サカズキと再会して半年、13歳の冬。
積もった雪に心躍らせながらルフィは雪かきを楽しんでいた。
「ビンクスの酒を〜届けに行くよ〜…」
懐かしい海賊の唄を歌いながらザクザクと雪を
「海風、気まかせ、波まかせ〜」
海風を感じながら旅をした。
気ままに島を決めて空島にまで飛んでいった。
波に任せて仲間に出会った。
「潮の向こうで〜、夕日も騒ぐ」
沈む太陽も登る太陽も仲間と一緒にどんちゃん騒ぎをしながら何度も見た。
「空にゃ、輪をかく鳥の唄〜!」
カモメが空を飛ぶ。
ルフィは過去を愛した。
「はァ…」
白い息を吐いて出来上がった雪だるまを撫でる様に叩いた。
『出来た!空から降ってきた男!〝雪だるさん〟だァ!』
『見よ!俺様の魂の雪の芸術っ!〝スノウクイーン〟!』
『うおお!スゲェ!よし、雪だるさんパンチ!』
『何しとんじゃおのれぇえ!』
『がぁ──ッッ!雪だるさん!』
思い出し笑いをしながら雪かきに戻る。
覚えるのは苦手だが、楽しい記憶は昨日の事のように思い出していた。
「おいそこの海兵」
「ヨホホホ〜ヨーホホーホー」
「おいそこ」
「ヨホホホ〜ヨ〜ホホーホー…」
「そこの麦わらァ!」
「ん?俺か?」
背後から聞こえる苛立ちの募った声に気付き、ようやくルフィが振り向く。
「元帥がどこにいるか知ってるか」
男の容貌は黒い前髪は後ろにかきあげ、顔には横に一筋目立つ傷が入っていた。口には葉巻を咥え、眉間にシワがよってある。
何より男の左手がフックだ。
「……砂ワニ?」
血色の悪いその顔には見覚えがある。
記憶にあるより、随分若々しいが。
「誰が砂ワニだ。サー・クロコダイルだ」
「やっぱり砂ワニか、どうしたんだ?」
七武海と名を馳せる、クロコダイル。
彼はあんまりにもフレンドリーな海兵にはァーーー、と深いため息を吐いた。
「元帥の部屋はどこにある」
聞いても教えてくれないだろうが、と思いながらクロコダイルは聞く。ルフィは頭を捻らせた。
「元帥の部屋って、どこにあるんだ?やっぱり一番上か?」
「は?」
「いやー…俺ここに来て半年経つけど未だに慣れねぇんだよな〜」
質問に同じ質問を返されて、ワニの様に大口を開いて見る。こいつは本当に海兵か、と疑いたくなったが服がどう考えても海兵のソレである。
「クハハ…!お前名前は」
「ん?俺の名前はモンキー・D・ルフィ!海賊王にな──あー、違う。えっと、海賊の海兵だ!」
ルフィはドン!と胸を張って答える。
またもや驚かされたのはクロコダイルの方だ。
海兵だが海賊という謎の矛盾に頭を悩ませた。
「そ、そうか」
引きつった笑いを浮かべるしかない。
1分くらいの会話に気力を殆ど持っていかれた感覚。下手したら白ひげとドンパチやらかした時より疲れたかもしれないと思った。
だが少し納得した。ビンクスの酒、という曲は本来海賊が好き好んで歌う唄だ。声をかけた理由がその唄だったにせよ、この不思議な海兵には海賊というのが似合う。
「はぁ、じゃあお前の上官は?大佐でもなんでもいい、なるべく直近の上官を教えろ」
「赤犬を?」
「そうそう、その赤い───は?」
思わぬ回答に素っ頓狂な声を上げる。
「ちょっと待て、赤犬?」
「なんだよワニ。疲れてんのか?赤犬だぞ?マグマの赤犬。聞こえてなかったのか?」
「むしろ逆に聞きたくなかったわそんなモン」
酷く疲れた顔をした。
傍に他の海兵が通りかかった様だが七武海であるクロコダイルに怯えるより先に同情の視線を向けていた。
「なんだこいつ…」
「麦わらの、ルフィだ!」
「まんまじゃねぇか」
クロコダイルはじとりと睨みつけたがルフィは少し哀しそうな顔をする。首を傾げたが勿論答えなど出てきやしない。
「赤犬の所に案内だったか?」
「……いや、出来れば元帥で頼む」
「まだ、
出発だ!と声を上げるルフィ。クロコダイルはさり気なく頭を抑えた。頭が痛い…。
==========
フラフラと本部の中をさ迷う麦わら帽子を後ろから眺めながらクロコダイルは思う。
「(何者だ、こいつ)」
場所は細かく分かってないが上の方だとさ迷ってる。方角は分かっている様だった。
それは見聞色の覇気の様に。
「フン………」
鼻で笑い思考を吹き飛ばす。
馬鹿らしい、将校でも無いこんな子供が使えるはずもねぇ。と。
「なぁワニ」
「あ?」
「俺ずっと聞きたかったんだ」
クルッと振り返って視線が交わった。
思わず尻込みする、自分の奥の奥まで覗いている様な瞳が酷く嫌いだ。
さり気なく視線を逸らして「なんだ」と聞き返すとヘラヘラした顔は一切影を残さず消えた。王者の風格を彷彿とさせる雰囲気に呑まれた。
「なんでお前は───」
口が、確かに動いた。
──ビ ビ の 国 を 奪 う ん だ ?
「ッ」
ゴォッ!とクロコダイルの体が砂に変わりルフィを地面に叩きつけた。
ルフィはゴホッと息を吐き出す。
「テメェ……!」
クロコダイルは焦った。
長年の計画はどこで漏れた、こんな、本部にいる一海兵に!どいつが知っている!
「ゲホッ!ゴホッ…! お前は、強い!」
「あ?」
「強いのに! なんで人から奪うんだ!」
決して逸らすことを許さない目が、クロコダイルを捉える。ヒヤリと海水を浴びた様な気分だ。
この男は、まるで海そのものだ。
「俺が、強いだと…!?ふざけるな!」
なら俺は何故白ひげに負けた!何故覇気が使えない!苦しくて息が出来ない様な叫びがルフィに振りかぶる。
「お前に何が分かる!!」
「分からねぇ!」
負けじとルフィが叫び返す。
「分からねぇから聞くんだ!ロビンを手元に置いて!アラバスタの奴ら悲しませて!ビビを泣かせて!ずっと、お前はずっと強いのに!なんでその手で涙しか生まないんだよ!」
皮肉だ、皮肉としか思えない言葉だった。
負け犬に強いなどと言い放つ海兵に心から腹を立てた。
そしてニコ・ロビンと手を結んでいる事まで見通されていることに心底恐怖を覚える。
気持ち悪い、どこまでも見透かされるのが気持ち悪い。だけど目は、いつの間にか逸らせないでいた。
ルフィは地面に縫い付けられたまま吠える。
「いいか聞け!」
ルフィの手が、首を締め付けるフックが付いた左手を捉える。過去で、いや、ある筈の無い未来で、ユバの水をその左手に浴びせた時と同じように。
「お前の手は!水分を枯らすものだ!」
ルフィは砂の国での死闘を思い出していた。
何度殴っても砂に変わり。ミイラにされては、殴った。全くと言っていいほど敵わなかった。
『テメェの様な口先だけのルーキーなんざ、いくらでもいるぜ…!〝麦わらのルフィ〟』
初めて、敗北を学んだ。
ルフィにとってクロコダイルという男は、一番最初の壁であって、海の大きさを知った相手だ。
尊敬、していた。
「お前は…! 砂の王だろ!」
泣きそうな目で見てくる海兵にクロコダイルは怯む。純粋に分からないと聞いてくる子供。
この海兵は殺されかけてるにも関わらず、クロコダイルの手が水分を吸収するのを知ってもなお、その疑問を聞き続けるのだ。
「答えろ、クロコダイル!」
恐れを覚えた。
その表情に、目に、声に、言葉に。
「強いなら、涙くらい枯らしてみせろよ!」
嗚呼…これはまさしく王者だ。
海の王、──海賊王そのものでは無いか。
覇王色なんて優しいものじゃない。全てがひれ伏す様な王者の覇気が込められた強い言葉を聞いて、クロコダイルは力を緩めてしまった。
その目に、他人から奪ってきた水が零れ出すのをルフィだけがじっと見つめていた。
赤犬の認識→海賊嫌い
海賊だと名乗る海兵→赤犬が上官
Why!?ってなりますよそりゃ。
記憶無しのクロコダイル登場でした。