海賊の海兵【完結】   作:恋音

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見えないはずのものだった。

 

「暑っついわね…!」

 

 羊の船から降りた1人の歯車はサンサンと照りつける太陽に負けない様に叫んだ。

 彼女に続く様に男達は船を降りる。

 

 叫んだ彼女は紅一点、しかも美人と来た。それでも色恋沙汰の雰囲気を全く感じさせないのは4人が手を組む目的が故だろう。

 

「ナミィ、これからどうすんだ?」

 

 ナミは砂の国アラバスタの気候をその肌で観察しながら周囲を見回す。恐ろしい程に暑く、太陽に触れる肌はピリピリと痛む。

 

「私達に必要なものってなんだと思う?」

 

 ウソップの質問に質問で返す。

 返されなかった疑問に不服に思いながらもウソップは一言告げた。

 

「金だろ」

「そう、お金よ」

 

 永久指針(エターナルポース)でローグタウンから真っ直ぐ来たは良いが、金を稼ぐ機会など無い。一応賞金稼ぎとしての収入があるが、当の本人─ゾロ─のやる気の無さとエンゲル係数が異様なのだ。主に酒で。

 

「じゃあここで金を稼ぐって事か?」

「必要物資を買うにもお金が必要だからそうなるわね。だから──」

 

 サンジはナミの声を聞きながら考える。コックとして短期募集してくれる店、又は賞金首が現れることを願って賞金稼ぎ。

 どの道短期間では済まなそうだ。

 

「──カジノ行くわよ」

「素直に稼げよ、横着すんな」

 

 サンジの心を知ってか知らずかナミは目をベリーに変えながら握り拳を固めた。その様子にウソップは呆れた目を向ける。

 

「ねェそこの子。カジノってどこかに無い?」

 

 港でこちらのやり取りを微笑ましく眺めていた女性に声を掛ける。服の雰囲気から地元民だということが分かった。

 声を掛けられた少女はパチリと目を開閉させると気品のある笑みを浮かべ教えてくれた。

 

「レインベースにあるレインディナーズ、そこがカジノよ。サーが…──えっと、七武海のクロコダイルさんが経営してるの」

「七武海って、あの?」

「ええ、あの七武海よ」

 

 少女は親切にも行き方まで教えてくれた。

 川を越え民間共同の乗り物に乗れば良いと。流石は大国、厳しい土地であろうと栄えている。

 

 

「ありがとっ、助かったわ!」

「あなた達の旅に幸多からんことをッ!」

 

 少女は太陽の様な眩しい笑顔で左手を大きく振った。海の様な髪がキラキラと輝いて、見送られた4人は嬉しそうに手を振り返した。

 傍らに居たカルガモは誇らしげに鳴いていた。

 

「……いい子だったわね」

「少し下、くらいか」

「また会えるといいな」

「は…ッ!あのプリンセスの名前聞き忘れた!」

 

 左手は、何も書かれていなかった。

 

 ==========

 

 

 

 レインディナーズに辿り着いた4人は良くも悪くも目立っていた。問題はナミである。

 

「お前稼ぎ過ぎだろ」

「私の手に掛かれば朝飯前よ」

 

 上機嫌な彼女は輝くコインに軽くキスをして笑った。イカサマはもちろん使っている。

 

「おおお、おいおい…ここ七武海の店って知ってんだろ…?目をつけられたらどうす…──」

 

 怯えたウソップに影がさした。

 椅子に座るナミもその影に気付き、護衛の意思が強いサンジとゾロも戦闘態勢だ。

 

「少々お話よろしいですかな、御一行」

 

 そこにはニッコリ笑った七武海サー・クロコダイルの姿があった。

 

 

 

 

 4人はクロコダイルの執務室に呼ばれ、彼の連絡が終わるのを待つ。

 

「──…あぁ、そうだな。テメェは無駄足だったってわけだ。──…いや、そこに居ろ」

 

 面白可笑しい、その様子がありありと見える。

 電伝虫の先は誰なのか分からないがナミ達はこれから起こる何かに恐怖した。

 

「さて、貴殿らに質問しよう」

「……ッ」

 

 連絡の終えたクロコダイルが向かいにあるソファに座り、鉤爪を撫でた。

 それだけでも十分怖い。自分達は絶対にこの男に敵わない、と言わざるを得ない。

 

 息を飲んだ。

 

「テメェら麦わらを探してどうする気だ?」

「へ?」

 

 質問の意図が分からずポカンとする一行。クロコダイルはその間抜けな顔を見てクツクツと零すように笑う。

 

「賭け事ってのは見抜けなかった方の負けだ。その件について触れるつもりは欠片もねェ」

 

 触れるつもりは無いが一杯食わされた事には違いない。まだるっこしい話題の出し方は仕返しの様だ。意地が悪いやら負けず嫌いで済めばいいのだが、『七武海』のレッテルと実力を含めタチが悪過ぎる。

 予想外の仕返しに4人は目玉が落ちてしまいそうな程見開いていた。

 

 その表情すら男の笑いを誘う。最終的には腹をかかえて笑い出していた。

 

「おい、どういう事だ……?」

 

 いち早く復活したゾロが睨みつける。

 その姿はまるで子猫が逆毛を立てている様だ。

 

「おいおい俺ァ七武海だぜ? テメェらより海を自由に渡れ、本部に行く許可だって取れる」

 

 クロコダイルは小馬鹿にするように鼻で笑う。

 つまり『お前らの目的の人物と気軽に会える』と(あお)ったのだ。

 アラバスタに着いた時出会った好印象の少女を水とするならクロコダイルは砂。比較してしまいより一層タチの悪さが際立つ。

 

「何が目的だ」

「俺がその質問をしてるんだろうが」

 

 顎をクイッと上げ、人を見下しながらクロコダイルは返事をする。

 その眼光の鋭さに一行は再び息を飲む。

 

 ナミはクロコダイルの前でこっそり手を握りしめて震えを必死に止めた。

 隠す必要性を感じないので彼女はそれぞれの身に起こった『麦わら』との邂逅(かいこう)を話した。

 

「(コイツらのせいか……ッ)」

 

 クロコダイルがルフィに会ったのは2回。1度目は王の覇気に惚れ込んだ。しかし、2度目に再会した時その片鱗が弱っている様に思えた。

 

 コイツらだ。コイツらのせいだ。

 

 会って目を見て分かった。

 真っ直ぐ闇を見つめる光は海賊にとって直視しがたい。

 

「(アイツも()()の海兵か……)」

 

 海兵と言っても同じ穴のムジナ。その事実に少しだけ機嫌が上昇したが、それで気に入った王の覇気を鈍らせた元凶に腹を立てないかと言われれば否である。

 

「結論から言おうか。麦わらは本部に居ねェ、残念だったな」

 

 嘲笑う姿に我慢の限界が来たナミは机を叩いて立ち上がった。

 

「何よ!アンタ結局何がしたいわけ!?」

「………」

 

 クロコダイルの眼光が鋭くなる。ただその仕草だけでナミをすくみ上がらせた。

 

「今すぐ、テメェらを枯らして、存在を無かった事にしてやりたい」

「ッ!」

 

 痺れるような殺気に思わずゾロは刀の鯉口をカチャリと鳴らす。

 

「……はァ、まぁいい。ここで殺したら白猟の奴がうるさいしな」

 

 ため息と共に文句を口に出す。

 スモーカーはそれなりに七武海であるクロコダイルの性格を分かって居るようで、口煩く忠告をしていた様だ。

 くれぐれも危害を加えない様に、と。

 

「スモーカーから伝言だ。『ルフィの奴が本部から移って支部を持った。細かいことは分からないから本部に居る赤犬に聞きにいけ』だとよ」

「……終わったわ」

「……もうダメだ」

「……マジかよ」

 

 赤犬の単語に頭を抱え出した3人をゾロが首を傾げながら眺めていた。無知こそ強者。サンジはゾロをシバキ倒した後説明し始めた。

 

「アイツの上官は確かに赤犬だな。本人から聞いた事もあるし……」

 

 ボソッと、絶望を与える言葉が耳に入った。

 いい気味だと口角を上げながらクロコダイルは考え込む。

 

「あぁ……アイツが丁度いいな」

 

 確認する様に小さく呟いてクロコダイルは席を立つ。

 もう話は終わりだ。クロコダイル本人にそう言われてしまえばもうここに用は無くなる。

 

「アンタ……」

「おいナミやめろ、相手は七武海だって!」

「……そうね」

 

 文句を1つ2つ言ってしまえば気が晴れる。しかし、言う度胸も気力も無い。

 張り巡らされた殺気と、簡単に殺される状況から逃げ出したかった。

 

 

「せいぜい足掻いてみたまえ」

 

 自分を閉じ込めるような水に囲まれた部屋を出る時、そんな声が聞こえた気がした。

 

 きっと、気の所為。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ほんっっとによォ、ナミは頭にきたら喧嘩振っかけそうになるのやめろよな」

「仕方ないじゃない。ようやく手がかり掴んでこれからって時にあんなムカつく態度で馬鹿にしちゃって!失礼しちゃうわ!」

 

 メリー号に戻った一行は下がるテンションとモチベーションを無理矢理高め出航の準備をしていた。

 

「残り2回の航海で麦わらの海兵に会えると思ったのに……」

 

 世界は広い。偉大なる航路(グランドライン)に入ったばかりの賞金稼ぎとしては確かに頭一つ抜きでた強さはあるだろうが所詮そこまでだ。

 海賊、七武海、海兵。求める先は長く遠い。

 

「ねェ、あなた達」

「え…?」

 

 その道は暗く先が見えないものだった。

 ようやく掴んだ糸はか細く頼りない物ばかり。

 

「私も仲間に入れてくれないかしら」

 

 糸を重ね、その糸は灯火になる。

 先を照らす大切な灯火。

 

「貴女は?」

「私はニコ・ロビン。一応賞金首だけど、麦わらの海兵さんに用があるの」

 

 美しく妖艶な笑みを浮かべて、灯火は待ち人に協力を持ち掛けた。

 

『邪魔になるようなら殺せ』

『えぇ、分かったわ。サー』

 

 例え灯火が消えてしまいそうな微かな炎でも。

 




最後地の文(会話文以外)に名前を出しませんでしたが、勘のいい人は次の話に出てくる人物が分かったでしょう。
自画自賛、とは少し違いますがいろんな意味でしんどいので覚悟しておいて下さい。

話数は30程度ですが評価数が200まで行って割合凄いなと思いました。
素直に言うとめちゃくちゃ嬉しいです、ありがとうございます…!
ラストまでまだ道が見えてませんが50話以内に終わると思いますので兎ペースで良かったらお付き合い下さい。
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