海賊の海兵【完結】   作:恋音

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笑顔が繋ぐ意識の和。

 

 

 海賊の海兵モンキー・D・ルフィはシャボンディ諸島に任務で来ていた。

 

 中佐のモーガンと雑用のコビーとヘルメッポも加えて。

 

「少年、あんた本当に護衛なんて出来るのかい〜?」

「分かんねぇ」

 

 此度の仕事は天竜人の護衛。

 

 護衛担当の責任官、黄猿ボルサリーノ大将。彼が不安そうに若い海兵を見た。雑用は天竜人の前に出ない、しかし大佐であるルフィや中佐のモーガンは出る。

 

 ──不安以外何物でも無いねェ…

 

 心の中でボルサリーノはため息を吐いた。

 

 この男の噂は耳にしている。『海賊の海兵』などという異端児であり、成績優秀者。そしてあのガープの孫で、赤犬の子飼い。

 

 興味は尽きないが、加えて不安も尽きない。彼にとってルフィはそんな相手だ。

 

「なぁ、黄猿」

 

 ルフィはキョロキョロと周囲を見渡して大将の通り名を呼ぶ。思わず周りに衝撃が走った。

 

 無礼であり無作法であり、海兵として異様。

 ルフィの習性を良く知るモーガンは頭に手を当て、思わず天を仰いだ。

 

 コイツ早速目をつけられそうな事を…。

 

 これが悪意ありで呼んだのならまだ良かった。しかし悪意は全くといっていい程無い、コレが平常運転なのだから頭が痛いものだ。

 

「ここ……やけに多くないか」

「………何がだい」

「強いヤツ」

 

 その言葉にボルサリーノは目を見開く。

 

「……ヘェ、見聞色の使い手ね〜。それもかなりの腕前じゃないかい〜?」

「でも、俺は見聞色苦手なんだ」

「それで苦手かい、驚いた。それじゃ得意な覇気は……武装色って所かねぇ」

 

 どこか感心した様に。ボルサリーノは頷きながら天竜人の到着を待つ。ルフィは否定の言葉を口にしようとした。

 

「いや、俺は…──」

「ジャルマック聖、お着きになられました!」

 

 しかし、天竜人の訪れによって阻止される。

 ルフィは特に気にしても無いのか、まぁいいかとモーガンの横に並んだ。

 

 天竜人。

 吐き気がする程嫌った、兄の敵。

 彼らは各国の王よりも更に上の権力を持ち、まさしく神に近しい存在。…そう言われている。人を人とも思わぬ傍若無人な洗脳教育、そして行動。海軍の大将は彼らの要請にどんな事があれど駆け付けなければならない。

 

 自らどうこうしようとは思わない、しかし関わりたいかと言われれば答えはNOだった。

 ルフィはぼんやりと考えながらシャボンを着けた世界貴族の訪れを待つ。

 

 

 

 平和になど、終わるはずも無かった。

 

「下々民が私の前を横切ったえ…ッ!」

 

 天竜人が通る道を、担架が通りかかってしまったのだ。

 何とも皮肉な運命か、かつてルフィの仲間が出逢った情景と全く同じだったのだ。

 

 そんな事を知る由もないルフィは眉を寄せ、成り行きを見守った。

 

「誠に申し訳ありません…、ですが緊急性を要する患者でしてッ!」

「関係ないえ…。だが、どうしてもと言うならそいつを見逃してもいいえ」

 

 天竜人が担架に乗せられた患者を一瞥すると、医者であろう男の目は輝いた。

 

「お願いします!」

 

 どうか彼を助けて頂きたいのです!

 そう叫ぶ医者に、ジャルマック聖がシャボンの中でゆっくり口角を上げた。

 

 まるで、玩具で遊ぶ子供の様に。

 

「──その代わり、お前の命を奪うえ」

 

 え、と口が開く。医者は思わずその笑みを見つめ、理解した時には絶望に染まる顔をしていた。その絶望を待っていた、とばかりにジャルマック聖の懐から短筒が取り出された。

 かちゃり、と照準が合わされる。走馬灯の様に記憶が駆け巡り周囲がゆっくりと動いているように見えた。

 

──ドゥンッ!

 

 銃口から煙をふかしながら放たれた弾。

 

「……?」

 

 目をつぶり衝撃に備えた医者は何も痛くない身体の無事を確認し、そして思わず首を傾げた。

 

 彼の代わりに倒れたのはジャルマック聖だったのだから。

 

「え…一体何が…」

「ジャ、ジャルマック聖!?」

 

 地面に倒れて意識の無いジャルマック聖に護衛や海兵が慌てた様子を見せる。心做しか喜ぶ視線を向ける奴隷や街の人に、気付かぬフリをして。

 

「急いでジャルマック聖の安全確保。それとぉ、一応下手人探ししとくよぉ〜?」

 

 原因不明の目眩で処理されるだろうけど。

 

 ゆったりとした口調で、そう付け足したボルサリーノが指示を出す。

 

「なぁ」

 

 そんな混乱の中、ルフィだけが呆然とした様子で尻餅をついた医者に目を向けた。

 医者の男はわけも分からず混乱しているが、その声は耳に入っている様で、視線がかち合う。

 

「その患者、早く病院に連れていった方がいいんじゃないのか?」

「…ッ、感謝する!」

 

 思わず零れた様子の感謝の言葉を受け取ったルフィは、軽快に笑って見せた。

 

 

 

 

「ちょいと待ちなよぉ、麦わら君」

「なんだ?」

 

 混乱に乗じてその場を去ろうとするルフィに、見え透いた愛想笑いでボルサリーノが近付いた。

 隣に立つモーガンも、やや警戒気味に視線を送る。しかし当の本人、ルフィは何が面白いのかニコニコと笑みを絶やさなかった。

 

「ルフィさ……」

「親父……え」

 

 雑用のコビーとヘルメッポが敬愛すべき2人の姿を見つけて駆け寄る、しかし大将がいるとは思わなかったのだろう。緊張により固まってしまっていた。

 

「さっきのアレ、あんたはどういう事だと思うかねぇ〜?」

 

 そんな雑用の様子を気にしないのか、ボルサリーノは聞きたかった事を聞いた。やけに確信めいた視線が容赦なくルフィに降り注ぐ。

 『アレ』とは恐らく天竜人が突然倒れた事、そして発砲された筈の弾の事だろう。

 

「そうだなぁ〜」

 

 ニッと真っ白な歯が覗くと、ルフィは告げた。

 

「どっかの海賊がやったのかもな」

 

 もうそれ以上用は無い。そんな態度で『海賊の海兵』は、何かを握る様に拳を固めて、ボルサリーノに背を向けた。後ろに慌てた様子で雑用2人も続く。

 

 過去に出逢ったことの無いパターンの後輩の態度に思わず固まったボルサリーノは、約1分後、ズルズルとその場にしゃがみこんだ。

 

「おっそろしいねぇ…」

 

 震える手で頭をかき、口元に笑みを浮かべる。

 

 ──確かに、見聞色の覇気は苦手の様だ。

 

 この世の全てを見透かす様なあの瞳に、自分は魅入られそうだった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 覇王色の覇気の使い手、モンキー・D・ルフィ。

 彼の行動に気付いたのはモーガンやボルサリーノだけでは無かった。

 

 

 その島に居た多数の実力者は、その王の素質に動きを止めてしまっていた。

 

 

「ヘェ…あの海兵か…」

 

「……ほう」

 

「報告、だねい…」

 

「なるほどな……」

 

 

 世界は決して主人公(あらし)を逃しはしない。

 台風の目はどこにいようと、周囲を激しく動かして行くのだから。

 


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