海賊の海兵【完結】   作:恋音

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政府が痛みを呼び戻す。

「ここに、お前の上官となるお方がいる」

 

 海軍本部のある一室の前にルフィは教官と来ていた。実力的に一等兵から、という事で特別に挨拶しに来ていたのだが本人は気乗りしない様で顔を歪めている。

 

「教官…俺本当に海兵になるのか?」

「なるのか、じゃなくてなったんだ。文句があるならお前の爺さんに言わないか」

「海賊でも良いならなるんだけどよぉ……」

 

 ブツブツと文句を言いながらも抵抗をする気は無いらしく波頭の仁王はホッとため息を吐く。

 

「あれ?ルフィじゃねぇか。なんでこんな所にいるんだ?」

「あ、ロシー」

 

 そこをたまたま通りかかった知り合いの海兵が目撃した。ロシナンテ少佐。彼はルフィが幼い頃、それは前世とも言える記憶を思い出す前フーシャ村にて仲良くなった海兵だ。つい数年前まである海賊に潜入していたが助けられ、通常業務に戻っていた。

 

「今からジョーカンに会うんだってさ!」

「……え。この部屋っ、て…」

 

 ロシナンテは青ざめる。

 波頭の仁王に視線を向けるが無言で首を振られたので黙ることにした。

 

「生きて会おうな、ルフィ」

「……俺、これから死ぬのか?」

 

 若干引きつった笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「失礼します!」

 

 ルフィの声に反応したのは椅子に座る大男。

 MARINと書かれた帽子を被り、赤いスーツを纏う。スーツから覗く肌には青紫の刺青が刻まれていた。

 

 鋭い眼光で睨まれルフィは思わず目を見開く。

 

「あ、……ッか」

 

 赤。

 

 海軍に人生をかける決意の赤。

 

「───誰じゃあ」

「はっ!この者はつい先日決まりました一等兵のモンキー…」

「お前さんには聞いとらん!」

 

 ゴウッ!とマグマが爆発する様な声で男が叫ぶ。

 

 海軍本部の赤犬、サカズキ。

 ルフィにとって因縁とも呼ばれる相手が座っていたのだった。

 

──ズキン…

 

 ルフィは胸を抑えた。

 焼かれた肌の痛みも、胸を貫かれる瞬間も、何もかもがフラッシュバックする。

 

「俺の名前はモンキー・D・ルフィ!お前を越えていく男だ!」

 

 吼えるように宣言するルフィ。

 

 実際数秒だったかも知れないが妙な緊迫感を含むその時間は1時間でも経った様な感覚だった。お互い睨み合う状態がずっと続く。

 

「そうか……」

 

 サカズキが机に置いてあった紙を見るとそのまま燃やして立ち上がる。

 ゆっくりとした足取りでルフィの元へ向かった。

 

「海賊になる、と抜かす海兵かい」

「そうだ」

「何故、海賊なんぞになると言うか」

 

 その問いにルフィは大きな声で答えた。

 

「海賊は一番自由なんだ!」

「ほぉ…」

「なんにも囚われない雲や波みたいな自由を持ってるのが海賊だ!俺は、腐った世の中を自由な世の中にしたい!今この瞬間も自由を望む人間がいる!その象徴となるのが海賊だ!」

 

 この発言に最も驚いたのは教官だった波頭の仁王だ。ただ己の欲望に忠実なだけと思っていた教え子はここまで考えていた。

 

「正義の象徴が海軍なら自由の象徴が海賊だって思ってる!」

 

 ある意味正しく、否定しづらい。

 

「──海賊王を目指す、と?」

 

 サカズキは確かめる様に聞く。

 

「いや!海賊王にはならねぇ!」

 

 海賊の殆どは海賊王を目指すというのにルフィの発言はこうだ。これにはサカズキも首を傾げる。

 

「俺は、海賊王って存在に苦しめられた人間を()()()()()。海賊王は海賊の頂点に立つけど、それでも大事な奴が苦しめられるならそれは俺の望む自由じゃない!」

「だがそれは矛盾じゃ…!海賊になって自由になってなんになる!自分を大きく見るな!お前さんは強いのか!?大事な者を守れないで何が海賊じゃアホンダラァ!」

「あぁそうだ!俺は弱いし大事なヤツだって守れない!でもそれがなんだ!自分の筋を守れない奴が誰を守れる!」

 

「ならお前はどうして海軍にいる!」

「じいちゃんに連れてこられた!でもいいんだ、海兵になっても」

「もっと矛盾しとる」

「誰が決めたんだ?海賊が海兵になっちゃいけないって」

 

 海軍の根本をひっくり返す様な発言をする。

 

「自分や仲間を守る海賊、市民を守る海軍。一緒だ!だから居てもいいんじゃないかって思ったんだ!海賊であり海兵ってのも」

 

 ルフィは麦わら帽子の下でニッ、と笑う。

 

「──だって、海軍でも罪の無い人間を殺すだろ?お前らの言う悪い海賊と一体どこが違うんだ?」

 

 笑顔のまま告げた。

 その場にいる2人はヒヤリとした感覚に陥る。

 

()()海賊じゃ嫌なんだ。それと同時に()()海兵でも。俺の大事な奴らを守る為には両方必要なんだ」

「貴様は……何を見る。そして何を目指す」

「俺が見るのは自由な未来ただ一つ。目指すものはこれから探す!」

 

 じっと見つめ合い、発言を待つ。

 大問題、海賊はもちろん海兵にも恐れられ、海賊嫌いで有名な絶対的正義の代表赤犬に対してルフィはあまりにも無謀な挑戦を挑んでいるのだから。波頭の仁王は密かに胃を痛める。

 

「お前さんが死んで」

 

 赤犬は呟いた。

 

「世界は荒れた。抑止力の無い世界は混沌を招いた」

「え…」

 

 言っている意味が分からない。

 ルフィは縋るような視線を向けるがサカズキは話を続ける。先程までの荒れるような言葉では無く、静かに怒れる声だった。

 

「幸せなど、自由など、どこにもない!地獄の様な国もあった!世界中は声を上げた!『何故若くして死んだ』と。海賊王という抑止力を失って、炎が街を焼き、人が悲鳴を上げ、涙を流した!」

「…ッ赤犬」

「罪の無い市民を、麦わらのルフィ(かいぞくおう)に怨みを持つ人間が殺した!海賊王の守った人間を、海賊が殺した!」

「…………………覚え、て」

 

 震えた声で呟いた。

 

 海賊王のせいで苦しんだ人間を知っていた。例えばルフィの兄でもあったポートガス・D・エースがいい例だ。その彼に怨みを持つ人間も海賊王の影響を受けて被害にあった被害者なのだ。

 それは、理解していた。

 

 ルフィは己の罪を噛み締めた。

 エースを仲間を苦しめた世界を恨んだ事もあった。自分の過去はそれと同じ事を繰り返していたのか、と。

 

「───変えられるか」

「…!」

「お前さんの努力で、救われた国はもちろんある。救われた人間がいる」

「赤犬」

「それは紛れもなくお前さんが変えた。のぉ〝麦わら〟」

 

 サカズキはルフィの目をまっすぐ見た。

 

「海賊の海兵、全力でフォローしてやるわい……。だから誓え、世界をひっくり返せ!」

 

 それは、知ってるようで知らない世界で見つけた、ルフィの味方の言葉だった。

 

「おう!」

 

 胸のバツ印の痛みを思い出し、新たな痛みを胸に刻み。かつての『敵』が『上官』に変わる。

 

 

 波頭の仁王は、その雰囲気に飲まれていたが、優秀な海兵。何も触れずに話を広める事無く己の胸に閉じ込めた。




こっそり涙を拭う新人海兵の姿が目撃された。
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