海賊の海兵【完結】   作:恋音

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界線越え行くハリケーン。

 カツカツとヒールを鳴らす音。

 廊下を行く人々は立ち止まり、空を飛ぶカモメでさえも見惚れる。(とりこ)にするのは老若男女どころか種族を問わず。

 

 そんな彼女が訪れたのは海軍本部。

 

 白魚の様なきめ細やかな脚がしなり、堂々と構えられた扉を蹴り飛ばす。

 

「邪魔をする」

 

 室内に居たものは思わず鼻の下を伸ばした。

 女はだらしの無い様子の海兵を一瞥(いちべつ)すると「どけ」と命令口調で言い放った。

 

 これで従うものは馬鹿であるが、女の美貌はその馬鹿な行為を正当化させる程の美しさ。

 

 黒曜石の様な、数万もの価値があるのでは無いかと思うほどの艶のある美しい髪。耳元で揺れる金の装飾は蛇を象っており、なんともミステリアスな雰囲気を醸し出している。しかしそれ以上に目が引き寄せられるのはこの世のものとは思えない程整った面貌(めんぼう)

 

 

 〝海賊女帝〟ボア・ハンコック。 

 その絶世の美女は女ヶ島「アマゾン・リリー」皇帝にして、七武海の一角。女だらけの九蛇海賊団船長である。 大の男嫌い、世界政府嫌い、そして王下七武海会議招集に1度も参加しない問題児で知られている。 

 

 

 ハンコックは残った男達を見やる。

 

 元帥、仏のセンゴク。

 大将、青雉クザンと黄猿ボルサリーノ。

 

「(都合が良い……)」

 

 触れたら凍りついてしまう様な視線だが、それでも美しさを損なわない。

 

「これは驚いた……まさかお前がここに来るとは……」

 

 センゴクは驚いた表情でハンコックを招き入れる。そうすることでハンコックは不法に乗り込んで来たわけでは無くなった。

 尋常では無い様子のハンコックにセンゴクは思考を巡らせる。

 

 極端にまで避けていた海軍との交流を彼女自ら取ってきた。それを逃す事も勿体ない。

 

「ハンコックじゃねーの……こりゃまた噂に違わぬ美貌だな……今夜どう?」

「断る」

 

 クザンの態度に眉一つ変えずハンコックは言うと、凍てつく様な視線で睨む。しかし直ぐにふいっとセンゴクの方へと視線は戻された。

 己への無礼より優先すべき話があるのだ。

 

「聞きたい事がある」

「……一体なんだ?」

「戦争の(きざ)しは無いのか?」

 

 突然の話題に3人は目を丸くする。

 訳が分からないといった表情で見る男にハンコックは回答の遅さに質問を変えた。

 

「火拳は捕縛されておらぬのじゃな?」

 

 ピクリとセンゴクの眉間が動いた。

 

「……捕まっておらんが」

「ではもう1つ、黒ひげという海賊の名に聞き覚えは?」

 

 記憶を巡らせ回答する。

 何を企んでいるのか、分からないがハンコックの鋭い瞳は嘘を逃そうとしないだろう。

 

「……………無い」

 

 そこまで問答をすると、ハンコックは幸せそうに笑った。本当に幸せそうに笑った。

 彼女は世を揺るがす程の美女と言っても過言では無い。しかし今、彼女はまるで少女の、花が綻ぶように笑ったのだ。

 

 誰とは言わないが、年甲斐もなく顔に熱が集まった。長年の勘というもので分かる。一生に一度有るか無いかの恋をしている女の表情だと。

 

「しかし……これではルフィの手掛かりも……」

 

 笑顔を見せたのは一瞬で、直ぐに考える素振りを見せた。ボソリと呟いた言葉は目敏くも拾われてしまう。

 ボルサリーノは聞き覚えのある名に反応した。

 

「ルフィ?」

「なんでもないわ」

 

 『火拳』や『黒ひげ』への反応を見る限りハンコックの望む反応は得られない、筈だった。

 

「モンキー・D・ルフィの事かい……?」

「ッ! 知っておるのか!?」

 

 目を見開いて詰め寄る。

 予想外の食い付きにボルサリーノはヒクリと顔を引き攣らせた。自分はどうにも苦手なのだ、彼の事が。

 

「あ〜?ん?どっかで聞いた事あるような〜…」

「モンキー・D・ルフィ中将の事か」

「あ!思い出した…!赤犬の子飼いか!」

 

 クザンが悩む傍で、問題児でもある男が誰であるかをセンゴクが言う。

 中将、と言うことでようやくクザンがルフィの睨む様な困惑した視線を思い出した。

 

「……ルフィが……中将? なぜ、海賊ではなく海兵に……?」

 

 ポツリ、ポツリと言葉を呟きながら頭で整理していく。

 

「知らないのかい?奴さんは海賊の海兵だよォ」

 

 普通じゃない。

 常識的に考えてありえない。

 

 海賊の海兵など聞いた事も無い。

 

 ハンコックの心に希望の光が灯る。

 

 もしかしたら。

 いや、そうであって欲しい…───。

 

「その、男は、どんな、男じゃ?」

 

 震える声で聞く。

 様子の変化に3人は顔を見合わせるが、切望するハンコックを前に口を開こうとした。……そもそも隠す必要も無いので抵抗は無い。

 

「いや、妾が質問する」

 

 発言を制してハンコックは首を横に振る。

 少しでも希望を持ちたい。

 

「麦わら帽子を被っておったか」

 

 センゴクは頷く。

 

「……誰からも、好かれる様な者か」

 

 またしても頷く。首は横に振られない。

 

「っ、時折、中身と外身が合わぬチグハグな様子であり、それでいて王の覇気を持っておるか!」

 

 その質問にはボルサリーノが答えた。

 

「そうだよォ。それに……天竜人を覇気で昏倒させた」

「ッ!?」

 

 聞いてないぞ、という視線がセンゴクからボルサリーノに突き刺さった。

 原因不明の失神は報告されていたが原因が今ここで判明するとは想像していなかった。

 道理でボルサリーノは誰かの護衛任務にルフィを薦めない訳だ。

 

「戻って、おるのか……!ルフィ!」 

 

 ボロボロと歓喜の涙を流すハンコック。海賊を『海のクズ』と言うセンゴクでさえも流石に狼狽えた。

 

 

 

 ハンコックはずっと愛する1人の男の為に今を生きてきた。それだけを支えに。

 天竜人の奴隷として、悪魔の実を食した瞬間は初めて出来た『友達(どれい)』が死ぬ瞬間だった。その時だ、希望の光が脳裏に浮かんだのは。

 

『(もう、ルフィにあんな思いはさせぬ)』

 

 頂上戦争は、ルフィの敗北は、自分とルフィを引き合わせた重要な役割を担っている。何も知らないルフィが傷付く瞬間を、自分が支える事で頼って貰う事も出来る。

 しかし、愛する男の悲痛な叫びを聞いたハンコックはそれだけは絶対にしなかった。

 

 戦争が起こらない様に、不審に思われようと白ひげ海賊団に乗り込んで忠告をした。

 美貌に酔いしれ傍若無人に振る舞う暇があるなら鍛錬に精を出して、戦争でエースと赤犬の間に立てる強さを求めた。

 せめて、ルフィの心を守れる様に。

 

「赤犬。そうじゃ、何故ルフィが赤犬の子飼いなのじゃ……?赤犬嫌いと海賊嫌いでは反りが合わぬ筈じゃろう」

 

 ふと思い至る。

 自分と同じ様に『過去であり未来』を、いや『違えた未来』を共有しているのであれば決してサカズキに近付かない。そしてサカズキも海賊の海兵と名乗る男は嫌悪を顕にするだろう。

 

「最近、サカズキの様子がおかしくてねェ」

「オイ黄猿……」

「異常事態でしょうよォセンゴクさん。なんてったって、アイツが海兵とは言え海賊を名乗る男の為に支部まで用意したんですよォ〜?」

 

 ペラペラと口を軽くするボルサリーノにセンゴクが諌める。しかし彼は口を止めなかった。

 

「白ひげの所に乗り込んだ時は頭どうかしたのかと思ったけどどうやら手を出さずに帰ってきたと言うし……。どこからかおっそろしい化け物連れて来るし……。今も海賊の海兵君の所に遊びに行ってる様だしねェ〜。何を企んでるのやら」

 

 軍事機密と言えないが突けば弱点となる事。慌てて口を止めようと叫ぼうとしたが、それより早くボルサリーノの目が怪しげに光る。

 

「──反逆、とかねェ…」

 

 残された2人も考えなかった訳では無い。しかし疑いだしたらキリがなくなる。何より疑いたくなど無かった。

 

「まさか!奴ほどの海兵を妾は見た事が無い」

 

 そんな疑惑を前にハンコックが鼻で笑った。

 彼女の中には1つの仮説が浮かんでいる。自分や白ひげ、予想の域でしか無いがほぼ確信したルフィが同じだからこそ、浮かんだ常識外れな仮説。

 

「海賊の首を討ち取りながら死ぬ様な男が、海軍に牙を向けようと思うわけがない」

「……それは、海賊嫌いの、昔のサカズキになら言えたのかもねェ」

「いいや!妾は確信しておる。ルフィと言う1人の男を前に、海賊や海軍や七武海などという隔たりは無いに等しい!」

 

 ぞくりとする程の王の視線を浴びて、何かを思わない筈が無い。

 

「例えそれが大の男嫌いの七武海であっても」

 

 真剣な眼差しを受けて、ボルサリーノはヘナっと情けなく笑った。

 

「参ったねェ……否定出来ないじゃないかい…」

 

 ルフィに危害を加えられる可能性が潰えてハンコックは心の中でほくそ笑む。

 サカズキが殺されようと彼女には関係ないのだが、子飼いとして名が広まっているルフィが巻き込まれない保証が無い。

 

「では妾はこれで、もう用は無い」

「あ、あァ」

「いや嘘じゃ。ルフィの支部は一体どこにあるのじゃ?」

「はッ?えーっと……。あァ、シャボンディ諸島の13番GR(グローブ)だな」

「なんと、レイリーと同じ所か。これは赤犬も妾達と同じじゃな……」

「レイリーッ!? 冥王の事か!」

「ではな」

「またんか海賊女帝!おいッ!戻れ!せめて扉を開けっ放しで…──!」

 

 センゴクの叫びも虚しく、浮かれた様子のハンコックは姿を消した。

 

 

「なにあの子……まるで暴風みたいじゃないの」

 

 クザンの独り言は風にかき消された。

 

 東の海ではこう言った諺がある。

 〝恋はいつでもハリケーン〟

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィ〜〜ッ!」

「えッ、ハンコック!? なんでこんな所に!」

「な、名前を呼ばれた………これが!結婚ッ!」

「結婚はしねェ!…──は!まさかお前ぇ!」

 

 逆行者の宴に1人追加されたのは言うまでも無い。ルフィは知らない所で救われ、知らない所で救う。

 ハンコックは頬を染めながら子供の様にルフィを抱き締めた。




ちなみに赤犬は「早くルフィが居る事を言わぬか!」という八つ当たりをされた。黙ってたのはどちらかと言うと白ひげの方です。

実は1部予想が当たっていたハンコック。あ〜〜〜やっと出せた〜〜〜〜!地震 雷 火事 親父(大嵐)でずっとハリケーンを出したかったんだよ〜〜〜〜うわ〜〜〜!ようやく、『前』から味方と言える逆行者に出会えた〜〜〜!

へいへいへーい!余韻が台無しになる作者のテンション!やっべーぞ!お気に入り数と評価がグングン増えててオラ罪悪感で押し潰されそうだぞ!ゴメンな!話数合わせてるからカウンターが戻る事は…───無いッ!(ドーン)


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