「よぅ」
「あら、あんたも来てたの」
「まぁな」
花咲く丘の上。
三つの墓が並んだポカポカと暖かい春の日の午後。
「……アイツの誕生日の日。変な夢を見たの」
「………ヘェ」
女は隣に座る男に話しかけた。
「海の中で泣いてた。叫んでた」
「苦しそうに、か」
「ん、そうね。何を悩んでるのかしら」
「さぁな。ただ、弱気なんてらしくねぇよ」
男は風を浴びながら女に言う。
すると女はほんのり目を見開いた。
「あんたも…見たの?」
「おう、見た。死んでも頼ってくれる、なんて仲間冥利に尽きるじゃねェか」
「……本音は?」
「ウジウジすんな、俺達の船長だろ。だな」
ズバリとハッキリ口に出した男の様子はいつまでも変わりなく、女は何故かおかしく感じてしまい思わず笑みを零す。
「始まりは、あの日。俺ァ約束を交わした」
「始まりは、あの日。私は罪を押し付けた」
目を閉じるとあの日の情景が浮かんでは消えていく。
『殺されやしねェよ、俺は強いからね』
『俺の宝物に触るな』
本当に懐かしい。
「あの夢はなんだったのかしら」
「今アイツが苦しんでるのかもしれないな」
「そうね…」
「頑張れ、***」
女は船長の名を呼んだ。
「頼むぜ船長。情けないツラしてんじゃねェよ」
男は船長を叱咤する。
「よう、おふたりさん」
「…!」
彼らの後ろには花束を持ったかつての仲間が居た。
「お前もここに来たのか」
「おう。呼ばれた気がしたからな。俺様が居ねぇとアイツは本当に頼りねぇなぁ!」
墓に花束を置くと彼は笑った。
「始まりは、嘘だったな」
「終わりも嘘で括るつもり?」
「……嘘だと良かった」
「そうね。でも、これがアイツの選んだ結果。歩んできた冒険記の終わりだものねぇ」
女は困った様に笑っている。
唐突に始まり唐突に終わる、そんな人生の彼らしい、と。
「ああ…本当に。悔しいなぁ」
「アイツが死んで、荒れたな」
「おう。何度か縄張り回ってたが、ありゃダメだ」
そう語る彼の顔には悔しさが滲んでいる。
「アイツ以外認められない、と言うヤツら。そしてその隙を狙う
「白ひげさんが死んだ時以上ね…。あーあ、誰かイキのいい奴が『俺の縄張りにするからな!』って喧嘩売ってくれないかしら。そうしたら、丸く収まるのに」
「渡すならアイツみたいな奴が良い。と言う俺達も俺達だな」
「どれだけ引き摺るんだ、お互い」
「全くだ」
男の言葉に女はでも、と付け加える。
「私達の全てだから」
半身が失われると言うのはこういう事だと学んだ。いきなり過ぎる別れに動揺して身に力が入らなかった。
「もう。やめにしようぜ」
タバコの香りと共に新たな声が聞こえた。
「『世界で1番自由な海賊が海賊王』なんだろ。なら、『世界で1番自由な船員』は俺たちだ。縛り、縛り付け合うのは、辞めにしよう」
「…………分かってる。けど」
「気持ちは分かる。でも、こんなのは俺たちらしくない」
自由な海賊なんだ。
この海で一番。
例え傘下が増えようと、仲間が増えようと、自由に生きていたあの頃が原点だ。
拘り続けるのは良い。しかし縛り続けるのはもうやめよう。男はタバコを消して目元を擦る。
「やっぱりお前に雑用は似合わなかったな」
その身に染み込んだ努力の証は強さとして証明された。
この男には、それだけでもう充分だった。
「ありがとうな、くそ船長。…俺に自由を与えてくれて」
「感謝する、船長。俺に名を掴ませてくれてよ」
「……ありがとう。私、アンタに出会えて幸せだった」
「お前は次の世界で幸せを掴み取れ」
丘に咲く花々が海へと飛び込む様に消えていく。
墓を見つめる4人の背には、かつての仲間が集まっていた。
「──宴でもするか」
「お、なかなかいい事言うじゃねぇか。おい!来たところ悪いけど船借りるな!」
「アウ!使ってくれ!」
「さて、歌いましょうか!」
「お前ら久しぶりだな〜っ!」
「ふふ…賑やかね」
「この船らしいわい」
「あっ、ちょっと待って、それ懐かしい!」
「本当!」
「ヨホホホ〜ヨ〜ホホ〜ホ〜!」
──果て無し、あてなし、笑い話。
「ぎゃははっ!」
「やれやれぇ!」
「お前さんらなぁ…」
「そういやよ、あん時──」
「飲み比べでもどうよ」
「ハッ、弱ってなけりゃいいがな」
「あら、珍しい物を持っているのね」
「アレは驚いたなぁ〜!」
「随分、規格外な旅をしてきたな」
「天国か地獄か知らねぇが、元気でやれよ」
クッションの様なお話です。まだまだ続きますよ。