天竜人が関わった護衛でのゴタゴタが終わり、冬の訪れを待機している秋の肌寒い夜。ルフィは再びシャボンディ諸島にやって来ていた。
「懐かしいな…」
ゆっくりと過去と未来を踏みしめるように木の根を歩き回る。根から染み出るシャボンは初見で驚いたが、今となっては何度も見た風景。
色褪せない思い出を頭の中で数えながら、無法者が集まる治安の悪い場所を歩く。
海軍お断り、などと赤い文字で書かれた看板など目もくれない。かつてここでは何度か襲撃を受けた記憶があるが、今は1回も襲撃に遭遇しないようだ。
『
『生き残った海賊達はまさに選りすぐりの精鋭なのよ』
情報通だ、と言ったぼったくりBARを経営する彼女の忠告はいつも的確であった。
ドレスローザ、ホールケーキアイランド、ワノ国。世界的な戦争を巻き起こした中には必ずルフィの同期が居た。もちろんルフィ自身も。自分が力を溜めていた2年間、その間にドンドン力を付けて行った彼らは、敵にはならない奴も居たが味方にもならなかった。
狡く賢く、海賊らしく。
ルフィはそんな奴らを気に入っていたし、好いてもいた。
そして、あの言葉も事実…──。
『ウチの人なら大丈夫よ』
「やぁ、そこの海兵君。少し話さんかね」
『──ボーヤ達の100倍強いから』
師として己を指南してくれた恩人が、目の前で笑っていた。
「レイリー、か」
「ほぉ、私の事を知っていたか」
「知らねぇ筈がねぇよ」
「それもそうか」
記憶と違わぬ笑みだったが、敵意が確実にある。ほんの少しの罪悪感と胸の痛みに気付かぬフリをして言葉を紡いだ。
「あ、そうだ」
そう呟いたルフィにレイリーは首を傾げる。
「俺の帽子、シャンクスに貸してもらってるんだ」
「やはりそうだったか。しかも私に話すと言うことは、繋がりを知っている様だな」
「うん。でよ、海賊王にお礼を言いたいんだ。墓が何処にあるか知ってるか?」
「…………ロジャーに?何故だ?」
嗚呼、空気が変わった。
彼のピリッとした緊張感の中に佇むと、どうしても背筋が伸びる。そんな懐かしさに涙を流しそうになるが、ルフィは帽子を被り直して誤魔化した。それで、誤魔化せれたかなど知らないが。
「ある海賊団が俺を強く。いや、道を進む為の力をくれたから」
レイリーはその言い方に違和感を覚えた。
誤魔化すように告げた『ある海賊団』など、ロジャー関連でありロジャー海賊団以外では。心当たりがある様で脳裏に一つ思い浮かんでくる。……レイリーは思わず目を見開いて、目の前で薄笑いを浮かべる若い海兵の姿を凝視した。
「…若いのによく知っているな」
絞り出た言葉はこれだけだ。
そんな事を気にせずにルフィはニッと歯を見せて笑い、自嘲気味にズルをしてるから、と答えた。
「でもな」
あまりにも澄んだ空、そんな空にプカプカと浮かぶ星に語り掛ける様にルフィは言葉を重ねる。
嵐の様にざわりと心が動かされるのに、語る本人は無駄を全て省いた様な雰囲気で驚く程静かだった。一瞬、時が止まったのかと錯覚する程。
──王の器として完成され過ぎている…。
子供の見た目故に中身のアンバランスさが目立って仕方がない。
「でもな……」
将来、強敵になる可能性が高い海兵。危険分子は排除しておくべきか。
思わず刀に手をかけたが、冷えた空気の中ハッキリ聞こえたその声に動きを止めることになった。
「なんで海賊王になんかなっちまったんだよ…ッ」
悔しそうな声色と、曖昧な言葉。
「は……、何を……。海兵になれとでも言いたかったのか?」
レイリーはほんの少し乾いた喉を動かして聞けば、違う、と否定の言葉が返ってきた。安心した。自分の敬愛する、海賊として生きる海の王を否定されずに終わった事に。なぜこの子供に否定される事を恐れたか分からないまま。
「いいや、海賊は海賊だ。でもよォ…自由な海賊が海の王者なのに、誰かの自由を奪ってでもなるモンなのかな…」
ルフィの言葉は自分に向けて言った言葉も同然だった。
「どういう事だ…」
「──海賊王の息子」
「そ、れは…ッ」
「海賊王の救った人間。海賊王の縄張り。海賊王に関わった人間。……海賊王が、壊したモノ」
全部が壊される。
「本当はもっとちゃんと、やれる方法があったんじゃないかって。その時はそれがベストだって思った。なのにソレは間違いでした、って悔しいだろ。悲しいだろ」
「………」
「海賊王にならなかっただけで壊れなかったモノがある。ソレは命だったり仲間だったり世界だったり」
「…随分と思慮深いな。そして実体験の様だ」
「知恵熱出るくらい考えたさ、俺は。どうしたら良かったのかなんて、今でも分からねぇ。分からねぇから俺は海軍に居て、視点を変えて世界を見るんだ」
壊したものは元に戻らない、だけどもう1度チャンスが生まれた。なら、壊さない未来を作りたいじゃないか。
友が、仲間が、家族が笑っていられる、綺麗事で作られた様な理想的な未来を。
逢えますように。
笑えますように。
叶えますように。
唄えますように。
泣けますように。
掴めますように。
「君は一体、何を見ている」
「何って……」
昔から変わらない物を見ていた。
「───世界」
そうだった。子供の落書きみたいなキラキラした世界を見ていたんだ。たまに、ぐちゃぐちゃになるまで消した失敗作もあった。泥に汚れても後生大事に描き続けた落書きを。
「目標、決まった………」
汚れた落書き帳を宝箱に入れて、新しい落書き帳を取り出した。
見間違うくらいそっくりな絵が出来上がるけど。同じような色紙があるけれど。
「ッ、クソガキ!何してやがる!」
古い落書き帳と同じ色の紙が、肩をがっちり掴んで引き寄せた。そこに描いている落書きは何とも歪な形で、ほんの少し大きな幸せの形をしている。
「ケムりん」
「クソ…こいつ冥王か!なんでお前はこうもトラブルを引き起こすんだ!」
「ケムりん、なんか若くなったな」
「は!?老けたの間違いだ……じゃなくてだな、お前自分の相棒か上官にくらい行き先告げて行けよ!」
煙を纏うスモーカーは、『ルフィ』にとって敵だったが、ルフィにとっては随分久しぶりに再会した保護者だ。そのムズムズした違和感に思わず笑みが零れる。
仲は決して良くなかったのに、今は庇われるだなんて。
「ケムりん、ごめんな。俺が話したかったんだ。ここに居るのは分かっていたからよ」
「しまいにゃぶち殴るぞくそゴム」
「効かないねぇ、ゴムだから」
「チッ…覚えてろよ。武装色身につけてぜってェにぶん殴るからな…」
飄々とした態度の子供に毒気を抜かれながらスモーカーは十手をしまった。あちらさんにもこちらさんにも、どうこうしようという考えは無いようだったから。
──それにしちゃ、冥王の様子が変か…。
それでも彼にとって都合の良い事には変わりない。
「ったく、休日の夜中に海兵捜索なんて任務に駆り出されるコッチの身にもなれ…」
帰るぞ、とルフィに伝えるとレイリーを一睨みしてスモーカーは去ろうとする。
「……若い海兵君、名前は?」
ルフィは黒曜石の様な目でレイリーを見ると、スッキリした顔で告げた。
「モンキー・D・ルフィ。世界の仕組みを全部ぶっ壊して、世界を変える男だ!話を聞いてくれてありがとうございました、レイリー!」
とんでもない目標に、その場にいた2人が思考を止めたのは仕方がない事だった。
近く無い上に新たな関係を作っていたスモーカーは思ったより平気だった模様。
しかし、仲間は未だ未知数。
レイリー師匠は昔でも今でも尊敬。
〜たり、〜たり、〜たり、が続くとラジバンダリと言いたくなります。ネタがわかったキミは僕と握手。