海賊の海兵【完結】   作:恋音

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王の裁きが下される。

 

「おーい!野郎どもー!巡回行くぞー!」

「一応聞くがどこに……」

 

 変わらぬ風景。

 全員に号令をかけるルフィに嫌な予感がしてモーガンが念の為聞いた。

 

「空島行きてェ」

「出てこいエネル!何吹き込んだ!」

 

 空島出身であるエネルがヤハハと笑いながら怒るモーガンの前に現れた。

 

「平和な空島は観光しがいがあるだろうな、と呟いただけだが?ゴムの小僧の前で」

「何が『だけ』なんだよ!無駄にコイツの好奇心を煽るな!自由は効くとは言えど純粋な海賊じゃねェんだぞ!」

 

 突拍子の無いことを言い出す海賊支部の日常。

 ロシナンテの命を狙いルフィを警戒するヴェルゴはいつもの平和ボケした会話にため息を吐く。

 

「ルフィさん!僕の航海術では無理ですから諦めてください!」

「お、おぉ……最近コビーがすげぇ母ちゃんっぽいな……」

「そりゃ何年か居たらこうなりますよ。一応航海術は勉強してるんですけどルフィさんの希望は難題過ぎて……。行きたいならもっと腕のいい航海士捕まえて来るなりしてください」

「言ったれコビー!」

 

 一等兵の2人は中将に対して容赦が無い。

 ルフィは苦笑いを浮かべながら頭をかいた。

「腕のいい航海士は一応知ってるけど、嫌われてるから無理だな」

「……ん?あぁ、殴られたもんな、お前」

「おーそいつそいつ」

 

 流石に全員が驚愕の表情を浮かべた。

 状況を唯一知っているモーガンは特に気にした様子もない。

 

 ……驚くのも無理ない。ルフィの強さは今の所敵無しだ。流石に海軍大将に戦いを挑んだ事など無いが、全力を出した事は今の所無い。

 

「お前を、殴る?」

「エネルなら似たやつ知ってるだろ。前で」

「……あの愚かな娘か」

「……俺の航海士は愚かじゃねーよ」

 

 暫く考え『ルフィの航海士』の事だと分かったエネルは思った事を考えずに口に出す。

 ルフィは逆行者に容赦しない。事態を理解している者同士だからこそ、その評価に腹を立てた。

 

「そ、そそそ、そう言えばルフィ中将の家族ってどんなやつだ?」

 

 無理矢理過ぎる話題だとは本人も分かっていたが、流石に怖いのかヘルメッポが声を出した。

 

「俺は親父がいるけど、お前は小さい時から海軍に居たんだろ……?」

「んーー…そうか?あー、そっか。俺、これでも古参の方なのか」

 

 少し考えて自分は確かに子供の頃から居たと自覚し納得する。そして今も前も交流の少なかった両親の顔を思い浮かべて、眉をひそめた。

 

「……2人共海兵の俺が言ってもいいのか?」

「祖父に続き両親までどんなメンツなんだよ」

 

 モーガンは深くため息を吐いて呆れた。

 そんな彼にルフィは歯を見せて笑いながら気にした様子を見せない。

 

 そんないつもの日常。

 しかし今日は唐突な変化が起こった。

 

──ぷるぷるぷる…

 

 電伝虫が鳴る。

 モーガンが止める間もなく1番そばに居たルフィが手に取った。

 

「俺はモンキー・D・ルフィ! こちら海賊支部ですどーぞ!」

「ルフィ!」

 

 巫山戯た取り方だ。流石にどうかと思いモーガンは声を荒らげる。

 

 ルフィの耳には微かに息遣いが聞こえていた。随分と苦しそうに息をしているのが分かった。聞き覚えのある声はまるで傷を負った…──。

 

『……はァ……ッ、海兵さん……?』

「誰だ……?」

『私よ……ニコ・ロビン……』

「ロビン…ッ!?なんで……!」

 

 ガタリと椅子から立ち上がる。

 尋常ではないルフィの取り乱し方に一同は視線を集めた。

 

『今、七武海のモリアの所にいるわ。細かい事情は除くけど……。ちょっと、皆ピンチなの……助けてくれないかしら……ッ!』

 

 モリア?みんな?

 一体何故という疑問、皆というのが誰なのかという疑問。

 

 それでも助けてと言われたら断れない。

 

 『私も一緒に海へ連れて行って!』

 

 過去での記憶がフラッシュバックする。助けを求められたら、反射神経でも動く。

 

「分かった、ちょっと待ってろ、すぐ行く」

『ありがとう……』

 

 電伝虫を切ると心配するモーガンの視線を受けながら目を閉じた。

 

 『仲間』とは違うニコ・ロビンの存在に、少なくとも会わなければならない。

 

「……うん」

 

 目を開いて支部の中を見る。

 

 ……大丈夫、もう、大丈夫。

 

「エネルは俺より覇気の範囲は広い、行けるな」

「面倒だ、が。戻ったら一戦させろ。条件だ」

 

 戦闘狂のエネルは変わらず戦いを求めた。正直地形が変わるのでルフィとエネルの戦いは無人島を探し出してせねばならず、手間がかかるがやむを得ない。

 

「ヴェルゴ、怪我の応急手当って出来るし月歩も使えるよな?」

「もちろんです」

 

 問われたヴェルゴは海兵としておかしくない返事をする。海軍支部ではそもそも医者が居ない。怪我をする心配も無いし、模擬戦であろうと包帯を巻けばいい程度だ。

 

 多くの人数を連れていけない。

 だからこそ、空中移動が出来る3人ですぐに向かうのだ。

 

「………モーガン」

「おう」

 

 任せたとも任されるとも、何も言わない信頼。

 

 実際2人は言葉を交わさなかった。それでも伝わるのは相棒故だろう。

 

「(俺とドフィの様だ……)」

 

 ヴェルゴは相棒の隣に立てない。

 分かっては居るが、羨ましくも思った。

 

「1刻1秒を争う。行くぞ!」

 

 雷鳴と共に3人は姿をその場から消える様に空を走った。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 嵐により急遽航路を変更したロビンを仲間に加えた人探しチームの5人が魔の三角地帯(フロリアントライアングル)と呼ばれる場所を通っていた時だった。

 そこで出会ったのは影の無い骸骨。

 名をブルック。どうやら話を聞く限り七武海ゲッコー・モリアに影を奪われた様だ。

 

 特に関わる気も無かった為その場で別れようとも思ったが、何故かモリアの支配する船、と言うより島から出られなくなっていた。

 

 仕方なしに上陸したはいいがゾンビが出るわ出るわ。恐怖に染まり切ったナミとウソップだったが2人を庇ったのは同じく怖い物が苦手なブルック。行動理由は年上の見栄と巻き込んだ事への罪悪感だっただろうが5人はブルックの陽気な態度に絆されてしまっていた。

 

 どちらにせよ島から出るにはモリアに会わなければならない。

 

 

 ……しかし、政府機関の人間と言えど所詮モリアは海賊。

 

 影を取られた彼らは為す術も無く地に伏していた。

 

「(痛いし怖いし……最悪……。私はただ海賊の海兵に会ってお礼を言いたいだけなのに……)」

 

 ゾロやサンジでも敵わない相手にナミの目には自然と涙が溜まっていた。

 

「(折角生きてここまで来たのに。……嫌だ、死にたくない……ッ)」

 

 周りには自分と同じように倒れる、目的を共にする仲間。

 

「(もう終わりなのかな………)」

 

 その時。

 絶望に染ったナミの瞳に光が走った。

 

 島を揺るがす程の巨大な衝撃。ナミにはそれが雷だということがすぐ分かった。

 

「ッ、大丈夫か!?」

 

 見慣れない黒髪の頬にウィンナーを付けた男が駆け寄った。

 

「あん、たは……」

「大丈夫だ、安心しろ。化け物が来た」

 

 痛む手や足、体力の無い体。それらを支える様に男がナミを持ち上げ、戦いの余波を浴びぬ為に安全圏へと避難させようとする。

 

 掠れる視界。

 雷の光の中で自由の文字と麦わら帽子がなびくのを見た。

 

「(また助けられ…───)」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 島に降り立ったルフィはエネルの発する雷の中で自分が怒っている事に気付いた。

 眼光が捉えるのは七武海のモリア。

 

 倒れていたのは予想外の人間。何故という疑問は湧いてこない。

 

 浮かぶのはただ純粋な怒り。

 

 この世界の「彼ら」は自分の『仲間』と違う事は分かっているが、彼らは前半の海を共に渡った仲間と同じ姿をしている。

 

 だからどうしても──。

 

「モリア、覚悟は出来たか?」

 

 許せない。

 

 

 モリアは目の前に居る強大なプレッシャーにじわじわと追い詰められている気がした。

 ルフィはただ睨んでいる、それだけだ。

 

 過去、最強の生物とも言われる四皇の百獣のカイドウと渡り合う実力を持っていた。しかし彼には仲間を失う『新世界』という世界に恐れをなし現在では他力本願の戦い方をしている。

 

 劣っていく自分の力。

 そんな中に化け物が現れた。

 

 恐ろしい海軍の兵器。

 七武海をも凌ぐ脅威。

 

 正直三大勢力のバランスが崩れてもおかしく無い。四皇が我先にと潰してもおかしくない。

 

「〝影の集合地(シャドーズ・アスガルド)〟!」

 

 迷う暇が無かった。

 怒る海兵相手に逃げ出せる確率は低い。何より自分は七武海で、どこかで鉢合わせる可能性も捨てきれない。

 

 モリアは支配下にある全ての影を取り込む。

 賞金稼ぎ共の影を奪い戦力を手に入れたが、惜しむ間もなかった。

 

「死なねぇ兵が必要だった、俺は……ッ!」

 

「〝神の(エル)…──〟」

「〝ゴムゴムの…───〟」

 

 本物の海賊には”死”さえ脅しにならない。

 

 

 モリアは力を失い初めて後悔をした。抗っても無駄だと直ぐに分かってしまった。

 ………敵わない。

 

「〝裁きの銃弾(トールブレット)〟ッ!」

 

 伸ばした腕が雷を纏って影を突き破った。

 

 

 本物の海賊は”王”にのみ膝を付く。

 

 

 

 

 

「は……化け物が……」

 

 あまりにも早い出来事に咄嗟にナミを庇ったヴェルゴだったが、2人の男を見てひくりと喉を震わせた。

 

 ……それだけ怒り狂っていたのか、倒れるコイツらに手を出されて。

 

 温厚だと思っていた。戦いに興味を示さない人種だと思っていた。

 

 やはり覇王色の持ち主は似るのだろうか。その覇気の力強さも、背の大きさも、大切な者(ファミリー)を傷付けた者に容赦しない所も。

 

「(いや、違う。ドフィと麦わらは違う。年齢も見た目も好物も、生まれながら持つ苦しみも)」

 

 ちゃんと分かっている。2ヶ月間見てきたのだから。

 

「…あ……ァ……また俺は……負けるのか……部下も仲間も何もかも無くして……俺はまた……」

「タフだなーコイツ」

「死なねぇ兵が……欲しかった……無敵の体に死なない命……たとえ冒涜的な行為でも……」

 

 地面に伏し、か細くだが男の声がする。

 

「お前は昔の俺に似てる……。自力の過信と野心に満ちていた……。お前は気付くはずだ……失う恐怖を……ッ!」

 

 ルフィはモリアを見下ろして言った。

 

「バカだな、俺も知ってるよ。それが死ぬほど怖いくらい」

「な、…に……」

 

 ニッと笑いしゃがみこむ。

 

「だから俺は決めたんだ。俺のために誰かを死なせてたまるかって!」

 

 ルフィの手はモリアの肩をポンポンと叩いた。

 誉高き海賊に、船長であろうと努力をした怖がりな海賊に。敬意を込めて。

 

 過去であり未来で海賊達の船長となった新時代の王から。

 

「お疲れさん」

 

 ──『いざと言う時、俺の為に死んでくれ』

 

「(……違うじゃないか)」

 

 ヴェルゴの愛する王とは、全く違っていた。




モリアはある意味「海賊の海兵のルフィ」に似ている。『昔』は過信と野心。「今」は恐怖と切望。──モリア、死んでないから殺すなよ(地の文が死んでる雰囲気)
ヴェルゴの王がルフィに変わることは絶対にありえないけれど。まぁこんな王もいるんだな、みたいな。他の違う王と触れ合ってドフラミンゴへの盲目的な所がなくなりますね。


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