「なァルフィ、腹減らないか?」
「めっちゃ減るッ!」
海賊支部の中では飯の準備をしていたロシナンテが声をかけた。しかしいつも通りの笑顔はギョッとして固まる。
「えっ、ルフィにお嫁さんが出来た……?」
視線の先にある筈のルフィは豊潤な胸に溺れていた。誰もが羨ましがる光景。
しかし張本人は特に気にした様子もなくロシナンテを向いた。周囲が呆れた目をしているのがとても印象的だ。
「嫁じゃねーぞ」
「嫁じゃ」
「どっちだよ! でもまー…すっげー
増えた客人の美貌に鼻を伸ばす。扉のすぐ隣の石壁にもたれかかっているモーガンはロシナンテに視線を向けるとボソッと呟いた。
「七武海の海賊女帝だ」
「ふ〜ん、七武海の…………はい?七武海?」
1拍置いてモーガンの言葉を理解した。顎が外れる程口を開いている。
「あ?あー……?」
「どうしたんだ白ひげ」
ロシナンテをジロジロ眺めながらニューゲートは顎に手を置く。
「お前……ドンキホーテの所の弟か?」
「……!」
「どんきほーて?」
サカズキがピクリと反応する。そんな様子を知らないロシナンテは首を傾げた。
「七武海のドンキホーテだ、あの天夜叉」
「ルフィ、そなたの言うミンゴの事じゃな」
「えぇー?ロシーってミンゴの弟なのか?アイツ弟居た…って聞いたな、うん、前に何回も。でもなぁ、ミンゴに似てねぇぞ?」
「あんな下品な者、妾は眼中に無い」
つまり覚えてないという事。むしろ何年も前に出会った気配を消しているコラソンをニューゲートが覚えている方が異様であった。
「その頃は俺も落ち着いて来たからよォ、答え合わせ感覚で世の中見てたんだ」
グラグラと大きく笑う。一体何が楽しいんだとサカズキは横目で見ながらため息を吐いた。
その会話にストップをかけたのは本人。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 悪い、俺何年か前から記憶が無くて。正直兄とか家族とか、むしろ名前も覚えてないんだ。サカズキさんに拾ってもらって……!」
「ほぉー? 赤犬の奴になァ?」
「そのふざけた顔をやめんか海賊」
記憶を失っている。そう語られた内容に予想外の名が出てきた。からかう様なニューゲートの笑みにサカズキは素直に怒りを露わにする。
「なんの為にヴェルゴ少将を派遣したと思っておるんだ麦わら……」
「オイモーガン、飯は無いのか」
「……エネル、お前なァ、少しは空気読もうとか思わねぇ……よな」
サカズキの言葉に被せる様にエネルが自分の欲求を口に出す。指摘するモーガンも己の発言の意味を考えて無駄だと悟った。神だ神だと自由な奴に周りに合わせる言葉は効かない。
ついこの間も新世界の島を一つ潰した所だ。ルフィとの模擬戦で。
己の欲求は叶えられて当然とばかりの態度に場の空気はシラケた。
「おーし!飯だ飯だ!白ひげのおっさん所の奴らも呼んで宴しよう!コック貸してくれ!」
「おぉ、金と食料はそっちからも出せよ」
引っ付いていたハンコックを解きながら、ルフィは変わらぬテンションで宴を提案する。資金は大丈夫なのか、というサカズキの視線に対しモーガンは静かに首を横に振った。手遅れだ。
「あと、あれ………えっと……よい!あ、そうだ!よいよい!」
「グラララ…! マルコだ」
「そーそー!そいつと一緒に海王類でも狩って来ていいか?」
「好きにしろ」
「ありが…───」
礼を口に出したルフィはピクリと13番
「なァ、悪いお前ら」
覚えのある声。あの声の、弱り果てた声は前に聞いた事がある。
「誘拐してくる」
モーガンの怒号に歯を見せて笑いながら空を飛ぶようにかけた。
==========
「なァキャプテン〜、ホントに探すの〜?こんな広い諸島で〜?」
「ん……あァ……。俺の目的の一つだ」
「この……ライオンみたいな奴なんッスか」
「分からない」
ジョリーロジャーマークの付いた潜水艦が諸島の周囲、船を置ける浅瀬、というのも諸島ではおかしい。根の付近で海面から姿を現しゆっくりと回る。
潜水艦から顔を出した白いつなぎ服の船員は一つのイラストを見ながら目を凝らした。
しかしいくら目を皿にしても、一向にイラストの様な存在など現れない。彼らが探していたのはライオンのたてがみを付けたなんとも拍子抜けする船首のカラフルな船。
麦わらの一味の船、サウザンド・サニー号だ。
「キャプテン〜〜! 見つかんなんよ〜!」
「こんなファンシーな船、羊以外無いって〜!」
「本当にあるの〜?」
有るかどうかも分からない船。ただ船長の記憶だけを頼りに宛もない探し物。
クルーのミンク族、ベポ。そしてシャチとペンギンは気の抜けない状況に飽きて弱音を吐いた。
「ここに、ある、と思ったんだが……」
船長のローは眉間を抑えてイラストをもう一度見た。夢の中ぼんやりと現れる船。渦巻くナニカが自分が誰かを教えてくれる気がした。
「……あと少しで回りきる。それが終わったら下に潜ろう」
「「「アイアイキャプテン!」」」
その指示に甲板に上がっているクルーが声を揃えたその時。手すりにガンッと何かがぶつかる音がした。
いや、ぶつかったのでは無い。
海軍の将校服をなびかせながら、1人の海兵が船に飛び乗ったのだ。
「お邪魔しますッ!」
ニッ、と麦わら帽子の下から笑顔が見えた。
ルフィだ。
彼は目的の人物が大分気配を弱めている事に気付いて近寄る。しかしそれより先に手に持っていたイラストに目が移った。
「………サニー号?」
ある。
そう確信したクルーは驚愕の表情に染った。
「お前……」
「トラ男、なんでサニー号の絵を持ってんだ?」
「トラ男って誰だよ!」
「トラ男はローだよ」
「なんだキャプテンか〜〜ってお前誰だよ!」
「麦わら屋」
「……えっ」
サニー号のイラストから目を離したローは頭痛のする頭を押さえながら苦しげな目でルフィを見ていた。コントのように言葉を発していたクルー達も思わずその様子に焦りが露わになる。
彼に昔呼ばれていた独特な呼び名。ルフィはどこか違和感を覚え続けられる言葉を待った。
「麦わら屋……! 分からないんだ! 俺はトラ男でお前は麦わら屋! なんで……俺は今まで、お前と会った事なんて無いのに……!」
ルフィは息を飲んだ。
この世界に馴染めない不安定な存在は、少し前の自分を見ているようだ。
「俺は、誰なんだ! お前は誰だ! 何かが違うのに分からない、何が違うのか、なんで違うと分かるのか、分からない。麦わら屋、助けてくれ…」
酷く困惑した様子のローを見て、ルフィは当初の予定を決行する事にした。
「トラ男、今からお前を誘拐する」
「……………は?」
「じゃーなートラ男の仲間! 俺達すぐそこの海賊支部に居るからよ!」
あっという間に小脇に抱え連れ去られ、海兵と船長の姿が見えなくなってから、船員は状況を把握して声を上げた。
「なんでだぁぁぁあッ!?」
==========
「で、ソイツを連れてきた、と」
「連れてきた!」
海賊支部の丁度前、白ひげ海賊団の船員や海賊支部の海兵がバーベキューなり準備をしていたのだろう。ニカッと笑うルフィと混乱した様子のローは、逆行者やモーガンから視線を集めていた。
「なんでだよ」
モーガンは死んだ目で相棒の能天気な顔を見るとため息を吐いた。このやり取りも2日連続だと思いながら。
「中途半端か……これはこれで面倒くさそうじゃなァ……」
サカズキのため息混じりの言葉に思わずローはビクリと肩を震わせた。
「え、あ……!」
「久しぶりじゃのォ、フレバンスの生き残り」
「トラ男、赤犬と知り合いなのか?」
「昔……。コラさんって、人、と逃げた時にこの人に預けた。コラさん、海兵だったから……」
動かない頭でなんとか言葉を紡ぐ。ローの言うコラさん、ロシナンテがドフラミンゴに撃たれた際、決死の思いでローは能力を発動させた。
なんとなく、分かっていたのだ。悪魔の実の使い方を。
シャンブルズ、特殊な空間を作り出した状態でのみ行える物と物を入れ替える技。
その付近に潜んでいたサカズキにロシナンテを預けてローは逃げ出した。
ロシナンテは記憶喪失の海兵。ローは『前』の記憶が曖昧にある状態の海賊へ。
『前』の道筋に添えば訳の分からない記憶や自分の持っている違和感の正体が判明するのではないか。
そしてローは遂に出逢った。その答えと。
まぁつまり、サカズキは知っていた。知っていて変えようとせず、全てルフィに任せたのだ。ロシナンテやローの関わりも、前の記憶によりヴェルゴが海賊である事も。全て。
そんな事を知らずルフィはローに喜びながらくっついた。ハンコックからの嫉妬の視線を浴びながらローは変わらず混乱から抜け出せない。
「じゃあ、トラ男は大好きな人っていうの、守れたんだな」
「大好きな人……。あぁ、そうだな」
的を射ている言葉にローは笑顔を零した。
「死の外科医、面倒臭いから本人に会えば良い」
「……エネル、お前わしの声を拾ったな?」
「ヤハハハ!私に隠し事は向かんぞ!」
驚くべき事に、エネルは能力を覚醒させる事に成功していた。
人間は常に電気を帯びている。その電気から脳信号へと伝い、強い念。言葉として電気を流す。
つまりエネルは心で思っている言葉を認識する事が出来る様になったのだ。
彼の言うとおり、隠し事など出来ない。元々見聞色の覇気の素質が常人以上であり、過去の誤ちから己を鍛える事を優先として来たからこそ習得出来たのだろう。
「どういう事だ?」
「ロシナンテだ」
「ん?ロシー?」
理解力の乏しいルフィに思わずエネルがその身に雷を纏った。いつも通り、一連の流れだ。それを止めるのがモーガンである事もいつも通り。
「そのコラさんとやらがロシナンテって事だろ、多分。ほらルフィ、そいつ案内してやれ」
「おー」
何も考えてないルフィに手を引かれローは足を動かしかけたが、モーガンの放った言葉の意味を理解して足を止める。
「コラさん……がここに居る?」
渦巻くナニカはこんな事予想していなかった。
ただ探していたのは自分の覚えのない記憶の正体と麦わら帽子の男。まだそれすらハッキリ理解して居ないというのに、正直キャパオーバーだ。
「いるってさ。エネルは嘘つかねェ奴だから安心していーぞ」
「でも、俺、まだ自分が誰かすら分かってないのに、コラさんに会って」
「うじうじすんな、ロー」
ルフィはローの目をハッキリ見て言った。
「船長だろ、お前は迷っちゃいけないんだ」
「ッ!」
「大丈夫だ、自分が誰かなんて、良いんだ。お前は今ここで俺と出逢ったローだろ?」
強ばっていた肩の力が抜けるのが分かる。
「
「にっしっし!」
初めて出逢ったロシナンテ大佐。
コラさんとしての記憶は──戻らなかった。
都合の良い世界なんてないんだ。
それでも彼らは変わらず笑う。
あの時言えなかった「ごめん」は飲み込んだ。
その代わり、笑顔と共に記憶の無い時間を語り合う。ロシナンテの、ローの。そしてお互いの。
「なァロシーさん」
「どうしたんだよ、トラ男君」
宴で騒ぐ海賊支部。怒り狂った様子の冥王が現れたりとあったが特に問題も無く時間は過ぎる。
「俺、海賊だけど、時々ここに来てもいいかな」
「ルフィがあんな奴だからいいだろ!」
あのヘタな笑い方は作り笑いだったけど、その笑顔に助けられた。だから絶対に助けたいと思った。心から溢れる笑顔は気が抜ける様な笑顔だったけど、数十年越しの復讐が漸く終わった。
「……ありがとう」
ルフィに向けたのか、過去のロシナンテに向けたのか、隣に座るロシナンテに向けたのか。
ローの口から零れた感謝の言葉は、喧騒の中でも伝わった。
逆行条件。
・生と死に関わり過ぎた
・悪魔の実の能力
(の状態で)↓
・強い後悔を持った大切なモノが目の前で亡くなる
思い出す瞬間
・前と同じ悪魔の実を食べた
(状態で)
・大切なモノが死んだ場所に行った時。
人間が電気を発してるとかどこかのアメコミで言ってた気がする(希望的観測)
【5】