海賊の海兵【完結】   作:恋音

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秋の終わりに目を覚ます。

 

 それは秋の終わり、丁度ルフィがシャボンディ諸島で護衛を引き受けている頃の東の海(イーストブルー)での話だった。

 

 少し肌寒い日々が続く昼下がり。

 羊モチーフの帆船が魚モチーフのレストランの側で停泊していた。中はもぬけの殻、帆には何も描かれていない問題の無い船だ。

 その船に乗る人物は揃ってレストランに入り、豪華な料理に舌鼓を打っていた。

 

「はぁ…美味しい……生き返る」

「すげえなプロ」

「おっ、これもなかなかに美味ぇぞ」

 

 みかんの香りを纏わせ、みかんの色素で染めた様なサッパリとした髪色を持ち、頬をうっとりと染めながら甘味を頬張るナミ。髪は短く刈り上げ、草原の草や毬藻(マリモ)を彷彿とさせ、これでもかと言うほど楽な服装で腹を膨らますゾロ。土いじりでもしていたのか、やや土汚れのある服装だったが、器用にキノコだけを避けながら食べるウソップ。

 特にこれといったトラブルも無く、落ち着けて腰を下ろせるレストラン。

 

「それにしても…ビックリするほど見つかんないわね」

 

 原因は木の移植だけでは無いだろう。ナミが疲れた声を出して食べ終わった皿を重ねた。

 

「この広い海でたった一人の男を探すんだ、骨が折れるだろうとは考えていたが…ここまで何も情報が無いともう東の海(イーストブルー)に居ないんじゃねぇか?」

「結構特徴がある容姿らしいな…見つかんのかねぇ、そいつ」

 

 ため息と共にウソップが呟けば、気持ちはわからなくもない、とゾロが肯定する。

 

「どこの支部の人間かも、階級も、何もかもわからねぇ。分かるのはおかしな立場と名前だけ。海兵も相手しないだろうよ、特に俺は賞金稼ぎとして名が知れてる」

「あ〜〜、もうっ、どこに居んのよっ!」

 

「──お困りですか、レディ」

 

 周りの客の視線は無視してナミが頭を悩ませると、傍にスーツを来た男が立っていた。

 

「あんたは…」

「失礼、俺の名前はサンジ。悩める姫を助けに参上したしがない王子です。ちなみに本日のメニューを担当させて頂きました、副料理長です」

「そう、サンジ君って言うの。コース料理、とっても美味しかったわ」

 

 愛想良く笑ったナミに撃ち抜かれたサンジの心は奈落の底まで堕ちていく。そして口車に乗せられ、食事代を給料から出してしまうという何とも可哀想な結果になった。本人は喜んでいるので損な性格だとウソップが遠い目をしていた。

 

「それでね、サンジ君。困り事なんだけど」

「レディの頼みならなんでも協力しますよ」

「あー、人を探してるだけだ、人。協力してもらおうとかそんなんじゃ無くて見てないか聞きたいだけだと思うぜ?」

「人ぉ?ナミさんの手を煩わす不届き者はどんな奴だ?」

 

 ウソップの言葉にサンジは表情を歪める。

 おー、と気の抜けた相槌を打てば探し人の名をゆっくりと呟いた。

 

「モンキー・D・ルフィって言う海兵?」

 

 目を見開いて、口も情けなく開けて、サンジはその言葉を頭の中で反芻した。タバコを吸って無くて良かったと心から思う。

 そしてその様子に心当たりがある、と判断した3人はサンジが落ち着くまでをじっと待った。

 

 いくつか深呼吸して、サンジがナミに時間を取らせてしまったことを謝る。

 

「………失礼レディ」

「ううん。気にしてないわ」

 

 そんなことよりも情報が欲しかった。

 彼女はただそれを望む。サンジはその考えを理解しているのか、すぐに口を開いた。

 

「もう、2年くらい前か。何人かの海兵に連れられて店に入ってきた。飯食いに来たとは思わねぇテンションだったな」

「やっぱり海兵か…」

「その後俺の料理を『美味いけど美味くない』って抜かしやがった。あぁ、丁度3人が食べているコース料理だな」

「えっ、こんなに美味しいのに!?」

 

 心底驚いた様子のナミに嬉しそうに微笑む、まるで表面上だけの笑みを。

 

「あいつは謝った。でも意味のわからねぇ事にあいつの『仲間』と俺の料理を比べたんだよ……俺の料理は麦わらの仲間の料理じゃねぇのに。吐きそうなくらい、青い顔で」

 

 ぶっ倒れるんじゃないかと思った。

 消えてしまうんじゃないかと思った。

 死んでしまいそうな、泣きそうな顔で、決してこちらを見ず謝っていた。

 

「あいつはもう此処には絶対来ない。だからよ…」

 

 ──『絶対美味いって言わせてやる!』

 

 

 

「──旅のコック、連れていかないか?」

 

 あの時啖呵きった事を、有言実行出来るチャンスがやって来た。

 

 

 よろしくの言葉は誰が発したなど気にもせず、親代わりのゼフに挨拶をしてタバコを咥えた。

 

 風邪は引かねぇさ、クソジジイ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「え!マルコ居ないのか!?」

「昨日発ったって…聞いてなかったのか?」

「寝てたな」

 

 同じ時期、とある島。湾に堂々と停泊している大型海賊船の中で呑気な言葉が発せられる。

 その男──エースはテンガロンハットを被り直し拗ねた顔を見せる。

 

「拗ねんなよエース」

 

 エースは相変わらず末っ子だな、と言いながら4番隊隊長のサッチが現れた。末っ子、その言葉にエースは顔を歪める。

 

「(こいつ…やっぱり家族っての地雷だな)」

 

 そばに居たイゾウが冷静に判断を下す。

 エースはその船に入った当初『家族』という仕組みの船に困惑していた。船長である白ひげエドワード・ニューゲートの命を狙ったのは何度だったか。『父親』と『兄弟』に大きな何かを抱えていると見た。

 

「俺、街に行ってるわ」

「気ィ付けろよ」

「おーう」

 

 適当な返事をしながらエースは島に降り立った。エースと入れ替わるようにその場に現れたのは元スペード海賊団の副船長。

 

「なぁ、デュース。お前なんでエースがああなのか聞いてないのか?」

「ああ?……あれか。アイツには兄弟がいる、それだけしかヒントは与えられない」

 

 たったそれだけのヒントなのに、無性に気になったのは仕方ないだろう。船は家で仲間は家族なのだから。

 

 

 

 

 

 エースは深いため息をつく。美味しいはずの料理は味がしない。カウンターで普段使わない頭を抱えていると一人の男が声をかけた。

 

「おーい、白ひげの所の隊長さん。無防備な姿で何してんだ?」

 

 チラッと腕の隙間から声のする方に目を向けるが、マントで顔が隠れている為誰かはわからない。少なくとも、白ひげ海賊団の誰かでは無い事は確か。

 

「もう…誰でも良いから聞いてくれよ…」

「丁度暇だから聞いてやるよ──あ、旦那、酒一つ。コイツの奢りで」

「ちゃっかりしてんなぁ…ウチは貧乏だって言うのに」

 

 エースは弱りきった声を出す。覇気の無い姿は背中の刺青を見なければ白ひげ海賊団の隊長だと思うまい。

 男は酒を飲みながら話を促した。どうやらどこかで引っ掛けていたらしく、上機嫌の様だ。

 

「俺にはさ、弟がいるんだよ…」

「ほー、弟ねぇ」

「昔は海賊になるって話してたんだけど、熱出して治しに行ったっきり海兵になっちまってよ…」

「敵対しちまったかぁ〜」

「それだけならいいんだ。ただ別人みたいに雰囲気が変わってて…何年かぶりに会ったのに眉間にしわ寄せて泣きそうな顔で逃げるし、俺は思わず『誰だ』って言っちまうし…」

「その弟がどんな性格か知らないが、そりゃお前が悪いな」

「…………だよなぁ」

 

 再び深いため息。

 顔は机を向いたままで一向に上がらない。

 

 男は追加の酒とつまみを頼むと白ひげの刺青を入れた背をポンと叩いた。

 

「もう兄弟はルフィしか居ねぇのに…」

「ルフィ?」

「弟の名前…」

 

 男は考え込む素振りを見せるがエースは気付かないだろう。水滴のついたジョッキを掴んで一口飲むと、その名前を思い出したのか「あっ」と声を上げた。

 

「あー、海賊の海兵か」

「ッ、知ってんのか!?」

 

 ガバッと起き上がってマント越しに肩を掴む。マントの中から砂浜のような黄金色がチラリと見えた。

 

「俺の所が気になる噂を耳にしたって、話し回ってきたんだよ」

「どんな、噂だ」

「いや、その珍しい肩書きくらいだけど。あ、後アレだな。赤犬の子飼い」

「赤犬……マジかよ…」

 

 よりにもよって過激派。

 頭をガツンと殴られたような感覚に襲われた。どう考えても、敵だった。

 

「とにかくエースは落ち着けっ…て…」

 

 今度はマントの男が異様な様子を見せる。まるで時が止まった様な。

 マントの奥に見える瞳が大きく開かれる。海を詰めた様な蒼い目。そこから海が零れた。

 

「えっ、えっ?」

「エース」

「は、はい!」

 

 未だに止まらない海はエースの膝を濡らす。

 

「エース」

「え、な、なんだ?」

 

 キラキラとこぼれ落ちる金の砂。

 

「エースッ」

 

 その手はエースを強く強く握っていた。

 

 

 

「………サボ?」

 

 海の勢いが更に強くなる。

 

 

 酒場には、いい歳した男共が再会の喜びを全身で表現していた。

 幼い頃に行くなと伸ばした手は、しっかりと掴み返された。




悩んでたエースの悩みは感染した。
「まじか…俺達の弟海兵かよ…敵じゃねぇかよ……」
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