「なぁ赤犬ゥ!」
「…なんじゃい。飯にしようというつまらん発言は聞かんからの」
「……ケチ」
モーガンはそっと遠い目をして視線を逸らした。
巡回中の出来事、海賊嫌いの赤犬が海賊の海兵と軽口を叩きあっている現状に。
「ル、ルフィさん…!」
「おいルフィ!親父とサカズキさんに迷惑かけんじゃねぇよ!」
ルフィ、16の夏。
モーガンの持ってきた手土産。それは海兵志望の少年と自分の息子、コビーとヘルメッポだった。
何故か赤犬が目をつけルフィと共に行動する事になったのだが、その真意は誰にも分からない。
「ルフィさん…いい加減にした方がいいと思いますけど」
「………お、う」
モーガンはルフィの様子を観察する。
明らかに、コビーに対して遠慮している。いや、距離を取っているという方が正しいか。
最初に2人を出会わせた時もそうだ、ルフィは逃げ出しそうな顔で恐る恐る自己紹介をしていた。結果的に苦しめる事になってしまったが新たに気付いた事もある。
目に力が戻った様な気がして。諦めた様な気がして。
「……くそっ」
小さく呟いて海を見る。
「………は?お、おいルフィ!サカズキさん!」
「どうした?」
「人が…、流れてきた」
「「は?」」
視線を向けた先に少し呆けると慌ててモーガンは己の頼りになる上官を呼んだ。
その場にいた5つの視線が海へと集中する。
青い海の上にはボロボロになった小舟にグッタリと倒れている人間が居たのだ。少々、おかしな格好だが。
「遭難者か…。麦わら、拾ってこい」
「おう」
サカズキの指示によりルフィが飛ぶ。ゴムの反動を使って小舟の上へと移動すると、倒れている男をペチペチと叩いた。
「おーい…大丈夫かー?」
「阿呆ゥ!さっさと連れてこんか!」
軍艦の近くまで小舟が流されてきた。止まっているとは言えど波に巻き込まれたら大変だ。
ルフィは男を担ぎ上げると、その時男は小さく呻くように呟いた。
「その船…食料があるのか……」
「おう、あるぞ」
そうか、と声が聞こえるとルフィが爆音と光線に包まれる。
「──〝100万ボルト
「ルフィ!」
「ルフィさんッ!?」
能力者だと判断するのに時間はかからなかった。
男が甲板に上がってくる。
「ヤハハ…、さて、船の積み荷を奪おうじゃないか」
「おんどれァここが海軍の軍艦だと分かってやっちょるんかのぉ?」
「海軍?なるほど、海の軍隊だったか。手応えが有ると良いが…」
どうやら全く分かっていなかった様子の男は恐怖に満ちた顔を見て高笑いをした。
「我こそが、全能なる神。……青海人よ、神に勝てると思───」
「うるせぇ」
先ほどやられたはずのルフィが男の頭を武装色で殴ってそれを止めたのだ。
「何をする青海人…神の裁きを」
「神だろうがなんだろうが俺が潰す」
「………あ」
「………あ」
振り返った神と名乗る男はやられたはずの男と顔を合わせ、両方が呆けた顔をした。
「あの時の青海人〜〜〜ッ!?」
「お前ッ!えっと、あれだ、空島の、名前は確か………どれだ?」
「我はエネルッ、神なり!」
長い耳たぶ。背中に太鼓。独特の格好をした男は、『あるはずの無い未来』で唯一の天敵だった男と青海にて再会したのだった。
==========
「ヤハハハ!青海の飯もなかなかに美味い!」
サカズキの1室、ルフィとエネルは集められた。
昼食を取りながらの事情聴取だ。
「3人目がエネルかぁ〜」
「少しは説明をせんか」
「サカズキ、と言ったな。どうやら私は不思議な現象に巻き込まれた様だ…。おかしな記憶があるのはそちらも同じなのだろう?」
「で、麦わら」
「おぉ」
微妙に噛み合わない会話。
ひとまずルフィはエネルとの間に起こった出来事を断片的に話した。空島で雷の能力者と争った出来事を。
エネルは酷く辛そうな顔をしたがサカズキは気にせず話を続けさせる。不足している説明にはエネルが追加をしながら。
ようやく話の流れを理解したサカズキは深いため息を吐くハメになった。
「……また…麦わらの一味という奴らは…」
どういう星の元に生まれればこうも厄介事と衝突するのか心から不思議に思う。その疑問を誰も答えてくれないので仕方ないが、何かしらの陰謀でも絡んでるのでは無いかと思わず勘ぐってしまう。
「白海には飽きた。月にも行った。ならば一番気に入った青海に降りるもまた一興………。
「……黒ひげはいいのか?」
「興味無い。実にくだらない存在だ。それよりも、ゴムの小僧に会えたのはなんだかんだと幸先良い事だ」
「俺に?」
コテンとルフィが首を傾げるとエネルは鼻で笑う。
エネルは麦わらの男によって初めて敗北した。自尊心の塊である男が敗北し、更にはその男が青海人の中で弱い部類なのだと知り、海におり、世界を知った。
神の唯一の敵にして、認めた男。
「過去や未来でとは言えど、神である私を敗北させたのだ。つまり貴様は王者への道を歩むことになる」
「……」
「お前より強い青海人?知らんな、私から勝利を奪った男は誰よりも強くあってもらわねばならない。そんな最強に相応しい男に、再戦を申し込めるじゃあないか」
「俺、スゲェ弱いぞ?」
不安そうなルフィの言葉に、エネルは不服そうな顔をした。いや、失望した気分なのだろう。
先ほどのサカズキにも負けない程深いため息を吐く。
「──いつからその様に卑屈になったんだ、ゴムの小僧は。あの時の青海人が居らねばお前はそこまで腑抜けるのか…」
嘆かわしい、そう体で表現する様に。
「ッ!」
「やめんか…」
事実に反論出来ず、息を呑む。それを止めたのはサカズキだった。
「残念な事に今のお前には犯罪歴が無い。せいぜい軍艦襲撃程度だ」
「……それで?」
「この先の行動によって貴様の処遇が決まる。殺されるか、逃げ切るか、はたまた、麦わらの様に組織に属するか」
「属する」
間髪入れずに答えた返事に2人は思わず目を見開く。
「なんだその顔は」
ジトっと4つの目を煩わしそうに睨みつけるとエネルは理由を語った。
「先程言った通り、正々堂々とした戦いで私に勝った男が居る。腑抜けた態度は気に食わんが、私にはこいつを強くする義務がある」
「義務ゥ?ほんならおんしゃぁ…麦わらの命令が聞けるという事で良いのかい?」
「聞かんな。全能なる神の私が、何故利益の無い事をせねばならん」
ついでにお前のもだ、とサカズキを指さすと言いたい事を言い終わったのか、エネルはぶらりと部屋を出ようとした。
「エネル!」
「なんだゴムの小僧」
「青い海には、お前や俺より強いやつがいっぱいいる」
「……私より強い人間はお前だけだ」
もはや意地でも変えようとしない意見を告げると鼻を鳴らして退出した。黙り込むルフィとサカズキを残して。
──なんでお前なんだ、どうしてメリー号の言ってた条件に当てはまった人間はお前なんだ。俺の仲間が欲しい。
記憶のない彼らに会う覚悟は出来た。夢で『仲間』に叱咤されたのだから。しかし、『もう逆行者は居ないのではないか』という希望にも似た絶望が砕かれてしまった。
これでは、更に『仲間』を探してしまう。記憶を持った『仲間』を。『家族』を。
「皮肉な運命じゃのお、麦わら。味方でも友でも無く、お互い敵しか記憶を共有する人間が居らんのじゃけぇ…」
「ハハ…、そうだなぁ。新しい友達が出来ても、味方が出来ても。過去に拘るなと言った俺が一番過去に拘ってる」
麦わら帽子を手に取ってルフィはポツリと呟いた。
「まだ、新しい未来を見つけられない」
───未だに見えない先を探す。
記憶ありのエネル登場。
原作再登場の活躍がどのようなものか分からないのでほんのり言葉を濁します。
こそあど言葉に隠されてる原作は一体どこの事を言ってるんでしょうね〜。