、相性が悪すぎる。
「そうだ海兵さん」
「…なんだ?」
「これ、私の電伝虫の番号。何かあれば連絡を頂戴」
「なんっ、で」
微かな期待を込めてルフィはロビンを見上げる。
「そうね…個人的に気になるから、かしら。ボスに気に入られてる貴方が」
「ニコ・ロビン!」
「怒られちゃったわ」
肩を竦めながらロビンは笑う。
随分楽しそうなその様子に胸がジクジクと痛んだ。
「…じゃあな」
「あ、おい麦わら」
「……ん?」
「また会えるよな」
クロコダイルは咄嗟に聞いた。
何だか消えてしまいそうな気がして。
ルフィは困ったような笑みを浮かべながら2人を置いて部屋の中へ入る。その扉が閉まるとクロコダイルは小さく舌打ちをした。
──見ない間、何があった
そう親しい仲とも言えない。ただ1回だけの邂逅。
しかし、あの頃の王の片鱗は微かに薄れている様な気がして。あの惚れた王の覇気を鈍らせたであろう見えない元凶に、腹を立てていたのだ。
「ボス、行きましょう」
「……ああ」
ロビンはその様子に笑うとクロコダイルを急かす。『歴史』と同等の興味をあの麦わらの少年に抱きながら。
東の海が終わり本部に戻ってきたルフィ大佐。
逃げたくて頑張りました、とは情けなくて言えません。