海賊の海兵【完結】   作:恋音

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リスクに素知らぬ顔をした。

 偉大なる航路(グランドライン)の均衡を保つ三大勢力。

 

 世界政府直属の海上治安維持組織、海軍本部。

 世界政府公認の7人の大海賊、七武海。

 新世界に君臨する4人の大海賊、四皇。

 

 偉大なる航路(グランドライン)が海賊の墓場と称される所以の1つで、その3つのバランスが崩れると世界の平穏が崩れ去ると言われている。

 

 ……均衡。

 まさかもう既に崩れているとも知らず。

 

 何せ三大勢力の1つ、海軍本部の戦力は膨大な戦力を有していた。ルフィとエネル、逆行者という者の強さを。

 

 彼らと時を同じくするニューゲート、そしてルフィの古い仲である赤髪のシャンクスは聞こえてくる海賊支部の噂に笑みを零す。

 

 強くなる事は男の宿命とも言える。しかし快く思わない人間が居ることも事実。

 四皇の2人は時が来るまで海賊の海兵という存在を隠してきた。

 

 前者は己の存在自体で。後者は五老星に働きかけて。

 

 しかし何よりも隠蔽工作に力を入れているのが海軍本部の大将として席を置く赤犬サカズキ。

 海賊の海兵としても子飼いとしてもルフィは有名になっているが、敢えて権限を持たせ無い事で自分の『海賊嫌い』という立場と共に、狡猾にルフィの立場を弱めて行った。

 

 逆行者として、この世界に立ち向かえる日が来るまで。

 

 

 お互いが示し合わせてルフィという異質な存在を隠しているわけではないが。実際、政府が海賊支部に手を出さない理由はその3名にあった。

 

 

 

 

 四皇の一角、白ひげエドワード・ニューゲートが率いる白ひげ海賊団は世界最強の海賊団と呼ばれている。

 

 陽気な太陽の光に照らされた海の上を行く鯨の船。甲板には思い思いに寛ぐ船員や見張りをする者が居た。

 

 

 その大海賊団である白ひげ海賊団にその日、1人の客人が現れた。

 突然の訪問にいい顔をしない者も居た。少し前とは言えど海兵に乗り込まれた経験もある。

 

「エース」

 

 1番隊隊長のマルコ、そして4番隊隊長サッチ。

 自然系よりも希少と謳われる幻獣種である不死鳥と、自然系である闇人間の2人の能力者に挟まれた客人は名を呼ぶ。

 

 どうやら監視に思う所は無いらしく、嫌な顔一つ見せなかった。

 

「ん?俺?」

 

 名を呼ばれエースは顔を向ける。

 彼の目はフードの奥で黄金色に輝く柔らかな髪に釘付けになった。

 

 ……この色が好きだ。

 

「えっ、嘘だろ、なんでいるんだ!?」

 

 驚いた声を出すが、声色は非常に嬉しそうだ。

 その様子にマルコとサッチは警戒を緩める。

 

「サボ!」

「うわっ!エースぅ、おも……重いって……」

 

 飛び上がってやってきた片割れをサボは崩れながらも受け止める。しかし勢いを殺しきれず甲板に転がる羽目になった。

 

「サボ、なんで!?」

「お前……とりあえず退けよ……!」

 

 興奮し切った様子のエースとは裏腹にサボは随分と沈んだ様子だ。

 

「エース、お前の言ってた兄弟ってのが?」

「そーそー!コイツサボって言うんだ!」

「何回も聞いた」

「いい加減耳にタコが出来るぜ……」

「運命の再会したんだよな、知ってる知ってる」

 

 嬉しそうにサボを紹介し始めるエース。

 そんな時間すら惜しいとばかりに、サボは早速口を開いた。

 

「エース、お前に会えて嬉しいのは俺も同じだけどルフィの事で話があるんだ」

「……!」

 

 2人の弟、モンキー・D・ルフィ。その名前にマルコは嫌そうな顔をした。なんせ白ひげ海賊団に乗り込んだ張本人であり隊長4人に対し立ち回りをしたのだから。

 

「ルフィがどうかしたのか」

「あァ、なんだか様子がおかしかった。まるで別人みてーな感じで……」

「………それ本人に言うなよ、絶対だからな」

 

 真剣な顔でエースはサボの肩を掴む。

 

 ……なんだ経験済みか。

 

 その顔を見てサボは悟る。苦笑いをしながら肩を竦めてみせた。

 

「と言っても、問題はそこじゃない」

 

 話の内容はどうやらルフィの様子では無い何からしい。サボが口を開きかけた時船内から壁を突破って男が甲板に転がり込んだ。

 

「くっそ……!化け物が……!」

 

 マーシャル・D・ティーチは吹き飛ばされた衝撃で切った肌を拭うと悔しそうに舌打ちをした。

 

「……お前のところの治安どうなってんだ」

「アレはティーチ限定だから気にすんな」

「んな事言ってるエースも入りたてはあんな感じだったけどねい」

「バラすなよマルコ!」

 

 サボが呆れた目でエースに聞くが、エースは目を逸らしながら弁解する。しかし長男でもあるマルコの指摘に拗ね気味で叫んだ。

 

 そんな彼らの様子が聞こえたからなのか、壁の穴の奥から笑い声がする。

 グラララ、と言う独特な笑い声はこの船の船長であるエドワード・ニューゲート、白ひげだ。

 

 彼は体に繋がれた医療用器具を邪魔に思いながらも甲板に出てきた。

 

「甘ェなティーチ。今日もお前の負けだ」

「寝てる時も治療中も隙なしとかテメェは老いすら知らねェのかよ!」

 

 ニューゲートは不貞腐れたティーチからサボに視線を移す。サボはその視線に思わず背筋が伸びた。大海賊は視線だけで人を威圧させてしまう。

 

「お、お邪魔してます」

「少し聞こえたんだが、麦わらの小僧の話をしてたな、俺も混ぜろ」

「……は!?」

 

 思わぬ言葉に素っ頓狂な声を出す。エースは兄弟を見てゲラゲラと笑い始めた。

 

「……あー、えっと、続きな」

 

 エースを一旦蹴り飛ばすとサボは話を続ける。

 

「話って言うのはルフィのおかしな様子じゃなくて、アイツが持っている支部の事なんだ」

「は!?」

 

 今度はエースの驚く番だ。

 サボは一瞬首を傾げたがその理由に思い至る。

 

「場所はシャボンディ諸島13番GR(グローブ)にある元第3支部。そして今は偉大なる航路(グランドライン)0支部と名乗ってる」

「聞いた事ねェ言い方だな。海軍も0とは面白ぇことをする」

「余計な支部だから0という数字にした、と我々は予想してるけどな。あの支部は通称、海賊支部と呼ばれていて、まァかなり異端な存在だ」

「多分赤犬の奴が数字調節面倒くさがっただけだと思うが……」

 

 ニューゲートがポツリと呟いた言葉にサボの表情は固くなる。この話には彼も関係するのだ。

 

「──俺達革命軍はその支部を敵とした」

 

 重々しく開いた口から発した言葉はエースの度肝を抜く事になった。

 

「なんで……!?おいどういう事だよ!」

「俺だって反対したさ!でも無理だった!ドラゴンさんはこの話をドンドン進めて行ったんだ!」

 

 エースに問い詰められてサボは頭をくしゃりと掻き毟る。不服を叫ぶと悔しそうに唇を噛んだ。

 

「ルフィと、あとあそこにいるもう1人の力は膨大だ。革命軍としての活動を邪魔されたらたまったもんじゃ無い」

「雷の小僧の事か。確かに、アイツらは俺が言う程化け物だ。同レベルの2人が揃ってたら互いに高みを目指し合うだろうな……多分まだ強くなる」

 

 まだ危険性の話である。警戒に留めて置くに限るが、これ以上力を付けるようならその危険を考えて排除する他ない。

 

「挙句赤犬はルフィを気に入ってるらしく、色々な意味で怖い。そこは知ってるだろ?」

「あ、うん。海賊嫌いだよな」

「海賊の海兵が海賊嫌いの子飼いって、なんの冗談だよとか思ったさ……」

 

 革命軍は時に民や武を持って国を革命する。

 

 その邪魔になる事は頂けない。

 革命軍と敵対するのは海軍だから。

 

「だからエース、お前に頼みがある。俺と一緒にルフィを止めてくれ」

「止めるつったって……ルフィは何かしてるわけじゃ無いだろ」

「何かしてからじゃ遅いんだ!最近その赤犬すら様子がおかしい!何かあってからじゃ……革命軍は確実にルフィを……」

 

 サボの言葉が段々と小さくなる。勢いで掴んだエースの肩に自分の震えが伝わるのが分かった。

 別人の様に変わっても、大事な弟だから。

 

「グラララッ!!」

 

 しみったれた空気を吹き飛ばす豪快な笑い声。

 

 サボやエース、そして周りで聞いていた白ひげ海賊団の面々は声の主を見上げた。

 ニューゲートはしばらく愉快そうに笑うとニヤリと笑う。

 

「あー……可笑しすぎて久しぶりに大笑いをしたなァ……」

「な、何がおかしいんだよ」

 

 ニューゲートはルフィの事を本人の想像以上に知っている。今では海に居る他の誰よりも知っているのかもしれない。いや、違うか。己に知識を与えた人間の方が知っているかと自分の中で納得する。

 

 しかし、いや、だからこそ可笑しくて仕方がないのだ。

 

「ドラゴンの小僧は息子の存在っつーリスクすら背負えねェのか?」

 

 言葉の意味が、分からなかった。

 しかしジワジワと『リスク』というのが立場だと分かってくる。

 

「う……そだろ……」

 

 混乱するエース。彼よりも早くサボは口を開いた。そして激怒した。

 

「なんで子供を敵に回すことが出来るんだよ!」

 

 サボは感情で言葉が出てきた。

 しかし理性では答えなど分かっている。エースもサボも親から決別した身だ。

 

 とった行動はある意味親と反対と言っていい。

 答えはただ一つ、信念を(たが)えたから。

 

「おい、エースと革命軍の小僧」

「なんだ……?」

「……なにか?」

「お前ら麦わらの小僧が『別人みたいに変わった』って言ってたな?まるで、何十年も経ってるみてェに」

 

 ニューゲートは内心2人を勘の良い奴らだと思いながら、かの王が取り巻く環境を変えようと口を開いた。

 

「麦わらの小僧と、雷の小僧と、赤犬と俺、それともう1人…──俺が知ってる限り5人、共通点がある」

 

 ルフィの様子の理由が分かる。

 それを察したエースとサボの2人はニューゲートに真剣な目で訴えた。

 

「教えてくれ」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「「ルフィーーーッ!」」

「ウワァッ!?」

 

 海賊支部。

 支部の長であるルフィの元に客人が現れた。

 

 客人は白ひげ海賊団。その中に見慣れた姿の兄が居た。

 ルフィの兄は混乱した様子のルフィに抱きついて離さない。

 

「えっ、えっ??し、白ひげのおっさん助けてくれ、どうなってんだこれ……」

「グラララ……兄貴を心配させた罰として甘んじて受け止めろ」

 

 心底可笑しそうにニューゲートが笑うのでルフィは混乱を抜け出せない。一体自分が何をしたのだろうか。

 

「俺、俺!絶対死なねェから!嘘じゃねェからァァあ!」

「革命軍止めてみせるッ!絶対に守ってやるからなルフィ!」

「モーガン助けてくれ!本当にどういう状態だコレ!ありがとうございます?」

「「ルフィーーーッ!」」

「おう!ルフィですッ!?」

 

 喧しくて眠れないと、雷の能力者が裁きの雷を落とすまで混沌は続いた。

 

 

 

 

 明けぬ夜が無いように、盃で交わした絆はどこで何をしようと切れることは無い。

 それが記憶を無くしても、思い出しても、どうしようも無い葛藤を知っても。

 

 変わらず盃は交わされる。

 

 

 3人で交わした盃は幸せの味がした。




2人の兄+野次馬してた白ひげ海賊団の面々は『逆行者とその過去』を知りましたおめでとう。
そして皆さん気になるであろうヤミヤミの実。
なんとサッチが食べてます。ティーチさんは初期のエースみたいに殺しにかかってますね、直接。悪魔の実の入手に失敗したから……白ひげのせいで……。

前話と合わせて時間軸は
サボ訪問→魚人島でホーディー達ぶっ飛ばす→海賊支部

さて、ここからが本番と言っても過言じゃない。
感想と共に評価ありがとうございます。めっちゃやる気出る。


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