海賊の海兵【完結】   作:恋音

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初めて触れる王の色。

 この世には覇気がある。

 

 見聞色の覇気、武装色の覇気、そして覇王色の覇気。

 

 それらを使いこなせる人間は少ない。

 生まれながら使える者、突発的に使える様になった者、徐々に片鱗を見せた者。

 

 ルフィは『化ける者』であった。

 窮地に追い込まれ、その質が変化する。

 

 2年間の修行で手に入れた覇気は、彼の海賊王への道で立ち塞がる数多の敵の影響を受けて色とりどりに変わっていった。

 

 

「なぁエネル」

「なんだゴム小僧」

「俺とお前の見聞色って質が違うよなぁ…」

「何を今更な」

 

 先程まで喧嘩という名の訓練をしていたエネル。ケロッとしたエネルと打って変わって、甲板の上で倒れ荒い息を吐くモーガンを尻目に、ルフィは確認する様に呟いた。

 

 エネルは広範囲に特化した見聞色。そしてルフィは予測に特化した見聞色。同じ見聞色でも全くその色が違った。

 

「覇王色にも質に違いがあるんだよ」

 

 ほぉ、と興味深そうにサカズキが聞く。

 言葉少ない催促にルフィは苦笑いを零して続きを話す。

 

「上から押さえつける覇気とか、槍みたいな覇気とか、背中を押す様な覇気とか」

「威圧特化と攻撃特化と鼓舞特化、って感じですか?」

「おう、そんな感じだ。コビーは賢いな」

「いいいいいえそんな…」

 

 コビーは褒められて数歩下がり転んだ。その相棒を仕方ないとヘルメッポが起こす。

 

「お前さんはどんな覇気じゃい、()()()()()

 

 階級で呼ばれたルフィは水平線の奥を見つめながら一言で答える。

 

「さぁな」

 

 声が聞こえる……───海の声が。

 

 

「ヤハハハ…。ゴム小僧は一体何を聞いているんだ」

 

 面白い、と笑うがエネルの目は笑っていない。視線はルフィと同じ方向を向いていた。

 

「総員、戦闘待機」

 

 この2人が警戒するのなら百発百中だろう。サカズキが船員に指示を出した。直前までエネルに(しご)かれていたモーガンもガバリと起き上がる。

 

 場所は新世界。

 サカズキ大将率いる巡回部隊、13時指揮官の独断により交戦。

 

 

 

 敵は──白ひげ海賊団。

 

 

 

 ==========

 

 

「ほんとに俺が行くのか?」

「まぁ少しくらい暴れてもいい。今の自分がどこまで通用するか感じてみんか」

「おう!」

 

 サカズキがルフィに単独での行動を許可すると、ルフィはゴムの腕を伸ばしてロケットの様に飛んでいった。

 

「おい、サカズキさん!」

「そう心配するなモーガン…ここで折れたらその時だ」

「番犬、飼い主の帰りくらい待てれんのか」

「っ、エネルテメェ…!」

 

 焦る船員の気持ちをモーガンが代弁する。しかし『海賊王麦わらのルフィ』を知っているサカズキもエネルも余裕のある態度で船に佇んでいた。

 エネルは覇気に雷を混ぜ、盗聴をしながら。

 

「あの中のバカデカイ威圧感が死した怪物…」

「知らなんだか」

「戦争中は月に居た」

「そうか」

 

 言葉少なげに語る。

 俺も月歩が使えりゃァああ!と唸るモーガンの為にもサカズキは船をギリギリまで近付ける事にした。いざとなれば自分が船に向け投げ飛ばせば、モーガンは満足するだろうと考えて。

 

「覇王色の質か…」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 グインっと反動を付けて空を飛ぶ様に進む。途中空を蹴ってスピードを加速させると、ルフィの体はあっという間に白ひげ海賊団の船の上に立っていた。

 潮風を受けて、背中に『自由』と書かれた異質な将校服がたなびく。背中に背負う文字は違えど、姿は海兵。白ひげ海賊団の甲板に居た男達は即座に武器を手に取った。

 

「まさか乗り込んでくるとはね…最近の海兵って大胆過ぎじゃない?」

 

 12番隊隊長のハルタが問答無用と素早い体を動かして刃を振り下ろした。ルフィは簡単に避けるが、それを予測していたのか彼のその体から凄まじいスピードの蹴りが放たれた。

 

「ッ、ととと…」

 

 覇気の使われていないソレを食らったルフィは壁にぶち当たるがダメージは無い。

 

「子供でも流石に容赦出来ないねェ」

 

 ズバンっと撃たれる。銃口から煙をふかせるのは16番隊隊長のイゾウだ。それだけじゃ無い、甲板に居る幹部は恐らく4人と踏む。

 ルフィは思わず警戒心が薄れる程無邪気な笑顔を浮かべた。

 

「にっしっし!やっぱり白ひげ海賊団って強ェな!」

「は…ッ」

 

 溜めた銃弾の勢いが、跳ね返される。

 

「能力者か!──ッ、船室の野郎共!敵襲だ!」

 

 予想外だったが問題なく避けたイゾウが叫ぶ。

 増援が来る前に腕試しをしたかったルフィは鍵を外した。

 

「ギア〝2(セカンド)〟」

 

 赤い蒸気を吹きながら鞭のように伸びる足で驚き固まっている船員を端に弾き飛ばす。その攻撃を加えた隙に3番隊隊長のジョズが体をダイヤに変化させ体当たりを仕掛けた。

 

「よっと」

 

 ルフィは見聞色で予期し、軽々避ける。しかし避けた先の空中にはハルタが飛び上がっていた。

 

「喰らうか!」

 

 がきんっ、と鋼鉄にぶつかる音。ルフィはハルタの攻撃を武装色で受け止め、お返しに、と鳩尾を思いっきり蹴った。

 速さに追い付かず息が詰まる様な攻撃を受けたハルタは先程のルフィと同じ様に壁にぶつかる。

 

「ついでに、っと」

 

 ルフィのポリシーである草履でジョズも蹴る。しかし、重さの割りに素早い動作のジョズはソレを喰らうこと無く腕を掴んだ。

 

「わっ」

「ハルタを1回とは言え吹き飛ばすのは流石だ、な!」

 

 そのままルフィを空へと投げ飛ばした。

 

「「マルコ!」」

「あいよ…ッ」

 

 ジョズとイゾウが声を揃える。

 空と間違えるような美しい炎の塊から、ニヤリと笑った男の顔がのぞかせる。ルフィは目を見開いた後、すぐに同じ様に笑った。

 

 ──出て来るのを待っていた…!

 

 1番隊隊長のマルコは、その鋭い爪でルフィの肌を抉るように掴んだ。赤く血が滲むがルフィは笑ったまま。

 その様子は全く気にせず、マルコは甲板で肌を固めているジョズに向かって急降下し始めた。

 

「ちょいと、俺と心中してみるかよい?」

「やだね!断る!」

 

 降下中、ルフィは更に鍵を外す。

 

「ギア〝4(フォース)〟『弾む男(バウンドマン)』!!」

 

 突如膨らんだ体に爪が剥がれた。

 様子を変えた海兵の様子に白ひげ海賊団は混乱した。

 

「やっぱり警戒してて正解じゃねぇかよい…」

 

 空を跳ねる巨体。武装色によって体を覆ったおかしな能力にマルコは引き気味に独り言を零す。

 

「ん?俺の事知ってんのか?」

「あぁ、知ってるよい。アンタ、天竜人を覇王色でぶち倒した馬鹿な海兵だろい?」

「やっぱりあん時の気配そうだったかぁ…」

 

 少しだけ覚えているのでは、と期待したが返ってきた言葉にややガッカリする。

 

「まぁいいや、取り敢えず戦ってくれよ」

「ここで潰しておく方がウチの為か…」

 

 お互いが空中で構えた時、一人の家族の声が空に届いた。

 

「やめろッ、マルコ!──ルフィッ!」

 

「「エース…」」

 

 マルコは末っ子の名前を呼ぶ声が自分だけじゃないことに驚いたが、ルフィの泣くのを我慢する顔に眉を顰めた。

 

「はぁぁ…エースが来る前に腕試ししたかったんだけどなぁ…」

 

 面倒臭い事になったとルフィは頭を掻き毟る。

 そして両手を上げた降参ポーズで甲板へと降りていった。

 

「はぁ!?待てよい!? 近頃の海兵は腕試しに四皇の船を選ぶのかよい!?」

「おう、赤犬が『白ひげなら多少やらかしても大丈夫だろ』ってゴーサイン出してきた。無茶させるよな、俺殺される所だった」

 

 なっはっはと笑うが、その言葉がエネルによってサカズキに伝わっていると知らない。そしてその言葉に脱力したのは白ひげ海賊団だ。

 

「どこが殺される所だっての…」

 

 ハルタはお腹を押さえながら悪態をつく。

 実際殺されそうに見えなかったのが殆どだ。

 

「ルフィ……お前、なんで」

「エース。前、逃げてごめんなさい。腕試しって言うのもあったけど、エースに謝りたかったのが本音だ」

 

 世界を変えるのだから、その世界の人間が前と違う。『前のエース』では無くて、今のエースがルフィの兄弟だ。

 

 困惑したエースにルフィがペコリと頭を下げた。心の中で「弟を奪ってごめんなさい」と言いながら。

 

「あ…いや…俺の方こそ悪かった。ルフィに酷い事言ってよ」

「ほとんど事実だから仕方ねぇよ!」

 

 ズキリ、と胸が痛む。

 その痛みを無視して笑った。

 

 ──これ、多分モーガンに怒られるな。

 

 この痛みを無理して笑うと友人にすぐバレる。それを少し心地よく思っていたが、怒られる事が怖いものは怖い。

 

「──グララララ…」

 

 突然背中を押す様な覇王色の覇気をその身に受けた。敵意は何故か感じられない。

 

「派手にやったな、海軍の小僧」

「親父!」

 

 エースの顔が青くなる。

 

「ごめん親父!それと皆も!俺の弟が失礼をした!本当にごめん!」

 

 必死に謝っているエースに申し訳なくなるが、ルフィにとって『弟』と呼ばれるのは心から嬉しかった。

 

「エースの弟か、お前」

 

 向けられた視線に心臓を掴まれそうになった。しかしルフィは泣きそうな笑顔で答える。

 

「おう、『弟』だ」

「そうか!」

 

 エドワード・ニューゲート。

 今も昔もエースの親父が、ルフィに向けて笑っていた。

 

「お、親父?」

 

 仲間に手を出されたら地の果て地獄の果てまで逃がさない。それが白ひげ海賊団の知る親父の姿だった。しかしルフィ──仲間に手を出した海兵に全く敵対心を持っていない。それどころか警戒すらしていない様子だった。

 ニューゲートは驚きと混乱で狐につままれる様子のエースを豪快に撫でると、ルフィの正面にあぐらをかいて座り質問をした。

 

「小僧、その麦わら帽子…〝赤髪〟が昔被ってたやつによく似てるな…?」

 

 そう言えば知っていたか、と思いながらルフィはニューゲートを見習って座る。

 懐かしくて辛い記憶を脳裏に思い返しながら口を開いた。

 

「シャンクスのだ」

「そうかそうか、所で手土産持ってきてんだろうなぁ?」

「酒はねーぞ…、赤犬に取り上げられてるからな…」

「グララララ!赤犬の奴にか!」

 

 ニューゲートが旧知の仲の様に話すので、周りは混乱する。ルフィ自体は気にしてないようで懐から手土産の肉を取り出した。

 

「なんだ、こりゃ…」

「俺のおやつ」

 

 至極真面目な顔で答えられれば、折れるしかない。ニューゲートはもう一度大きく笑って肉にかぶりついた。

 

「マルコの報告から、覇王色の覇気を意図して使う海兵が居ると聞いた」

「おー。シャボンディ諸島に居たもんな」

「気付いていたか。まだまだだな、マルコ」

「お、俺かよい!? ま、まぁ最低限気配は隠してたけどよい…」

「バレバレだったな」

「バレバレだとよ」

「随分仲良いねい!?」

 

 マルコが船員の気持ちを代弁する。

 

「あ、悪ぃ自己紹介してなかった。俺はモンキー・D・ルフィ、海賊の海兵。世界をぶち壊してもう一度世界をひっくり返す男だ!」

「ヘェ……?」

 

 たった一言の中に矛盾点がいくつも発生している。ニューゲートは顎に手を置いて数秒考えると再び口を開いた。

 

「赤犬と言ったが、アイツと居て上手く出来るのか?」

「共犯者だから平気だ」

 

 

 

「…──大切な人間、殺されていても、か?」

 

 ルフィは大きく目を見開いた。じわじわと言葉を理解していく。

 

「グララララ!どうやら当たりか!」

 

 その反応で手応えを掴んだニューゲートはここ最近見ない程大きな声を出して笑った。

 ガタン、と思わず立ち上がる。

 

「〜〜〜っ、白ひげのおっさん!」

 

 その勢いのまま飛び付いたルフィはがっしりとした体に抱き締められた。

 

「辛かっただろうな、小僧」

「子供扱いすんなよ…俺だってとっくにジジイだ…」

「どうだかなぁ…?」

 

 大きな男は愉快だと笑う。

 

 異色の王が初めて触れ合った。




※偶然です※偶然

前にコメントで『地震雷火事親父』やら『次は白ひげ』やら言われてビビりました。実際白ひげさんを用意していたんですけど、そのワードから持ってきたか、と。
豆知識ですが『地震雷火事親父』の『親父』は元は『大山嵐(台風)』とされている説があるそうですね。偶然って怖いです。
という訳で4人目は『地震(白ひげ)』でした!
『雷(エネル)』と『火事(赤犬)』と『大山嵐(ルフィ)』がどの様に絡んでいくのか書く側とても楽しいです。

正義の文字が変わっている事をここで暴露出来たので表紙を付けました!ここまで長かったぁ…予定してた基本の4人をやっと出せた…。
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