海賊の海兵【完結】   作:恋音

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世界の恐れる大災害。

 

 ルフィは初めて触れた。

 あの大きな父親に。

 

 ドクリドクリと心臓が音を立てた。

 ゆっくりと。

 

 手から、濡れた頬から。

 じんわりと体温が伝わってきた。

 

 

「白ひげのおっさん、ごめんな」

「グラララ…何を謝る」

 

 へにょりと眉を下げてルフィが謝ると、ニューゲートはそれもまた面白そうに笑う。

 困惑する息子達を代表してマルコがそろっと声をかけた。

 

「し、知り合いかよい?」

 

 想像していたより情けない声になって届いた。

 それだけ意外だったのだ。

 

 ここまで機嫌の良くなる事も、大声で笑う事も。すべて海兵という条件が付いているのにも関わらず、だ。

 

「敵でも味方でもない。そうさなぁ…」

 

 彼らの父親は顎に手を置き考える素振りを見せた後、イタズラを企んだ子供の様にニヤリと笑って見せた。

 

「俺の憧れ、か」

「………は」

「へ?」

「…えっ」

 

 あまりの衝撃に言葉が出ない。

 

 ──親父()憧れる…?

 

 餌をねだる魚の様にパクパクと口が開閉する。

 張本人のルフィはキョトンと首を傾げていた。

 

「おっさん、俺に憧れてたのか?」

 

 その質問には、笑顔で返した。

 

 3億程度の超新星(ルーキー)を死なせたくないと思った。

 愚直に前へ進まんとする心意気は眩かった。

 無知故か生意気な態度を気に入った。

 意志を継ぐ者。その帽子は象徴だった。

 

 そしてなにより…───。

 

「小僧は俺のやれなかった事をやってのけた」

 

 自分の意志まで継いでくれた。

 それがどれだけ嬉しかったか。

 

「………?」

「グララララ…! お前の事はお前が思っている以上に知ってらァ」

 

 そう言って心から笑う。

 

 

 その時だ。

 海が波を立てて船を揺らした時、光と共に2つの物体が空から降りてきた。

 

 否──乗り込んだ。

 

「お前は…赤犬ッ!」

 

 その場に現れたのは皆が知っている赤犬の姿。そして見た事無い異民族衣装を纏った男。サカズキとエネルだ。

 

 大物直々の登場に全員にピリリと緊張が走る。

 しかしニューゲートが大きな手のひらでそれを制した。

 

「ヤハハ、聴いていたぞ白ひげとやら。まさか4人も居るとは思わなかったが」

「この場合部下の躾がなっとるんかなっとらんのか微妙な所じゃが……。とにかく白ひげ、随分隠し事が上手いのぉ?」

 

 エネルはニヤニヤと笑みを絶えず、サカズキは腕を組んで睨みながら。2人の登場に白ひげは更に面白そうに目を細めた。

 

「お互い様と思わねぇか、赤犬」

「フッ、それもそうじゃ。年寄りは変えるのを恐れてならん」

 

 お互いに記憶がある事を隠して今まで同じ道を歩んでいた『白ひげ』と『赤犬』は現状を正しく把握した。

 

 逆行者4人が顔を突き合わせる。

 並ならぬ殺気のぶつけ合いに空がザワザワと様子を変えていた。

 

「まぁいい」

 

 フッ、とサカズキが力を抜いて呟いた。

 

「こんなおかしな世の中、せいぜい生き延びる事じゃな」

「ほォ?白ひげを潰さんで良いのか?海賊嫌い」

「面倒じゃ」

 

 簡単に結論付けた答えにニューゲートが確認をする様に口にする。

 

「俺が死んだら、縄張り争いが激しくなるだろうなァ、息子と名乗る面倒臭い奴が出てくるだろうなァ。ひょっとしたら政府はその化物を捨て置けねぇと七武海にするかもしれねぇな。あの戦争が、可愛く思える事になるかもしれないなァ」

 

 その言葉は、『過去であり未来』で起こった出来事と全く同じ。

 それに深く関わったルフィは目玉が零れそうな程見開く。

 

「なんで…知ってんだ」

 

 イタズラが成功したニューゲートは笑う。

 

「言っただろ、『お前の事はお前が思っている以上に知ってる』ってなァ?」

 

 グラララ!と大きな声が3人の耳に入る。

 

 ──まだ戻っているのが居るのか…

 

 深いため息を吐いてサカズキがニューゲートの鳩尾に軽く拳を叩き込んだ。もちろんダメージは全く無い。その拳の場所に、『白ひげ』は『赤犬』の姿を見る。

 

「懐かしいなァ…焼かれる思いだった」

「焼いたんじゃ阿呆が。とにかく白ひげ、よう覚えとれ。お前は今この海で仮初ではあるが王じゃわい、いいか」

 

 サカズキは燃えるような怒りを秘めた目で睨んだ。

 

「王が死ねば世界は荒れる、もうこれ以上荒れる様子をわしに見せるな」

「…随分無茶を言うじゃねェか」

「知るか。こっちは随分無茶な迷惑を被ったんじゃ。──変えない、とは言わせんぞ『白ひげ』!もう変えずに殻に引きこもっとる年寄りの時代は終わったんじゃ」

 

 『赤犬』と『白ひげ』は世界を変えなかった。今までお互いが逆行者だと気付かなかったのが証拠だ。

 だが、今は違う。

 

「…変わったな、サカズキ」

「…………影響力は良ォ知っとるじゃろ」

 

 麦わら帽子を被った人間の影響力は計り知れない。『白ひげ』自身、頂上戦争がいい例だ。彼()は世界を簡単に変える、大きく変えてしまう。良い方向にも、悪い方向にも。

 

 ニューゲートは呟くように確認した。

 

「……エースが船に来た時から変わっていったのは気付いてらァ。父親以外に兄弟に否定的、なんておかしいだろ」

 

 『白ひげ』の道を歩んでいたニューゲートの前に現れた変わらない息子の存在が変わっていた。その変化はほんの小さな物だったが、小さな歯車は大きなズレとなって動きを変える。

 

 

 

「海賊の俺と海賊で海兵の俺。悪い方向に向かっていく恐怖はある」

 

 実際悪い方向に向かってったしな、と追加しながらルフィが困った様に笑う。

 

「変わることで尻込みする事、沢山あるよ。友達だったヤツが敵になって、仲間は仲間じゃなくなって。それで俺が殺されるかもしれない、アイツらが、殺されるかもしれない。『前』に成功した、上手くいった事が…『今』は出来ない。もっと気に入らない世界になるかもしれない」

 

 ルフィは強い目で大人を見た。

 

「でも、どれだけ他人に影響を与えても俺は俺の好きな様にやる。それがモンキー・D・ルフィだ」

 

 横暴な態度、それは昔と変わらない姿だった。

 

「昔俺の暴走を止めてくれるのは『仲間』だったけど、今は『共犯者』だ。なァ赤犬」

「……そうじゃな、本当にお前相手には敵わん」

 

 それは止めてくれる者を信じているから。

 止めてくれる存在が居ると分かったから。

 

 

「ま〜…なんて言うかよ。俺は白ひげのおっさんが変わってもいいと思う」

「そうか! なら、息子はこれ以上死なせねぇさ」

「ん?おう、分かった!」

 

 戦争の引き金になったのは黒ひげティーチだ。彼がサッチを殺した事によって動いていった。

 

 ニューゲートはある一定の期間を除き今この時まで『変わらなかった』のだ。例えそれが、残す息子達にとって絶望に変わる運命だろうと。

 

「…麦わらの小僧の為に、と頼まれてたしな」

 

 数年前に船員にバレない様に白ひげの船に乗り込んで来た勇敢な人間の為にも。彼は変わることを決意した。麦わら帽子の人間に感化されて。

 

「帰るぞお前ら」

「……なんだ、戦わんのか」

 

 サカズキが淡々と告げるとエネルは肩を落として落胆した。

 その姿を見て嫌そうな顔をするのは年寄り2人。

 

「地図を変える気か」

「能力を考えろアホンダラ」

 

 ニューゲートとて頭が悪い訳では無い。サカズキを連れて空中を移動して来た姿が雷だと判断するのは簡単な事だった。

 逆行した最強クラスの超人系が2人と自然系2人がいる場で戦闘をすると──滅ぶ。色々と。少なくとも船は使えなくなるだろうな、と遠い目をして考えた。

 

「雷の小僧」

「……なんだ怪物」

 

 やや不機嫌な表情のエネルにニューゲートは問いかけた。

 

「麦わらの小僧に、何を変えられた?」

 

 

 

「……下ばかり見ている空の頂上で、神様(こどく)で居ることを変えられた」

 

 大災害は笑った。

 それはそれは愉しそうに。




エピソードオブ〜〜空島〜〜!
2018.8/25㈯!遂にこの日がやって来ましたよ!いやぁ、タイミング的にエネルが登場するこの日に投稿出来て良かった!

この後マルコさん大変でしょうね。でも絶対白ひげは戦うのはやめとけと言う気がする。特に若いの2人とは。
年寄り2人は前と変わらない戦闘力だけど若いの2人は過去+今という力がががが…。

多分一番の被害者はエース。どっちに嫉妬していいのか分からなくなりそう。
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