海賊の海兵【完結】   作:恋音

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生まれてくれてありがとう。

 

 

 目を開けると、そこには壮大な景色が広がっていた。青い、青い世界。空も地面も永遠に続く様な青。

 

「どこだ…ここ」

 

 ポツリと呟いて見たが何も答えない。

 

 ルフィは自分の体を確認する。愛用の麦わら帽子、ここ数年で見慣れた海兵の制服、草履を穿いて、体の傷は目の下だけだ。

 

「夢かな」

 

 ひとり勝手に納得して青い世界を歩く。

 海の上に立っているのに沈まない不思議な光景に、少し心が踊っていたのだろう。その顔には笑みが浮かんでいる。

 

 1歩ずつ、前に進む。

 時には後ろに下がってみたり、飛び跳ねてみたり、寝転がった。でも何も起こらない。

 

「………」

 

 つまらない。

 

 冒険だけど、これは冒険じゃない。

 

 思わずしゃがみこみ海面を見ると思わず息を飲み込んだ。

 

「ッ!」

 

 海面に写って居たのは『仲間』だった。

 

 海面に手を伸ばそうとしたがまるでそれをゴムのように海面が拒否する。弾いて弾いて、届かない。

 

「ゾロ!」

 

 ──ルフィ…

 

 つい最近見た若い姿と違う。目に傷も有るし着流しを着ていた。まだまだ若いだろ、と軽口を言いながら酒を共に呑んでいた一番新しく古い記憶と重なる。彼は『俺の剣士』だ。

 

 海面に写るゾロは寂しそうに笑う。

 海面に写る自分の背中を叩くような仕草をしてそのまま波紋を残しながら消えていった。

 

「ゾロッ、ゾロ!」

 

 どうか自分もそっちに連れていってくれと懇願するように海面をかき分けても海がそれを許さない。

 弾く、弾く…──。

 

「なんでッ、なんで俺だけ…!俺は、何よりお前らと!」

 

 冒険が好き、だけど、一人の冒険は嫌いだ。

 一緒に騒いで悩んで笑って、そんな冒険がしたい。

 

「行かないでくれ……」

 

 海は時に様子を変える。

 

 荒れ狂う海、穏やかな海、静かな海。

 

 次に海面に写ったのは、海面にいる泣きそうな顔をした自分の傍らに立つ女性の姿だった。

 

「ナミぃ!」

 

 ──バカね…

 

 海の中のナミはニッ、と歯を見せて笑った。

 ルフィがよくする笑顔が好きだ、と語る記憶と重なり懐かしい気持ちが溢れる。『俺の航海士』は長い髪をかきあげるとゾロと同じように波紋を残し消えていった。

 

「お前の声が無いと俺は…どこにも行けないんだ!」

 

 迷子になってばかりの自分には彼女が必要なんだ、離さないでくれ、と世界に頼むが聞き届けてくれない。

 

 その代わりに見せたのは長鼻の男。

 

「ウソップ…ッ」

 

 ──らしくねェなぁ…

 

 ドヤ顔で鼻高く笑っている。

 お前は歳をとっても俺様が居ないとダメだな、と笑いあって友情を確かめ固く感じた記憶と重なる。しかし『俺の狙撃手』は軽く手を振ると背中を向けて海の奥へと歩いて消えていった。

 

「苦しいんだ、しんどいんだ、お前と分け合えないなんて…っ!辛いに決まってる…!」

 

 ルフィは叫ぶ。こんな夢は見たくない。

 いっそ殺してくれと願った。

 

 絶望にも似た言葉を飲み込んだのは海にタバコの煙がゆらゆらと揺れていたからだ。

 

「サンジ!」

 

 ──よぉ船長…

 

 いつまでもつまみ食いの攻防を繰り広げたが仕方ないなぁ、と言いながら腕を奮っていた『俺のコック』がタバコを消して腰に手を当てていた。

 

「お前の料理、凄いんだっ!力が漲るんだ…!お前が居ないと俺は……っ!」

 

 サンジ以外の料理を食べて、普段の調子が出てこない事が分かった。足りない、舌も心も。

 海賊王を満足させることが出来るのは女に弱くてカッコイイこの男しか居ないのに!

 

 その願いも虚しく彼らと同じように消えていった。

 

 後に残るのは青い世界。

 

 

 

 桜の花びらが海面に落ちる。

 思わずルフィは海をのぞきこんだ。

 

「チョッパー!」

 

 ──治れ…

 

 桜になれたかな、なんて照れながら小さな蹄で頭をかき照れていた化け物。『俺の船医』だ。

 どんな状況下でも人を癒すことを第一に考えていた優しい化け物は少しのことで決壊しそうな程の泣きそうな笑顔を作った。

 

「俺の桜はチョッパー、お前なんだ! 何度助けられたと思ってんだ!………ッ傷が痛い、心が」

 

 傷ついても傷ついても治ると信じていた。だって最高の医者がいるから!

 ルフィは自分1人で包帯すらも巻けない。傷つくのが怖いのだと何度も叫んだ。

 

 チョッパーは静かに首を振るとトテトテと歩いて姿を消してしまった。

 

 

「ッ、ビビ!カルー!」

 

 ──ありがとう…

 

 その代わりに現れた一人の王女とカルガモの名を呼ぶ。

 

 海を一周、その時に2人は船に乗った。

 青い髪に潮風を纏いながら仲間と呼んでくれてとても嬉しい、と笑った姿と瓜二つ。

 しかしそんな2人も同じように消えていくのだろう、いかないでくれ。

 

「何で、俺ッ、 俺を成長させてくれたのは間違い無くお前らなのに!」

 

 困ったように眉を下げながら彼女は笑う。カルーに跨ると空を飛ぶように姿は薄れていった。

 

 

 深く、深く。深海の底、濃い色に染まった海が海面に映し出される。

 

「ロビン…」

 

 ──まだまだ子供ね…

 

 手を伸ばそうとすることすら出来ない。

 

 この世界で一番の謎はきっと心ね、と優しい笑みで語ってくれた。『俺の考古学者』は穏やかな笑みを浮かべて腕を組んで立っている。

 

「俺バカだからさ…まだまだ分からないこと沢山あんだ…」

 

 知識を、生きるための知恵を。ロビンが居たから冒険が何倍も楽しくなった。わかりやすく理解できるように噛み砕いた言葉と声が好きだった。

 

 それなのに彼女は消えていく。

 また、まただ。

 

 ルフィは息のできない苦しみに襲われた。

 

 

「フランキー…ッ!」

 

 ──スーパーだろぉ?

 

 その姿を吹き飛ばすように豪快に笑う。奇抜な装いからは想像出来ない『俺の船大工』は家であり足であるサニーを生んでくれた1人だ。男のロマンはいつまでも続くな、と心躍るロボを生み出し続けた姿と重なる。

 

「お前の腕が無いと満足に海を渡れねぇ…!」

 

 足場、まさにそれ。彼自身の性格の明るさも好きだが船を治してクードバーストで空を飛ぶのも気持ちがよかった。

 泳げない自分の為の足が欲しい。

 

 彼も、また消えていく。

 

 交代するように現れたのはアフロの骸骨。

 

「ブルック!」

 

 ──ヨホホッ…

 

 『俺の音楽家』は旅に彩を与えてくれた。さぁ歌いましょう!と海賊らしくどんちゃん騒ぎした記憶が蘇る。海に映る彼は帽子を片手に優雅な挨拶をしている様だ。

 

「お前の音…、まだ聞きたい…!」

 

 いつまでだって口ずさむ。あの出会いと別れの海賊の歌。生きている証の歌。

 

 しかし世界は無情にも姿を消してしまう。

 

 

 どくん、どくん。

 心臓が煩く音を立てる。

 

 ──この世界は俺に何をさせたいんだっ!

 

「なぁ、ジンベエ…!」

 

 ──生きてくれ…

 

 海面に映る最後の仲間。ルフィを叱咤するようにキリリと眉を上げている。『俺の操舵手』。わしが死ぬことになったらエースさんと同じように悲しんでくれるか、と普段からは想像つかない弱々しさで聞いた姿。出会いよりシワの出来た顔だった。

 

「俺を動かしてくれるんだッ、いかないでくれ!俺は、弱虫だから!ジンベエが突き動かしてくれないと…!」

 

 船を操る様に自分の弱い心を突き動かしてくれる彼の腕前。ルフィは渇望していた。

 

 どうしてこんなにも苦しい!

 

 

 

 

「船長」

 

 やけに、ハッキリと聞こえた。

 

「……メリー?」

 

 海に手を伸ばそうとするルフィの目の前で小さな子供がレインコートを着て立っている。

 

「なぁメリー、メリー。お前が海に眠る時もこんな気持ちだったのか…?苦しい、苦しいよ…ッ」

「ごめんね船長……。ボク、船長を戻してしまった」

 

 薄明るい光を放ちながらメリーは謝った。

 どうして、と口を開く前にメリーが答える。

 

「ボクは未練があった。仲間の温かい心にまだ寄り添いたい、って。だから妹に無理言って乗せてもらってた」

「サニー…に?」

「うん」

 

 ニコッ、と苦しそうに笑っていた。

 

「でも、走りたかった!あの大海原を!」

「ッ、ごめんなぁ…」

 

 ルフィが謝るとメリーは首を横に振る。

 

 こちらこそ、ごめんね。そう言っているようにも思えた。

 

「船長が記憶を思い出したのはボクが眠っていた海なんだ…。ボクは一応神様に近い物だから、条件に当てはまり生と死に深く関わった者の記憶を呼び寄せてしまった」

「じょう、けんがあるのか!?俺の仲間は…!」

「あるよ…」

 

 メリーは寂しそうに呟いて下を向いた。

 その言葉はルフィにとってショックな言葉以外何物でも無かった。

 

「船長」

「……メリー」

「生まれてくれてありがとう」

「……え?」

「生きてくれてありがとう」

 

「ボクに、感情を教えてくれてありがとう。ルフィ船長の人生に幸せが訪れる事を──」

 

 海面から花が飛び上がった。

 アザミ、ヒマワリ、デイジー……まるで仲間の様な色とりどりの花が。

 

「キミの仲間は…───」

 

 波が盛り上がり、メリーを海へ引きずり込んでいく。

 

「メリィ!」

 

 空と海が溶け合って、混ざりあって。青い世界に意識が溶けていく。

 ルフィの意識は遠のいた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「おい、起きろ」

「ん……」

 

 寝ぼけ眼を擦りルフィは目を開ける。懐かしい夢を見て自然と涙が溢れて来た。

 

「え……」

 

 涙を拭い、目を開く。

 

「よォルフィ、誕生日おめでとさん」

「……モーガン!?」

 

 16の春。5月5日。そこにはこの世界で手に入れた友が手土産を持参したと言って笑っていた。

 

 

 

 

 ──船長。この世界に生まれて、生きてくれて。どうもありがとう…

 




逆行条件の中の1部『親しいモノの死』これにももっと細かい条件がありますけど、逆行者が記憶を思い出す場所は『親しいモノの死』があった場所、ですね。
そして『生と死に深く関わった』という前提条件がある様ですね。

ルフィ船長お誕生日おめでとう!
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